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2006/07/19
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カテゴリ: 恋愛小説(連載)
【「きっと、二人なら…」を最初から読む】 【目次を見る】

 先に沈黙を破ったのは純の方だった。
「ごめん、貴子。あまりにも突然のことで…よけることできなかった…」
露骨に視線を逸らし、うつむく貴子。
再び2人の間に重い沈黙が漂う。
地面に落ちたままの腕時計を拾い上げ、純が話し始めた。
「ほんとごめん…。謝って許してもらえることじゃないと想うけど…
ただ、これだけは信じてほしいんだ。俺、今宮とは何でもないから…ほんとにただの友達同士なんだ」
「だけど2人とも…とても親しそうだった…」

「それは…中学の頃から学校が同じだったからってだけで…別にそれ以上の感情がある訳じゃない!
今だって、この時計を返してもらうために今宮と会ってただけで、ただほんとにそれだけなんだ!」
ばっと顔を上げて、貴子は純へと強い視線を投げつける。
怒りと悲しみの入り混じるその瞳は、彼を見据えたまま瞬き1つしない。
「じゃぁどうして! どうして その時計を梓が持ってたの?! 家に忘れたなんて嘘だったんじゃない!」
涙声で彼に問い詰める。胸が締め付けられるように苦しかった。
「それはこの前!」
言いかける純を「もういい! 聞きたくない!」と遮り、落ちていたバッグを荒々しく掴むと 貴子はその場から駆け出した。
「待てよ、貴子! まだ話が!」
追ってきて腕を掴んでくる純の手を
「ごめん! 今私、何も聞きたくないから!」と振りほどき駆けて行く。

 ほんとなら今日は2人ともバイトが休みと言うことで、一緒に食事する予定だったはずが、予期せぬ事件により約束は脆くも崩れ去った。
アパートの自分の部屋に駆け込むと、力なく畳の上に座り込む。
「どうして貴子なの?! …桜井君、もっと私を見て!」
 真剣な梓の言葉と、その後のキスシーンが貴子の心に何度も浮かんでは消えた。
--やっぱり梓も桜井君のことが…。

