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2006/10/05
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カテゴリ: 短編、シリーズ物
【「Amethyst Eyes」を最初から読む】

 その時俺は無性に腹が減っていた。何故かは分からないが、やたらと腹が減って仕方がなかったのである。
 とにかく今はこの空腹をなんとかして満たさなければ! そう思った俺は、どこかも分からないその部屋の隅々まで頭と視線を最大限に動かして見回してみる。
 そこは、ざっと二十畳はありそうな程の洋室で、毛足の長い淡いブルーのラグマットの上にはいかにも高級そうな猫足のテーブルと、それを挟むようにして置かれた籐の椅子が目に入った。そしてその向こう側、白い壁を背にして木製のラックに鎮座する五十インチ程もありそうなプラズマテレビが存在を誇示している。
 向かって左側の壁には、濃い紫色の花をいくつか咲かせた植物の絵が、これまた立派な額に収められ飾られてある。
--この部屋…確かどこかで見たような…?
 そんな思いが脳裏を掠めたが、激しい空腹感には勝てない。再び食料はないものかと辺りを見回す。
けれど、周囲をどれだけ見回そうとも、俺の求めていた食料などどこにも見当たらなかった。
 グルグルと首を動かしている際、時折視界の隅にチラチラと高速でうごめく薄汚れた黒い羽のような物が見えた気がしたけれど、とりあえず気にしないことにして、俺は更に食料を探すべくその部屋を出ようと身体の向きを変えた。向こうに茶色のドアが見える。ここから出ればきっと何か食物に出会えるはずだ。

--おや?? 俺っていつから空飛べるようになったんだっけ??
 ふとそんな疑問が脳裏に浮かび、俺は何気なく自分の背に目をやる。薄汚れた黒い羽が高速で羽ばたき、それが激しい高音を立てていた。
 ブーーーン!!
--これはかなりの周波数だ! もしかしたら俺、すんげぇご近所迷惑になってるんじゃないか!?
 そんなことを心配しながらも、先程よりも一層増した空腹感を耐えることはできず、俺はドアノブに手を掛けた。
 カチャリ。ドアは案外あっさりと開き、その向こうには闇に覆われた広い廊下が続いている。そして廊下の一番突き当たりのドアの隙間から、柔らかな灯りが漏れているのを見てとると、俺は勢いよく部屋から飛び出し、おそらくはご近所迷惑であろう己の羽音のことなどすっかり忘れて、灯り目掛けて一目散に空を翔けた。
 向こうの部屋からは何とも美味しそうな香りが漂い、今や全身胃袋と化した俺のことを甘く誘惑する。
 ドアはもうすぐそこに迫っていた。もうすぐだ。やっと、やっと食いもんにありつける!
 反射的にドアノブまでの距離を目測する。すっと右手を伸ばすと、ひんやりとした金属の感覚が掌に伝わった。
 ドアノブを回し、一気に室内へと飛び込む。
 スタンドの灯りの中、ベッドの上で本を読んでいた男がこちらへと顔を向ける。視線が交わる。

 えぇい!! この際誰だって構いはするものか!!
俺は腹が減ってんだよ!! 猫だろうが犬だろうが、不思議の国のアリスだろうが、この空腹を満たしてくれるのなら何だって厭わない!
 俺は欲望のままに、アリスの首筋へと頭から突進して行く。すると奴は、その綺麗なアメジストを細めてにこりと微笑んだ。
とろけるように柔らかく、優しげな微笑。けれど、俺にはその笑みが悪魔の微笑みのように恐ろしく映った。
 アリスが枕元のテーブルへと手を伸ばす。奴が手に取ったのは、二重センチ程の金属製のスプレー缶だった。

 満面の笑顔のアリスが、スプレー缶を俺へと構える。
-- キンチ○ール !!
 「蚊の分際で、この僕の血を吸おうなんて一億年早いよ」
 声音は蜂蜜のように甘かったけれど、その穏やかな笑みは地獄の果てを目にするよりも恐ろしかった。
 シューーーッ!!
 噴射された霧に包まれ、俺は激しくむせた。苦しい…目が…喉が痛い!!
 身体の自由がきかなくなり、無惨にも重力のままにフロアへとまっ逆さまに落ちて行く。
--いやだ! こんな死に方!! いやだぁ--!!

