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カテゴリ: 水のメモ
森達也はオウム真理教の密着取材をまとめた「A3」で脚光を浴びたジャーナリスト。
著書に「A3」「靖国」「死刑」「世界はもっと豊だし、人はもっと優しい」など。

孤高のジャーナリストとして人気があり、モットーは「大衆とは違った視点」。
傾聴に値する意見も多いが、基本的には左翼的思想家と私は思う。

森達也が尖閣・竹島問題について寄稿した
「加熱する領土問題、譲渡することも一つの選択肢だ」
〔ダイヤモンドオンライン 2012.9.28〕
の内容が あまりにひどかった ので、反論したい。

なお原文は5ページにわたる長文なので、森達也の文意が変わらない程度にトリミングした。




 ポール・サイモンが歌う『El Condor Pasa』(邦題は『コンドルは飛んでゆく』)の中盤に、以下のような歌詞がある。

人は大地に縛りつけられて
世界で最も悲しい声をあげる
とても悲しい声をあげる

 なぜ人は、カタツムリやオランウータンやイルカやミミズよりも、悲しい声をあげるのだろう。世界で最も悲しい理由は何だろう。

 土地の所有をめぐって争うからだ。



「コンドルは飛んでいく」は厳しい寒さと乾燥のアンデス山脈に伝わる民謡だ。
悲しい声はアンデスという不毛の土地で、それでも生きていかねばならない辛さを歌ったもので、領土紛争とは無関係。


 こうして地上に降りてきた人の先祖は、群れて生活することを選択したことで、自分のテリトリーと群れのテリトリーを、ほぼ同一視するようになった。だからこそ土地をめぐっての争いが、個VS.個から群れVS.群れになった。さらに発明した武器や火薬を使うことで、より大規模に相手を殲滅できるようになった。つまり戦争だ。


この部分は歴史的にも正しい。
そして、この正確な認識によって、後述するよう、森達也の論理は破たんする。


 尖閣や竹島をめぐる騒動が起きる直前までは、世界204の国から集まったアスリートたちが競い合うオリンピックがロンドンで行われていた。全世界の人たちがテレビやネットでその結果に一喜一憂し、時には称え合い、閉会式では「国境なんかないと想像してごらん」とジョン・レノンが歌う「イマジン」が大きくフューチャーされた。


森達也は「竹島は我が領土」のプラカード事件のことを知らないらしい。
サッカーやバスケットボールで、多くの日本選手が韓国選手に負傷させられていたことも知らないらしい。


 でも領土問題については、まるで遺伝子レベルで刷り込まれているかのように(実際にそうなのかもしれない)、人はいまだにテリトリー争いをしていた太古の時代の感覚から一歩も抜け出すことができずにいる。


左翼的思考にありがちな意見である。
人間も動物である以上、本能を基本として行動する(例えば異性に対する恋愛感情)。
そして、最低限のルールを守るべく理性で本能をコントロールする(暴行やストーキングをしない)。
医学的にも、社会学的にも、本能から抜け出すべきという前提がそもそも誤っている。


 1979年に来日したトウ小平は、日本の記者から尖閣問題について質問されたとき、「この問題はしばらく置いてよいと思う。次の世代はわれわれより知恵があり、実際的な解決法を見つけてくれるかもしれない」と回答した
 でも問題を先送りにして次の世代に託したとしても、発想や思考方式を変えないかぎりは、間違いなく新たな知恵など出てこない。

 ならば「譲渡する」ことも、一つの選択だと僕は思う。


トウ小平の先送り提案から「譲渡する」に一気に話が飛躍する。


まず、トウ小平の先送り提案は、当時まだ国力の無かった中国が「いずれ国力を蓄えて尖閣を奪取する」ための、先延ばし戦略であったことは、現在の中国の対応を見ても明らかである。
このトウ小平のしたたかな計算をあくまで「次世代の話し合いによる平和的解決」を示唆していると思いこみ囚われているのが森達也という人の限界だ。

さらに言えば、森達也のような左翼的思想家は自説に固執するあまり、現実の事態を直視せず、自己と違う他人の意見を受け容れない傾向がある(森達也著「死刑」はその典型)。

では、なぜ「譲渡する」という極端な意見が飛び出すのか?


 人が居住しているのなら話は別だ。でも尖閣にしても竹島にしても北方領土にしても、現時点で日本国籍を有する人は住んでいない。

 あまり知られていないことだけど、国土面積において世界第61位の日本は、排他的経済水域の面積については世界第6位にランクしている。韓国はもちろん、中国やロシアよりも大きいのだ。ならば「ムキになる」以外の選択肢を示すことも、次の世代としては可能なはずだ。


 日本は広い海をもっているのだから、いくらか韓国、中国、ロシアに渡してよいというのが森達也の感覚らしい。

 「法治」という概念を踏みにじる浅はかな考えである。野良猫に餌をあげるのとはワケが違うのだ。

 「あまり知られていないことだけど」と森達也は語るが、ふつうに新聞テレビを見ている人なら日本が世界有数の海洋国家であることは常識レベルだ。
 そして、中国やロシアは大陸国家であり、排他的経済水域が日本より小さいのは当然だ。

 森達也の根本的な間違いは「島」が大事なのは人が居住するためでなく、排他的経済水域が決定されるためであることを知らないことにある。。
 各国は排他的経済水域で漁業や資源などの開発を行う。
 その代わり、水域内における環境保全や安全管理の責任を負う。


