BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

妖精の少女と少年 


『妖精の少女と少年』 act.1






小説の原案をショートショート風に書いた物です。








 とてもかわいい少女がいました。
髪の毛は美しい銀髪。やさしく、大人しい性格。歳は10歳程度。
そして……、その少女は背中に”あこや貝”ぐらい大きさの羽を持っていました。


 ここは天上界。
その少女は”妖精”でした。
妖精がこの世界に生まれでた理由は”人を幸せにするため”。

でも、この少女はまだ1人前の妖精ではありません。そうなる為の学校に行っていたところです。
そして、卒業式を目前に控えていましたが……、卒業する条件はまだ満たしていませんでした。仲間の妖精達はとっくにその条件を満たしていると言うのに……。
このままでは卒業できません。人間の通う学校と違って、次の卒業式までは後4年もあるのです。そんなに待ってはいられません。
卒業課題の条件は”不幸な人を幸福にする事”。それもたった1人を幸福にすればそれで良いのです……。

 しかし……、少女の周りには不幸な人は誰もいませんでした。
ここは天上界。光あふれる世界。不幸な人など滅多にいません。
少女のクラスメートの妖精達は早くから不幸な人に目を付け、コッソリとその人を幸福にしてきました。そのクラスメート達は運良く不幸な人を見つけても、その事を他人に喋ったりしません。そんな事をすれば、自分が卒業できなくなってしまいます。
でもこの妖精の少女は、自分がせっかく見つけた”不幸な人”の事をついクラスメートに喋ってしまうのです。クラスメートを心から信用していましたので。それで、不幸な人をたびたびクラスメートに”横取り”されていました。
また、同じ学年の妖精の中には、禁止されている魔法を使って幸福な人をわざと不幸にし、その後に自分でまた幸福になる魔法をかけて……、それで卒業資格をもらっていたのです。
その妖精の少女には、そういった要領の良さはありません。彼女は本当に心が綺麗で、ずるい事ができなかったのです。


 でも、このままでは卒業は……。
少女は仕方が無いので妖精学校の先生に相談しました。
すると先生は、「それならば、”人間界”に降りて、そこで不幸な人を見つけてその人を幸福にしなさい。」とおっしゃいました。
「あそこなら不幸な人間は大勢います。すぐに見つかるでしょう。
ただし、幸福にする人は”1人のみ”に限定します。それ以上は幸福にしてはいけません。人間界のバランスが崩れてしまいますから。
いいですか?人間界に行くのは”特例”ですから、このお約束を厳守しなくてはなりません!」

妖精の少女は注意事項を絶対に守る事を先生に約束しました。

「また、1人の人を幸福にすると決めたら、その人が幸福になり切らない内は、途中で他の人に移ってはいけません。
決めたら最後までやり通すのです!これも卒業資格修得の為の必要条件です。分かりましたね!」

少女は大きくうなづきました。





『妖精の少女と少年』 act.2


こうして妖精の少女は人間界に降りて来ました。
先生にかけてもらった魔法により、見た目は人間の少女にそっくりになっていました。これなら誰も妖精とは気付きません。

人間界の景色は天上界の光あふれる世界とは違い、なぜかどんよりとした色合いでした。それに街の中心部は常にひどく汚れた空気にさらされていました。
そこのビルに設置されてある街頭の大型テレビには、犯罪の凶悪化や自殺者の増加といったニュースがたえず流れていました。
また道路には車がびっしりと隙間無く存在し、忙しそうに行き来していました。あまりの交通量に、見ていて危なっかしくてしかたがありません。割り込みをする車も多いです。妖精の少女は今にも事故が起こらないかと心配でなりませんでした。

しかし、その心配はすぐに現実のものとなりました。目の前で大型バス同士が衝突する事故が起きたのです。バスのドライバーや乗客の多くが一瞬の内に亡くなったようです。
妖精の少女はショックのあまりその場に立ち尽くしてしまいました。
事故を見ようとヤジ馬達が集まり、その後すぐ何台ものパトカーで警官達がやって来ました。
たくさんの救急車もその後に続きました。遺体は収容され、その救急車で運ばれて行きました。
天上界とはあまりにも違うショッキングな世界です。
事故処理が済むまで妖精の少女はそこに立って現場を見ていましたが……、その後、人間界の事をまだよく知らないので、勉強の為にこっそり救急車に付いて行く事にしました。自分の姿を人間の目には見えなくする魔法をかけて。



