全12件 (12件中 1-12件目)
1
馬が好きです。数年前、競走馬の美しさに魅せられた私は、競馬中継を欠かさずチェックし、「サラブレ」を愛読し、府中に通い、ダビスタで並みいる男性共を蹴散らし(何)、深夜のコンビニで東スポを買っては、そこでバイトする先輩(男性)に、「女がそんなもん買うなー」とお叱りを受けていました。走る姿の美しさ、フォルムの優雅さ、レースの奥深さ、血統のロマン・・・。なのに、私の知人共ときたら、「ブラックは筋肉フェチだから、馬が好きなんだよー」などと下世話な事を言うので、許しがたい。(笑)馬を描くのはとても楽しいです。2年ほど前、山岸凉子の『妖精王』という漫画からインスピレーションを得た私は、「水棲馬」を主人公に物語を作ろうと思い立ちました。メインテーマは、「人間になる」。水棲馬にも種類があり、人を水に引き込むアッハ・イシュカ(イギリス本土)、さらに凶暴で人間や家畜を食べるケルピー(イギリス、マン島)などがいるそうです。「食人によって魔物(あるいは獣)が人間になる」というのは、神話や伝説によく見られるストーリーですが、水棲馬自体にそういった伝承があるかは未確認で、この話のために私が勝手に創作した部分です。そんなわけで、「人間になるため人を襲う馬」と、中世風の「ぱっつん騎士」(髪型が。実は『妖精王』の主人公が「ぱっつん」な少年なのです!)を描きたいという私の二大欲求を満たすために、落書き漫画を描いたのは1年ほど前。それを小説にしたのが、今回の「水棲馬」というお話です。「僕はただ・・・ただ君を抱きしめる腕が、欲しかった・・・」始めにこんなセリフが浮かび(これはラストで少し形を変え、アーテルのセリフにしました)、この1行を書くために、延々お話を紡いできたわけです。(汗)それでも「水棲馬」本編は400字の原稿用紙で42枚分・・・私にしては、かなりコンパクトにまとめる事ができたと思います。当初は、中世に生きるアーテルとクローネ、ランスしか考えていませんでしたが、楽天で発表するにあたり、イシュカ、ロマの二人を作って、彼らに伝説を語らせるオムニバスにしたら面白いかも~(根拠無し)と思い・・・アーテルの二面性(凶暴性と、無邪気な純粋さ)から「無邪気さ」だけを取り出して生まれたのが、イシュカです。結果的に、イシュカは読者様(特に女性v)のご支持を頂く人気者になってくれたようで、作者としては、有り難いことと感謝しております。さて、最後に人物について、コメントを少々・・・・。【アーテル】最初から「凶暴さ、残酷さ」は強調しようと思っていましたが、ここまで非道なことをするとは・・・(汗)。書いていて、自分が怖くなりました。すべてはクローネへの想いの強さゆえの行動ですが、最後まで人間とは相容れない存在の彼。許されぬ愛の切なさが表現できていればいいな~と思います。【クローネ】アーテルを愛しつつ、人間としての「正しさ」は決して忘れない女性。当初の予定では、アーテルを射た後、泉に身投げのはずだったのですが、あまりに悲惨&泉はそんなに深くないっぽい(笑)という理由で、東方に旅立つことになりました。【ランス】最初は完全な脇役のつもり(おかしな髪型が描きたかっただけ)でしたが、書き進める内に、「ランス好きだぁぁーー!!」という気持ちが沸騰してきました。なぜ?!アーテルさえいなければ、クローネとは良い夫婦になったと思われます。婚約者にはフラれる、腹心には死なれる、たぶんこの後マチウス公に怒られる・・・一番悲惨な人かも知れません。強く生きて下さい。。。【イアン】・・・・・・再起不能にして、ごめん。。。結構、好きでした。【イシュカ】お馬鹿ですね。お子様ですね。好きだ~!!ところで、何故彼はお馬鹿なのでしょう??一応、(馬の1年は人間の4年分だから)体は大きくなっても、心は修練の年数が足らず、子供っぽいんだ・・・みたいな理由を考えていたのですが、彼は彼として、本来的にお馬鹿なんじゃないかと・・・最近はそう思い始めました。【ロマちゃん】以前は夢想家のお父さんに、今はお子様イシュカに振り回され、苦労の耐えない人ですね。性格的に強く、我が道を行くタイプの少女らしいのですが・・・。泣く子には勝てない??さて、水棲馬のお話が終わっても、イシュカの物語はまだまだ続きます。次の伝説の舞台は日本。今回よりは、ずっと読後感の良いものになるはずです。(・・・・っと、その前に、『天黒』の第2部を進めないと・・・ですね。)ではでは、今後ともイシュカとロマちゃんを宜しくお願いします。
2005/10/13
コメント(4)
私はベッドの中で寝返りをうったり、時々イシュカの顔をのぞいたり・・・そんな事をしながら、結局最後まで、彼の語る哀しい伝説に聞き入ってしまった。「・・・・人と精霊の子・・・それって、もしかしてイシュカの・・・?」「うん・・・・僕の、ご先祖様。」イシュカが、水棲馬・・・人を食べる魔獣の末裔・・・・?思わず私は、恐ろしい想像をしてしまった。まさか、イシュカも・・・。「だからね、ロマちゃん。僕がこうして人間になる力を持ってるのは、僕に人の血が流れてるからだって・・・・おばあちゃん言ってた。」そ、そっか・・・良かった。イシュカは人を食べたり、そんな必要ないんだ。何だかよく分からないけど、とにかく私は、ほっとした。「ロマちゃん・・・・。」な、何・・・?突然、真顔のイシュカが、私にぐいと顔を近づけてきた。ちょこっと開いた口元に、ぎらりと犬歯が光る。よく見ると、頑丈そうな歯並びですね・・・・ってや、やっぱり喰われる?!