毒吐・終焉



私の中で殺してしまおう。

死んでしまったのだ。

お墓も作ろう。月命日に鐘を鳴らそう。
月命日は、週毎くらいにあるといい。
毎週、白い菊を飾って、命服を祈ろう。
たまには線香も立てるか。
煙りの少ない、さわやかな香りの、季節に合った感じのを選んで。

けど黒い服は着ない。
なるべく熱帯の蛙みたいに人工的な色を身に付けよう。

でも至って自然主義。
お葬式だって土葬だ。
大きな穴を、皆に手伝ってもらって掘り、そっと寝かせて土を掛けたのだ。
息苦しくない位の、庭に咲いていた花も少し、家庭菜園の野菜も少し。
向こうでおなかが空かない様に。

土をかけたらそのうちバクテリアが分解してくれて、地球の一部になるだろう。
次の命の源になるのだ。

それを毎週喜んで、毎日泣いて暮らそう。

涙は友人の前では出し惜しみして、道行く見知らぬ人達の中で流そう。
誰も声を掛けず、ただ見て過ぎてくれる。
平気な顔をして、乾いた都会に水分を補給して歩け。

最近少し親しくなった知り合いに、その死を打ち明けてみる。
大事な宝物を分けるような気持ちで。
自分の羽を抜いて血を流しながら反物を織って、去ってゆく鶴のように、自己中心的に。
声を失い茨の上を歩くような痛みに耐え、終いに身を投げて泡となる姫君のように、我儘に。

寒い日は毛布にくるまり、暑い日は毛布に添い寝して夜を越せ。
すぐに次の命日がくる。
暇は作るな。
多忙が味方だ。
隙間を作るな。
何ものにも蝕まれないよう、気を配る。
汚れない崇高なものの存在を、気紛れに感じてみる。
自分の、胃や肺への道が苦しくなってきたら、一応深呼吸する。
後はなりゆきに任せたい。
死んでも生きても変わらない。

毎日、飢えた虎の巣へ身投げしよう。
いつか救われるらしい。

愛も希望も無責任にふりまけ。
種は巻いた数よりやや少なく芽吹く。
死んだ人を養分にして育ち、花を咲かせ、汚く散り落ちていく。

生きてても死んでてもさほど変わらない。
意識が自分の意思で動かない。
ぬけがらの、ピーマンの、空洞だけの自分が、にわか坊主になって、毎朝毎晩葬式だ。
飽きるまで。


   ★★★ 
    ★


とどのつまり、箱に無理矢理蓋をしただけで開ければまた何も変わらぬ苦しみ。
いつまでも。


   ★★★
    ★


砂を吐くほど甘いものを下さい。
口の中の苦いものを中和して下さい。
今にも胃か肺から逆流しそうな、なにか。
砂のような、なにか。
それを中和するために、ちゅうを下さい。

外国の映画の、おばあちゃんが孫にするみたいなちゅう。
この子がいれば、世界中を敵に戦えるような。
それとも、ギリシャ神話や日本の民話の妖怪がするような、
魂を吸い取られるような。
そんなような。

砂で作った城。
吐いた砂で作った、お城。
妖怪変化。魑魅魍魎。
気をつけよう、甘い言葉と暗い道。
それが、この苦いものを軽く出来るなら。
中和できるなら。

苦しいのか、嬉しいのかわからない。
そんなような。

殺したいのか、殺されたいのかわからない。
そんなような。

お腹が痛い。
砂は胡椒の粒みたいだ。


    ★★★
     ★


それは、宴の終わり。ヒトの終わり。総ての、終焉。


    ★★★
     ★


もし、体に悪い毒が、ものすごく美味しいモノだったら、食べるだろうか?

死に至るような、おっかない毒なのに、

その人にとってのシアワセや、安心や、充実が詰まった、ものすごく美味しいモノだったら、

食べてしまうかも知れないだろうか?

もし、これからの人生が、その人にとっての苦しい事が全く無くなる薬があったら、

どんなに苦くて臭くてゾッとするようなモノでも、飲んでしまうだろうか?

…蠍(サソリ)の願いのように、

自分の体が100ぺん焼かれて、地球全部が本当に幸福に包まれるなら、

私は、喜んで、やろうと思う。

ああ、なんてヒトは、なんでも手軽でコンビニなやり方を好むのだろう?

自分の体なんか焼いたってなんにもならない。

もっともっと、面倒で大変な事をしなければ、何も変わらない。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: