★アカネのアノネα

★アカネのアノネα

December 10, 2004
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ひとつは昨日も書いた高村光太郎の「れもん哀歌」。
そしてもうひとつは宮沢賢治の「永訣の朝」。
妻と妹・・・対象は違っても死の床にある肉親を歌った点では同じだ。
賢治は「あめゆじゅとてちてけんじゃ(あめゆきをとってきてください)」と
乞う妹トシの言葉が胸を打つ。

どちらが切実であるか。どちらが読む人に感銘を与えるか。
そしてどちらが詩として自分の好みか。
そんなこと論じること自体がナンセンス?
うん、そうだけど二人芝居『れもん』で柄本明演じる光太郎が、
賢治を意識していたのが気にかかっている・・・。

賢治(1896-1933)、光太郎(1883-1956)。
光太郎よりも遅く生まれて、早くに逝ってしまった賢治。
夭折した詩人の書いた作品に光太郎が刺激されたであろうことは確実。
改めて読んでみると二つともとてもよい詩です。

      ~~~~~*~*~*~~~~~~

    「れもん哀歌」   高村光太郎
   そんなにもあなたはレモンを待ってゐた
   かなしく 白く あかるい死の床で

   わたしの手からとった一つのレモンを
   あなたのきれいな歯ががりりとかんだ

   トパアズいろの香気が立ち
   その数滴の天のものなるレモンの汁は
   ぱっとあなたの意識を正常にした

   あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑う

   わたしの手をにぎるあなたの力の健康さよ

   あなたの喉に嵐はあるが こういう命のせとぎわに
   智恵子はもとの智恵子となり 生涯の愛を一瞬に傾けた

   それからひと時 昔山癲でしたような深呼吸を一つして
   あなたの器官はそれなり止まった

   写真の前にさした桜の花かげに
   すずしく光るレモンを今日も置こう
                  (1938,10月妻智恵子没)
       ~~~~~*~*~*~~~~~~

     「永訣の朝」   宮沢賢治
   けふのうちに
   とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
   みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
   うすあかくいっさう陰惨〔いんさん〕な雲から
   みぞれはびちょびちょふってくる
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
   青い蓴菜〔じゅんさい〕のもやうのついた
   これらふたつのかけた陶椀〔たうわん〕に
   おまへがたべるあめゆきをとらうとして
   わたくしはまがったてっぽうだまのやうに
   このくらいみぞれのなかに飛びだした
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
   蒼鉛〔さうえん〕いろの暗い雲から
   みぞれはびちょびちょ沈んでくる
   ああとし子
   死ぬといふいまごろになって
   わたくしをいっしゃうあかるくするために
   こんなさっぱりした雪のひとわんを
   おまへはわたくしにたのんだのだ
   ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
   わたくしもまっすぐにすすんでいくから
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
   はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから
   おまへはわたくしにたのんだのだ
   銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいの
   そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
   …ふたきれのみかげせきざいに
   みぞれはさびしくたまってゐる
   わたくしはそのうへにあぶなくたち
   雪と水とのまっしろな二相系〔にさうけい〕をたもち
   すきとほるつめたい雫にみちた
   このつややかな松のえだから
   わたくしのやさしいいもうとの
   さいごのたべものをもらっていかう
   わたしたちがいっしょにそだってきたあひだ
   みなれたちゃわんのこの藍のもやうにも
   もうけふおまへはわかれてしまふ
   (Ora Orade Shitori egumo)
   ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
   あああのとざされた病室の
   くらいびゃうぶやかやのなかに
   やさしくあをじろく燃えてゐる
   わたくしのけなげないもうとよ
   この雪はどこをえらばうにも
   あんまりどこもまっしろなのだ
   あんなおそろしいみだれたそらから
   このうつくしい雪がきたのだ
      (うまれでくるたて
       こんどはこたにわりやのごとばかりで
       くるしまなあよにうまれてくる)
   おまへがたべるこのふたわんのゆきに
   わたくしはいまこころからいのる
   どうかこれが天上のアイスクリームになって
   おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
   わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ
(1922・11月妹トシ没)








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Last updated  December 10, 2004 11:27:47 AM
コメント(16) | コメントを書く


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Re:★光太郎と賢治/ふたつの挽歌 (12/10)  
MYCA  さん
「智恵子抄」は、昔、母が安達太良山付近出身なので、智恵子役が‘原節子’の時代の映画を母と一緒に見ています。
智恵子=原節子から離れられません。
宮沢賢治は父の故郷なので、「永訣の朝」の詩の訛りがとても心地よく響きますし聞こえます。
智恵子が脳を患ったのは、高村光太郎のせいという諸説も有りますが・・・。
私は、賢治の‘妹への愛’の詩が純真で好きです。 (December 10, 2004 02:09:01 PM)

