嘘つきの僕

嘘つきの僕

2007.05.11
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テーマ: 詩(934)
カテゴリ: カテゴリ未分類
          もぐらの詩

     始発電車に乗り遅れ
     最終電車を待っている
最終電車は一メートル前に見えているのに
何か 不安だ
そういった薄暗い瞬間の中で僕は生きる
     刹那主義が必要だ
もう夕焼けの街は
  朝焼けの街に変わっている

僕はこの言葉を
「蛇のごとく聡く 鳩のごとく素直に」
語ることができるであろうか
「蛇のごとく聡く 鳩のごとく素直に」
僕は
羊になることができるであろうか

     (1)
僕はいま僕と共に動いている部屋の真中にいる
そして壁を見ながら三年前のノートを思い出している

―ある情景の中で―
闇の中静かであった

街灯が薄暗い光で廻りのものを不気味に照らす
闇の中に自分は吸い込まれていく
闇が自分を除々に消散していく

外が少し明るくなった
朝焼け

空が赤紫色になって 
とても美しかった
その美しさも消えていった
鳥のさえずりが聴こえる
さえずりは僕を慰安してくれる

外が明るくなった
牛乳配達の自転車の音がする
家から人が出てくる
「おはよう」
と人はいう
台所で作る味噌汁の匂いがする
人は忙しそうに動き出した

車の音が聴こえてくる
何物かに追い立てられている
自分だけが取り残されているような気がする
自分は二階の窓から眺めている
空はどんよりとしている
雨が降りそうだ
煙草に火をつける
煙草をふかす
煙草は灰色の煙と共に短くなっていく

   この日の午後は雨だった

       ”アメ アメ フレ フレ
        カアサンガ
        ジャノメデ オムカエ
        カナシイナ
        ピチピチ チャプチャプ
        ラン ラン ラン   ”

     (2)
僕はいま僕と共に動いている部屋の真中にいる
そして煙草をふかしている自分を鏡の中に見ている

  『青空に消えゆく煙
   さびしくも消えゆく煙
   われにし似るか』
           と鏡の中の啄木

煙草をふかしている自分を僕は鏡に模写してみる

 パチンコをしながら僕は
 こんなポーズで煙草をふかしているのかな
 女の子と話しながら僕は
 こんなポーズで煙草をふかしているのかな
 酒を飲みながら僕は
 こんなポーズで煙草をふかしているのかな
 映画を観ながら僕は
 こんなポーズで煙草をふかしているのかな

僕はそっと
アラン・ドロンの吸い方を模写してみた

(すると僕は蒸気機関車になる)

    シュッ シュ ポッポ
    シュッ シュ ポッポ
 <僕は蒸気機関車だ>
僕は煙と共に何処かに行けるんだ
    シュッ シュ ポッポ
    シュュ シュ ポッポ
「そういえば
 僕の父さん煙草が非常に好きで
 死ぬ前まで
 ゴールデン・バット プカプカふかしていたよね
 父さんが死んでから
 母さん墓の前にセブンスター立てていたよね」

    シュッ シュ ポッポ
    シュッ シュ ポッポ
 <僕は蒸気機関車だ>
僕は煙と共に何処かに行けるんだ
僕の行くところは何処だ
    線香の煙とセブンスターの煙が交錯するところだ
    鏡の内の煙と鏡の外の煙の交錯するところだ

     (3)
僕はいま僕と共に動いている部屋の真中にいる
そして ジャガイモの皮をむきながら飯を炊く

 ―僕のために味噌汁を作ってくれる少女―

僕が半開きにされた窓際でカレーライスを作っているとき
あなたは
「わたしが作ってあげるわ」
なんて言ってくれるだろうか?
僕は
「でも僕のほうが上手だから僕が作るよ」
なんて言うだろう
いつか
あなたが
「わたし、いま胸を病んでいるんです。
 わたしもう肺病で死んでしまうかもしれないわ。
 ごはん全然食べられないの。
 もう死んでもいいわ」と
竹久夢二の画集を見ながら、言ったとき
僕は
「夢二の描く女って、みんな悲しいそうな顔しているだろう。
 そしてみんな夢見ているみたいだろう。
 でもこの画の女の人の手とか足とかみてごらん。
 大きいだろう。
 この大きな足で大地にしっかりとへばりつくんだよ。
 この大きな手で誰かにしっかりと頼るんだよ。」って
言ってあげたんだ。

でも
あなたが胸を病んでた男
僕じゃなかったんだね。
僕よりも背が十センチほど高くて、僕より少し顔がよくて
だから あなたはその人に頼ればいいんだよ。

<ひとつの別離がひとつの邂逅と背中合わせにあるものなら
 僕は別離も邂逅も欲しいとは思わない>

僕はあなたに愛を告げるのに一万語ぐらいの言葉が必要だと
思っていたけど
あなたは「愛してる」っていう言葉の麻薬が
必要だったんだね

    僕の恋の値段は百円です
    百円で僕はチューリップの花でも買ってあげます

     (4)
僕はいま僕と共に動いている部屋の真中にいる
そして今夜も眠れそうにないなとつぶやいている

   《早く寝付く秘法》
神経衰弱其の他逆上にて、眠れぬ時は時計のセコントを数え
或は静かに数を数えれば、自然に寝るものだが最も妙法は
目を天上の一点にそそぎ節穴でも同一の所を眺めて居れば
眼は疲れ脳は貧血して間もなく眠を得る(高島易断)

