「犬を飼いたい」

「犬を飼いたい」「犬を買ってほしい」このように、お子さんにおねだりされたらどうしよう。私はすぐに結論が出せません。私の昔の体験で、「ぜひ、お勧めします」という考えと、今の事情とが異なってしまっているからです。

そこで、２つのことをここで述べて、判断材料にしていただけたらと思います。

まず、見聞きしている現状ですと、

「犬を飼いたい」に、お母さんが「そのかわり、犬の世話は全部あなたがするのですよ」とお母さんがお子さんに念を押します。お子さんの「わかった。そうする」との返事で、スムーズに話はまとまり、犬を買いに行くことになります。

しかし、犬の一生は、普通１０年にも１５年にもなりますと、その間に、お子さんたちの生活がすっかり変わってしまいます。

お子さんが学校の部活で忙しくなったり、塾のため、受験のためと、犬にとって一番大切な散歩すら行けなくなってしまいます。

結局、お母さんが犬に引っ張られながら、散歩に出かけなければなりません（そりゃ、運動にはなりますけど）。

まして、犬が散歩に行けないとなると、犬君は、かわいそうな一生を送ることになります。

お子さんにとって一番大切な、犬との絆を保って、犬の最後を看取ることができるだろうかということなのです。

ただ、「犬君、死しんでしまったよ。」に、お子さんが「フーン」で、「気持ち悪いから、見たくない」となってしまったら、犬から教わることが、ほとんどありません。単に、防犯カメラ程度の有難さしか感じないことになってしまいます。

私は、今まで５回犬を飼いました。その第１回目の犬との出会いで、私の性格と言うか、生き方に大きな影響をもたらしました。

「向うの松林に子犬が捨てられている」と聞いて、見に行くだけのつもりが、拾ってきてしまったのです。許しを得て、「コロ」と名づけ、牛乳を買って、脱脂綿に含ませて飲ませます。節約が徹底している時代ですから、牛乳は私たちでもめったに飲めない位で、コロは特別扱いです。

夜も泣くので、飲ませます。母も、私が寝ているときは飲ませてくれていたようです。昼間は、めんどくさくなって、母に頼むと「いいよ」とはいいません。「そんなら、元の場所に返してきなさい」といいます。

しばらく、考えてから、「わかった」と、また自分で飲ませます。

瞬く間に大きくなって、ご飯も食べるようになりました。いつも尻尾を振っていて、ふざけても、子犬にありがちな手をかむこともしません。

ある日、隣の犬が鎖を切って、庭に入ってきて、コロに噛み付きました。首に穴が開いていて、犬猫病院に連れて行きましたが、「これはちょっと無理だ」と診てくれません。当時、特効薬はペニシリンで、品薄のため人間だってなかなか使えないくらいの時代です。

翌日、コロは、もう眼が落ち窪んでいました。ご飯は食べないで、牛乳だけは飲みました。

次の日は、歩くこともできなくなって、近づくと首をもたげて、尻尾を振りました。やがて、牛乳も飲まないで、水だけを飲みました。

その次の日は、首を持ち上げることもできなくて、眼も見えないようです。でも、耳は聞こえるのか、尻尾は振ります。

そして、死にました。

この体験から、命についていろいろ考えました。「今」の大切さを知りました。

死後のことを考えました。その結論はこうです。

「コロは死んで、天国に行った。ここからは、天国が見えない。でも、天国からはこっちが見える。だから、僕はもう悲しまない。悲しむと天国でも、コロは悲しむだろうから」

その後、父を亡くして元気のない友に、天国の話をしました。友は明るい表情を見せるようになりました。

私も、母を亡くし、父をなくしたときも、そのように思い、泣きましたが、取り乱すことはしないですみました、。

これは、私なりの「宗教」かもしれません。「信じているから、救われているのかもしれません」

お子さんの「犬を飼いたいなあ」

これに対する「私のお勧めする答え」は、まだ、みつかっていません。

ーつづくー

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