必要じゃぁないけど、おやつです、みたいなっ?!「ま、待って、それは困るっ!!いやーーっ!!!」「ロ、ロマちゃん・・・ダメ?」ダメも何も、誰が率先してエサになりますかっ!!「でも、僕、ロマちゃんが好きだよ・・・。」いや、だからっ!好きで食うのは、人参だけにしてぇっっ!!!私の心の叫びを無視して、力いっぱい羽交い絞めしてくるイシュカ。もうだめだ、逃げられない!!「人間と精霊だって、幸せになれるよ・・・・!」・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・はい?「僕たちの愛の力で、種族の壁なんか、乗りこえられるよっ!」誰と誰の、愛ですと?しかし。そんな私のツッコミもかすむほど、今日のイシュカは真剣だった。「僕・・・僕、人間になれて、本当によかった。ロマちゃんのこと好きって、ちゃんと伝えられる・・・。」そう言うとイシュカは、はらはらと涙をこぼしていた。「・・・イシュカ・・・・。」そっとほっぺを撫でると、またぎゅうっと抱きしめられた。「好きだよ・・・大好きなんだよ、ねぇ、分かってくれてる・・・?」「・・・・・・うん・・・。」思わずそう答えた私のおでこに、イシュカは何度も口づけをした。柔らかい感触が、だんだんと降りてくる。私のまぶたに・・・ほほに・・・そして・・・・。あぁ、本当に・・・本当に不覚だけど私は、イシュカとキスしてもいいかなぁと思ってしまった。「ロマちゃん・・・。」彼の指が私の指に絡められ、唇が寄せられる。イシュカの息が、限りなく近く感じられる・・・。イシュカの香り・・・イシュカの・・・・・・・・・・「・・・・・むわぁぁぁっっっっ!!!!」 ドカッ!!!私は奇声を発して、無意識にイシュカを蹴り飛ばしていた。「に・・・・っ人参くさぁぁっ!!!」ゲー。思わずもよおす程の、すんごい人参臭。(失礼。)「あ、あんたねぇっ!チューするなら、歯ぐらい磨きなさいよねっ!最低っ!!最悪っ!!変態っ!!」期待をそがれ、ムキになって怒りまくる私の足元でイシュカは・・・こてん。ベッドの下に転げ落ちていた。その後、いそいそと歯磨きしてきたイシュカとキスなんて・・・当然するわけないっ。その日から、「人参は1日2本まで」、「食べたらすぐ歯磨き」が、我が家の鉄の掟になった。 最初のキス(未遂)は 人参のflavorがした ロマ。 <愛すべき魔性たち 第一話 水棲馬 完>
2005/10/12
コメント(6)
獲物を仕留める最後の力を加えようとしたアーテルの耳に、彼の名を呼ぶ声が届いた。「アーテル・・・!!」そこには、震える手で弓をつがえたクローネの姿があった。「その手を離しなさい!」渋々腕の力を緩めランスを解き放ったアーテルは、楽しみを奪われ、ふてくされている。その様子が、クローネに全てを知らしめた。「・・・あなただったのね・・・本当に・・・何てひどい事を!人を殺して食べるなんて・・・!!」「だって、クローネ、そうしなければ人間の体を手に入れられなかった。人間が家畜を食べるのと同じじゃないか。・・・・それにこれまで、ちゃんとクローネの大切な人達には手を出さなかったよ?」ランスさえ邪魔しなければ、すべて上手くいった。母親を味方につけようとする子供に似た瞳で、彼はクローネの理解を求める。「・・・分からない・・・あなたの言っている事・・・私は人だから、あなたのした事を許すなんて・・・出来ない!」クローネが弓矢を引き絞る。「だめだ・・・奴には、並みの武器では効かない・・・。」アーテルの足元に倒れ伏していたランスが、朦朧とした意識の中、かろうじて半身を起こし声を絞り出した。「クローネ・・・逃げるんだ・・・・っ。」ランスの懸命な訴えを、アーテルはうるさそうに冷笑した。「逃げる?逃げた方がいいのは、クローネじゃなく、あんただよ。今の内にね。」痛む右腕を押さえ、ランスがよろめきながら立ち上がる。彼は、アーテルに背を向けなかった。頼るべき剣は無い・・・だがアーテルの目から顔をそらさぬ彼の左手がゆっくりと動き、胸元の徽章に触れた。騎士である証。マチウス公の、そしてクローネの護り手である誇り。アーテルの中で、苛立ちが憎しみに変わった。「ランス・・・あんたを乗せたこともあったね・・・。あの時、川にでも引きずり込んでやればよかった。ただ人間だというだけで、クローネの側に居る資格を誇ろうというなら、思い違いだと知るがいい・・・・!」アーテルがクローネの顔を振り仰いだ。「動かないで・・・・!!」出会ったのは、クローネの決意に満ちたまなざし。青ざめてはいたが、彼女はアーテルの胸に狙いを定めた弓を離しはしなかった。「・・・クローネ・・・・・。」アーテルには、理解できなかった。「本気で、僕を・・・・射るつもり・・・・・?」何も間違ってはいないはずだった。彼女はランスよりも、自分を愛しているではないか。人間の体を手に入れた自分と、彼女は喜びを分かち合ったではないか。「人の武器では、あなたを傷つけられない・・・でも、今の私ならどうかしら。」彼女はランスを守って、自分を射ようというのか。つい昨日の夜、愛を囁いてくれた彼女が・・・!「妖精達が教えてくれたわ・・・私の中に、新しい命が宿っている。精霊と人の子・・・・私とあなたは、いま同じ世界にいるのだから・・・・私なら、あなたに触れられるのだから・・・・っ。」何事か言葉を発しようとしたアーテルに、彼女は言い放った。「さあ・・・二度と人に干渉しないか、この場で射殺されるか、選びなさい!!」