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10月30日に山上憶良の「瓜食めば…」の歌のことを書きました。この「食む(はむ)」は「食べる」といふ意味の動詞なんですが、それならハムを食べたら「ハムをはむ」つていふんやろなあと昔友人が言つてゐました。現在では「鳥が餌をついばむ」とかいふときの「ついばむ」に「はむ」がのこつてゐます。これは「突き食む」からだといふことです。(中世末期ごろまでは「ついはむ」と清音)鳥といへば「つばめ(燕)」の語源説の中に「土を食んで巣を作るところから、ツチハム→ツバメとなつた。」といふものがあります。(もつとも「つばめ」は「つばくらめ」の略だといふ説の方が有力なやうですが。)語源といへば「へび(蛇)」(上代には「へみ」)の語源は、「はむ」からだといふ説もあり、巨大な蛇をさす「うはばみ」(大酒飲みのことでもありますが)の「はみ」もそこからきてゐるともいはれます。動詞「はみだす」も漢字で書くと「食み出す」だから「食む」と何か関係ありさうですね。「はむ」がつく言葉はは前に名詞や動詞がついて「ばむ」と連濁が起きた形になつてゐることがほとんどです。現代でも使ふ言葉では、「汗ばむ」「黄ばむ」「気色ばむ」「むしばむ」「こばむ」「はばむ」…など。辞書には「赤ばむ」「青ばむ」「黒ばむ」「白ばむ」「紫ばむ」なども載つてゐました。何かに「侵食される」といふかんじが「食べる」意の「はむ」につながるやうな気がしますね。(「こばむ」と「はばむ」はちよつとわかりませんが。)古語にはたくさんあります。「老いばむ」「怪しばむ」「をかしばむ」「心ばむ」「戯ればむ」「ばむ」を古語辞典で引くと、動詞、名詞などについて、「その様子を表す」「そのさまを帯びる」意を表す。といふふうに書いてある。ほかに、「よしばむ(由ばむ)」 わけありげにふるまふこと。「しればむ(痴ればむ)」 おろかに見える。「せばむ(狭む)」 せばめる。「にばむ(鈍ばむ)」 鈍色になること。又、喪服を着ることをさす。「かいばむ」 かいま見る。「かればむ(嗄ればむ)」 声がしはがれること。「ちりばむ(塵ばむ)」 塵にまみれる。「なまばむ(生ばむ)」 なんとなくうさんくさい様子。「ゆゑばむ(故ばむ)」 わけありげにもつたいぶる。 …など。おもつたこと。昔はたくさんあつた「ばむ」が少なくなつていつたのはなぜなのでせうか。あとなんとなく「ばむ」がつく言葉にはマイナスイメージの伴ふものが多いのではないかとおもふのはぼくだけでせうか。
2008.11.03
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12月6日に漱石の肉声は残つてゐないので残念だと書きました。でも漱石より年上の坪内逍遥の肉声は残つてゐます。(逍遥は安政六年(1859年)生まれ。 漱石は慶応三年(1868年)生まれ。)ぼくは逍遥の朗読するシェイクスピアの『ハムレット』の音声を初めて聴いたとき、江戸時代生まれの文豪の声が聴けるといふことに不思議な感動と驚きを覚えました。そしてそれ以上にその朗読について「うまいなあ」と感心しました。逍遥は朗読の方法を独自に研究してゐたやうです。登場人物の女の人の話し方なども声色を使つて上手に読み分けてゐて、早稲田での講義でも評判だつたといふのは本当だらうなあとおもひました。現在は『よみがえる自作朗読の世界』といふCDで聴けます。
2008.12.16
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