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 1つ年下の弟の就職先が決まった。俺は浪人したために、弟と大学を卒業する年が一緒になってしまった。そのことだけでも兄としてのプライドが傷ついている上に、弟の方が先に内定を決めた。しかも、自分が現実的に何とか内定をもらえそうな会社よりも、2ランクくらい上の会社に。
 あいつは、お調子者で適当に生きているくせに、要領が良いせいで周りからの評価が高かった。どうしていつもあいつばかりが良い目にあってるんだ。世の中不公平だ。
 そんなことを考えながら街を歩いている時に、俺は男から声をかけられた。その日から、俺の人生は一変することになる。
 何の取り得もない、弟をひがんで何とか自分を保っているようなダメ人間だった俺は、その日からヒーローになった。




 2つの企業の面接を終えて、家に帰る途中のことだった。就職活動が不調で、今日の面接も思ったようには上手く行かなかった赤川は、いつになく落ち込んでいた。
 「あー、やっぱ俺ってダメなんだなあ・・」
 交差点で信号待ちをしている時に、思わずそんな言葉が漏れてしまった。すると、後ろから声をかけられた。
 「あなた、今自分のことダメ人間だといいましたね?」
 周りに人の気配をまったく感じていなかった赤川は、驚いて振り向いた。そこには赤川と同じくらいの年の男が立っていた。白のシャツに細身のジーンズというあっさりとした格好。銀縁メガネの向こうにある目が、人懐っこそうな、それでいて何か裏がありそうな笑みを浮かべていた。
 「あなたのその力を、世界平和のために役立てませんか?」
 ああ、宗教だ。赤川は瞬時にそう判断した。やばい、無視しよう。
 「あなた、私のこと宗教か何かだと思っているでしょう。」
 「・・・・」
 「そんなんじゃないですよ。話だけでも聞きませんか?」
 「・・・・・」
 赤川は男を無視して、なかなか変わらない信号を見つめていた。青になったら足早に去ろうと思っていた。
 「私はですね、あなたをスカウトしたいのです。」
 「・・・・・」
 「あなた、就職活動が上手くいってないでしょ。」
 「・・・・・」
 この男は、なぜ赤川の事情を知っているのだろうか。あてずっぽうで言っているだけだろうと赤川は思った。面接用のリクルートスーツで浮かない顔をして歩いていれば、就職活動が上手く行ってない学生だろうと簡単に予想は出来る。
 「あてずっぽうで言ってるんじゃないですよ。あなたのことは良くわかってます。」
 「・・・・」
 「私ね、実はなんとなくあなたの考えてることわかるんですよ。」
 信号が早く変わらないかと、赤川は思った。男の言葉には耳を傾ける気は無かった。それは、もしかしたら宗教にでもすがってしまいそうなほど、今の自分は弱っているという恐れがあったからかもしれない。
 「話だけでも聞いてもらえませんかね。」
 「・・・・」
 「あなたの自己嫌悪とか、僻みとか妬みとか、そういうマイナスな気持ちを世のために活かしてみませんか。本題に入りますね。私、ほんとに宗教じゃないんですよ。」
 「・・・・・」
 やたら長い信号と、意味のわからない不気味な宗教男に、赤川はイライラしていた。
 「私、実は司令官なんです。」
 なんだ司令官って。戦隊ヒーローの指揮でもするのかよ。赤川は口には出さずに、心の中で突っ込んだ。
 すると男は、あまりにも衝撃的で胡散臭いことを言った。
 「そう!赤川さん勘が鋭いですねー。実は、あなたに戦隊もののヒーローをやってもらいたいんですよ。」
 「・・・ヒーロー?」

 「そう、ヒーローです。」
 男は笑顔でそう言った。
 「赤川さん、赤だからレッドやってください。リーダーです。」
 「・・・・・・」
 何を言ってるんだこいつは、思わず反応してしまったことを赤川は後悔した。
 ・・というか、なぜ自分が戦隊ヒーローを連想したことを見透かされたのだろう。いやそれよりも、俺はこいつに自分の名前を言ったっけ。なんで俺が赤川だって知ってるんだろう。
 いや、そんなことはどうでもいい。とにかく、こういう人には関わらないほうが良い。
 「あー、俺、急いでるんで。それじゃ。」
 「急いでるって。どうせ家に帰ってもテレビゲームやるだけでしょ。」
 また、赤川は言い当てられてしまった。
 「勇者のレベルを上げる前に、自分がレベルアップしなきゃ。」
 「余計なお世話だよ!」
 さっきから、この男はなぜ自分の思考を先回りするようなことを言っているのだろう。赤川は、少し混乱していた。まさかほんとに心を読まれているのだろうか。いや、そんなことはあるはずが無い。きっとなんとなく言っていることがたまたま当たっただけだろう。
 とにかく、自分の基本スタンスに変わりは無い。信号が変われば足早に逃げるだけだと、赤川は思った。それにしても、本当に長い信号だ。
 「あの信号、変わりませんよ。」
 「は?何言ってんの。」
 「戦隊ものの司令官ともなると、それくらいは楽勝です。」
 「はあ!?」
 男は、さも自慢気にそう言った。確かに、不自然なくらいに長い信号だ。いや、だからって信号を操作できるなんて・・。
 赤川が混乱していると、別の通行人が交差点の向こう側にやってきて、押しボタンを押した。
 「・・・あ。」
 「ああー、残念。私の力が消えてしまいます。」
 「テメーの力じゃねーだろ!」
 一瞬でも、もしかしたら、なんてことを考えた自分が恥ずかしくて、赤川の声は自然とトーンアップした。
 「押しボタン式だってことに気がつかないで待っていたのは自分なのに、私に当たらないで下さいよー。」
 「うるさい!とにかく、俺は帰る。それじゃあ!」
 赤川がそう言って歩き出そうとした時に、男は冷静な雰囲気を崩さずに言った。
 「んー、じゃあ仕方ないですね。力ずくで行きます。」
 男は、ポケットからハンカチを出して赤川の顔に押し付けた。瞬間、赤川は気を失ってしまった・・・。

 赤川が目覚めると、そこは自分の部屋だった。
 「あれ・・」
 あのヒーロー男とのやり取りは夢だったのだろうか、いや、しかし、自分がここで寝る前までの記憶を思い出せない。・・いったい何があったんだろう。
 赤川は、ふとテーブルの上にある紙に目がいった。メモ用紙だ。

 『ぐっすり眠ってるから帰るね。また夜に来ます。 司令官(はあと)』

 「テメーは俺の彼女かよ!!」


つづく



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