--何故あの時計を梓が持っていたんだろう…?
何故、純は嘘をついたのだろう…?--
 頭の中がそんな疑問でいっぱいになり、純を想う気持ちと彼から裏切られた悲しみとで、貴子の瞳から再び涙が溢れた。
 それに、何故自分は純にあんな責めるような言い方をしてしまったのだろうか。
あんなに取り乱したりさえしなければ、もっと穏便に解決できたかもしれなかったのに--。
心が痛んだ。このまま純と気まずいまま、この恋が自然消滅してしまうのではないかと想うと、余計に悲しみは募るばかりだった。
貴子が両手で顔を覆ってすすり泣いていると、玄関のチャイムが鳴った。
押し売りか、それとも新聞の勧誘か。どちらにせよ、今の貴子には それらを相手していられるような心の余裕など少しもありはしなかった。
 1度目のチャイムの後、僅かの間があって、また2度に渡ってチャイムが鳴らされた。
人がこんなときに、非常にうっとうしい押し売りだと心底思った。
そしてまたチャイムが鳴り、今度は学生と思われる男の声が聞こえてくる。
「ご注文のピザ、お届けにまいりましたぁ!」
妙に能天気で、よく通る聞き覚えのあるその声に、貴子ははっとして顔を上げた。
けれど、彼がこんな東京に居る訳がない。
確か彼は、地元の大学へ進学すると言っていたはずだ。だからそれだけはないだろう。
きっと今気持ちが弱っているから、いもしない幼馴染の声に聞こえてしまったのかもしれない。
貴子は自嘲気味な笑みを口元に刻むと、膝を抱えて座りなおした。
 玄関のチャイムがまたも鳴った。
そしてまたしてもあの声が。
「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかぁ?」
やはり似ている!
よく通る甘い声に、底抜けに明るい口調。
--でもまさか?!
 貴子はゆっくりと立ち上がると玄関へと歩んで行き、ドアの鍵を回す。
悪いいたずらの可能性もあるので、念のためチェーンは掛けたまま ドアを恐る恐る開いた。
「やっほー、久しぶり☆」
「…!!」
 ドアの向こうで爽やかに微笑して立つ姿は、まさしく貴子の幼馴染である早川亜紀だった。
「あっ、あっ、あっ、あっ…!!」
驚愕のあまり、言葉が上手く出ずに思わずどもってしまう貴子。
「元気しとった? たかちゃん」
久しぶりに聞く地元の言葉に、それまで立ち込めていた重い気分が少しだけ軽くなったような気がした。
「あっちゃん、どうしてこんなところに?!」
「えっ? どうしてって、ピザ屋でバイトだけど」
 はっきり言って、それは全くもって答えにはなっていなかった。
「たかちゃんに、このピザ食べてもらおうと思うて、持ってきたんよ」
「持ってきた…って、いいの?!」
「よかよか! 俺のおごりやけん☆」
サラサラの前髪を書き上げて、その辺を歩いているイケメンなどよりももっと甘いマスクで、ニッコリと亜紀が笑う。
それにしても、外見と言葉のギャップの激しい男である。
「そんじゃこれ」
とピザ屋の制服姿の亜紀が、大きなピザの箱を貴子へと差し出す。
貴子は急いでドアチェーンを外すと、その大きな箱を受け取った。
「ありがと。…それよりも あっちゃん、いつこっちにきたと?」
亜紀の方言につられて貴子もつい方言が口を突いて出た。
「えっ? 4月からやけど…なんで?」
「なんで…はこっちの台詞よ! だってあっちゃん、地元の大学に進学するっていうとったやん?」
「いやぁ…気の変わったとさ。急に東京の大学もよかねぇなぁんて…」
もうすっかり方言丸出しで会話する2人。
そして貴子の「大学はどこよ?」のセリフに、あっさりとT大だと答える亜紀。
「えぇぇぇぇぇぇっ?!?!」
ご近所に響き渡りそうなほどの大声で驚くと、貴子は抱えていたピザの箱まで落としそうになって、それを上手いこと亜紀がキャッチした。
「はい、これ」
改めて手渡された箱をしっかりと受け取り「ありがとう」と返しながらも、何だか嘘のような現実に貴子は何度も目をしばたかせた。
「で、どこの学部?」
「理工学部」
チクリと心にとげが刺さったような、切ない痛みが貴子に走った。
--桜井君と同じ学部だ…。
 突然黙り込んでしまった貴子を前に、亜紀の笑顔が当惑の表情へと変わる。
「たかちゃん、どうした…?」
見上げると亜紀の優しげな眼差しと視線が交わる。
急に黙り込んでしまった自分を心配してくれているのだろう。
亜紀の瞳が貴子の瞳の奥を静かに窺う。
「あぁ、な、何でもないの。なぁんかお腹空きすぎちゃってぇ」
「…そっか」
ほっとしたように亜紀が元の笑顔を取り戻す。
「でもさぁ、同じ大学やったら なんでもっと早くに教えてくれんかったと?」
「いやぁ、どうにかしてたかちゃんを驚かせたかったんよ。
けどさ、どうやって驚かそうかと考えとる間に、あっというまに2ヶ月以上過ぎてしもうたという訳」
頭をカシカシと掻きながら、あははと笑う亜紀に、貴子は「あっちゃんらしいなぁ…」と言ってクスクスと笑った。
「そんじゃ俺、そろそろ仕事にもどるけん」
「うん。気をつけてね」
笑顔で見送る貴子に、「じゃまた大学で」と亜紀は手を振ってから背を向け歩き出す。
けれど数歩進んだ辺りで、すっと肩越しに振り向くと
「何があったかは知らないけど、あまり1人で思いつめないようにね。
俺、隣のアパートの307に居るから…話くらいならいつでも聞くし」
と言い、穏やかな笑みを残して去って行った。
 普段はただの能天気にしか見えないと言うのに、ふとした瞬間、彼が単なるお気楽男ではないことを改めて実感させられる。
普段は無邪気すぎるくらい無邪気で、同い年なのに弟のようにしか思えない彼だが、たまに驚くほど大人の男の表情を見せる。
そう。幼馴染でなければ、心までグラリと揺らいでしまいそうなほどの繊細な心配り。
 長身の彼の後姿が見えなくなると、貴子は玄関のドアを閉めて中へと入った。
和室のテーブルにピザの箱を乗せて再びぼんやりと想いを巡らす。
明日、純としっかり話し合おうと思った。
それから梓とも--。
 箱を開けると、ウィンナーやらマッシュルームやらコーンのトッピングされたMサイズのピザのど真ん中に、何ゆえかバースデーケーキさながらメッセージ入りのチョコプレートが刺さっている。
チョコプレートには大きな文字で
「亜紀より愛を込めて☆ おいしかよ~!」と書かれていた。
やはり能天気には変わりないけれど、それが妙に彼らしくて、貴子は1人クスリと笑った。
それからピザを一口かじる。
「美味しい!」と言う言葉が自然と唇から零れた。
~To be continued~




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最終更新日  2006/07/31 09:51:35 PM コメントを書く


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