  僕は時計のセコントを数える
  カチコチ カチコチ
  眠れない

  僕は星の数を数える
  一つ 二つ 三つ・・・・
  二十二 僕の年齢
  二百七十六 僕の故郷の家の番地

いま見ている星の光はやはり いま見ている光である
しかし
その光が二十億光年のものであったら
僕は妙に悲しくなる
そして 僕と同じように
母もその光を見ているのかなと思ったら
僕は居ても立ってもいられない気がする

僕は星の数を数えるのをやめる
僕は部屋の窓から見える、部屋の灯の数を数える

    ひとつ ひとりで影ふみ遊び
    ふたつ ふたりでむびきりげんまん
    みっつ みんなで花いちもんめ
    よせてください かくれんぼ
    いれてください ままごと遊び
    むかしむかし あるところ
    ないてかえった 帰り道
    やりたくないのに さそわれて
    このまま ひとりでいたいのに
    とうとう みちくさ くっちゃた

窓という額縁の中で時計のカチコチという音を
数えながら
天上にある節穴を見る
節穴はいろんなふうに見える
その穴から僕は
何処かに行けるのではないか?
それが、たとえば
母の性器だ
「母の性器を通って、何処に行くの?」
僕は街頭易者に尋ねた
「方位は南」
易者は言った
方向音痴の僕にとって南は、どっちだ
僕は知らない
でも僕は自分の信じる南へ行く
それが北であってもいいと思う
明日
目醒めたら 僕はこの部屋にいないかもしれない
僕は寝入りこむという瞬間が分かるような気がして
眠った

     (5)

僕はいま僕と共に動いている部屋の真中にいる
そしてパチンコ屋に入ろうとしている

僕が駅前のパチンコ屋に入ると満員で、僕の打つ台は一台もありませんでした。
だれも打ってない台といえば、それは火の中にあって、熱くて熱くて近づけませんでした。
それから、不思議なんです。
打っている人の足下が堀炬燵のようになっていて、わずかに火があるんです。
   人は喜んでいない
   人は怒っていない
   人は哀れんでいない
   人は楽しんでいない
人はただ機械に向ってニヤニヤしているだけだったんです。
だから僕も、何となくニヤニヤして便所にいきました。
中には扉があって、開けると地下室なっていて、
僕は階段を降りていったんです。
そこにはひとつの部屋があって、たくさんの画が掛けてありました。
ブリューゲルの「大きな魚は小さな魚を食う」っていうのかな。それがありました。
ひとりの人間が一番おおきな魚の腹をジャックナイフで切り裂いているんです。
僕は気味が悪くなって、急いで階段を上って行きました。

僕が出たのは小さな船の上でした。
その船はもう海のうえを走っていました。
この船が何処に行っているのか、僕は知らないんです。
そんな事、問題ないかもしれません。
僕は船尾に、爪先で立っていたんです。
人は僕のために場所を空けてくれる様子は、
全然なく、ただ黙って座っているんです。
       人は喜んでいない
       人は怒っていない
       人は哀れんでいない
       人は楽しんでいない

僕はふらふらしていました。
結局、僕は海に落っこちてしまったんです。
僕はその時、咄嗟に一人の男道ずれにしていたんです。
  ああ 溺れる
  ああ 溺れる
僕とその男がいたのは、電車通りでした。
電車はものすごいスピードで、僕とその男の前を通り過ぎていきました。
何台も何台も、次から次から来るんです。
もう危なくて、危なくて、仕方ありませんでした。
一台の電車の車掌がドアーを開いて
「はやく乗れよ」と言っていました。
目の前をものすごい祖スピードで通り過ぎていったものだから、
僕は乗れませんでした。その男はもういなかったんです。

ここで僕は夢から目が醒めたんです。
僕のそばに
びっこの野良犬がいるような気がして、
僕は窓を開けたんです。

     (6)
僕はやはり僕と共にいる部屋の真中にいる
そして朝の太陽を見ながら欠伸をしている

     昨日は何もなかった
     一昨日も何もなかった
     その前も何もなかった
  そして今日は相も変わらぬ日曜日である

<朝はいろんな音がする>
    牛乳配達の自転車の音
    隣りのアパートの窓を開ける音
    味噌汁をつくる為の食器の音
    マラソンをしている子供の靴の音
    これから寝る男の蒲団を敷く音

 おはよう 僕は 力一杯に言う

故郷で味噌汁を作る母さん おはよう
彼とブラックコーヒーを飲んでいる少女 おはよう
雨の降る日逃げていった文鳥 おはよう
僕の書いた父の似顔絵 おはよう

  おはよう
  おはよう
  おはよう

     (7)
僕はいま僕と共に動いている部屋の真中にいる
そして<おはよう>と言いながら出てくる「もぐら」について思う

  僕はじっと部屋にいたい
  誰からも見られずに
  そして誰かを見ていたい
  隙間風の吹き込んでくる穴から
  僕は
  桜の花が咲くのを
  そして 散るのを
  見ていたい

(万物流転の中ですべてが解決される)

  そんな気さえする
  本当にそうなのか?
  僕は分からない
  朝の太陽がまぶしくて、サングラスをかける自分
  そんな自分とは何だ?

  僕はじっと部屋にいたい
  誰からも見られずに
  そして誰かを見ていたい
  と思う自分とは何だ?

  僕は僕が
  死刑囚で死刑執行人である
  他に何があるのだろう

  僕はやはり僕だ

もぐらが出てくる もぐらが出てくる
これは啓蟄のためではない
サングラスをかけて
あ朝の太陽を両眼でしっかり見ている
もぐらが出てくる もぐらが出てくる

  おはようと言いながら
  誰かに話かけている

  おはよう

     (8)





























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Last updated  2007.05.14 08:25:19
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