 ガバッ!!
 飛び起きて肩で息をつく。いまだ鼓動はうるさく鳴り響き、汗まみれの肌にパジャマ代わりのTシャツがじっとりと貼り付いている。
「ゆ…め……」
 実にいやな夢を見たものである。俺は先程見た一連の出来事を思い返して、ぶるっと大きく一つ身震いすると布団から立ち上がる。そして乾ききった喉を潤すため、台所へ行って水でも飲もうと足を一歩踏み出した。
けれど、そこにあるはずの床の感触はどこにもなく--ここがアリスのマンションの一室に設置されたロフトだと言う事実を今更ながらに思い出したところで時既に遅く--。
バランスを崩した俺に待っていたのは、約二メートル下に控えたフローリングと仲良くなること、ただそれだけだった。
 ドッシーン!!
「ってぇ!!」
 派手に転落したため、これほどまでにないというくらい尻を床に打ち付けた俺が、必死に痛みと戦っているところへ部屋のドアがガチャっと開き、バンパイア アリスが姿を現した。
「おはよ。朝っぱらから元気だね」
 言って涼しげな笑みを浮かべる彼の手には、何故だか見覚えのあるスプレー缶が握られている。そして、その缶には紛れもなく 『キンチ○ール』 の文字が!!
「うわぁぁぁぁ!! ちょっ、やめ! やめてっ!! 助けてっ!! こここ、殺さないでぇっ!!!」
 咄嗟に先程のリアルな夢のことを思い出し動転した俺は、激しく狼狽しつつそれだけ早口で叫ぶと慌てて立ち上がり後ずさった。
「助けて、って…何?」
 いぶかるような目で俺を見ると、アリスはこちらへと向かって歩んでくる。
「やだっ!! 来んなってば!! やめっ!!」
 ゴンッ!!
 急いで後ろへ下がったは良いものの、ロフトに備え付けてあった梯子で後頭部を強打してしまった俺は、痛む頭を片手で抑えながらその場に力なくへなへなと座り込んだ。
「あっ、いたいた!」
 頭の痛みが少し治まったところで、アリスのそんな声が聞こえてくる。恐る恐る目を開けて俺が彼の方を見やると、彼の視線の先には室内を我が物顔で飛び回る一匹の蚊の姿があるのだった。
「今度こそ、外さない!」
 何かのゲームでも楽しむかのように紫の瞳が細まる。それはまるで、獲物を追い詰めた時の狼さながら冷徹だった。
 シューーーッ!!
 スプレー孔から霧が勢いよく噴射され、それを浴びた蚊は全ての力を失いフローリングへと落ちた。
 アリスがふっと微笑する。
「蚊の分際で、僕の血を吸おうなんて一億年早いよ」
 その彼の笑みは、先程夢に出てきた彼の姿とピッタリと重なり合い、それはそれは恐ろしく見えた。
 アリスは踵を返してドアのもとまで歩んで行くと、相変わらず呆然と座り込んでいる俺を肩越しに振り返ってこう言った。
「いつまで寝ぼけてるつもり? 早く来ないと、朝ご飯片付けちゃうよ」
 俺はこくんと首だけ縦に振って返すと、彼は「じゃ、早くしてね」ともう一度念を押してから部屋を出て行った。
 これから毎日、あんな恐ろしい男と顔を突き合わせながら暮らして行かなければならないのか…。
本当に大丈夫なのか、俺!?
 先程アリスにやられてフローリングに落ちている蚊の死骸をぼんやりと見つめる。そうしていると、何となく未来の自分を見ているような気がしてきて、朝っぱらから酷く気分が萎えた。
 呆然と座り続ける俺のもとに、リビングからと思しき朝食の良い香りが、開け放たれた部屋の入り口から流れ込んでくる。その途端、俺の腹がグーっと間抜けな音を立てた。こんな時でも腹は空く。人間とはよくできたものだ。
 俺はよろよろと立ち上がると、先程ロフトから落ちた際にフローリングで打ち付けてズキズキと痛む尻を片手でさすりながら部屋を後にした。
~またしても続く…かもしれない~




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最終更新日  2006/10/05 09:16:04 PM コメント(2) | コメントを書く
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