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2007/09/04
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カテゴリ: 短編、シリーズ物
【目次を見る】

 夕暮れだと言うのに、8月末の風はまだまだ蒸し暑い。
ただでさえ今年の夏は猛暑で、庭の草花も、たった1日水遣りを忘れるだけで元気を無くすと言うのに、今日の暑さはいつにも増して厳しかった。
 母に頼まれ、先刻から庭の鉢植えに水遣りをしていた渉(ワタル)の額にもジットリと汗がにじみ、残暑の厳しさを物語る。
 青いバケツに並々と注がれた温い水を、金属製の柄杓(ヒシャク)で掬って鉢の中や葉などにゆっくりと掛けて行く。
朝は元気よく開いていた朝顔の花も、今ではすっかり花びらを閉じ、その淡紫色を内に秘め眠りに投じている。
バケツの中で、橙(ダイダイ)と薄紅を混ぜたような夕焼け空が揺れる。生暖かい風が吹いて、庭の木々をざわめかせた。
その西から東へと流れるさざなみのような音に何気なく門の方を見やれば、いつの間に来ていたのか、夕凪(ユウナギ)がこちらを窺い佇んでいるのだった。
「やぁ」

「どうかした? もう家に帰ってるとばかり思ってたから」
言いながら夕凪のもとまで足早に歩む。
彼はその問いには答えず、静かに微笑んで、海へ行こうと言った。
 この街は海辺に位置しているので、容易に美しい砂浜へも行くことができる。それはもちろん渉の家からでも例外ではなく、十五分も歩けば、綺麗に整備された真っ白な砂浜と透き通る海を望むことができた。

 二人で手早く水遣りを済ませて、浜まで続く道のりを歩み始める。
汗で額に貼り付いた前髪を払いのけ天(そら)を仰ぎ見れば、西の残照は今や碧藍(ヘキラン)に飲まれようとしていた。
街路灯が数度の明滅を繰り返した後、ほの白い光を灯す。それは隣を歩む夕凪の横顔をくっきりと浮かび上がらせた。
長い睫に縁取られた茶の瞳は、ただ真直ぐに向けられ、彼が今何を考えているのか、その表情から窺い知ることはできない。
何故夕凪は、このような夕暮れ時に海へ行こうなどと誘ってきたのか。元より掴み所のない彼なので、今回もただ単に突然思いついただけなのかもしれないが、今日はもう既に昼間にも山へ出かけたばかりなのだ。
意外と体力には自信のあった渉とて今日の猛暑にはまいっているのだから、彼より華奢な夕凪が疲れていないはずがないと渉自身そう踏んでいたのだが、その予想は全く持って外れていた。
 夕方、空き地の六本杉の前で別れた時と同じく、空色の半袖シャツに黒のハーフパンツと言う出で立ちで歩く夕凪は、その細い身体のどこにそれほどまでの体力が余っているのかと関心するほどに軽快な足取りで歩を進めて行く。

 いぶかしげな瞳を向けて問う渉に
「別に」と夕凪は返し、それから、楽しさの方が上回ってて、疲れを感じる暇がなかったのかも、とその端麗な顔に笑みを咲かせた。
続く




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最終更新日  2007/09/04 10:36:43 PM コメントを書く
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