四方山話に夜が更ける

四方山話に夜が更ける

June 23, 2009
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 「あゆみちゃんのうちまで車で送っていくよ」

 車のドアを開けながら剛史が言った。

 「いいえ、今日はこれから横浜へ行くんです。用事を済ませてから友人と会うから」

 「それなら横浜駅まで送っていこう」

  手を伸ばせは、すぐそこに剛史がいる。いつもなら私のことを力強く抱きしめてくれる

 剛史が、なんだか少し遠くに感じる。運転席に座る剛史の横にひとりの女性がいるだけで、

 私との間には厚く全てを遮断する壁がそびえたっているように思える。

  帰りの車の中では、圭子の母親と父親だけが話しをしていた。ほかの誰もが口を開かない。

 緑に囲まれた車道を走りながら外の景色を眺めているうちに、私は夢の中に落ちてしまった。

  真っ白い空間の中に圭子がこちらを見て立っていた。それは私がよく知っているふくよかな頬と

 長い黒髪のままの圭子だった。

   出会いは繰り返すんだよね? 

   圭子はまた賢ちゃんと出会うんだよね?

   私が死んでも、また圭子と出会って、

   そしてまた楽しいときを過ごすことができるんだよね?

  私は夢の中でそんな質問を繰り返した。けれど、どうしても聞けないことがあった。

   私は剛史とどうして出会ったの?

   それもまた、生まれる前から決まっていたことだったの

  夢の中でさえも圭子に聞けないもどかしさが、喉に詰まって私は苦しさにもがいた。

 「あゆみちゃん、疲れただろう? 今日は朝早くからずっとだったからな」

 私は剛史のそんな声で目が覚めた。

 「ごめんなさい。私、うとうとしちゃって・・・」

  バックミラーの中で剛史が私をじっと見つめている。私はこの剛史という人がいるから、

 ハイでもなくローでもない平穏な日々を送れている。しかし、私は剛史に心を支配されながら、

 また一方で金銭的に夫に支配をされているということを忘れてはならない。

   あゆみちゃん。

   あゆみちゃんはまだまだきっと恋ができるね。

   ふたりで並んで歩いて行ける恋ができるよ。

 最後に言った圭子の言葉を思い出した。

  私は並んで歩きたいのだ。誰かと肩を並べて一緒に生きていきたいのだ。支配される

 なんて考えはもう終わりにしなくては。

 「私、ちゃんととなりに並んで歩きたいから」

 私はバックミラーに映る剛史の目をまっすぐに見て言った。

 「はい?」と助手席の剛史の妻が振り返った。

 「いえ、ここで降ります。東急ハンズに用事があるので。ここから歩きます」

 「ああ、それならあの信号のところで止めるから」

 剛史は何を感じただろう。

   こんな状況でいったい何を言い出すんだ・・・

 そんな風に思ったかもしれない。夜のメールを気にするくらいの剛史だから、もしかしたら

 怒ってしまったかもしれない。それでもいい、と思った。私は人形ではない。「あゆみの

 好きなように・・・」といいながら、私の前を歩いている剛史に、無理をして小走りでついて

 いくだけの私でなくたって構わない。

 いつか胸を張って誰かの隣を歩きたい。それが夫なのか剛史なのか、それとも他の

 誰かなのかはわからない。一度くらい立ち止まったっていいではないか。地球は青く水を

 湛え月は闇夜に輝き、時は留まることなく大河のように流れ続ける。それは変わることなく、

 留まることなく。そう見えるのは、それがあまりにも大きく計り知れないからだろうか。

 毎日という時間の流れは止めることなどできなくても、私は今立ち止まろうとしている。

 そして、もう一度歩き始めることができるまで、もう少し・・・。青い車を見送って、信号機

 が点滅する横断歩道に向かって私は急いで走り出した。

                                                 おわり

              *このお話のストーリーはフィクションです。






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Last updated  June 23, 2009 12:16:54 PM コメント(2) | コメントを書く
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