恋涙 ~ renrui ~

恋涙 ~ renrui ~

交差点 ~ Chase The Chance(鷹邪編)





私は会社を出ると大通りで拾ったタクシーに乗り込み空港へと向かった。



しばらくするとタクシーは空港の前で停まり私は、代金を支払い降り立つとその足で走って空港内に入った。



『灰斗?どこにいらしゃるのでしょう?』



行き交う人でごったがえす人の間をすり抜けしばらく走り回っている、数名の団体を見つけ近付く。



「茉奈先輩、遅い~」



私を見つけるなり後輩の女子社員が駆け寄ってくる。



私はごめんと女子社員に頭を下げると団体の中に入る、すると中心には灰斗が居て、私は目配せした。



『灰斗、気をつけて行ってきてください』



『ああ、茉奈も元気でな。』



周りに社内の人間が居ることを考慮し私と灰斗は言葉少なに交わした。



搭乗口に向かうからと見送りを断る灰斗に渋々社員達が帰り出すと私は隙を見て抜け出し灰斗の元へと戻った。



『灰斗。』



『茉奈、来ると思った。』



搭乗口に行ってみるとまだ灰斗の姿はそこにあり、私は足早に近づいた。



『ちゃんと、返事したかったのです』



『ああ、茉奈ならそうすると思った』



全てお見通しの様子の灰斗の言葉に思わず笑ってしまうとつられて灰斗も笑った。



『私、灰斗と別れてしまったこと…自分で決めたことなのに後悔してました。

肌を重ねたことも、忘れられなかったです。

ですがそれは、過去に縛られてるだけだと鷹邪さんが気付かせてくれました。

私は彼の傍に居たいと思います』



たどたどしくゆっくり話す私の言葉に灰斗は黙って耳を傾けてくれた。



話し終えると灰斗は変わらない笑顔を私に向けたまま伸ばした右手で私の髪をくしゃっと撫でた。



『頑張れ、茉奈。あいつはクセがあるから苦労するだろうけど、お前なら大丈夫。』



背中を押してくれるような灰斗の言葉に優しさを感じ嬉しくて泣いてしまった。



灰斗は私の頭から手を下げ困ったようにハンカチを差し出す。



「今度から泣くのは鷹の前だけにしろ」



『はい、灰斗…ありがとうございます。さようなら』



私はハンカチを受け取り涙を拭うと右手を差し出す、灰斗は左手を重ね握手を交わし私と灰は二度目の別れを告げた。



空港を後にした私の気持ちは最初に灰斗と別れた日とは違っていた。



鷹邪のいるビルへと向かうタクシーの中から飛び去る、飛行機を私は見詰めた。


あの時のような悲しみも喪失感も今の私は感じていなかった。



タクシーが鷹邪のいるビルに到着したのはすっかり陽が落ちていた。



タクシーを降りると既にビルの表玄関は閉まっていて私は上着から携帯を取りだし鷹邪のアドレスをディスプレイに映すと発信を押し耳に当てた。



《もしも…茉奈?》



『今晩は、鷹邪さん。今、どちらにいらしゃいますか?』



コール三回で鷹邪の声が耳を擽った。



どこか驚いた様子の鷹邪を他所に私は鷹邪の所在を確認する。



《えっ、まだ会社だけど?》



『逢いに行っていいですか?話したいことあるのです』



《分かった、裏口なら開いてるから警備員に言って》



鷹邪は何か察したように私の言葉を受け入れてくれた。



私は電話を切ると上着にしまい鷹邪に言われた通りに裏口へと向かった。



裏口から中に入ると直ぐに警備員室が目に入り近付くと若い警備員が顔を覗かせた。



「観月さん?」



『えっ、はい』



「身分証ある?鷹邪さんから連絡受けてたけど一応ね」



鷹邪の手際の早さに呆気にとられながら言われる通り私は上着から財布を取りだし中から自分の会社の社員証を見せる。



「はい、確かに。そこのエレベーターから最上階にどうぞ」



若い警備員は社員証に目を通し私に差し戻すと近くにあったエレベーターを指差した。



『はい、お疲れ様です』



社員証を受け取り若い警備員に頭を下げあげると財布に社員証を戻しエレベーターに足を向け人差し指で備え付けのボタンを押すと暫くして音を立てながら到着したエレベーターに乗り込んだ。



移り行くエレベーターの電光掲示板をぼんやり見詰めている間にエレベーターは目的の回数で音を立て止まった。



開いた扉から降りるとどこだろうと廊下を歩き始めると扉が開く音が廊下に響く。



『茉奈さん、こちらです』



声に振り返ると永遠の姿がそこにはあった、私は永遠に小走りで近づき足を止める。



『永遠さん、今晩は。永遠さんもお仕事ですか?』



「今晩は。彼が帰らないと私も帰れませんよ、さっ、どうぞ」

永遠は困ったように笑いながら室内を指差すと手を下げ、私が入り易いように扉を開いて右手で促す。



私はそれもそうかと頷き、促されるままに室内へと足を進めた。


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