「クローネ・・・・なぜ・・・・!」アーテルの絶望が瘴気の黒い渦を生み出し、周囲を呑み込んだ。渦は彼の側に立つランスを巻き込み、全身を蝕まれるような痛みにランスが呻きを上げる・・・・・その声にクローネは、つがえた弓を放っていた。クローネの矢は瘴気を薙ぎはらい、アーテルの心の臓を貫いた。その瞬間、アーテルの人型が解け、闇色の馬体が天を仰ぎ崩れ落ちた。すべてが一瞬の出来事であった。クローネの目に、矢を胸に受けて倒れた愛しい者の姿が映し出される。「アーテル・・・!!」呼び声に向けて立ち上がろうというのか、アーテルが前脚を力無く動かした。クローネが駆け寄って触れると、彼の想いが流れ込んでくる。生きる世界を共にするからこそ、感じ取れるようになったもの。アーテルの心にあるもの・・・それは怒りでも憎悪でもない、ただひたすらに深玄とした、哀しみであった。「どうして・・・どうして、逃げなかったの・・・・!」徐々に力を失っていく体を、彼女の涙が濡らした。苦しげにもたげた彼の首に、クローネはしがみついて泣いていた。「アーテル・・・アーテル・・・・私は・・・・っ」少しでも熱を引き留めたくて、彼女はアーテルの体に身を寄せ、唇を当てる。クローネの温もりを確かめて、アーテルの目が閉ざされた。 僕は、ただ欲しかった・・・ 君を呼ぶ声・・・ 君を抱きしめる腕・・・・アーテルの体が風に溶け去り、クローネのすすり泣く声だけが後に残された。やがて彼女がゆっくりと身を起こし、ランスの右手に触れると、アーテルに焼かれた痛みと傷が癒えていく。ランスは、彼女がもはや人の世界の住人ではないことを悟った。「クローネ・・・・」彼女の名を呼んだとき、二人の周りに光の雪が降りそそいだ。空を見上げたクローネに、天上から白い腕(かいな)が差しのべられる。「・・・・シルフィード・・・・・」風の精霊が、彼女をいざなう。 導きましょう クローネ・・・ あなたと精霊の子・・・遙か東 安息の地へ・・・クローネは、両腕を天に捧げた。「待って下さい、クローネ・・・!私は、あなたを・・・・っ!」刹那、目を開けることの出来ないほど吹き荒れた西風。再びランスが視界を取り戻したとき、そこには降り積もる光だけがあった。
2005/10/11
コメント(2)
水棲馬・・・アッハ・イシュカ・・・伝説に聞いた、人を殺める魔性。ランスが急ぎウィンダミアに馳せ参じたのは、翌日も午後を回ってからだった。主と認めた者には従順で、名馬ともなると・・・。アーテルも、それを追ったイアン達も、屋敷には戻らなかった。「クローネ・・・・!」ランスが部屋の片隅でうずくまる婚約者の姿を認めたとき、淡い光が彼女の周囲から飛散した気がした。血の気を失ったクローネは、抗う力もなく、易々とランスの腕に抱かれた。「クローネ・・・教えて下さい。アーテルは、どこに・・・?」ランスの問いかけに、クローネは選択を迫られていた。燦々(さんさん)と夏の陽光が降る泉のほとりで、彼は寝そべり、ころころと体を転がしている。下草の感触を楽しむようなその様子は、まるで子馬がじゃれているようだった。「アーテル・・・・だな。」ランスが近づいても、彼は我関せずといった風である。「イアン達を、どうした・・・。」アーテルは目を閉じてアザミの花を食(は)みながら答えた。「知らないよー。」一閃。ランスが抜きはなった剣を、アーテルは後方への跳躍でかわした。「手荒なことするなよ。この服、汚したくないんだ。」自慢げにチュニックの袖をはたいてみせるアーテルに向かって、ランスが剣を構え直す。「疑念・・・怖れ・・・焦燥、嫉妬・・・・。心から、ご同情申し上げるよ。」アーテルは憐憫の微笑みを浮かべた。「だから、あんたには何もしないつもりだった。婚約者に災いがあれば、優しいクローネがどれ程苦しむか・・・・。」ポタリ・・・ポタリ・・・ランスの背後に、足元に、赤い水滴がしたたる。「側に居られるなら、クローネが誰と結婚しても構わなかった。でもね・・・僕たちの仲を引き裂くのは、許せない。」アーテルが、前に足を踏み出した。その禍々(まがまが)しさに気圧(けお)され、ランスが片足を引く。「あんたは、二度も僕を殺そうとした・・・。これで、三度目だ!」アーテルの瞳だけがギロリと動き、上方を指し示す。視線の先をたどったランスの喉奥から、声にならぬ叫びが洩れた。頭上には鬱蒼と茂り風にそよぐ樹々、その枝という枝に無数の肉塊・・・。ひときわ強い東風が吹いて、雨のように血しぶきがランスの肌を打つ。枝に飾られた遺骸の一つが、鈍い音を立てて地表に墜ちた。「・・・っ、イアン・・・・イアン!!」食いちぎられた上半身がほとんど原形も留めていない中、苦悶に歪む顔だけが無傷で残されたのは、ランスへの見せしめか。「おのれ、魔物め・・・・!!」怒りに駆られたランスの剣が、アーテルの喉を精確に貫いた。しかしアーテルの口もとには笑みが張り付いたまま。ランスの手がひどい熱で焼け、剣が飴細工のようにどろりと溶け落ちていく。「そんなもので、傷つけられるとでも・・・?」アーテルの腕が静かにランスの首へと伸び、締め上げていく。男が口中で唱える祈りに、魔性の無情な宣告が下された。「無駄だよ。人間の神の支配など、受けない。」ランスの首が、音を立てて軋(きし)み始めた。
2005/10/10
コメント(3)
