全4件 (4件中 1-4件目)
1
いつものように三人でしゃべりながら歩いて登校していると、左の公園に立っている木の陰の方から、何やらあまり良い雰囲気ではなさそうな集団が目に入ってきた。 「なぁ、十夜。あれってほねかわじゃないか?」 「ああ、ほねかわだな。何やってんだ?」 「もう、二人とも、ほねかわじゃなくって、小根川君でしょ?人より少し細いからって、そんな呼び方はかわいそうでしょ?クラスメイトじゃないの。」などと冗談を交わしていたが、よく状況を見てみると、そうも言っていられないようだった。柘榴も気づいたようだ。「なぁ、あれって・・・」「世間で言う、かつあげ・・・ってやつだな。」「ええ!?それってまずいんじゃないの?」「ん~、助けてやりたいが、遅刻しそうだしな~。」柘榴はまだ冗談を言っている余裕がある。まぁ結局は助けるつもりなのだろうが。とそのとき、ありさがすっと歩き出した。「もう、そんなこと言って!私がちょっとあの不良たちに言ってくるわ。」「あ、ちょっ、ありさ!」と俺が止める間もなく、ありさは公園へと進んでいった。 「じゃ、俺たちも行くか。」やれやれといった感じで俺と柘榴もその後をついていき、ほねかわのもとへと行った。 「よう、小根川くんよ~、ちょっと一万貸してくれるだけでいいんだよ、その内返すからさ~。」 「そ、そ、そんなこと言って、い、今まで返してくれたことなかったじゃないですか~・・・。」 「ん~?その内って言ってるだろ~。」 「そうそう、君が死ぬ前には返すだろうさ。」 「早く貸してやらないと、こいつ怒っちゃうよ~。」 「ちょっと、あなたたち!何やってるの!?」ありさは不良たちに近づくやいなや、威勢の良い声をぶつけた。ほねかわは古今東西のありがちな不良四人に囲まれて、なんとまぁこいつも不運なことだ。いかにもかもられてるといった様子で、ほねかわも必死の抵抗をしているが、俺らが放っておいてしまったらきっとひどい顔で登校して来たに違いない。「かつあげしてるんでしょ?止めなさいよ、小根川君が困ってるじゃない!」さすが怖いもの知らずのありさは、ガラの悪い連中に対しても全く怯むことなく、言葉を発している。俺と柘榴も別に不良が怖いわけではなかったが、とりあえずこの場はありさに任せて見てみることにした。 「あ、姫月さん・・・。」 「なんだ、小根川、お前の知り合いか?」「私は小根川君のクラスメイトよ。もう時間がないから、早く小根川君を放してあげて!」 「じゃあ、あんたが小根川の代わりに金を貸してくれんのかい?」 「嫌よ、あなたたちみたいな人に、お金なんか貸せるわけないでしょ!」普段から強気なありさは、全く臆することなく、むしろ言葉だけでどんどん不良たちをぐいぐいと押している。 「さぁ、早く小根川君から離れて!」 「この、くそアマ、黙らねぇんだったら、その口塞いだるわ!」言われっ放しでさすがに頭に来た不良の一人が、とうとう我慢できずにありさに飛び掛った! 「ひ、姫月さん、危ない!!」「うりゃ~!!」不良Aはありさに拳を勢いよく突き出した!それと同時にありさはすぐ後ろにあったデッキブラシを手に取り、すかさず向かってきた不良の攻撃を紙一重で躱し、そのままブラシの部分を的確に延髄を強打した。 「がはっ・・・。」やられた方は平気なはずもなく、気を失って倒れた。柘榴が感心して、 「やる~、さすが姫月流長刀道場師範代。動きに無駄がない。」などとからかうものだから、ありさはムッとして、 「うるさいわよ、黙ってて!」と切り返した。不良たちは仲間がやられた上に、ありさにとって多少の余裕が見られるような会話がさらに怒りを掻き立てたらしく、鼻息を荒くして、 「このアマ~!