ひこうき雲2



3人は、代わりばんこにボクだったワンコに話しかけながら夜を明かした。
母さんは、以前さくらママからもらったお香を炊いた。
「こんな時に炊く事になるなんて」
母さんは、また泣いた。
 ボクは、そろそろ自分がもう死んだのだということを受け入れるしかない事に気づき始めていた。
「ごめんね、ごめんね犬太」
…母さん、そんなこと言っちゃだめだよ。ボクの方こそごめんね。悲しませちゃって。

母さんは、日記に葬儀の時間と場所を書き込んだ。
その後、ボクはその日記を読む人のところへ瞬間移動することになる。

その頃、ボクの親戚犬、京都のさくらちゃんちでは、朝の生活がスタートしかけていた。「お父さん!totoroさんとこの日記見てよ!『犬太は虹の橋を渡りました』って書いてある」
「何寝ぼけたこと言うてんの」
パパさんは、母さんの日記を声を出して読みかけ、すぐにピタッととまった。パパとママの目からポタポタポタと涙がこぼれ落ちた。子供も朝ご飯を食べずに泣いた。

でも、パパさんとこは、まだましな方で、夜のうちに連絡をうけた人達は、ほとんど一睡もせずに泣いていたらしい。みんなまぶたが腫れていた。

10時からボクのお葬式が始まった。ご住職がお経をあげ、後ろで母さん、お兄ちゃん、大好きなドッグランの社長さん・ママ・えりかちゃん、そしてこのボクが肩を落として座っていた。その時、ボクは、この場所だけじゃなく、日本中で誰かがボクのために祈ってくれているのを感じた。北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州オ-ストラリアとすべてのネット友達の祈りがこの場所に届いてきた。
 さっきのさくらパパ宅をのぞくと、パパが和室の仏壇の扉を開け、真面目な顔をして手を合わせていた。

ご住職のお話は、ボクには難しくってよく分からなかったけど、うちの2人の心には響いたみたいで、みんな鼻の先から涙が伝っていた。
葬儀が終わり、いよいよボクの身体は火葬にされることになった。

ああ、楽しかったなあ。戻れないんだなあ。そう思って振り返ると、お寺の入り口にさっきまではなかった立派な橋が空に向かって架かっているのが分かった。
 ボクは、橋を見た時、「ああ、これを渡らなくっちゃいけないんだな、もうここにいてはいけないんだな」ということが分かった。
 そして、ボクはその橋を全速力で渡っていった。

次頁





© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: