小説出ました

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2010.08.12
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昼食の時、シュウは仲間に今朝の写真を見せた。
机の中に埋め込まれるコンピューターに転送すると、その画像がすぐにモニター化された。例の理事を映し出したオーシャンスクリーンの小型版である。
仲のいい仲間や早めに昼食を取ったものがシュウの周りに集まってきた。
モニターに映し出されたそれは立体的なものでまるでその場に浮いているように見えた。
「シュウ、コレナンダイ?」
仲間の一人が目をこわばらせて尋ねた。
「ヤマカガシ、別名カガチ、昔はツチノコ伝説とかかわりがあったらしいよ」
「ナンカ、イロガスゴイナ。ハデデミンゾクイショウヲキテルミタイダ」
「毒あるの?」
女子まで見に来た。
少し恥ずかしそうにしながら伝えた。
「首の周りにあるみたい。頭の後ろに頸腺という分泌線があって敵に襲われたらそれを放出するらしいって。待って」
シュウは更に解説文面をたどった。
「奥の歯の辺りに、ドゥベルノイ腺という腺が来ているから、噛まれても毒に犯されるって」
「どんな毒なの?」
皆興味津々のまなざしで見解を待った。
「血液毒。咬まれればすぐに出血が始まって歯茎から血が出てくる。毒は体内を巡り腎不全さえ引き起こし、手当てが遅れると……死ぬって」
「こわ~い」
誰もが顔をこわばらせた。
その時休憩時間を利用して学内から通信が入った。
彼らが見ていたモニターに映し出されたのである。
「戸張君、お昼休み中に悪い。進路科の先生が呼んでるので、職員室まで来てくれ」
こうした通信は誰にでも入った。シュウは先延ばしにしていたので遅い方であった。
朝の友達は冷やかしたように言った。
「なんだ、シュウ。まだ出し惜しみしてんの?早く見せてやんなよ、大和魂ってやつをさ。あはははは」
「からかわないでくれよ」そういって机を強くたたいてモニターを消した。
集まっていたものもクスクス笑い彼が出て行くのを見送った。

丸い顔の、髪がないためによりはっきりと丸さが誇張された罪のない笑みがシュウを出迎えた。
部屋に入りその先生の前に座らされた。シュウはないも言わずにうつむく姿を続けた。先生も向かいいれた時と同じようにニタニタと意味もなく笑っていた。
「ところで、戸張君。君だけがまだ、進路の報告をしていなかったですね」
「……」
「どうしたんですか?」
「別に先生は困らんが、君やお父さんがこれでは困るでしょう?来年は成人式があるし、その時には皆の前で自分がどんなことをしていくかはっきりと提示するルールがあることはしっていますよね?」
「はい」
先生はまだニタニタとしている。しかし侮辱や余裕を見せているのではない。こうして生徒をあざけって楽しんでいるのでもない。彼の癖なのだということはシュウも知っていた。
「では何でまだ出さないのかな?」
また黙り込んでしまった。
「平成の天孫降臨は知っていますよね?あれ以来わが国も大分事情が変わりました。神の教えの元、我が校も教育理念を政府と諸外国の助けの中、足並みを揃えてきました。慣習といわれればそうでしょうが、そのおかげで日本がよい方向に向かってきているのも事実。われわれの努力と先輩たちの決断と強い意志のおかげで君たちもこうして生きていけるのですから。だからこそ進路の決定は大事なんですよ」
シュウはそんなことは当然わかっていた。わかっていても尚決め兼ねていたのである。
急かされる事に気を使う彼は、自分でも解決できなくなると皮肉ったことをつい言ってしまう。本心であっても別の言い方があっただろうと後悔することも多い。彼は今回もそう、口にしてしまったのである。
「その話は知っていますが、実際に見たわけではないんで……」
先生の笑顔が急に寂しい顔つきに変わった。まじめに受け取ったようである。
「見たものしか信じない。昔の学者みたいなことをいうのですね。それもいいですが、全てを見ることはできない。どうかな?」
シュウは答えられなかった。ただ一言「明日お伝えします」とだけ言うのが精一杯であった。

自宅に帰ってきた。
今日はスクールの仕事はないはずなのに、父の仲間の一人が来ていた。
「オカエリナサ~イ。シュウ。ドウチョウシハ?」
彼はピーターといって父の後輩であった。
「オヤオヤ、ゲンキガナイデスネェ。ガッコウデナニカアリマシタカ?」
この地域にいる外国人はみな日本語が達者である。ピーターもそうだが、難しい漢字でさえ読み書きが出来るほどである。
それも、父、稜(りょう)の特訓を受けたからでもあったとピーターは言う。
「ピーター悪い、その戸棚の上にある半紙をとってくれ」
父は破れた障子を直そうとしていた。
シュウは裕福ではないこの家がとても好きだった。進路が決まらないのは決めたくないからであったのだ。母と父がせっせと作ろうとしたこの店。
そして自分を大切に育ててくれた母の面影と、今尚自分の成長を見守ってくれる父。この家にいる幸せ以上に愛情を感じていた。
だからこそ、皆が行きたがる都会や、自分を自分だけを高める大学などに進む気が生まれないのである。
世の中は変わった。変わってもこの家はどうだろうか。半世紀前と変わらない家のつくり、ゲームを貸してくれた家と比べても歴然である。
変わらない何かが、根本的に変わってはいない何かがあるのだろうとシュウはおぼろげながら感じ取っていたのである。
ピーターが半紙を取ろうとしたとき、その上に一緒に乗っかっていたものがボトリと落ちた。少し埃が立った。
文集である。ものめずらしそうにピーターはそれを開いた。
「オー!コレ、シュウノネ。サクブントイウモノネ」
すぐにそのページを見つけることが出来た。シュウは嫌がらずそのまま読ませてあげた。
自分でも何を書いていたのか忘れていたのである。
『もし地球にいる人々が一斉に立っている場所で思いっきりジャンプしたらどうなるの?地球はへこんじゃうの?』
『もし世界中の空気を吸い尽くしたらどうなるの?』
ピーターは意外な内容に大笑いしていた。
「アハハハハハ。シュウハ、キソウテンガイナカンガエヲ、モッテイルンダネ。アハハッハハ」
奇想天外でもなんでもない。彼は純粋にそう思っただけなのである。誰もが科学的な答えをすぐにでも用意出来る愚問であっても、わずか小学生の頭で思い描いた素朴な思いなど今の日本人いや外国人でも気がつくまい。
(そうだった……そんなこと考えたっけ)
そこにはかつての自分がいた。真っ白なままの自分。それを思い出すと、急に寂しくなった。今日の先生に反発した自分を恥じた。


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Last updated  2010.08.12 09:23:06
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