小説出ました

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2010.08.24
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「おじいちゃん、こちらが、戸張シュウ君。さっき話していた。こちらはシュウ君のお父さんの知り合いのピーターさん」
「はじめまして」
シュウは畳の上に正座をしながら挨拶した。
ピーターは少し窮屈そうに脚を曲げて座ろうとした。
すると史江の祖父は気を利かせた。
「よいよい。胡坐をかきなされ。シュウ君もいいぞ。それより、孫に会いに来てくれてありがとう」
顔つきや態度などからみても随分穏やかな人物のようである。茶色い着物を羽織りテーブルの上にこぶしを作って乗せていた。面長の顔は痩せてしわが目立つ。客人である二人とは対照的に史江も含め色白であった。
近くには最近では全く見なくなった煙草盆がある。最初はそれが何なのか分からなかった。
後ろには岡本一徳という名前の書籍がずらりと見えた。
史江のいう「いいじいちゃんのいいとは『いっとく』の『い』からきているとすぐにわかった。
そして、話の最後でもう一つ理由があることもわかったのである。
「ところで、シュウ君。話は大方聞いてわかっておるが、この度は大変なことになったそうで。こんな老いぼれでも力になればと思っておる」
「ありがとうございます」
かしこまったまま脚を崩さずに真剣な表情を見せていた。
「いいじいちゃん、シュウ君が言うには大物神社の蛇じゃないかって」
「ふむ。大分昔のことじゃな。各地にある蛇神も全ての発端はそこから。故にそこまで調べておったのならば、ほぼ間違いはないだろう。どれ」
そういって、後ろの戸棚から数冊本を取り出した。
そして指を舌につけてはページをめくった。
「ここじゃ、ここじゃ」
「大物神社に祀られし神は大国主神が和魂なり。我は大和の国三輪山に向いて祀られんことを望む」
シュウが調べた話であった。そして一徳が言い伝えの書かれた部分を咀嚼した。
「遠い海より姿を白き紐のようにして泳ぎ渡ってきた。陸に上がるやその神は、人と同じ姿に変わった。大国主の力により奈良に祭られるや国に幸をもたらした。だが、崇神天皇の時代に大物神社の祀りを怠ってしまいやがて疫病が流行ったとされる」
「その時崇神天皇の耳にこう聞こえたそうだ」
『これは我が祟り。世の平静を望むのであれば我が子孫にこの大物神社を祀らせよ』
「すぐに大田田根子を神主にし祀らせると、疫病はなくなり、神の怒りも鎮まったという」
ピーターも興味深そうにその話を聞いていた。
しかし、史江は解せない顔を見せた。
「でも、それはお参りしなかったからでしょう?今はもうその神社はないんじゃない。あの大地震でなくなったんだから。シュウ君のお父さんがお参りするとかしないとか関係がなくなったとしたらよ、祟られる理由はないと思わない?」
「そうじゃよ。史。普通ならそういうことになる。では聞くがそのご神体はどこへ行ったのかな?」
「もしまわりまわって、その一部がシュウ君の父上殿が生きてきた空間、つまり履歴の中、あるいはごく身近にあったとしたら?」
史江は考え深げに頷いて見せた。
「それだけではない。各地にある蛇神ないし、それに準ずる神社は水に関係する者が必ずおまいりする。漁師、農夫、スポーツ選手でも良い、とにかく蛇は水神・海神の象徴といわれておるから、そのご利益を得る人々は多い。熱心な信者はその力によって加護されるわけだよ」
「じゃぁ、そうしたことを途中でやめたら?」
「だから、祟りなのだよ。江戸の失踪もそういうことが関係していたと思われる。今回の件もそれに近いものがあるかも知れんぞ」
ピーターはそれでも、稜は無神論者であったはずではと首をかしげた。その様子を見ていた史江もシュウに尋ねた。
「ねぇ、シュウ君のお父さんてお参りに行った?」
「いや、盆や正月には確かに如意寺に行ったりするけど、特にはないよ。そのかわり」
言いかけた彼を見つめるピーターも、頷いてみせた。
「お父さんは鱗を持っていました」
「ほう、鱗か。どんなものかな?」
「実際には見てはいないのですが」
ピーターが彼に代わって説明をした。
「なるほど」
一徳はゆっくりキセルに火を点した。
物を考える時に決まってやる癖である。
「ズイブンヨイシュミデスネ。コットウデスカ?」
それほど大きな煙にはならない。かえって蚊を追いやるいい煙である。
シュウもピーターに何かを尋ねた。
すると先ほどから肘を掻いていた史江が丁寧に説明した。この煙草が彼を余程落ち着くかせるようであった。
二人は珍しそうにその道具を見ていた。
一徳は揺蕩う気持ちを整えたようである。
キセルを灰吹きではたいたあと二人に告げた。
「滋賀に行って見ますか?」
「いいじいちゃん?それってもしかして?」
「うむ。ここまでわかっておったのなら、仕方あるまい。それにわしが応えられる範囲はとうに超えておるがな」
「滋賀に何があるのですか?」
「おじいちゃんの兄弟がいるの。にいじいちゃん」
「そう、わしらは双子でな、博士を取ったわしと、そういう肩書きが嫌いで好き勝手に研究する雑学王が彼、利ニ(よしじ)でな」
「名前に一とか二とかあるからいいじいちゃんとかにいじいちゃんとか私がつけたの」
「しゃれてるじゃろ?あははは」
「まぁ冗談はそれくらいで、彼とはどうも意見が合わん。天邪鬼だから仕方がないが、素直でないからな」
「でもいいじいちゃん。にいじいちゃんも純水よ。ちゃんと話は聞いているし。聞いているからまともな返事もするんだもん。いいじいちゃんに優しくしないのは負けたくないかよ」
彼等の話を聞く度に首を左右に行ったり来たりさせたていた二人は、そこに行けば父の行き先が分かるのだろうかと尋ねた。
「おそらくな。あんな奴でも、竜神に関してはわしよりも詳しい」
「そうよね、なんてったって、滝つぼから龍が出たのを見たって言うくらいだから」
シュウは確実に父に近づいていると思った。そして今すぐにでもそこへ行く素振りを見せた。
「だけど、今日はダメ。向うだってこんな時間に行ったら迷惑だもの。だから、今日は泊まっていって」
時計を見ればもう十時近い。食事をするのも忘れ話に聞き入っていたほどであった。
ピーターもお腹がなった。
「あらやだ、夕飯食べてなかったの?」
「ごめん、思い立ってそのまま来たから」
「イイヨソトヘタベニイクカラ」
気を遣う二人に、「簡単なものなら私が作れるから」と史江が頼もしく伝えた。
その言葉に一徳がニヤニヤしながら「うまいからまぁ任せなさい」と付け加えた。

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Last updated  2010.08.24 08:59:53
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