「姫様・・・クローネ様・・・?」乳母のマルゴーが、クローネの部屋の扉を叩いた。この屋敷に移って、はや十日余り。クローネは日を追うごとに口数が減り、この2、3日は、とうとう昼も夜も自室に籠もったきりだ。今日も軽い夕食をとった後は、余人が話しかける隙も与えず、部屋に戻ってしまった。ノックの音に、クローネが扉を開け、顔半分だけ覗かせた。「クローネ様、どこかお加減でも・・・」「マルゴー、お願い、そっとしておいて。」クローネは、乳母の言葉をさえぎった。「この屋敷にいる間だけは、我が侭をきいて頂戴。私は大丈夫だから・・・。」扉が、再び閉ざされる。彼女の瞳に、何か青みがかった影を見た気がして、マルゴーは不安を募らせた。(ひょっとして、ここからなら・・・。)年老いた乳母は、侍女達の伝統的手法を駆使することにした。鍵穴に当てた目をこらして部屋の様子をうかがったマルゴー。だが次の瞬間、彼女は短い悲鳴をあげて、尻もちをついていた。「ひっ・・・・・!」正面にすえられた幅広の寝台の上で、クローネが男と睦み合っている。いや、それは男と言えるだろうか?半人半馬・・・ケンタウルスより余程おぞましい、脚だけではない、その頭部は完全に馬のそれであった。(あぁ・・・っ、姫様が、魔物に魅入られてしまった・・・・!)マルゴーは腰を抜かして立ち上がることも出来ず、じりじりと這って後ずさりしたが、数歩も進まぬうちに背に固い物が当たり、彼女はひやりとした。「マルゴー殿・・・!」イアンが、彼女の異様な有り様に怪訝な顔をして立っていた。「一体、どうなさった・・・・クローネ様に何が・・・?!」反射的に、マルゴーは首を横に振った。何故ここにイアンが居るのかは知らないが、とにかく彼はランスの部下なのだ。この事がランスに知れれば、婚約破棄に成りかねぬではないか!しかし、イアンは引き下がるはずもない。「ランス殿は、何もかも察しておられる!つつみ隠さず、申されよ!!」「クローネ・・・クローネ・・・・」アーテルが、彼女の名を幾度も呼ぶ。昂(たかぶ)りが醒め、人心地つくと、解けかけていた姿を取り戻すこともできた。だが、まだどことなく具合がおかしいようで、アーテルは、はみ出た尾の辺りをしきりと気にしている。「しっぽ・・・・また出てる。」クローネが、いたずらっぽく笑って、彼の尾を指先で弄んだ。「ん・・・まだ、完全じゃないんだ。」アーテルはクローネを一度優しく抱きしめると、立ち上がって窓辺に向かった。「少し外に出て、霊気を集めてくる。」「あ・・・待って、アーテル。これを着ていって!」クローネが手渡したのは、丈の長いチュニックだった。「あなたのために、縫ったの・・・。」アーテルは目を丸くして、衣を広げたり、明かりにかざしてみたりする。いつまでも遊んでいるので、クローネが着替えを手伝ってやらねばならなかった。鏡で自分の姿を確認したアーテルは、声を弾ませて言う。「嬉しいよ、クローネ・・・!僕、どんどん人間らしくなるね!」こんな時のアーテルは、本当に子供のようだとクローネは思う。彼の無邪気さに触れるとき、クローネも己を開放できるのだ。クローネの唇が、そっとアーテルに重ねられる。二人は大鏡に映る、愛し合う自分たちを見た。アーテルが窓の外へ姿を消したのと、クローネの部屋の扉が激しく鳴ったのは、ほぼ同時であった。だが今度は、主人の許可無く扉がうち破られた。部屋になだれ込んできたのは、乳母と屋敷の下男、そしてイアンほか数名の騎士達である。イアンは目当ての姿が見えないことに気づくと、窓から外を見やり、すぐさま部屋を飛び出していった。「姫様、お許し下さい・・・魔物からお守りするには、こうするしかっ。あの凶馬は、イアン殿が始末して下さいます!」クローネにすがるマルゴーの様子も、この突然の状況も、彼女は理解できずにいた。魔物とは、アーテルのことを言っているのか?ならば、始末とは・・・・?「姫様は、騙されておいでなのです!あれは、生きた人間を水に引きずり込んで喰らう魔性のもの・・・兵の死体を喰らい、馬盗人を殺し、この屋敷の周りでも子供達が行方知れずに・・・っ。」アーテルが人を襲う・・・そんなはずが無い。あの優しげで、純真なアーテルが・・・そう否定しようとした彼女へ、マルゴーが涙ながらに訴える。「あれは・・・あれは、魔獣アッハ・イシュカ・・・・!」乳母の告げる言葉が、クローネの意識の遠くで乾いた響きをたてた。
2005/10/09
コメント(0)
その夜、クローネは煌々と照る月明かりの下で、姿を消したアーテルを探した。誰もが呼吸さえ忘れたように寝入る晩に、なぜ彼女はひとり馬など探すのか?クローネ自身にも、はきとした理由など分からない。ただ心に浮かんだ考えが、彼女を虜にして放さないのだ。アーテルのもとへ行かなければ・・・・。夜着のまま屋敷を飛び出し、森を彷徨い、あの泉に行き着いた。とうとうと澄んだ水面は、今宵あまりに静かであった。かすかな生き物の気配すらない。恐ろしいほどの沈黙の闇。だが、彼女は待った。泉の奥底から徐々にわき上がる気泡。そしてクローネは、「彼」が生まれ出るのを見た。ザ・・・・ッという水しぶきと共に、月光のもとへ「彼」の肢体が、のびやかに現出した。黒曜石の輝きを放つ瞳と髪。たくましく、しなやかな両の腕。いまだ焦点の定まらぬ様子で、しばらく外界の空気にその身をさらしていた男は、己に注がれるまなざしに応えた。「ク・・・ローネ・・・・」優雅な曲線を描いて、彼の手が差しのべられる。「クローネ・・・・」衣が濡れるのも構わず、クローネは無意識の内に、泉の中ほどへ歩み入っていた。男は彼女の頬へ手を延ばし、そっと触れてから、愛おしむように顔をこすりつける。「・・・・・アーテル・・・・・。」アーテルは彼女の瞳を見つめて、至福の笑みを浮かべた。