恋涙 ~ renrui ~

恋涙 ~ renrui ~

前世の追憶壱拾弐


私はあまり夜兎とは関わらず仕事として割り切るように
努めるも
やっぱり夜兎の存在が気になってしょうがなかった

ぼんやり化粧室の鏡を眺めていると視界が揺らいで
私の頭にある映像が流れ込んできた

鬱蒼と茂る木々に男女が二人
でもそれはいつも見ている二人ではなく髪が肩より少し長い女と
烏帽子を被った若い男の姿で月の逆光により姿を鮮明に
捉える事は出来なかった

ただ・・声だけ風に遮られながらも所々聞き取れた

《一体どうするつもりかしら?―の君》

女の口角が上がり赤く紅を引いた艶やかな唇に長い爪が当てられる
様子が見えた

《言われなくても策は考えている・・このままあの二人を一緒にさせる
つもりはない。。。やっと見つけたんだ。― こそ人にばかり頼らず
動いてみてはどうだ》

女を見据え男は冷ややかな冷笑を浮かべ扇で女を指す

《煩いわ・・・私だってこのまま、あんな小娘に負けてなるものですか
帝の心さえ小娘に向いているというのに・・彼を奪われてなるものですか》

眉を潜め口調を強めながら指された扇を手で払いのけ言い放つ

《お手並み拝見とさせてもらうとするか・・私は彼女さえ手に入れば
後がどうなろうと知ったことではないのだからな》

動じることなく男は女をあざ笑うように笑みを称える

その瞬間突風が吹き一気に映像は遮断されるようになり私は
思わず声を上げた

《・・待って》

しかし目の前にはいつもの見慣れた鏡のみで小さく首を横に振り
息を吐くとポンと肩を叩かれ主むろにビクつく

《先輩・・大丈夫ですか?》

私の瞳に映ったのは心配そうに私を見詰める天外桔梗の姿で
私は胸を撫で下ろし笑みを作ると

《大丈夫、気にしないで》

一言だけ呟き化粧室を出て行く

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