俺たちをなめおって!!」 「叩き潰してやる~!!」と言い、三人一斉にありさに仕掛けた。 「どうする?手を貸すか?」 「いや、大丈夫だろ。それにここで出たら後でありさが怒りそうだ。」 「そうだな・・・、黙って見ていることにしよう。」 というような話をよそに、ありさは三人の攻撃を先程と同じように紙一重で躱し、それぞれ首をピンポイントに狙い気絶させた。ありさのすごいところは、どれも紙一重に交わすことで、ありさが与える一撃一撃にカウンターに近い威力を持たせるというところである。そしてありさは、倒れた不良に向かって礼をして、深呼吸をした。 「ふぅ・・・、よし!」 「おつかれ~、やっぱすげえな~。」柘榴は大げさに驚いて見せた。それを見てありさは少し怒った様な素振りを見せたが、それから「てへっ」と下を出して照れ笑いをした。 「あ、あのぉ~、助けてもらって、本当にありがとうございます。」すっかり存在を忘れられていたほねかわがひょこっと姿を現し、ありさに礼を言った。 「いいえ、大丈夫だった?小根川君。」 「ええ、なんとか殴られたりする前に助けてもらったので・・・。」と言って何度もありさに頭を下げた。その態度があまり気に食わなかったのか、柘榴がほねかわに、 「おい!ほねかわ、今回はたまたま運良くありさに助けてもらったが、これがいつもそうなるとは限らねぇんだらからな!男ならもうちょっとしゃきっとしろ!だからあんな連中にかつあげされそうになるんだよ!」まぁ確かに柘榴の言っていることは当たってはいるが、ほねかわが一気に落ち込んだのがちょっと気の毒に思えたので、 「とりあえず、胸を張って歩いてりゃそう簡単に絡まれはしないんだから。もしそれでも駄目だったら、俺たちの誰かに言えばきっと助けるさ。」とフォローした。ありさも続いて、「そうよ、柘榴もあんなことは言ってるけど、きっと助けてくれるから。ところで今何時かしら?そろそろ急がないと学校のチャイムが・・・。」キーンコーンカーンコーン・・・あっ・・・、鳴っちゃったよ。 「あちゃ~、遅刻か~。参ったな~。」柘榴がそんなことを言うと、 「だ、大丈夫ですよ、僕がちゃんと先生に説明しますから。」 「そうね、そうすれば取り消してもらえるかしら。取り敢えず急ぎましょう。」もとの道へ戻ろうとしたとき・・・カサッ・・・ん、まさか・・・と思ったと同時に、先程ありさにやられた不良の内の二人が気がついて、俺らに飛び掛ってきた。しかしそれに合わせて、俺は右側の奴の顔面に回し蹴りを、柘榴は左の奴の攻撃を身を低くして躱し、立ち上がり様にアッパーを顎に食らわせてやった。柘榴も俺と一緒に空手をやっていた時期があり、俺は剣道に専念することにしたが柘榴はそのまま続けたので、柘榴の空手の腕前はかなりのものだ。柘榴がそいつらに向かって鋭い目つきで、「まったく、身の程知らずが・・・。」と吐き捨てるように言い、先にすたすたと行ってしまった。残った俺らも後についていって、学校へ向かった。 「結構大幅な遅刻ね、先生信じてくれるかしら・・・。」 「まぁ無理なら無理で仕様がねぇんだ。そんときゃ諦めようぜ。」 「でも、僕のせいですから、僕が責任を取って・・・。」などと会話を交わしながら道路に戻り、再び学校へ歩こうとした。その時・・・ゾクッ・・・背筋の凍るような冷たい視線を感じた。後ろを振り返ってみると、一人の髪の長い、長身の男が俺たちの方を・・・いや、俺たちじゃなく、俺のことを見て立っていた。男を睨むと、そいつはフッと冷たい微笑をし、そのまま背を向けて歩いて去っていった。そのとき・・・ズキッ! 「痛っ!」急に激しい頭痛がした。何だ、急に?それにあの男は・・・、と少し考えていると、 「お~い、十夜~!どうしたの~!おいてくわよ~!」とありさが前方で叫んでいる声が聞こえた。 「ごめん、今行く!」と返事をし、ありさたちの方へ駆けていった。頭痛はほんの一瞬で、もう既に治まっていた。 あの男は一体・・・学校に着くまでの間、そう思いながら歩いていた。そして、俺自身の中で、おかしな矛盾が生じていることに気づいた。 会ったことはないはずなのに、俺はあの男を知っているような気がする・・・。