「やっと、手に入れた・・・・。人間の声・・・人間の腕・・・。」たゆたう泉のほとりで、二人は初めて愛を交わした。アーテルは、彼女の唇にわずかに触れるような口づけをして、微笑む。「人間の愛し方は、とても優しい・・・・。」クローネは、そんなアーテルの髪を幾度もなでた。彼は、満たされたように瞳を閉じて、クローネの愛撫を受ける。「好きだよ、クローネ・・・・。このまま一緒に、森で暮らそう?」クローネの奥底に、恋しさゆえの寂寥がうずいた。「・・・アーテル・・・それは無理よ。私には、立場があるの・・・。」「タチバ・・・・?分からない。」彼は悲しげに首をかしげ、クローネを見つめる。「精霊は、想いの強さの方が大事だ。」「アーテル・・・・・。」彼女は、恋人の胸に身をうずめ、強く抱きしめた。「私に会いに来て・・・。明日も。あさっても。あなたのために、私の部屋の窓を開けておくわ。」「・・・会いに行くよ。クローネが望むなら、必ず・・・・。」二人の約束を、妖精達が聞きとどけた。
2005/10/06
コメント(0)
「だめです。毒の入った餌だけは、全く口をつけず・・・。」城内の一室で、ランスはヨアンの報告を受けていた。彼は部下に命じ、秘かにアーテルを始末するつもりであった。「やはり・・・直接手を下すしかないか。」それは、出来ることなら避けたい事態であった。クローネだけでなくマチウス公本人も、アーテルのことは、ことのほか可愛がっている。怪しまれるような死なせ方をすれば、大事になりかねない。しかし、イアンは一つの朗報をもたらした。「明後日から半月ほど、クローネ様は数名の供回りのみで、ウィンダミア湖畔の別邸へ避暑にお出かけになりますが、その折、アーテルも共に連れて行くようです。」「まことか!ならば、公の目の届かぬが好都合。この機会を逸してはならぬ。」ランスの心は急(せ)いていた。早く手を打たねば、クローネに不吉なことが起こる・・・そんな予感がしてならない。だが、この好機に、彼自身はマチウス公の所用で、ウィンダミアへ参じることは出来ぬのである。「イアン・・・どうか私に代わり、クローネ様を見守って欲しい。半月の内に、必ず時間を作って私もウィンダミアへ行こう。早まった事はするなよ。私が着くのを待って、行動を起こすのだ。」「御意・・・。クローネ様の御身は、私が必ず・・・。」かくして、クローネ達がウィンダミア湖へ出立すると同時に、イアンを筆頭に同じくランス配下の若い騎士数名が、秘かにクローネの向かう別邸を目指し、城を離れたのである。クローネが別邸に移って初めの数日は、何事もなく過ぎた。否、イアン達にとっては、というのが正確であろう。ここに二人の幼い兄弟がいた。ウィンダミアの村に住む兄弟は、その日の夕刻、逢魔が時に、湖畔に広がる鬱蒼とした森の奥の、小さな泉に来ていた。この泉ならば、湖よりも澄んだ清水が得られる。通い慣れた泉に、その日ばかりは見知らぬ美しきものを見つけ、二人は息をのんだ。ひたひたと水をたたえる泉の中央に、肩まで水に浸かった闇色の馬が、ゆっくりと尾を動かしていた。「兄ちゃん、あれ・・・・・っ。」「・・・近くのお屋敷に、お姫様が来てるんだって。きっと、お城の馬だ。」「・・・・きれいだな~・・・・。」少年達は、なぜかそれ以上近づくことがためらわれ、茂みの蔭から、だが吸い付けられる様にして、それから生じた幻想的な光景を見つめていた。馬が虚空に向け一声いななくと、その周囲にぼんやりとした光が集まり、漂い始める。目を凝らせば、光は羽を持って飛び回る精霊達であった。「フェアリー・・・・?」泉に木霊(こだま)する、さわさわとした、ざわめき。やがてフェアリー達は兄弟のもとにまでやって来て、二人をいざなう。 おいで おいで 子供たち まだ 足らないの あと 少しなの二人の兄弟は、その声に導かれ、水面(みなも)へと歩み始める。中心には漆黒のアーテル。周囲から同心円状に広がる波紋。とぷん子供達は泉に沈み、二度と浮かび上がりはしなかった。
2005/10/05
コメント(4)
「なんたる不始末!なんたる怠慢!」騎士ランスは激怒し、馬丁たちを激しく叱りとばした。昨夜、城に忍び込んだ馬盗人が、アーテル始め十数頭を連れ去ろうとしたのである。責任を厳しく追及すると言うランスを、クローネはなだめた。「ランス殿、幸い馬たちは無事に戻ってきたのですし・・・。」「だが・・・。」「アーテル、可哀想に、怖かったでしょう?でも、もう大丈夫。」クローネが傍らのアーテルの額に触れると、この賢い目をした軍馬は、彼女の頬に顔をすり寄せた。「・・・・それで、犯人は捕らえてあるのだろうな。」ランスの問いに、彼の腹心であるイアンが畏まって答える。「はっ。それが、逃亡中に狼にでも襲われたようで・・・川べりに食い荒らされた死体が。」イアンの案内で盗人のなれの果てを確認しに来たランスは、その異様な光景に、思わず眉間にしわをよせた。(これが、狼の仕業だと・・・?)死体は奇怪に折れ曲がり、あらぬ形で無残な姿をさらしていた。所々、真白い骨が砕けて顔を覗かせている。死体を片づけようとする下人達を制止して、ランスは全員を100ヤード(約91メートル)ほど下がらせた。「・・・・見よ・・・死肉をあさる鳥どもが、近づきもしない。」確かにランスの言うとおり、人間がかなりの距離をとったにも係わらず、鳥たちは屍の上高くを旋回するばかりである。彼らでさえ、近づきがたい「何か」があるのか。ランスは、不気味な魔の影を感じ、そのまま人々を城へ帰還させた。