小説出ました

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2010.08.23
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入り口からここまではカーブを描いた渡り廊下になっていて石畳など敷いて古風である。屋根の張り出しのせいで、月が隠れてしまっていた。
京都に入るまでその月を時々車中から眺め、父も見ているのかと考えていたのであった。
程よい照明が足場を照らし、廊下の外に敷き詰められ綺麗に慣らされた小石の粒がはっきりと見えた。
母屋の扉が勝手に開けられた。流石は政府筋の家である。諸外国のVIPが来ることもあって家の作りも飾りもよほど未来志向である。
靴は脱がなくとも踏み台に載せただけでカバーがつけられた。汚れ防止の措置のようだ。
どこに照明があるというのか、その場所が特定できない位置にあるようで、それが返って家の天井を高く見せていた。
両側の壁は目線から下のところが丁度ガラスのような、よく磨がれた鏡のようなつくりになっていた。彼女が言うには危険物を探知する役目もあるそうだ。
すぐ横の扉を開けた。
「電話で言っていたことだけど、今おじいちゃんもくるから、ここで待っていて」
通された場所は近代的なつくりの応接間であった。殺風景に見えていても実に機能的であった。
ソファーは半透明なエアーチューブ式のもので、好みによって色彩が変わる。史江はシュウが青を好むことを覚えていてすぐにソファーの色をそれに変えた。
そればかりか、壁の色も、アイボリーに変わり、床はシックな藍色を落とし、全体的にシャープな雰囲気をかもしだした。
シュウはありがとうといってソファーにすわった。
「ピーターさんも、くつろいで。飲み物持ってくるから」
彼女は部屋を出た。
その扉の横の壁は水でも流しているような、ゆらゆらと、そしてきらめきのある滝を演出していた。聞けば確かに水の音もする。ピーターは近づいてみた。
「ワオ、ヒンヤリスルネ。コレハサイシンクーラーデスヨ」
腰掛けたすぐ目の前に楕円形のテーブルがある。教室で使うようなデスコンと比較にならない立派なスクリーンが立っていた。
そして彼らの後ろに本棚やグラス置きの戸棚があった。よほど海外の人は飲むのであろう、たくさんのグラスがある。
クリンカー加工でされたワイングラスやプラチナで装飾されたシャンパングラスなどが目に飛び込んだ。中には土紋グラスと呼ばれる今では珍しいものもあった。ピーターは久しぶりにそうした物を目に見て心が弾んだ。
シュウは全くそんなことには頓着しなかった。また不謹慎だと怒ることもなかった。
彼はベランダに続く大きなガラス扉の先に煌々と輝く部屋の明かりを見ていた。
この建物とは明らかに異なる、古都の屋敷を再現したような離れがあったのである。
そこに人影が二つぼんやりと並んでいた。時々、小さい方の影が小刻みに動いた。
シュウが見つめているそこへ、扉をたたく音がした。
史江の母である。
「こんばんは。まぁシュウちゃん、大きくなって。立派になったわねぇ。またあえてうれしいわ。ピーターさんもほんと、懐かしいわ」
よほど、シュウのことを気に入っていたのであろう。笑顔で迎えた挙句、彼の好きな飲み物を覚えてくれていた。ピーターも同様である。
「オカアサン、ヒサシブリデスネ。オット、ソノペンダントマダモッテイテクレタンデスカ」
引越しが決まってからピーターが餞別で渡したものである。海で見つけたそれは、ボナパルト朝時代の財宝の一つであった。
「そうよ、コレのおかげで、いろんなマダムと話が出来て助かったんだから。ほら、日本を知っている方々でも、まさかナポレオンの財宝がこんなところになんて思わないでしょう?ふふふ」
古びた金貨のペンダントであった。
シュウはそれを見ながらまた父のことを考えた。
「それより、大変ね。でお父さんわからないの、まだ?」
「はい」
「そう。こんなことなかったものね、いままで。早く見つかるといいわね」
全くである。科学も技術も人間の五感に近づくように迅速かつ的確に発達した現代、行くへの分からない人間を探すことなどは容易いはずで、これほどまでに労力をかけるほど無駄なことではない。
記憶を探すことでさえある程度お金を積めばなされる世の中である。
話をしているうちに彼女が戻ってきた。
「おじいちゃんが向こうで聞きたいって」
「あらら、どうしてもここに着たくないのね。いつもなんだから」
どうやら、近代化を毛嫌いしているのか、嫁と仲が悪いのか、母屋には滅多に来ないらしい。
「いいです。あっちにいきます」
「ごめんなさいね。シュウちゃん。ピーターさんも。お父さんが帰ってきてくれたらこっちでみんなで話が出来たでしょうけど、あいにくアメリカへ出張してるから」
「ダイジョウブデスヨ。オカアサンキニシナイデ」
史江が先頭になって離れに移動した。
シュウは自分の家よりも綺麗にされた障子戸をみた。
「この戸、史ちゃんの家にあったのと似ているね」
「あ?わかった?おじいちゃんがこれはいいものだからって持ってきたのよ」
「そうだったんだ。」
「うん。こんなのを作る人はそうそういないからって。だから向こうの家は扉だけなくなっちゃて開け渡したんだって。笑っちゃうわよね」
「それより学校はうまくいってる?将来はどすんの?」
シュウは言葉に窮しながら下を向いた。
気まずいと史江はすぐにあやまった。
「ごめん。そんな雰囲気じゃなかったよね。お父さんのことだもんね」
「いや、ひさしぶりだから、色々話したいの分かるし。大丈夫だよ。でも次のことはこの件が片付くまで考えられなかったから」
「そっか」
そう会話をしていると、中から声がした。
「史、いつまで客人をそこにおいとくのかね」
「あっ!ごめんなさい。おじいちゃん。入ります」
先ほどのじっと動かないでいた影の姿がそこに見えた。

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Last updated  2010.08.23 17:51:48
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