 少女はすごいスピードで空を飛んで1台の救急車を追いかけました。
救急車が着いた先の病院では遺族達が呼ばれ、遺体と悲しみの対面をしました。大勢の人が泣いていました。妖精の少女はそのかたわらでじっとその様子を見つめていました。
その遺族達が家に帰ると、少女は今度はパトカーについて警察署まで行きました。そこには事故を起こしたバスの会社社長が呼ばれていました。
その社長は刑事に「この事故により、会社は信用を無くしてしまったので、恐らく近い内に倒産するだろう……」と話していました。
そうした中、警察に呼ばれて来ていたバスのドライバーの奥さんが、警察署の屋上から飛び降り自殺してしまったのです……。

なんという不幸の連続でしょう!これほどの不幸は、例えこの少女が正規の妖精であったとしても、もはや手に負えるものではありません。

でも、その内の1人なら……、1人だけなら、何とか今の自分の力で幸福に出来るかも知れません。それにそうしないと、自分は学校を卒業できません。
今回たくさんの”不幸になった人”が出ましたが、少女は1人だけを選んで幸福にしようと決意しました。





 その1人を誰にしようか考えていた時、廊下の先で1人の不幸そうな女性が泣いているのを見つけました。飛び降り自殺した女性の妹さんらしいです。さっそく少女は羽を羽ばたかせ、空中を飛んでその人の所に行こうとしました。
でもその時、後ろから自分の肩を誰かにつかまれました。
確か自分は”人の目に映らない魔法”をかけていたはず。でもまだ未熟な自分の腕前では、かかっていた魔法は時間が経って自然に消滅したという事でしょうか……?だから誰かに見つかって……。
そう思いながら振り返ると、そこに一人の少年が立っていました。

少年は「君、僕を幸福にしてよ。僕は不幸なんだ」と言いました。

少女は飛ぶのを止めて、いったん地上に足を着けました。

「まあ、貴方は不幸なのですか?」

「とても不幸だよ。仕事がいっつも上手くいかないんだ」

「どのような仕事をされているのですか?」

「……口じゃうまく言えないな。僕について来てよ。見せてあげるから……」

そう言うと、少年は少女の手を引っぱって、外に連れ出しました。





『妖精の少女と少年』 act.3



少年は少女を連れたまま、いろんな所を見て歩きました。それはたいていは信号機のある交差点で、車の交通量の非常に多い場所でした。
ある交差点に着いた時、少年はそこのガードレールにちょこんと腰掛けました。そして何かを待っているように交差点の真ん中辺りをじっと見つめていました。
少女の方は、”自分の姿が人の目に映らない魔法”をかけていますが……、少年はこんな所に腰掛けていても大丈夫でしょうか?子供が腰掛けるにはとても危険な場所です。でも幸い誰も少年に注意する事はありませんでした。皆忙しそうに通り過ぎて行ったのです。

少年は虫取り用の網を手に持ち、腰の辺りには取った虫を入れるカプセルのような物を下げていました。
そしてジッと交差点の真ん中辺りを見つめたまま動かないので、少女は少年に”何をしようとしている所なのか”聞こうとしました。
その時!



ギーーーーーーー!ガシャン!



目の前で交通事故が発生しました。車が一台コンクリートに当って大きく壊れました。車体はペシャンコになり、中で運転していた人はとうてい助かりそうにありません。
少女はビックリしました。また何も出来ずに立ち尽くしてしまいました。
その時、少年はなぜか空を見みあげていました。じーーーとじーーーと空を見つめていました。

「くそっ!……」

少年はそれだけ言うと、また少女の手を握って別の交差点に連れて行きました。





 その後、少年の行く先々では交通事故が立て続けに起こりました。そして悲しい不幸な場面がいくつも目の前に展開されました……。
少女はそのつど、不幸になった人を助けようと思うのですが……、いざそこに行こうとすると、少年はため息をつきながら少女の手を引くのです。
そして……、別の交差点に移動します。

「はあーーーーー。仕事がうまく行かないや……。君!僕を幸福にしてよ!」

「あのう……、貴方の”お仕事”とはいったい何ですか?」

少女は、少年の持つ”虫を入れるカプセルのような物”に目をやりました。

「そう言えば……。きっと貴方は”虫”を捕まえるのがお仕事ですね?」

「そうなんだよ!捕まえるのが仕事なんだ。あっ、でも、それを”虫”とは発音しないけれど……。
最近どうも”それ”をつかまえるチャンスが少ない。ここぞという時にいつも誰かに横取りされるんだ」

