・和田美代子『 日本酒の科学 』は、日本酒を「伝統文化」や「嗜好品」としてではなく、 微生物・化学反応・工程設計によって成立する高度な発酵産業 として解き明かす一冊だ。杜氏の勘や経験に頼ってきた世界を、科学的視点から再構築し、日本酒の味・香り・品質がどのように生まれるのかを論理的に説明している。
・和田は、日本酒の基本構造が「米・水・麹・酵母」という極めてシンプルな要素から成り立っていることを示しつつ、その背後にある複雑な化学反応と微生物の協働を丁寧に解説する。蒸米の状態、麹菌の酵素活性、酵母の代謝経路、発酵温度の管理――これらの微差が、香りや味わいを大きく左右する。
・本書では、吟醸香の正体、甘口・辛口の誤解、酸度やアミノ酸度がもたらす印象の違いなど、 消費者が感覚的に捉えてきた要素を科学的に言語化 していく。また、火入れや貯蔵、劣化のメカニズムにも触れ、日本酒が「生き物」であると同時に、管理次第で品質が大きく変わる商品であることが示される。
・日本酒は再現性のあるプロダクト
偶然や神秘ではなく、条件設定と管理の積み重ねで品質が決まる。
・感性と科学は対立しない
職人の経験は、科学的に説明可能な現象として裏打ちされている。
・差別化は工程に宿る
原料の違いよりも、プロセス設計が個性を生む。
・品質は「つくる」より「保つ」が難しい
流通・保管・提供まで含めて、商品価値が完成する。
・『日本酒の科学』は、日本酒好きのための蘊蓄本ではない。複雑なプロセスを分解し、再構築し、価値へと転換するための 思考の教科書 である。伝統とイノベーション、職人技とデータ、感性とロジック。それらを二項対立で捉えず、統合していく姿勢は、成熟市場で戦うすべてのビジネスに通じる。日本酒を知らなくても、 ものづくりの本質 を学びたい人には十分に読む価値がある一冊だ。
最新 日本酒の科学 水・米・麹の伝統の技 (ブルーバックス) [ 和田 美代子 ]
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