彼らが戻ると、城壁近くで金色の乙女が、ヒースの海を駆けていた。「おいで、アーテル!若草が繁っているわ!」彼女の後を、跳ね回るようにして漆黒のアーテルが追いかける。「不思議な馬ですな。」イアンが目を細めて、微笑んだ。「手綱を付けずとも、ああして行くべき場所を心得ている。」「あぁ・・・賢いのだよ。」自分の言葉に、一瞬ランスは懐疑を覚えた。賢い・・・ただ、それだけならよいが。正体の知れぬ焦燥に駆られ、ランスは翌日、恋い慕う婚約者を、城外を見下ろす丘に連れ出した。丘の頂きにそびえる大木の下で、ランスはクローネを抱きしめ、唇を奪った。「・・・・・ランス殿・・・貴方らしくもない・・・。」クローネの視線と言葉が、宙をさまよう。「クローネ・・・あなたの心を確かめたい。本当に、私との婚約に悔いがないなら・・・・。」ランスの指が、彼女の肩から胸元へと降りる。クローネは刹那、天を仰ぎ息を吐いたが、すぐにランスから体を引き離し、背を向けた。「おやめ下さい。確かめるなどと・・・。」彼女は一息に言葉を続けた。「あなたはこの国の英雄で、兄上の最も信頼篤き御方。皆が私達の婚礼を望んでいるのです。もちろん、この私も・・・・。」騎士は彼女の後ろ姿に、予感的な遠さを感じた。「・・・・つまり、私への愛ゆえではないと・・・・。」「ランス・・・!」彼女の声に感応するように、ランスの背後から射るような鋭い視線が投げかけられた。ランスの首筋に、怖気(おぞけ)が走る。いつやって来たのか、彼の真後ろに、アーテルの冷たい瞳が在った。それはまさに「視線」、明確な意志を宿した「まなざし」だったのだ。後方からの威圧に屈するように、ランスは跪いた。「・・・クローネ・・・言葉が過ぎました。どうか、お許しを・・・。」クローネは、ランスの前に自らの右手を差し出した。その手に、恭順な口づけをしながら、ランスは確信した。人を喰らう馬の噂と気のふれた兵士、殺された馬盗人・・・彼の背後の「もの」こそ、この怪異の根源、「魔性のもの」であると。
2005/10/04
コメント(2)
<水棲馬>「お兄さま・・・!!」クローネは、待ちわびた光景に、陽に映える金髪と長い衣の裾をはためかせながら、城壁から下る階段を一気に駆けおりた。12世紀のイングランド、北部の湖水地方。この地を治める領主、マチウス公の軍勢が帰還する様が、城壁の上からはっきりと見てとれた。その夜は、戦勝の祝宴が城の庭で開かれ、男達は手柄話に花を咲かせていた。「やはり、公の武勇なくして、今度の勝利はございませんでしたなぁ。」「そうそう、指揮官御みずから敵陣に切り込み、首級を幾つあげたことか。」重臣達が褒めそやす中、マチウスは破顔して、こう答えた。「なに、すべてはあのアーテルのおかげ。敵の剣にも弓にも臆さず、屍踏み越えて駆ける。あれ程の軍馬は、そうは見つからぬというものだ。」マチウス公の愛馬、アーテルは、宴から少し離れた場所に繋がれ、一番上等な麦をはんでいた。「アーテル・・・。」名を呼ばれ、馬の耳がピクリと動く。「いつも、お兄さまを守ってくれてありがとう。戦場は恐ろしかったでしょう?怪我はなかった?」マチウス公の妹、クローネは、馬の首や背を撫でて労をねぎらった。全身が漆黒の美しい馬体。ただ額にのみ、乳を流したような流星紋。アーテルは、クローネの体に鼻をこすりつけて甘えた。「クローネ様・・・こちらにおいででしたか。」張りのある若い男の声に、クローネは振り向かずとも、それが誰か分かった。「ランス殿・・・・。」クローネの婚約者であり、マチウス公が最も重用する騎士、ランスである。「ここは冷えます。さぁ、宴に戻りましょう。」ランスがクローネの背に手を回し、連れだって立ち去るのを、アーテルが、まばたきもせず見つめていた。「なぁ・・・俺、おかしな話を聞いたんだ。」宴席の隅で、一人の兵士が、やや青ざめて呟いた。「どうもさ、ジェロームのやつ、気がふれちまったらしい。」「・・・?そういや、見かけないな。でも、何かあったのか?」答える兵士の声は一層低くなり、ほとんどかすれて聞こえなかった。「戦場で、敵の屍を・・・馬が、むさぼり喰ってたって・・・ずっと、うなされたように、言い続けてるんだと。」それからしばらくの後、月も隠れた闇夜の晩に、河原で何か巨大な生物が獲物を引きずり込むような水音と、くぐもった断末魔の叫びが聞こえていた。肉のちぎれる音。巨大な臼が関節を砕くような音。やがて悲鳴は、水底に沈んだ。___________________________________________________________________*作者のコメントイシュカが語り継ぐ魔性の伝説。第一話は<水棲馬>・・・ちょっと怪奇風になりますが、力入れずお読み下さい。(作者も脱力して、いえ、余分な力を抜いて書いてます。)ちなみにアーテルはater、ラテン語で黒。クロちゃん、ですね。(微笑)
2005/10/03
コメント(0)
