Open RANとは何か:次世代モバイルネットワークの「開放革命」をわかりやすく解説 はじめに:そもそもRANって何?
Open RANを理解するためには、まず「RAN」そのものについて知っておく必要があります。RANとは「Radio Access Network(無線アクセスネットワーク)」の略で、私たちのスマートフォンと通信事業者のコアネットワーク(通信の中枢部分)をつなぐ「橋渡し役」のことです。街中や建物の屋上に設置されている基地局アンテナが、まさにRANの代表的な構成要素です。スマートフォンから発信された電波は、まずこの基地局(RAN)に届き、そこからインターネットや電話網へとつながっていきます。私たちが日常的に「電波がつながる」と感じているとき、その裏側ではRANが黙々と働いているわけです。では、そのRANに「Open(オープン)」という言葉がつくと、何が変わるのでしょうか。
従来のRANが抱えていた「閉鎖性」という問題
Open RANの核心:「オープン化」と「分解」 Open RANの基本的な考え方は、従来は一体化していたRANの構成要素を機能ごとに分解し、それぞれの間をオープンな標準インターフェースでつなぐことです。従来の基地局は大きく分けて、電波を送受信する「RU(Radio Unit)」、信号処理の一部を担う「DU(Distributed Unit)」、より高度な信号処理とネットワーク制御を担う「CU(Centralized Unit)」という三つの機能から構成されています。従来型ではこれらを同一ベンダーが一体的に提供していましたが、Open RANではこれらを独立したコンポーネントとして扱い、異なるベンダーの製品を組み合わせて使えるようにします。たとえるなら、パソコンのような存在です。パソコンはCPUをインテル製にしながら、メモリは別メーカー、ストレージはまた別のメーカーというように、異なるメーカーの部品を組み合わせて一台のコンピューターとして機能させることができます。Open RANは、通信基地局においてこれと同じことを実現しようとしているわけです。この「分解(disaggregation)」と「オープンな標準インターフェース」こそが、Open RANの最大の特徴です。
Open RANを支える「O-RAN Alliance」 Open RANの標準化を主導しているのが「O-RAN Alliance(オーランアライアンス)」という国際的な業界団体です。NTTドコモやAT&T、ドイツテレコムといった世界の主要通信事業者が中心となって2018年に設立されました。O-RAN Allianceは、Open RANを構成する各コンポーネント間の通信仕様や、AIを活用したネットワーク制御の仕組みなどを細かく標準化しています。この標準に準拠していれば、世界中のさまざまなベンダーが開発した製品が互いに連携できるようになります。特に重要なのが、「RIC(RAN Intelligent Controller)」という概念です。これはAIや機械学習を使ってRANをリアルタイムに制御・最適化するためのプラットフォームで、楽天モバイルのRAN省電力化ソリューションにおいても中核的な役割を果たしています。RICがあることで、ネットワークの状況を常時監視しながら、自動的に最適な設定へと調整することが可能になります。
Open RANがもたらす四つのメリット Open RANが普及することで、通信業界には大きく四つの変化がもたらされると期待されています。
クラウドネイティブとの融合:さらなる進化 Open RANの可能性をさらに広げているのが、「クラウドネイティブ」という概念との融合です。従来の通信機器は専用のハードウェアで動作することが前提でしたが、クラウドネイティブなOpen RANでは、汎用サーバー上でソフトウェアとして通信機能を動かすことができます。これにより、データセンターと同様にサーバーリソースを柔軟に増減させたり、ソフトウェアを素早くアップデートしたりすることが可能になります。楽天モバイルはこのアプローチを世界に先駆けて大規模な商用ネットワークに適用したパイオニアとして知られています。仮想化されたOpen RANを商用レベルで展開するという前人未踏の挑戦を実際にやり遂げたことで、その知見は楽天シンフォニーを通じて世界の通信事業者に提供されています。
Open RANの課題:普及に向けた壁 一方で、Open RANにはまだいくつかの課題も存在します。異なるベンダーのコンポーネントを組み合わせることで、それぞれの製品が本当に安定して連携動作するかどうかという「相互運用性」の検証には多大な時間と労力がかかります。また、一体型のシステムと比較して、問題が発生したときの障害切り分けが難しくなるという面もあります。さらに、既存の通信インフラを持つ大手通信事業者にとっては、従来型のシステムからOpen RANへの移行には相応の投資と時間が必要です。ゼロから構築した楽天モバイルのようなグリーンフィールド(新規参入)事業者と比べると、既存インフラを抱えるブラウンフィールド事業者には移行の難易度が高いという現実もあります。ただし、こうした課題は業界全体で取り組まれており、標準化や相互運用性テストの充実によって着実に解決が進んでいます。
Open RANは通信の「民主化」 Open RANは、長年にわたって少数の大手ベンダーが支配してきた通信インフラの世界に、「開放」と「競争」をもたらすムーブメントです。ハードウェアとソフトウェアを分離し、オープンな標準に基づいて誰もが参入できる環境を作ることで、コストの削減、イノベーションの加速、そして持続可能なネットワーク運用を同時に実現しようとしています。楽天モバイルが「携帯市場の民主化」をミッションに掲げているのは、こうした文脈と深く重なっています。世界初の大規模商用Open RANネットワークを構築・運用し、今回の「自律型ネットワーク レベル4」認定を取得したことは、Open RANという概念が理想論ではなく現実的な解として機能することを世界に証明した出来事でもあります。5Gから6Gへと通信技術が進化していく中で、Open RANはその基盤技術としてますます重要な役割を担っていくことでしょう。