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「何もしないことは、この世で一番難しいし、また一番知的なことだ」Oscar・Wildeこれこそ私が日々感じる就職することに対する恐怖心の根源だ。実際私が知的かどうかは別として-どう寛容に受け止めてみたところで答えは否であるが-今後大部分の人生を規定された模範内で生きていかなければならないし、そうなってくると私の人生における数々のものが失われてしまう可能性が起こってしまう。人々はそれを希望と名づける。いつのまに私の中に希望なんてものが植えつけられたのだろうか。全くもって不都合であることこの上ない。このように捻くれた人間に希望などというものを植え付けた日にはまともな方向に向かうはずもなく、いつまでも叶えられない現実と受け入れられない我が身を厭になり、その上この世で最も難しい今の状態をうまく扱えず自滅してゆくしかないのである。そして誠に穴だらけのこの論理とそれに帰属して甘えている自らが厭になり自害を夢見るしかないのである。ニーチェは悪夢を見ないために自殺願望があるとかなんとか言ってたような気がするが、今のところ全面的に賛成である。このような抜け出せない悪夢にうなされるなんてことを考えただけで身の丈が縮む思いがする。今、ここにある問題として考えられるのは私が大変に社会的に見て愚かだということだ。そして最も深刻な、現実の問題として横たわっていることは、就職先がない、ということであろう。
2006.02.26
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【かわ】
2006.02.23
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肌寒い空気がベッドの隙間から潜り込んでくる。彼は仰向けになって明かし暮らした部屋の空気を思いっきり吸い込んでみた。喉に引っかかりを感じる。あきらかな煙草の吸いすぎだ。彼はまた煙草を控えなきゃいけないと悟る。しかし翌日にはそれが失敗に終わることも彼はまた同時に悟るのだ。 昨夜から降り続いていた雨は止み、代わりに朝霞が淡白い日光を包み込んで窓枠から降り注ぐ。体を半回転させ枕元に置いてある時計を手に取り時間を確かめる。しかしそれは彼にとっての単なる習慣に過ぎず、実際今日が何曜日の何日かなんてことは微塵も覚えていない。また同じ日曜日がやってきただけである。今日は昨日との繋がりが濃密になり昨日と一昨日との繋がりが薄くなっている。おそらく明日も明後日も同じ連続性の渦の中で埋もれて生きてゆくのだと彼は漠然と感じる。 石油ストーブのスイッチを足でつけてすぐにベッドに潜り込む。二度寝するには少々気温が低すぎるようだ。彼はひざを抱えて丸まる。体の中心から滲み出てくる大きなものが脳をとろんと溶かす。顎の力が抜けてゆく。どうやらいずれにせよ寝れてしまうようだ。彼は溶けた脳みその表面でその言葉を繰り返す。 彼は少しずつ集まる光の粒を見つけていた。気だるい夢の中で唯一見ていられるものだ。彼はその日、コーヒー豆とさゆりとアレルギー性鼻炎の夢をみた。それぞれの明確な形も関連性も物語りもなかった。ただ、そこにはコーヒー豆とさゆりとアレルギー性鼻炎の概念が強烈な匂いを残し、どこか違う場所で輪になっていたという事実が横たわっていただけだ。そして今ではそれはもう存在していない。 彼は目を醒まそうとしている。あるいはもう二度と目を醒まさないのかもしれない。どちらにも転ぶ可能性の上で彼は寝返りをうった。石油ストーブが給油のアラームを鳴らす。目覚まし時計の電池はすでに切れている。結局のところ、微妙な琴線の境目で不毛な存在価値を見つけ出すことは、決定的にある可能性への近道にしかならないのではないか、と私は考える。結論はすでに置かれていた。
2006.02.21