Re:★光太郎と賢治/ふたつの挽歌 (12/10)  
パティP  さん
光太郎が賢治を意識していたと言うのはお芝居の中なのか、それとも本当にそうだったのか知りたいです。
ただ、賢治は若くして死ぬことが出来たけれど、光太郎は生きてしまいました。
戦時中には戦争を賛美する詩を書き、戦後に激しく自噴後悔したそうです。
アーティストである光太郎にとって、自己の老醜は苦痛以外の何者でもなかったでしょうね。

賢治の詩は好きです。
小説は苦手なんですが、詩はいい。
両足をしっかと大地に踏みしめ、どんなときも顔を天からそらさない潔さ強さがあります。
泣くときでさえ天を仰いでおお泣きするんですよね。

光太郎は若い日にいろいろ遊んだし、ひねくれてるし、孤独であると自分でも言ってるし、賢治のあのまっすぐな視線に憧憬したのかもしれないですねぇ。
昼からいい詩に出会えてしあわせでした。ありがとう。 (December 10, 2004 02:28:23 PM)

Re:★光太郎と賢治/ふたつの挽歌 (12/10)  
宮じいさん  さん
こんばんは。 素敵な二つの詩をありがとう
ございました。 どちらも、素晴らしいです。

光太郎が賢治を意識していたのは、多分事実
でしょうね。

内容は別として、賢治の平かなばかりの詩は
読みにくいです。 ローマ字を読んでいる感
じです。 「二相系」の意味がよくわかりま
せん。 雪と水は異相でなく、同相のような
気がしますが。 (December 10, 2004 06:00:29 PM)

光太郎と賢治/ふたつの挽歌  
はやと89314  さん
どちらの詩も 焼け付く器官に一服の清涼を求めた詩ですね。この病状の特徴として白く透き通る肌の色が黄色白、鉛色白と鮮やかさが、その悲しみを一層深くしているのでしょう。聞こえて来る空気の流れが切なくて・・・ (December 10, 2004 09:18:03 PM)

Re:★光太郎と賢治/ふたつの挽歌 (12/10)  
両方とも教科書に載ってるとても有名な詩ですね!
実は私の家(父方)は宮沢家と遠縁なんですよ。だから賢治賢治と言われて育ちました。(笑)
レモンというと梶井基次郎が一番初めに頭にぴっときますね。次に高村光太郎のれもん哀歌。
喉元に悲しみが詰まる感じが忘れられなくてすごく印象に残りますよね。

レモンというと「農薬大丈夫かな」くらいしかインスピレーションが湧かない私は本当に詩人の末裔なんだろうか…。 (December 10, 2004 10:03:55 PM)

Re:★光太郎と賢治/ふたつの挽歌 (12/10)  
alex99  さん
私にとっては、両方ともいい詩どころではなくて、哀切な詩そのものです。

特に賢治の詩を読むと、情景がまざまざと目に浮かび、涙がにじみ、賢治の悲しみが私の胸に、締め付けるように伝わってきます。
すごい詩だと思います。
私自身が今年、妹を亡くしたと言うこともありますが、それ以前も同じように感じました。

(December 11, 2004 06:41:53 AM)

Re:★光太郎と賢治/ふたつの挽歌 (12/10)  
他の方々の書き込みを読ませて頂いたあとで、何となく書きづらくもあるのですが、ショーコのすることだと思って許してくださいね。

死の瀬戸際――というものが、人に与えるものは、なんて凄いのだろうと思います。
この2つの作品を、純粋に作品として鑑賞すればいいのに、私は今、自分が死ぬことばかり考えて、しかもそれで異常に高揚しています。
どうやって死のうと考えたところで、そのようになどならないのは当然ですが、自分も智恵子のように狂気の中でほんの一瞬だけ生まれた時の自分に戻るような、死の手前にそんな時間があったらいいなあと思いました。

真命の極みに堪へてししむらを敢へてゆだねしわぎも子あはれ

吉野秀雄の詠歌です。
死の直前の妻が、夫に今生の別れを前に自分を抱いてくれと強く迫り、夫がそれに応えるという状況です。
私もこうありたいなと強く思います。
また、そう望まれる存在でもありたいと思います。

(December 11, 2004 08:37:47 AM)

Re:★光太郎と賢治/ふたつの挽歌 (12/10)  
くろっち96  さん
智恵子抄の話をしていたら
妹が

塩、胡椒って話で乱入してきた。


(December 11, 2004 10:19:16 AM)

Re:★光太郎と賢治/ふたつの挽歌 (12/10)  
楓。。  さん
こんにちは♪

アカネさんの日記も、みなさんのコメントも素敵。。。

特にショーコさんが紹介されているお歌、胸を打たれました。

私は…目をそらしてしまうのです。
悲しいものは、見ないようにしてしまう。無意識に。

この無意識が、怖い。いままで気付かなかった(笑)

(December 11, 2004 11:51:57 AM)

Re:★光太郎と賢治/ふたつの挽歌 (12/10)  
ももみっつ  さん
・・・賢治でちょっぴり泣いちゃったわよ

ってことは賢治派?