「まあ!」

少女は自分と同じだと思いました。妖精の少女は、天上界で不幸な人を見つけてもクラスメートによく横取りされてましたから。

「要領のいいヤツラは、”それ”を見つけても、誰にもその発生場所を喋らないんだ。そのくせ、いつも僕からはその場所を聞き出そうとするんだよ」

「まあ」

少女はこの少年に共感しました。自分とそっくりです。

「分かりました。私は貴方を幸福にします。そう決めました」

「うわーーーーー!ホント?!ありがとう!助かるよ!」





『妖精の少女と少年』 act.4


「じゃあ、手伝ってね。」

少年にそう言われ、少女は少年について行きました。
しばらく2人で川原を歩きました。少年はここで虫を探しているように見えました。

「あっ、ちょうちょ!」

妖精の少女はその綺麗な蝶を指差しましたが……、少年は首を振り、

「違うよ。僕の捕まえようとしている物は”虫”じゃないんだ」と言いました。

その後、突然少年は、少女にかがんで草むらに身を隠すように言いました。
少女が言われた通り、草の中にかがんで身を隠すと、少年が指差した方向に美しい色の発光体が、ユラユラと浮かんでいました。そう、それは”空中”に浮かんでいたのです。

「あれだよ!」

少年は網を巧みに使ってその発光体を捕まえました。そしてそれを大切そうにあの虫かごみたいなカプセルに入れました。

「これだよ。僕が捕まえたかった物は!!!」

少年は笑顔になりました。

「早くこのカプセルをいっぱいにしたいな!」

少女は少年が喜んだので自分も嬉しくなりました。
でも、先の方の川べりがとても騒がしかったのでそこに目をやると、警察官や近くに住む人達が大勢集まっているのが見えました。
そこで水に溺れた子供の水死体があがったのです。





 その後も妖精の少女は、発光体を取るのを手伝いました。手伝って捕獲して”それ”の数が増えると少年はますます喜びました。
しかし、その発光体を取る場所と言うのが……、いつも何がしかの不幸な事故が起った現場の近くだったのです。
それで少女は、思い切ってこの少年に、”少年の正体”と捕まえている”物”の正体を聞いてみました。

「そう、僕は”死神”なんだよ……。
”学生”で”見習い中”だけど……。まだ”死神”の学校を卒業していないんだ。
その学校の卒業資格と言うのが、このカプセルいっぱいの”魂”を集める事なんだよ。だからこうやって事故死した人の魂を集めているんだ。
早くこのカプセルいっぱいの魂を集めないと……、今年、僕は学校を卒業できないんだよ。」

妖精の少女とは正反対の世界に生きるこの”死神”の少年。しかし、学校の卒業資格を取る為に必死に課題をこなそうとしているその姿は、この少女と少しも変わりませんでした。

「僕の仲間には要領のいい連中がいて、禁止されている行為をして、ワザと人間達に事故を起こさせ、魂をかき集めたりしているんだ!
でも僕はそんなインチキはしないよ。こうやって自然に事故が起こるのを待っているんだ。
でもさ、この間の大型バス同士の事故!あれの時は悔しかった。
大勢の人が死んだけど、魂はみんな本職の死神に持って行かれたよ。目には見えないけど、上空には大勢の死神が集まっていたんだ!僕の出る幕は無かった。
でも、あいつら、もしかしてあの事故を起こした張本人じゃないのかなぁ?
事故が起きてすぐにやって来たんだもの。絶対おかしいよ!
それに……、僕が横から取りに行っても、あいつらケチだからいつも追い返そうとするんだ!」

妖精の少女はなんと返答して良いのか分かりませんでした。
それに……、妖精が”死神”を幸福にしてもいいものなのでしょうか?これも分かりません。
でも、学校の先生からは「誰か1人を幸福にすると決めたら最後までやり通す事」と言われています。

「お願いだよーーー!何とか助けてよ!君、魔法が使えるんだろ?
助けてくれないと、僕、このままじゃ卒業できないよ!」

妖精の少女は首をかしげて考えました。
どうしようかしら?と……。





THE END








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