2004年05月31日
コメント(0)
ブルルルル・・・・音の悪い古そうなスクーター音が聞こえてきた。これはきっと・・・。「この音は、きっと柘榴だわ。」 ありさはそう言って立ち止まり、後ろを振り返った。俺もそれにつられて振り返ると、ぼさぼさの頭でよれよれの制服を着た男がものすごいスピードで俺たち目掛けて突っ込んできて、二メートルほど手前のところで急ブレーキで止まった。そして威勢のいい声で一言。 「よっす、調子はどうだい?」 「まあまあかな。お前は相変わらず元気そうだな。」 「おはよう、柘榴(ざくろ)。配達はもう済ませてきたの?」 「ああ、今日は面倒臭かったらそのまま学校来たよ。」 「今日も、でしょ。」 「うるせぇやい!」 この威勢の良い奴の名は大和柘榴(やまとざくろ)。こいつが俺のもう一人の親友で、小学校の頃のちょっとした出来事から深い付き合いになって、今でもそれが続いている。柘榴の父親は宝石商で、その影響があってか、柘榴の名前も宝石から搾取されたが、柘榴自身はその名前があまり好きではないようだ。別に大してひどい名前にも思えないが・・・。まあ確かに珍しい名前ではある。柘榴も本来なら俺らのようにやや上級階流のような暮らしをするはずだったのだが、その性分が故に自由を好み、形式的なものをとことん嫌ったので、高校に入るときに家を飛び出して一人暮らしをはじめた。柘榴の両親もそのことは認めていて、柘榴のことを温かく見守っている。しかし、柘榴は親からの金銭面での援助を激しく拒み、何度も話し合った結果学費のみ両親がもつという形になった。その他の生活費等は自分で稼ぐということにしたのでバイト三昧の毎日にひいひい言ってはいるが、それほど後悔した様子もなく、それなりに充実した生活を送っているようだ。時々こういった柘榴の思い切りのよさがたまらなく羨ましく思える。俺も自分の存在をはっきり示したかったら家を出て独力で生活してみればいいのだ。それができないのは、どこか矤神の名にすがっている所があるということだろう。だから柘榴の性格は俺に嫉妬の感情さえ抱かせる。それほどに柘榴は自由な生き方をしているのだ。 「飯は食ってきたのか?」俺が柘榴に問い掛けてみた。十中八九・・・ 「あ?食ってねぇ。そんな時間がなかったんだよ。」やっぱり。するとありさはやれやれといった顔をして、鞄から包みを取り出し、それを柘榴に突きつけた。 「そんなことだろうと思って、今日もちゃんとおにぎり作ってきてあげたわよ。はい、これ。」 「お、さすがありさはわかってるな~。ありがとよ!」と言って包みを開け、そのおにぎりを食べ始めた。以前は由香里に頼んで、おにぎりを一つ作ってもらっていた。由香里は人一倍器用で、特におにぎりを作らせると、綺麗な三角形のおにぎり握る。「あたし、おにぎりを作るのは昔から得意なんですよ。」と言ったのを聞いたことがある。しかしいつ頃からか、ありさが自分がやると言い出し、それ以降はその役はありさが行っている。二人は何度か矤神家に来たことがあって、そのときに由香里や沙百合と知り合いになった。特にありさと由香里はすっかり意気投合したらしく、俺が知らない間にちょくちょく会ったりしている。