kazuya satou6980のブログ

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2026.08.12
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テーマ: 戦争と人間(206)
カテゴリ: カテゴリ未分類
https://youtu.be/AYnddJxrh-M
第1章 村
“Emotion of mankind is fear, and the oldest and strongest kind of fear is fear of the unknown.”
(人類にとって最も古く、最も強い感情は恐怖であり――その中でも最も古い恐怖は、“未知”への恐怖である。)
――H・P・ラヴクラフト
2026年3月3日 午前0時45分
日本・青森県 山間部
雪は降っていなかった。
しかし、山の中には冬の冷気が残っていた。
深夜の山道を、一台の黒いワゴン車がゆっくりと進んでいる。
ヘッドライトが照らす先には、杉の木が無数に並んでいた。
左右から伸びた枝が道路の上を覆い、月明かりさえ遮っている。
車内には四人の男がいた。
全員、中国人だった。
年齢は二十代後半から三十代前半。
彼らは中国で活動する小規模な怪談系ユーチューバーグループ――**「神霊短径団」**のメンバーだった。
リーダー格の男が、助手席からスマートフォンの地図を確認している。
「現在位置……まだ合ってる」
後部座席の男がカメラを回していた。
「日本の青森県。ここから先は、一般の観光客がほとんど来ない地域らしい」
「本当に村があるのか?」
運転している男が尋ねた。
助手席の男が答えた。
「村が“あった”場所だ」
車内が静かになった。
彼らが探しているのは、日本の有名な都市伝説の一つ。
杉沢村。
山奥に存在したとされ、ある男による大量殺人によって住民がほぼ全滅し、その後、村そのものが地図から消えたと伝えられている場所。
正確な所在地については諸説あり、実在した村なのか、別の事件や伝承が混ざったものなのかも明確ではない。
だが、神霊短径団の四人は、その場所がこの山中にあると確信していた。
「日本人の掲示板では、この先に古い道があるって書いてある」
「看板は?」
「あるらしい」
「“この先に入るな”ってやつ?」
「そう」
後部座席の男が笑った。
「最高じゃないか」
しかし、その笑い声は長く続かなかった。
車が突然止まった。
「……何だ?」
エンジンは動いている。
だが、前へ進まない。
運転手がアクセルを踏む。
タイヤが雪の残る路面を空回りした。
「降りて確認する」
四人は車外へ出た。
気温は低かった。
吐いた息が白くなる。
周囲には杉林しかない。
道路は細く、舗装も途中で途切れている。
ライトを向けると、数十メートル先に古い木製の杭が立っていた。
その杭には、朽ちかけた板が取り付けられている。
「……看板だ」
カメラを持った男が近づく。
レンズを向ける。
「ここから先――」
そこで言葉が止まった。
看板には文字が残っていた。
だが、風雨によってほとんどが消えている。
読めるのは断片だけだった。
入るな。
戻れなくなる。
四人は互いの顔を見た。
「本物だ」
誰かが小さく言った。
その瞬間だった。
森の奥から音がした。
――ザッ。
枯れ枝を踏むような音。
四人が同時に振り返った。
誰もいない。
「鹿じゃないか?」
「この近くに?」
「たぶん」
そう言いながらも、誰も森から目を離せなかった。
やがて四人は、さらに奥へ進むことにした。
カメラは回り続けている。
スマートフォンには午前0時45分と表示されていた。
やがて道路は完全に消えた。
その先には、かつて道だったと思われる細い地面だけが残っている。
杉の木々の間から、古い建物の屋根が見えた。
「……家?」
一人が呟いた。
全員が立ち止まった。
そこには、確かに建物があった。
屋根は崩れている。
壁は黒ずんでいる。
窓ガラスはほとんど割れていた。
誰かが長い年月をかけて放置したような家だった。
「杉沢村……」
リーダーが呟く。
「ここだ」
彼らは互いに頷いた。
伝説。
都市伝説。
ただの噂。
そのはずだった。
しかし目の前には、確かに人間が暮らしていた痕跡がある。
古い井戸。
崩れた納屋。
倒れた木製の電柱。
雑草に埋まった生活道路。
そして、家々。
それはまるで、時間だけが村人を置き去りにして、そのまま村を閉じ込めたようだった。
カメラを持った男が、廃屋の内部を撮影する。
「誰かいる?」
返事はない。
「当然だろ」
別の男が笑った。
その直後。
カメラの画面に、何かが映った。
男は気づかなかった。
しかし、その隣にいた仲間が画面を覗き込んだ。
「待て」
「何?」
「今、後ろに何かいた」
全員が振り返った。
誰もいない。
「どこ?」
「今の……」
男はカメラを確認する。
映像には、廃屋の奥に暗い空間が映っている。
何もない。
「見間違いだ」
「本当に?」
「ああ」
彼らは再び歩き始めた。
村の奥へ。
そして、その一人が足を止めた。
「……あれ」
三人が振り返る。
「何を見てる?」
男は答えなかった。
杉林の奥。
廃屋と廃屋の間。
そこに、人が倒れていた。
「人間……?」
四人の表情が変わった。
「近づくな」
リーダーが制止する。
だが、発見した男はゆっくりと近づいていった。
「女性だ」
その声が震えている。
地面に倒れていたのは、一人の若い女性だった。
長い黒髪。
白い肌。
身体には、深い青色の光沢を持つ長袖ハイレグレオタードを着ている。
袖から肩、胴体、脚へと身体に密着した衣装。
裸足の足先が冷たい地面に伸びている。
衣服には泥と赤黒い汚れが付着していた。
女性は仰向けに近い状態で倒れていた。
呼吸しているのかどうか、遠目では分からない。
「生きてる?」
一人が尋ねた。
誰も答えない。
リーダーが慎重に近づいた。
「触るな」
「でも、人間だぞ」
「警察を呼ぶべきじゃないか?」
その言葉に、別の男が首を振った。
「こんな場所で?」
「だからこそだ」
男はスマートフォンを取り出した。
しかし――
画面には圏外の表示。
「……嘘だろ」
さっきまであった電波が消えている。
そのときだった。
倒れていた女性の指が動いた。
「!」
四人が後退する。
女性の身体が、ゆっくりと起き上がった。
長い黒髪が顔にかかる。
彼女は何も言わない。
ただ、四人を見ている。
「……生きてる」
一人が呟いた。
女性は立ち上がった。
足元がふらついている。
しかし、倒れない。
青い長袖ハイレグレオタードには、乾きかけた赤黒い汚れが残っている。
その姿は、この場所に存在するはずのないものだった。
男の一人が震える声で尋ねた。
「あなた……誰?」
女性は答えない。
「日本人?」
沈黙。
「聞こえてる?」
女性の視線だけが動く。
そして、四人の後ろ――暗い杉林へ向けられた。
その目には、恐怖も混乱もなかった。
まるで、彼女には彼らとは別の何かが見えているようだった。
「……何を見てる?」
男が振り返る。
何もない。
杉の木。
霧。
闇。
ただそれだけだった。
再び女性を見る。
彼女は動かない。
「服……」
一人が呟いた。
「青い……」
「長袖のレオタードだ」
別の男が言う。
「ハイレグ……」
「どうしてこんな場所に、そんな格好で……」
誰も答えを出せない。
女性の衣服は、この山奥の廃村とはあまりにも異質だった。
まるで別の世界から突然現れたようだった。
そして、リーダーが女性の顔を見た瞬間。
表情が凍りついた。
「……待って」
「どうした?」
「この顔……」
彼はカメラを取り出した。
先ほど撮影した映像を早戻しする。
数分前。
廃屋を撮影した映像。
一瞬だけ、画面の端に人影が映っている。
同じ女性だった。
しかし、それだけではなかった。
さらに別の画像。
ネット上で保存していた杉沢村伝説関連の資料。
その中に、古い写真があった。
ぼやけた山村。
崩れた建物。
そして、写真の端に立っている――
同じ顔の女性。
「……ありえない」
男の声が消える。
「何?」
「この写真……撮影された年代が違う」
「何年前?」
「分からない。資料には古い写真としか……」
男は画面と目の前の女性を交互に見る。
同じ顔。
同じ目。
同じ長い黒髪。
しかし、目の前の女性は、まるで何事もなかったかのようにそこに立っている。
「あなた……この写真にいる人?」
女性は答えない。
「名前は?」
沈黙。
「ここで何をしていた?」
沈黙。
「杉沢村の人間なのか?」
女性は何も言わない。
そのとき。
森の奥から、また音がした。
――ザッ。
今度は一度ではなかった。
――ザッ。
――ザッ。
――ザッ。
何かが、こちらへ近づいている。
四人は一斉に女性を見る。
女性だけが動かなかった。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
彼女の視線は、四人の頭上を越えて、村の奥へ向けられている。
リーダーが小声で言った。
「……何がいる?」
女性は答えない。
ただ、右手をゆっくり持ち上げた。
そして、村の奥を指差した。
誰もいない。
しかし、その瞬間。
カメラの映像が乱れた。
画面が一瞬、真っ黒になる。
復帰した映像には、女性の姿だけが映っていた。
四人の姿が消えている。
「……え?」
現実では、四人ともそこにいる。
だが、カメラの画面には女性しか映らない。
リーダーがカメラを落とした。
地面に転がったカメラが、杉の木々と女性を映し続ける。
女性は立っている。
青い長袖ハイレグレオタード。
裸足。
汚れた衣服。
長い黒髪。
無表情。
そして――
口を一度も開かない。
彼女は何もしゃべらない。
ただ、暗い村の奥を見つめている。
午前0時52分。
四人はまだ、この時点では知らなかった。
自分たちが見つけた女性が、杉沢村伝説の中で語られる存在なのか。
それとも、伝説とはまったく関係のない、生きた人間なのか。
そして何より――
なぜ彼女が、何十年、あるいはそれ以上前に撮影されたとされる写真と同じ姿をしているのか。
答えは、まだ村の中に眠っていた。
深い杉林の向こう。
朽ちた家々のさらに奥。
そこには、地図から消えた村の中心部が残されていた。
そして、四人の誰も気づいていなかった。
彼らが見つけた女性の背後。
暗闇の中にある古い家の窓から、
誰かがこちらを見ていた。
女性は、それを知っていた。
だからこそ、何も言わなかった。





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Last updated  2026.08.12 15:37:10
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