偏に光太郎を求めた智恵子の気持ち、重荷じゃなかったのかとか色んな要素が入りこまないぶんかも? (December 12, 2004 01:32:38 AM)

◆◆お返事◆◆  
アキアカネ  さん
◆MYCAさんへ
 光太郎の故郷も、賢治の故郷もMYCAさんにとってはご両親の故郷ということでご縁があるのですね。
 幼い不憫な妹を思う兄の気持ちは胸打たれますね。
野坂昭如「火垂るの墓」にも通じるかしら。

◆パティPさんへ
 平田俊子脚本は「れもん哀歌」は賢治の「永訣の朝」を意識して書かれたという解釈のようです。
あめゆきに替わるものは何か・・と。
光太郎は高名な芸術家を父に持つボンボン。
天才賢治に憧憬(嫉妬も含めて)していたか否かは卒論のテーマにもなりそうですね。

◆宮じいさんへ
 賢治の「永訣の朝」は朗読で冴える詩です。
抜群の読み手にかかれば・・・・。
でもこの名作を読み上げることが出来る役者はなかなかいないようです。

◆はやと89314さんへ
 そうですね。最新の医療装置なんて病床の周りには置かれていない頃の詩ですね。
兄にとって妹は特別な思いの存在なのかな。

◆はいせんす軍師さんへ
 おぅ、天才の血を受け継いでいるのですか!!
 レモンで光太郎よりも梶井基次郎「檸檬」を先に思い浮かべる辺り、軍帥さまは間違いなく賢治の末裔です。
そのDNAを大切にね(´∀`)v (December 12, 2004 02:25:06 PM)

◆◆お返事◆◆  
アキアカネ  さん
◆alex99さんへ
「永訣の朝」は賢治にとって詩を書くというよりも
その時の自分の気持ちを書き綴っただけなのではないかとも思われます。
素朴なつぶやきがヒシヒシと胸打ちますね。
妹さんを亡くされたalex99さんならなおさらのことですね。ご冥福をお祈りいたします。

◆* ショーコ *さんへ
死の直前まで女でいる・・・理想だけど現実的には(今の医療体制では)叶わぬことかも知れない。
死は逝く人よりも、残された側に課題が与えられるのですよね。
私は屹立とした刃でなく、ほんわかと課題を与えることなく消えていきたいな・・・。

◆くろっち96さんへ
 「塩、胡椒」って乱入した妹さんの名は「チエ」?

◆楓。。さんへ
 私もその傾向が多いにありです。
自分にとって嫌なものは見ない聞かない。
残虐な事件の詳細ほとんど知りません。
私の場合は無意識でなく意図としてなのですが。

◆ももみっつさんへ
 私も賢治派ですσ(^_^;
 妹の言葉、泣けるよね。
 智恵子が行き詰って、世界がどんどん狭くなってやがて精神を病んでいくって・・・切実で残酷で見ていられない。 (December 12, 2004 02:59:27 PM)

Re:★光太郎と賢治/ふたつの挽歌 (12/10)  
alex99  さん
私にはいろいろ好きな詩はありますが、この宮沢賢治の詩のように哀切な詩は他にありません。
軒からしたたるみぞれが、妹の魂の命のしたたりのように思えます。

宮沢賢治の作品の朗読には名作があります。
CDシリーズで発売されていますが、女優&演出家である長岡輝子さんが、賢治と同じ生まれ故郷の盛岡訛りで朗読したものです。
私はNHKラジオ深夜便でその一部を聞いたことがあります。

(December 12, 2004 08:28:08 PM)

◆◆お返事◆◆  
アキアカネ  さん
◆alex99さんへ
 長岡輝子さんは朗読の達人ですよね。
 長岡さん、岩手ご出身ですものね。
「永訣の朝」の朗読、ぜひ聴いてみたいなぁ。
 ちょっと探してみます。
(December 13, 2004 12:12:57 PM)

Re:★光太郎と賢治/ふたつの挽歌 (12/10)  
alex99  さん
答えてもらう必要はないのですが。


私は、本当は、アキアカネさんが、宮沢賢治の詩を紹介したくて、(高村光太郎話題から出発したという行きがかりはあるにしても)、智恵子抄を引き合いに出して、「永訣の朝」を、その一字一句を、胸を詰まらせながら、この日記に書いたのだろうと、推測・・・、いえ、確信しています。

  (December 14, 2004 06:40:28 AM)

◆◆お返事◆◆  
アキアカネ  さん
◆alex99さんへ
芝居『れもん』が、「れもん哀歌」は光太郎が賢治の「永訣の朝」を意識して書いた詩であるという主題でしたので以前から好きだった「永訣の朝」を全文載せただけです。すみません(~_~;)
長岡輝子朗読の「永訣の朝」のテープ、近所の図書館に在りました。ヤッホッ♪
これから行って来ます。
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