「他にも、私にしてあげられることがあったらちゃんと言ってね?できるだけ助けになってあげたいから。」「わかってるよ、困ったことがあったら、ちゃんとありさに言うからさ。」実はこの二人、結構長い間付き合っていたりする。確か二年くらいは付き合っている気がする。喧嘩もするが、なんだかんだ言って仲が良い。そして間にいる俺はよく相談役になってしまう。「ねぇ、明日ちょうど土曜日だから、十夜の家に言ってもいい?由香里にまた料理色々と教えてもらいたいし。」「あ、俺も久々に行きてぇな。」「明日は・・・何もないし、いいよ。また一日中?もしそうなら由香里と沙百合にお前らの分の食事も用意してもらわなきゃないからさ。」「おう、わりぃな。じゃあ何か差し入れでも持っていくな。」「そうね、私も何か持っていくわ。いつもお世話になってるからね。」この二人と一緒にいると、いつもよりも自分の存在を強く感じられる。ありさも柘榴も俺を俺自身としてみてくれている。ただそれだけのことが、俺はとても嬉しかったりする。三人で今まで色々な思い出を作ってきた。これからもきっとこの友情は続いていってくれるだろう。
2004年05月30日
コメント(0)
不思議な夢を見た・・・そう思って俺は目を覚ました。昔話なんかを夢に見てしまうなんて・・・。しかも結構リアルな夢だった気がする・・・。そんな感じで物思いに耽っていると、ばたばたと足音が近づいてきて、「十夜様(とおや)~!起きてますか~?」と大きな声をあげ、勢いよく障子を開けて、うちで雇っているメイドが入ってきた。由香里だ。 「十夜様、おはようございます!」 「ああ、おはよう、由香里。」「十夜様、お目覚めになられましたか?もう朝御飯のしたくができていますので、急いで着替えてお召し上がりください。じゃないと遅刻してしまいますよ?」遅刻?ああ、もうそんな時間なのか。変な夢を見たせいで時間間隔もおかしくなったらしい。 「わかった。急いで着替えるよ。」由香里にそう言うと「はい!」とにっこり笑ってまたばたばたと走っていった。 俺の家はどうやら昔話に出てくる桃太郎の子孫なようで、昔から大名やら何やらに特別待遇され、そのこともあって俺のひいじいさん辺りの人が事業に成功し、今や『矤神(やがみ)グループ』という、なかなか有名な資産家となって俺も随分と裕福な生活を送らせてもらっている。今は矤神刀牙(とうが)という人が社長で、俺はその三男というわけだ。俺自身はそんなに普通の人と大差ない生活を送っているつもりなのだが、やはり周りからはそうは見えないらしい。何はともあれ俺も高校三年生。そろそろ自分の将来をどうするかぼちぼち決めないと・・・。あまり親父の会社を継ぐとか入るとかというのはやりたくない。継ぐのはまず間違いなく兄貴の十六夜か白夜がやってくれるだろう・・・。先程やってきたのは北条由香里(ほうじょうゆかり)といって、この家に二年位前から住み込みで働いているメイドである。今どきメイドなんて呼び方は古いかもしれないが、まああまり気にしないでおくことにはしている。たしか由香里は俺と同い年のはずで、両親を事故で亡くしたとか・・・。そのせいで結局高校を中退することになってしまったらしい。どこか抜けてはいるがやることはやっているし、メイドとしては合格だろう。毎朝彼女の甲高い声と騒がしい足音で目が覚める。そしてこの家にはもう一人メイドがいるのだが、俺がゆっくりし支度しているから、そろそろ・・・、 「十夜様、おはようございます。お着替えは終わりましたか?」と言って沙百合(さゆり)が入ってきた。相変わらず落ち着いた感じだ。矤神沙百合は俺が中学二年のときから働いている。