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「日出ずる処の天子、書を没する処の天子に致す。恙無きや云々」これはかの聖徳太子が遣隋使として小野妹子に持たせた国書で、隋の皇帝である煬帝に宛てた外交文書の冒頭の一文であるが、東の国日本と西の国隋を対等な国として交流する事を志したという説から、単に世界情勢に疎かっただけだという説まである。しかし当時の超大国の隋からすると東の小さな島の取るに足らない王から対等に付き合いましょうとは不届き千万な話なのだが、激怒の内容に恐れをなして小野妹子が返事を隠してしまったという説がある。こんな身の程知らずで生意気な事を言う聖徳太子に対して怒り狂うのも大国として見苦しいと思ったのか、こうして倭の国と隋の交流が始まるのである。これこそ聖徳太子が見越した見事な外交手段と言うべきか。ところで最初に紹介した一文の最後の「恙無きや」は文部省唱歌『故郷』の歌詞にも出てくる様に現在も使われている言葉である。この『恙』とはツツガムシの事であるという説がある。当時風土病を媒介する害虫として、つまり「ツツガムシなどいないでしょうね?」と外交文書にも登場するほど軽視すべからざる存在であったのかも知れない。このツツガムシとはどんな虫かと言うと、体長1、2ミリ程度のダニの仲間である。人の血を吸い湿疹かぶれを引き起こすのみならず、ツツガムシ病を撒き散らすとんでもない虫なのである。それはそうとツツガムシのツッチーは先程から、遥か彼方の母を訪ねて複雑に絡み合い迷路となったカーペットの繊維を行きつ戻りつ、大きく回って元に戻ったりしながらさ迷っていた。「母さん、母さんに会いたい。」ツッチーの願いは3次元に絡まり合う合成繊維の密林に虚しく跳ね返りこだまするだけであった。実は直線距離で僅か3センチ先に見果てぬ我が母は食事を求めてうろついていたのだった。ツッチーはひたすら母を求めて旅した揚げ句、あと一歩の所で不気味な地響きと猛烈な暴風に襲われ、必死の抵抗も虚しくついに吹き飛ばされてしまった。渦巻きと他の塵もろとも翻弄されて、更に埃っぽく蒸し暑い所で気を取り戻した彼は、なんと偶然にも同様に吹き飛ばされた、思い焦がれた母との再会を果たすことになった。ひしと抱き合う母と子。これでツッチーの母を訪ねた3センチの旅は終わりを迎えた。ただこの感動のひとこまは、ゴミパックが取り出されて、焼却場へのゴミ出しの日までである事は知る良しもない。「恙無きや。」
2020.10.04
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「トットさん、いつまで地図を持ってたの?」ジョンピーは記憶を辿ろうとトットさんに尋ねた。「そうだなあ。ああ確かお前がグーとタラを見つけたとき思わず羽の下に隠していた地図を触った覚えがある。だがボロコムから連れ出されたときもう一度確かめた時にはもうなかったんだ。」「そうするとその間か?何か思い出さない?」トットさんの答えにジョンピーは再び尋ねた。「そう言えばバンの奴、『大事にしろ、お守りだ。』とかなんとか言って、銀の鎖がついたこの小さなペンダントくれたなあ。」トットさんはお腹の溝に埋もれたペンダントを手繰り出した。「トットさん、そんなものもらってたの?」ジョンピーの言葉にトットさんは怒って言った。「なんだこんなもの。あんな奴にもらったものなど捨ててしまおう!」トットさんがペンダントを首から外し、ダスターシュートに投げ込もうとしたとき、ケイノービがそれを止めた。「まあトットさん、捨てるのはいつでもできる。そんなものだってなんかの役に立つかも知れんぞ。」バンの事を信用できないマルークは怪訝な顔で見つめていた。「ベン爺さんよ。こんなものがなんの役に立つか分からないが、ジェダイマスターのあんたが言うならしばらくは持っておくか。」「でも何でお守りなんて言ったんだろうね?」捨てることを思い留まったトットさんにジョンピーは疑問をぶつけた。「奴、なんかポケットをまさぐってゴミでも見つけたように引っ張り出して俺にくれたから、ただ単に邪魔だっただけじゃないか?」トットさんは毒づいた。 「どうやらあいつら本当に地図を無くしたらしいな。」悪漢ベーダ―はトットさんたちがいる部屋を監視するモニターから聞こえる音声を見ながら言った。「まあ、地図を無くしたのならアレ=デ・ランに届けることもできないのだから、いいんじゃねえか?」バンは皮肉っぽく笑いながら言返した。「そうだな。そうなりゃもうあいつらに用はない。明日にでも処刑してしまうか。」ベーダ―の言葉にバンは不敵な笑みを浮かべながら少し眉に皺を寄せて言った。「お前の好きにすりゃいいが、俺の出身のコレリアじゃ、その前の夜は好きな物を食わしてやるくらいの情けはかけるがな。」それを聞いてベーダ―はフンと鼻を鳴らして言い返した。