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2009.03.19
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カテゴリ: 読書

オリンピックの身代金


一風変わったタイトルに惹かれて、図書館で借りました。
すごい勢いで読めたけれど、切なさが残る小説でした。

舞台は昭和39年夏、10月にオリンピック開催を控えて沸きかえる東京。
この戦後最大のイベントの成功を望まない国民は誰一人としていない、
そんな気運が高まるなか、警察を狙った爆破事件が発生。
同時に「東京オリンピックを妨害する」という脅迫状が当局に届けられる。
しかし、この事件は国民に知らされることがなかった。
極秘で犯人を逮捕し、何事もなかったかのようにオリンピックを
開幕させることが警視庁に課せられた最大の任務となる。


ここまでは、楽天ブックスでも書かれている内容です。
これから先はネタばれあり、ですのでこれから読もうと思われる方は
画面を閉じてくださいね。犯人当てのミステリ小説ではないので
少しくらいなら読んでも大丈夫とは思いますが。

主人公の東大大学院生は秋田県出身の島崎国夫。
当時の秋田の寒村の貧しさがしっかりと描かれています。
まず、次男以下は中学卒業と同時に就職、出稼ぎ。
長男も結婚して跡継ぎが出来たら、農閑期は現金収入を求めて
都会へ出稼ぎ。
家に残るのは老いた親と、嫁。遊びや贅沢も知らず、
日々を働くばかり。

奨学金の手続きをしてくれたおかげで、東京大学まで進学
できたのだが、地元では皆が知っている「村の出世頭」

国夫より15歳年上の兄は、東京の工事現場(オリンピック関連)で
働いていて死亡する。
兄の弔い…と、夏休みの間だけ、兄が働いていた工事現場で

そこで見たものは、労働者がいかに底辺の生活を強いられているか。
東京オリンピック開催のために、安い賃金で昼も夜もなく働き続けるのは
学歴のない地方出身者ばかり。監督側の高学歴者たちは、労働者を
別の次元の人間だと思っている…
社会の理不尽を肌で知った国夫が、たくらんだことは…。

今の日本が格差社会になりつつある、と新聞などで読むけれど
昭和39年だって格差はあったのだ、と思い知ります。
右肩上がりの経済を支えた人たち、晴れやかなオリンピックの影で
命を落としていった人たちのことも。

主人公・国夫のすることは非合法、犯罪なのだけど「成功すれば
いいのに…」とつい思ってしまいます。
太王四神記のヨン・ホゲに「俺はもう後戻りできないんだ~!」と
いう切実なセリフがありますが、まさに国夫もそんな感じで肩入れしちゃうんですよね。
そして、切ないストーリーの中で、国夫と年季の入ったスリとの絆が
最後まで切れないのは救いです。


この小説を読んでいて太宰治のことをずっと連想していました。
太宰治は青森の裕福な家庭に生まれ、そのことを気障なほど
引け目に思い続けていました。学生の頃、それが今ひとつ理解できなかった
けれど、この小説を読んでいてその気持ちに納得できました。
太宰もインテリ。理論や理想で頭がいっぱいだったはず。
世の中の理想と、現実のギャップ、そして搾取する側に自分がいる…
と思ったらやっぱり自分の実家が裕福なことを引け目に思うかもしれません。

話がそれましたが、昭和39年、敗戦後「世界の一流国に」のしあがろうと
熱を帯びている日本の空気を味わいながら、あれこれ考えさせられる一冊です。
お勧め度 ★★★★☆


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最終更新日  2009.03.19 22:03:33
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