沙百合ももともとは矤神の遠い親戚なのだが、沙百合の分家では代々本家に仕えているらしく、沙百合が来る前は沙百合のお婆さんが働いていた。今年で確か二十三歳のはずだ。 「ああ、おはよう。今行くよ。」沙百合はすらっとのびた長身に、綺麗な腰近くまであるロングヘアで顔も整っている。食事の買出しに行くと街の狼たちからもよく声をかけられる。そして俺はそれを見かける度に沙百合を助ける。あの容姿ではナンパされても仕様がないとも思うが・・・。それに対して、由香里も決して美人じゃないというわけではなく、むしろ一般的に見ればずっと良い方なのだが、年のわりにやや子供っぽい部分もある。身長は女子の平均より少し低いくらいで、肩までのセミロングに大きな丸い目で、容姿の子供っぽさがさらに日常の行動を子供っぽく思わせる。この前など、俺の着替え中に部屋に入ろうとして、上半身裸の俺と目が合い、慌てて部屋から出たところ、庭の池の鯉に餌をやっている沙百合を、部屋から出た勢いで池に突き落としてしまった。まだまだこのようなおかしな話はたくさんあるが、話し始めるときりがないのでこれ位にしておこう。「そういえば、もうすぐ十夜様の卒業式ですね。」一緒に食堂に向かう途中、ふと沙百合がこんなことを行った。 「うん、三日後だよ。なんか三年間あっという間だったなぁ。」 「私も本当にそう思います。ついこの間が入学式だったと思ったら、もうご卒業ですからね。」 「あ、その気持ちよくわかる。沙百合もそうだった?」 「ええ、私が高校通っていたときも三年間はあっという間でした。月日が流れるのは早いですね・・・。」沙百合はそう言って、何かを思い返しているようだった。俺は実のところ、もう卒業を間近に控えている高校三年生なのだ。言われてみると、本当に忙しく、目まぐるしかった三年間だったことを思い出せる。 「十夜様はこの三年間いかがでした?充実なされました?」 「そう聞かれるとどうだろう・・・。それなりに充実していたとは思うなぁ。」 「そうですか、それはよかったです。良い卒業式になるといいですね。」沙百合に招かれて食堂に行くと、もうすでに白夜は朝食を済ませたらしく、俺と親父の分を残して由香里が片付けをしているところだった。本当はこの二人の他にもメイドがいるのだが、親父、次男の白夜(びゃくや)、俺の三人以外にもこの屋敷には矤神の分家の人間、運転手などその他の使用人などが住んでいて、ほとんどのメイドはそちらの方の世話をしているのが常で、由香里と沙百合は俺たちの専属なのだ。兄貴はもともと二人いるのだが、長男の十六夜(いざよい)はもう二十九で結婚もしていて、仕事のため海外へ行ってしまった。どっちも親父の会社で働いている。小百合が御飯を器に持っているのを待っている間に親父も食堂に来た。「おはよう、親父。」「ああ、おはよう。」相変わらず素っ気無い感じだ。日頃から、体なまらぬようにと毎日木刀で素振りをして鍛えているだけあって、六十過ぎとは思えないような体つきをしていて、眼光も鋭い。伸びた長白髪に顎と口に生えた髭がさらに親父の威厳を強調させる。さすがに剣道七段は伊達じゃない。でもかく言う俺も剣道は自信があって、去年のインターハイではいいとこまでいかせてもらった。他にも親父には何かあったときのためにと空手なども習わされた。こんなにやって、もしもなんて時が来るのだろうか・・・と考えたこともしばしば。まあ今の世の中、物騒なことが決して少なくないのは確かだが。 「どうだ?最近は。」珍しく親父の方から話し掛けてきた。「ん?ああ、まぁまぁだよ。」「そうか・・・、体の方は何ともないか?」「大丈夫だよ、別にどこも悪くない、健康そのものだよ。」「どこか変な感じになったとか、ないか?」変な感じ?俺はその言葉がすごく引っかかった。何だ?変な感じって。 「どうしたんだよ、親父、急に・・・。」 「いや、なんでもない。なんともないなら、それでいい。」妙だなとは思った。親父があそこまで深く突っ込んでくることなんか滅多にない。しかも体の調子くらいで。変だなぁと思いながら、沙百合が持ってきた御飯をやや急いでほおばり、さっさと片付けて食堂を出た。そして部屋に戻り、鞄を持って玄関へ向かった。玄関のドアを開けた、すると冷たい空気が顔にかかったので、少しだけ身震いをしてしまった。雪が溶けたとはいえまだ春が来たとは言えないような寒さであった。ちょっと厚着をしてきた方が良かったかな?と思ったが、部屋にわざわざ戻るのも面倒臭かったので、そのまま行くことにした。 「いってきます、由香里、沙百合。」 「いってらっしゃいませ、十夜様!」 「お車などにお気をつけ下さいね。」 また今日も由香里と沙百合だけか・・・そう思いつつ、二人に見送られながら学校へ向かった。俺は小学校以来メイド以外に見送られたことがない。本来なら母親が見送るものだろうが、俺のお袋は昔交通事故で死んでいる。それからは家族の温かみというものは、他の人に比べあまり得ていない気がしている。家族での絆が薄いように思えるのは、金持ちが所以なのか・・・。そう思って後ろを振り返った。確かに家だけ見ても大金持ちというのはよくわかる。純和風に造られたでかい屋敷、広すぎる庭、おまけに蔵や道場と、一般人ではまず住むことのない家なのは確かだ。あの家を敷地ごと売ったら一体いくらになるのだろうと友人たちとの話題で出たこともある。 最近、自分は何のために生まれてきたのだろうと、考えることがある。兄貴たちは決められた道を辿る様に同じ中学、高校に入り、そして今は同じように親父の会社で働いている。親父と叔父さんも、きっと俺のじいさんやその兄弟も・・・。俺はそんな風になりたくない。その上、俺の周りの人間のほとんどは俺を俺と見てくれずに、ただ矤神家の人間としか見てくれない。俺は俺だ、矤神家の人間である前に、矤神十夜というひとりの人間なんだ。自分でも周りにそう示したかったし、自分自身納得できるようなことをしたかった。でもそう思っていながら、結局はこの家に住みついたままだ。とりあえず大学までは行かせてもらうことになっている。俺なりの没個性に対しての、必死の抵抗ではあるが、その先のことはまだ考えていない。俺は何のために存在しているのだろう・・・。 そんなことを考えながら学校への下り坂を降りていると、「十夜~!」と後方から声が近づいてきて、その声の主は俺の隣まで駆け寄ってきた。「よう、ありさ、おはよう。」「十夜、おはよう。どうしたの?またいつものことで悩んでいたの?」彼女、姫月(ひめづき)ありさは十年くらいの付き合いで、また、姫月重工のお嬢様でもあり、親同士も古くからの付き合いである。 「あまり悩みすぎると、良いことないわよ?」 「ああ、わかってる。でもやっぱり、悩まずにはいられないって感じかな・・・。」 「いいから!気にしないの。ケ・セラセラよ、わかった?」『ケ・セラセラ』とは、『なるようになる』というスペイン語らしく、彼女のお気に入りの言葉だ。ありさは昔父親の仕事の関係でスペインに住んでいた頃があり、そのおかげでスペイン語はかなりのものだ。また母親はアメリカ人で、確か舞台女優だったらしくとても綺麗な人で、ありさもその血をしっかり受け継いでいる。去年の学園祭では、ありさはミス桃姫に選ばれた。俺の通っている高校は桃太郎の伝説から桃鬼(とうき)学園と呼ばれている。しかしこの地方には特に色濃く桃太郎が染み付いているが、あの話はどこまでが本当なのやら。