ともかく、そんな感じで私とイシュカの、「一つ屋根の下」生活は始まった。暮らしてみると、この人・・・いや、この馬は、とにかく変わり者だった。バランスが悪い。見た目と中身が、アンバランス過ぎる。外見は、18くらいの好青年。なのに精神の方は、小学生並み。そ、そりゃぁ、可愛いなぁって思って、うっかり撫でぐりしちゃう時もあるけど・・・・・・。でもねっ、ちょっと放っておくと物は壊す、部屋は散らかす、芝生は喰う・・・。おまけに淋しがり屋で、無視すりゃ、ぐずる、すねる。まるでお子様。ただでさえ、生活厳しいのに、とんでもない厄介者。こんな事なら、一人の方がずっと楽だった。その日、夜も10時を過ぎて、私はベッドの中で宿題をしていた。コリコリコリコリコリ。。。。。。今夜も、部屋に響き渡る怪音。「ちょっと!イシュカ、うるさいっ!!」「んん?」「その人参、何本目よっ。夜食は2本までって、約束でしょ!!」「で、でもね・・・・今日の、特別甘くて美味しいの。これからもヘンダースさん家の、買おうねっ。」がぁっ。馬族のイシュカにとって、人参は人間でいうプリン的位置づけらしい。「ロマちゃん、明日は学校?」「うん、ボランティアあるから、ちょっと遅くなる。」「なるべく早く、帰ってきてね。」なんだか新婚夫婦めいた(男女逆の)会話をしている私は、こう見えても花の女子高生。お父さんが入ってくれてた保険のおかげで、今はなんとか食べていけてる。シェフィールドに住む叔母さんが、私を引き取ってくれると言ったけれど、私は生まれ育ったこの街を離れたくなかった。アンブルサイド・・・。私の故郷。湖沼地帯の、美しい小さな水の街。私が生きてきて、これからも生きていきたいと思う・・・・一人でも・・・・きっと大丈夫・・・・・生きていける・・・・・・・・「よっと。」人がせっかく美しく物思いにふけってる時に、この空気の読めないバカ馬が、無理矢理ベッドにもぐり込んできた。おまけに、私の頭をなでなでしてる。「何よぅ・・・。」「ん、今ちょっと、こうしてあげたいなって思って。」小さな子を慈しむような、優しい目。「・・・・・・・っ。」くやしいけど、なぜか涙がにじんだ。「ロマちゃん・・・一人じゃないよ。」「・・・うん・・・。」抱きしめてくるイシュカの腕が頼もしく感じられるのは、きっと錯覚。「イシュカ・・・・。」一人じゃないね、少なくとも今は、イシュカのぬくもりが、たまらなく嬉しい。お馬鹿だけど、お子様だけど、でも・・・・・。私はベッドの中でお布団掛けて、しばらくぼうっとイシュカの事を考えていた。気づいてみたら、私は彼の事を、ほとんど知らない。どこで生まれて、お父さんに拾われる前どんな生活をしていたのか・・・イシュカは自分のことを、あまり話したがらないから。イシュカがいっつも、私の事ばかり気にしてくれるから・・・。「・・・ねぇ、イシュカは家族とか仲間とか、いるの?」ひょっとして、彼も独りぼっちなんだろうか。彼は、少し眠たげに目をパチパチさせて、答えた。「う~ん・・・仲間は、今ではすごく少ないかな。僕が生まれたのは、ずっとずっと東の方だけど、他の仲間やご先祖様は、この辺りに棲んでたみたい。」「棲んで?」何だか、不穏な漢字変換。怪しい。その夜、イシュカは私に一つの伝説を語り始めた・・・・・。 <水棲馬>に続く。
2005/10/02
コメント(0)
「・・・・・で、あなたが子馬のイシュカだと、そう主張するワケね。」「シュチョウとかじゃなくて、そうなんだよ。信じてくれないの?」イシュカを名乗る男は、そう言うと、本気で目に涙を溜めていた。確かに馬屋を見ると、イシュカはいない。と、いうことは・・・ということはっ!「あんた、うちのイシュカを勝手に逃がしちゃったんでしょう!あんな駄馬だって、売れば多少のタシになったのにっ!!」「ひ・・・ひどい・・・・!!」なによ、そのマジで傷ついたような顔。「可哀想に・・・っ、ロマちゃん、お父さんが亡くなって、すっかり現実にスレてしまったんだね!でもね、僕たちの世界では、ヒネた子馬は、(飼い葉の)もらいが少ないって言うよ。世の中、もっと優しい心で信じ合って生きないと、結局幸せになれないんだよ?」・・・・変質者に憐れまれた!!「あぁ、もうラチがあかないッ。あんたがイシュカなら、証明して見せてよ。この場でパパッと、馬に変身すれば納得するわよ!」「それは・・・僕は、そんな霊力が強くないから、思い通りに変化(へんげ)なんてできないよ・・・。」ほらね。「・・・・ロマちゃん、僕たちあんなに仲良しだったのに、分からないの?つい2週間前、一緒にノースパークに行って、遊んだじゃない・・・。ロマちゃんは4つ葉のクローバーを見つけて、僕に食べさせてくれた・・・。」・ ・・・・・・・。・ ・・・なんで、そんな事・・・・知ってるのよ・・・。「僕・・・僕、せっかく人間になれたのに・・・なのに、こんな・・・・」ボロボロと、空色の瞳から大粒の涙を流す、自称イシュカ。なんだか、私の方が悪いみたいじゃないのよ・・・・。「・・・・あのね・・・。百歩譲って、本当にイシュカだとして。これまで全然話せなかったのに、何でいきなり人間になれちゃうの?まさか<アルプス天然水>のせい??」「ううん。それは関係ない。」グッバイ、お父さんの努力。「あのね、ぼく今まで、本気で人間になりたいって思わなかった。」イシュカは、じぃっと私の目を見つめた。吸い込まれそうな、とてもキレイな黒目がち(いや、青目がち?)な瞳。こういう目をした動物は、素直なのが多いのよね。「お父さんが亡くなって、ロマちゃんが一人ぼっちで・・・泣いていて。初めて思ったんだ。人間になりたい。人間になって・・・ロマちゃんが寂しくないように、慰めてあげたいって・・・。強く強く、そう思ったんだ。」ふむ・・・。それはどうも。「側にいて、お話しして、一緒に遊んだりして・・・・」うんうん。「お散歩して・・・デートして・・・・・時々、×××したりして・・・・」ちょっと待て!!最後のは何よ、最後のはっ!!!「ね!素敵だと思うよね!僕、ずっとロマちゃんと一緒にいてあげる!!」私の気持ちは無視ですか?
2005/10/01
コメント(0)
「あん・・・ロマちゃんっ・・・・気持ちいい~~。」そんな甘えた声で、体を少し揺らしながら、彼はベッドの上で満足そうに目を閉じている。私は彼の髪を、丁寧にブラッシングしている。金色でサラサラの綺麗な髪。でも・・・。「・・・・イシュカ、あのね。」「なぁに?ロマちゃん。」「しっぽ、出てる。」「!!」彼は真っ赤になって、パッとお尻に手をあて、ごにょごにょした。お尻からはみ出ていた「しっぽ」は、何とか消えたみたい。どうやったんだろう?イシュカはまだ赤い顔で、きまりが悪そうに私の顔をうかがっている。「それって、恥ずかしいことなの?」「えと・・・・・・気持ちいいとね、出ちゃうの・・・・しっぽ。」“しっぽ”は消えたけど、今度は子犬みたいなベロがはみ出た。しかも、ちょっと上目づかい+ほんのり潤んだ瞳。くぅぅ!犯罪的に可愛い!!「も~~しっぽでもツノでも、はみ出ていいのに~~☆」「ツノは、ないよぅ。」私は不覚にも、彼を抱きしめて頭をぐりぐり撫でてしまった。彼が「くふん」と小さくのどを鳴らした。私の家は、イギリスの片田舎。彼が我が家へやってきたのは、2年前。職業:夢想家、趣味:妄想な、私のお父さんに連れられて・・・「いいかぁ、ロマ!!この世に何頭、馬がいると思う?!年に何十万・・・いや、何百万って、生まれ続けてるんだぞ!!」はぁ・・・。「って事はだ!!その中に一頭ぐらい、言葉を話す馬だっているはずだ!!」いや、そこは飛躍しすぎでしょう。「そこで、特別に譲り受けたのが、こいつだ!!!」・ ・・・・つまり、またダマされて買っちゃったのね・・・・。何の変哲もない、敢えて言えば毛づやが少しいいかな位の、見た目フツウな子馬の名前は「イシュカ」に決まった。で。もちろん・・・・・お父さんが大枚ハタいて買った「話す子馬」は寡黙な奴だった。「・・・しゃべらんな~~。」当然です。「でもな、霊気が足らないと口が利けないって、あの婆さんも言ってたし。」そう言うと、お父さんは突然ペットボトルを取り出した。ぐびぐび。。。「・・・ちょっと!子馬に"アルカリイオン水"飲ませてどうするのよ!!」「違う!スイスの"アルプス天然水"だ!なんかこう、霊気がこもってそうじゃないか。わっはっは。」ついていけない・・・・。がっくり。そんなお父さんが飛行機事故で亡くなったのが、1年前。どうしようもない人だったけど・・・私のたった一人の家族だった。子馬に毎日「アルプス天然水」飲ませたりして、ほんと馬鹿な人だったけど。・ ・・・・・・・。お葬式が済んで、人気のない広い家に、たった一人。毎日リビングで、寂しくてテレビつけて、むなしくて、泣いていた。そうしたら、ある日突然、背後に気配がして・・・「ロマ・・・・ロマちゃん・・・・。」後ろから抱きしめられた。「泣かないで・・・・。」ぎょぎょ!!若い男の手!!!「は・・・っ、離して、この変質者っ!不法侵入!!婦女暴行!!!」「ロマちゃん、僕だよ?」私の顔をぐいと持ち上げ、のぞき込む男。「・・・・どちら様?」年は18くらい。金髪に、淡い空色の瞳。変質者のくせに、かっこいい。ちょっとむかついた。「分からないの?イシュカだよ!」・ ・・・・!!変質者な上に、妄想狂だわ、こいつ!それとも、若いくせに現実と向き合えない、虚言癖かしら?!「何言ってんの!イシュカは、うちの子馬の名前!!」「だから~。お父さんが言ったでしょ。話す子馬だって。」絶句。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~*作者よりお知らせにも書きましたが、穴埋め企画の小説です。これからしばらく、お付き合い下さいませ。なお、明日(金)は物理的に更新不可能のため、続きは土曜に掲載予定です。では、どうぞイシュカとロマのことも、宜しくお願いいたします。(ぺこり)
2005/09/29
コメント(8)
全12件 (12件中 1-12件目)
1