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ピンポーンと気味が良い電子音に誘われて彼女はいつもの通用口から「ただいまお伺いいたしまーす」とテンポよく大殿筋を左右にぐいっぐいっと揺らしながら出てくる。笑顔とも疲労感ともとれる表情でテーブルの横につくと「御注文お伺いいたしまーす」と風にそよぐ枝木程度の控え目な決まり文句を言う。例えば胸元に揺れるネームプレート。真っ白なYシャツにくくりつけられたプラスティク板は彼女の愚痴を提示しているのかもしれない。また例えば短く束ねられた後ろ髪。後ろ手に団子状にまとめられているその姿は彼女の偏食歴を表しているのかもしれない。砂の上にごく浅く描かれた文字のような化粧は奇妙にも店内に流れているフュ―ジョンと合間って、とろんと気だるい印象を受けた。斜め左にいる客の女が携帯メールの顔文字の話をしている。煙草を吹かし、キューイフルーツの蔕みたいなジーンズに通した足をがっぽりと開きながら自らの正当性を熱く語る。会話を中断してかきとほうれん草のドリアを注文する。そして再び顔文字の話題へと舞い戻る。ファミリーレストランの空気というのは一種の排気口の出口に似ている。彼女は白いYシャツを見に纏い生ぬるい雑音を優雅に滑ってゆく。だから僕は食べ欠けのポテトフライを皿の上に落としてしまう。そして結末とはいつも頼りないもので押し固められているものだ。
2006.02.16
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木曜日の午後に入ると足元の空気がしっとりと沈殿してゆく。これが冬の終わりの木曜日という特異な位置に存在する記号がそうさせているのかどうか判断はできない。しかし唯一僕が言えることは単に冬の終わりの木曜日と呼ばれる記号がこの地上に優しく降り注ぎ時間軸をしっかりと硬めているということだ。そしてその冬の終わりの木曜日が醸し出す奇妙な匂いに包まれて僕のコブが足の甲に存在する。 僕と彼女の距離はそこはかとなく言えば車2個分ある。真っ黒な外車では長すぎ、燃費の良い軽自動車では近すぎる。革張りのシートだとリラックスしすぎる傾向にあるし、ウーハーのついたステレオでは五月蝿すぎる。結局はそこはかとない距離としか言いようがない。「日差しが暖かくなったね」 一人呪文を唱えるよう言葉を口にすると行き場のなくなった音の振動が宙をさ迷ってしまう。台所の小窓から外をのぞくと都会の謙遜がまぶしい。彼女は消えたテレビと向き合いながらソファに座っている。そして誰も僕の発言なんて求めていないのだ。「ナスがだめになりそうだから何かつくろうか」 どうやら僕の言葉は何かが間違っているらしい。さきほどから僕の口から出てしまったものの宙をさ迷っている言葉たちが僕の周りをじわりと取り囲む。もしかしたら自分の存在自体が間違っているのかもしれない。それを否定するためにもういちど言葉をかける。「これで何が作れるかな。パスタとか?」 やはり間違っていたようだ。僕と彼女の間にはするんとした空間がそこにある。何か取っ掛かりがほしいな、と僕は思う。 でも僕は素直に諦めてナスの解体に取り掛かる。きっとナスに話しかけたほうが早いのかもしれない。ナスのヘタの部分に僕のミジンコのような言葉がひっかかる。すると僕は息を吹き返す。株の大暴落や地位や名誉を読み解き、瞬く間に上流貴族と化す。しかしだ、そのヘタも今は切り取られ捨てられようとしている。三角コーナーに放り投げるとまたもとのするんとした空間に戻ってしまった。 彼女はよくテレビを観た。実質的に観たというよりは流していたというほうが正しいかもしれない。僕らの生活の背景にはいつも、郵便強盗やら詐欺事件やら芸能人の破局といったニュースが流されていた。それは日常生活の背景となって僕らを取り囲んでいた。一度、彼女に聞いたことがある。なぜテレビをつけたままにするのか。「私もあなたも社会の一員なのよ。当然のことじゃない」 朝起きると、彼女は消えているテレビの前で泣いていた。前かがみにソファに座り、やや顔を前に突き出しテレビを見つめていた。いや、本当はテレビなんて見ていなかったのかもしれない。彼女の瞳は真っ黒なブラウン管の奥のまたその奥にあるものを捕らえていた気がした。僕が、何しているの?と尋ねても決して答えは返ってこなかった。彼女はただ、僕がわからない何かに対して涙を流していた。 