そもそも鬼がいたという事実さえ疑わしいのに・・・。「ありさは卒業したら医大に行くんだっけ?」「ええ、会社は兄さんが継いでくれるでしょうから。私はやっぱり医者になりたいなって昔から思っていたから。」「ありさはちゃんとした夢があっていいな。俺は一体何になるのやら・・・。」「大学行くんでしょ?それからいろいろ探してみてもまだ遅くないわよ。」「ああ、なんとか頑張ってみるよ。」ありさは俺の良き理解者の一人で、今までも相談したりされたりということがあり、お互いのことはほとんどわかっている。まぁ俺の親友というやつだ。そして俺にはもう一人・・・。
2004年05月29日
コメント(0)
今は昔、とある地方の村に鬼ヶ島という鬼の住む島がありました。そこに住む鬼は凶暴凶悪で、海を渡り村に来ては悪さばかりしていました。村人たちはその鬼たちの行為をただ見ていることしかできませんでした。 その村のから少し離れた山のある家に、お爺さんとお婆さんが二人きりで住んでいました。その老夫婦に子供はいませんでしたが、幸せに暮らしていました。 ある日お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。お婆さんが川で洗濯をしていると、上流の方から大きな桃が流れてきました。お婆さんは驚いてその桃を見ましたが、あとでお爺さんと食べようと、その大きな桃を持って帰りました。 お爺さんが山から帰ってきて、二人は早速桃を食べることにし、お爺さんは台所から包丁を取り出してきて桃を切ろうとしました。その時、桃は金色に輝き、そして次の瞬間、桃は独りでに割れました。お爺さんとお婆さんは驚いて伏せていました。それから恐る恐る割れた桃の中を覗き込みました。すると中に一人の男の赤ん坊が横たわって泣いていました。二人は、始めは戸惑いましたが、その子を天から授かったものだと喜び、桃太郎と名付け、育てることにしました。 桃太郎はそれからお爺さんお婆さんのもとすくすくと育てられました。不思議なことに桃太郎は常人の何倍もの速さで成長し、また、桃太郎は普通の人とは比べ物にならないくらいとても強い力を持っていました。 桃太郎が普通の人では十六、七歳くらいに成長したある日、村での鬼の悪事に見かねた桃太郎は、鬼ヶ島に鬼退治に行くと言い出しました。お爺さんとお婆さんはひっしで止めさせようと説得しましたが、桃太郎の意志は固く、二人は桃太郎を行かせることにしました。お婆さんは黍団子を作り、お爺さんは村人たちの協力も得て、鬼退治のための武具を準備しました。 そして、桃太郎は鬼ヶ島へと旅立ちました。旅の途中桃太郎は犬、猿、雉に会いそれぞれに黍団子を与え、共に鬼ヶ島へ行くことになりました。 海を渡り鬼ヶ島にたどり着き、とうとう鬼を退治することができました。桃太郎たちは大喜びで村へ帰り、村には再び平和が戻りました。しかし、桃太郎には、気になることがありました・・・。 桃太郎が退治した鬼たちのもとを去るとき、瀕死の一匹の鬼が「おのれ・・・桃太郎。い・・・つか・・われわ・・・れは・・・・また・・・よみが・・えり・・・、この・・・恨み・・・をかなら・・・ず・・・。」と言い残し、力尽きたのです。桃太郎はこの鬼の言葉を不安に思い、鬼を退治した数日後、町の有名な術師を呼び、鬼ヶ島全体に強力な結界を張り巡らせました。もしいつか鬼が復活したときに、決して島から出てこられないように・・・。鬼との戦いで傷つき死んでしまった犬、猿、雉たちは、それぞれ祭られるようになりました。そしてそれから八百年の年月が流れました――。
2004年05月28日
コメント(0)
全4件 (4件中 1-4件目)
1
![]()
![]()