 尖閣に上陸したのは香港の活動家たちだ。ところがその意趣返しのように日本から上陸して日の丸を掲げた10人のなかには、活動家だけではなく5人の地方議員も含まれていた。ならば意味がまったく違う。あまりに軽率だ。


 なぜ香港の活動家の上陸より日本の議員の上陸を「軽率」と非難するのか理解に苦しむ。
 おそらく森達也の持病である「日本嫌い病」のためであろう。
 法的に言えば、香港活動家の上陸は「出入国管理法違反」であり、国が国なら射殺されていてもおかしくない重罪だ。
 一方、日本議員の上陸は立ち入り禁止場所に入った「軽犯罪」であり、森達也とは逆の意味でまったく意味が違う。


 尖閣に上陸した香港の活動家たちは決して中国人の総意を体現しているわけではないし、イ・ミョンバク大統領のスタンドプレイを苦々しく思っている韓国人も数多い。メディアはそうした多面性を伝えなければならない。絶対に単純化してはならない。今こそ抑制を働かせなくてはならない。


 要するに中国・韓国の自制的な一面も報道せよと言っている。これは正しい。
 そして、実際ネットメディアでは中国や韓国がどのぐらい自制的かということは報道されている。

○韓国の自制度・・・
韓国大統領の事務遂行機関の「特任長官室」は上陸翌日の11日、ある世論調査専門業者に依頼し、実施した調査結果で「84.7%が‘大統領として当然行使すべき国土守護の義務果たした点で肯定的だ’と評価した」と発表した。 〔ライブドアニュース〕


○中国の自制度・・・ 尖閣諸島の魚釣島に上陸して日本の当局に逮捕された香港の活動家ら14人のうち、7人が17日夜、香港の空港に帰還した。出迎えた人々からは地鳴りのような大歓声が上がった 〔サーチナニュース〕

今、中韓がどのぐらい自制的か、こういった記事で大勢は分かる。
森達也もジャーナリストなのだから、自制的な中国・韓国人の姿を自ら取材すればよいだけの話だ。
といっても、少なくとも現時点で中韓の著名人が「自制的な」コメントをすることは、彼らの身に危険が及ぶリスクを負うが。


 もう一度書く。領土とは利権だ。ならば交渉はできる。何かに置き換えることも可能なはずだ。ところが多くの人はこの問題になると硬直する。


森達也は領土を中韓に譲れば、資源や漁業権などの交渉ができると述べている。
日本の領土でない島に、日本が領有権を主張しているのならばそういった「あざとい」交渉も悪くないだろう。
しかし、あえて「利権」という言葉を使って嫌悪感を招いているが、領土とは「財産」である。
少子高齢化が進み、天災の傷跡深く、社会制度の将来も暗い日本が、地下資源や海洋資源といった財産を「森達也式理性」のために放棄するのは、国民を路頭に迷わせることである。

そして森達也は最後にこう結ぶ。


 無用な諍いや争いを回避するためならば、少しばかり領土や領海が小さくなってもかまわない。
弱腰と呼びたいのなら呼ぶがよい。でもこれだけは絶対に譲らない。私たちは自国と他国の人たちの命を何よりも大事にする。


森達也はどうやら国際司法裁判所や国際海洋裁判所の存在を知らないらしい。
もちろんそんなはずはない。
「戦争か、譲渡か」の2択しか無いように読者に印象づけるのが、森達也のやり方だ。


それにしても「命のために譲ろう」とは・・・森達也の根本的な欠陥が顕れた主張である。

歴史に学ばず「譲れば争いは防げる」と思いこんでいるのである。

森達也の思いこみとは裏腹に歴史は物語る。「譲れば争いが起きる」のである。

かつて、ヒトラー率いるドイツ軍が強引にズデーテンに進駐した際、開戦を恐れた英仏首相はこれを黙認したばかりか追認までした(ミュンヘン会談)。

「ドイツは第一次大戦の敗戦で、領土を失い、莫大な賠償金も払った。これぐらい大目に見よう」
というのが、ヨーロッパの各新聞の論調だった。
異常な平和主義に陥っていたヨーロッパの大衆もこれに納得した。

(まさに今の森達也と同じ論理である)

しかし、ヒトラーは次々に領土要求をエスカレートさせ、その要求を次々と飲んだヨーロッパ首脳が「宥和政策にはキリがない!?」と気づいた頃には、ナチスドイツは無敵の状態となっていた。

一方、キューバ危機ではソ連のミサイル配置に対し、ジョン・F・ケネディはミサイル撤去の要求を断固として「譲らなかった」。
結果、ソ連フルシチョフはキューバからミサイルを撤収し、その後、ソ連が崩壊するまで米ソの軍事的衝突は起こらなかった。

森達也が誤解しているように、大事なのは島の土地ではない。

日本人の生命と財産と主権が大事だからこそ、領土問題で「譲って」はならないのである。
中韓と無用な争いを避けるためにこそ、領土問題で「譲って」はならないのだ。

森達也は弱腰などではない。若い頃はかなり危険な思いもしている。
彼のジャーナリストとしての意志の強さには敬意を示す。

森達也は弱腰ではない。無知なのだ。

それゆえ、日本人と中韓との関係を損なう浅慮を晒してしまうのだろう。





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最終更新日  2014/08/09 04:52:23 AM
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