「そんな風習なんて知らねえな。まあ最後の夜だ、ドド星で採れたベゴン豆くらいはつけてやろう。」「何?ベゴン豆だと?大海賊の親分のベーダ―様にしちゃ、余りにもしけたことを言うな?」バンは呆れて言った。「馬鹿言うんじゃねえ。これでも特別大サービスだ。」ベーダ―は憤慨した。 翌朝、ベーダ―の手下でもほとんど知らない秘密の処刑場に行く通路をトットさんたちは手下に後ろからブラスターを突き付けられて引き立てられていた。「ベン爺さんよ。あんたジェダイマスターだろ。どうにかできねえのか?」トットさんはベン・ケイノービに思い切り悪態をついた。「フォースと共にあらんことを。」老いぼれたかケイノービは何とも頼りないことしか言わなかった。マルークは先ほどから黙りこくっていたが遂に我慢できずに行動に移した。「マルークよせ!」ケイノービの言葉に耳も貸さず、彼は突如身をかがめてうずくまると次の瞬間後ろの手下に飛びかかった。どうせ処刑されるならここでひと暴れしても同じことだと思ったのだ。だが多勢に無勢、すぐに別の手下がマルークの後頭部を一撃して彼は床に倒れた。「こいつなんて野郎だ。そんなに早く死にたいなら今ここでぶっ殺してやる、」手下はブラスターを構えるとマルークに向けた。 静かな通路にブラスターの不気味な発射音が鳴り響いた。
2022.01.03
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人の頭くらいの大きな石が浮き、それよりも重いのじゃないかと思える太っちょポッポのトットさんが浮き、片手で逆立ちをしてバランスを取るマルークの足先をグルグル回っていた。余りにもデブで、ハトのくせに飛ぶことのできないトットさんは、久しぶりの浮遊感に酔いしれていた。トットさんは調子に乗り、クロールしたり、片足を組んで寝転んだり、蝶々のようにひらひら舞うふりをして修行の手伝いを満喫していた。レースバトとしてスターになったトットさんにはもったいない相棒のジョンピーは、更にその周りを飛び回っていた。レオは・・・・(ここでマスPはしまったという苦い顔をした)ヨーダは杖を胸の前に立て、両腕を乗せ、数十年ぶりの弟子の上達ぶりを見守っていた。 その時、沼の方からズブズブトいう濁った音が聞こえた。マルークが操縦して来た戦闘機が沼の底に沈む音だった。それに気づいたマルークは集中力を失い、その途端その場に倒れ込み、岩もトットさんも真っ逆さまに地面に落ちた。「痛てててて。」腰をさすりながらトットさんはマルークに文句を言った。「こらー!マルーク!しっかりしないかああああああ!」トットさんは『あ』を6個も付けて怒った。だがマルークは慌てて沼に駆け寄り、沈んだ戦闘機が残す、湖底からの泡を見つめてうずくまった。「これじゃあ、もう戻れなくなる。」その時、ヨーダが後ろから歩み寄り静かに言った。「お前には強いフォースがあるではないか。持ち上げて見よ。」マルークは肩越しにヨーダに振り向き、首を振りながらうめいた。「石やトットさんを持ち上げるのとはわけが違う。あまりにも大きすぎる。」ヨーダはそれを聞き、厳しく言った。「お前は大きさで判断するのか?わしを大きさで判断するのか?フォースはお前に、木に、その石にもある。そして、お前と戦闘機の間にもフォースは存在するのだ。大きさなど関係ない。」しばらくうなだれていたマルークだが、やがてよろよろ立ち上がり言った。「やってみます。」「やるか、やらぬかじゃ。試しなどいらん。」すかさずヨーダは諫めた。マルークは戦闘機の沈んだ沼に振り向き、目をつむり、片手を差し出し意識を集中した。鏡のようだった水面がわずかに波打ち、やがて泡が湧き立ち、ついに戦闘機の舳先が水面にのぞかせた。ヨーダの顔に、短期間のうちに片鱗を見せ始めた新しい弟子への期待の表情が浮かんだ。だがそこまでだった。戦闘機は再び沼の底深く姿を消して行った。マルークはうなだれて、タオルを首に掛けて引き返してつぶやいた。「駄目だ。大きすぎる。不可能を期待しているんだ。」そう言って彼はしゃがみ込んだ。ヨーダはしばらく彼を見つめていたが、厳かに沼に振り返ると、目をつむり、片手を挙げて念じた。すると沈んだ戦闘機が再び湖面に現れ、そのまま水面を裂いて胴体を現し、雫を垂らしながら湖面を離れ、岸へと漂い、音もたてずに静かに地面に降り立った。やんやとはしゃぐトットさんや、ジョンピーたちの歓声を聴き、マルークはうずくまってジャングルの奥から歩み出して来て驚いた。彼は戦闘機をぐるっと歩きまわりヨーダのもとに来ると興奮して言った。 「信じられない。」 ヨーダはまっすぐマルークの視線を捉えて言った。 「さよう、だから失敗したのじゃ。」
2022.02.11
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