さらにその姿は致命的なほど完璧で、僕に印象派の絵画を連想させる。ベランダから降り注ぐ明るい太陽光は2対の客体―テレビと彼女―を浮き上がらせ、ひとつの作品を作っていた。白い背景と黒い2つの客体はどことなく砂漠を思い起こさせる。砂漠の海に浮かぶ印象派は少しずつ海底へと沈んで溜まってゆく。 そして彼女は泣き続けた。声を上げることなく。不穏に満ちた表情になることなく。 木曜の午後、静かに僕の足元は揺れる。足の甲のコブが美しい情景を前にして僕に語りかける。本当はどちらなのかと。 僕は彼女のとなりに腰かけ、優しく体を抱いた。両腕に抱え込んでしまうとそれは今にも崩れ落ちそうなほど乾燥しきっていた。だから僕は強く抱く。体の芯を見失わないように。どうやら僕と彼女は一情景として張り付いてしまったようだ。木曜の午後という題名によって。
2006.02.08
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久々に聴くとなんだか眠っていた衝動がたたき起こされてしまう気がして非常に居心地が悪い。何で自分はこんなに落ち着いてしまっているフリをしているのか、いつからこんなんになってしまっているのか、自分は恥ずべきなのだろうと思う。それにしてもこのアルバムの音質は酷い。ライブ録音、自宅録音、適当につくったであろうデモ、不十分な機材下での録音はなんとなくNirvanaの泥臭さを煽っている気がして高揚してくる。カートの不器用な生き方と呼応しているような気分がしてならないのはおそらく自分だけなのでだろう。初期の彼らにしか見られないツェッペリンのカバー(heartbreaker)やSmells like~のデモ(少々違う)などたまらんのであります。 Nirvana [Sliver The Best Of The Box] ¥2,405(税込) 発売日: 2005/10/28 レーベル: Geffen 試聴・http://www.universal-music.co.jp/
2006.02.05
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ありとあらゆるものは8時42分に集約されてたたずんでしまっている。後にも先にもそれしか見えない人間になってしまった自分を悔やみ台無しになってしまった周囲を優しく愛撫するしか能はない。
2006.02.03
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その日、前日から振っ続いていた雪が少し弱まり、病室の窓からは細かい虫のような雪片と共に雲から僅かながらのぞく太陽が見え隠れしていた。今後、毎年のようにこの日に雪が降ろうなどとは誰も予想だにしていなっかたのだろう。窓近くのベッドには産まれたばかりの子供を抱えた母親が乗り越えられない絶望と対面していた。降りしきる雪の重みは地面に降りると同時にその軽さが世界を構成する一部となり、人々の営みを顧みず、窓の向こうの母親を静かに奪い取っていた。果たしてこの子に一体どんな罪があるというのだろう。罪の重さなんてものは結局のところまったくの独立した存在で、この世の有無とは関係の無いところで密かに出番を待ち望んでいるのかもしれない。両手に抱えている僅か3000グラムの生命の温かみを不条理と置き換えながら、導かれることのない普遍の問いを何度も何度も繰り返していた。「お母さんよく聞いてください。残念ながら体内のホルモン分泌がこの子の場合、極端に少ないようです。精密検査をしなければなんとも言えませんが、将来知恵遅れになる恐れがあります。」検査結果を聞き、病室を出ると母親は空っぽの状態で待合室のソファに倒れ込むように座った。天井の白色灯は不規則についたり消えたりして、新生児の額を照らしていた。部屋の空気が濃密に迫ってくる。その圧力に負けないようにと母親は必死に我が子を抱き寄せた。顔を近付けると甘酸っぱい香りが鼻をつく。壁に掛っている風景画には全体的に日の光りが足りていないように思えた。
2006.02.02
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