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2011年12月23日
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テーマ: 銀魂(1196)





【Why don’t you give love on X’mas day?】<八>


「万斉なら今日はいないぜ」
自分がきょろきょろしている様子を見て言ったのだろうが、相変わらず何で人の考えている事がこうもピタリと分かるのだろうと阿伏兎は少々恐ろしくなった。別に自分には関係の無い事なのでどうでもいいと言えばどうでもいいのだがそういう態度を取るのは何だかとても失礼な行為のように思えたし、探りを入れるでなく社交辞令にも聞こえない、相手が不快にならない程度の線上の言葉を探して言う。
「仕事ですか?」
「仕事つーか・・・趣味だな」
高杉は少し考えながらそう言って懐から煙管を取り出すと、火種に火をつけ煙を吐く。その言葉に相槌を打つように反対側にいた武市が答える。
「まぁ今日のは趣味というより、付き合いですよね」
「面倒くせぇとか何とか愚痴ってきたぜアイツ。嫌ならサボればいいのによ」
「そう言ったんですか?」
「あァ、言った。そうもいかねぇんだとさ」
てっきり鬼兵隊関係の仕事だと阿伏兎は思ったのだが、どうやらそういう訳ではないらしい。どうもこの団体は阿伏兎が他に見たことのある侍の団体とは様子が違いそうだ。皆着ている服も趣味丸出しで、誰もかれもが好き勝手やっている印象である。今のこのちょっとした会のようなものもどうやら企画された事柄ではなく、皆が折角だからと食べ物を持ち寄っているうちに何となく始まったという感じだ。どうやらこの総督さんが余り細かい事に拘らない性質の人のようだ。自分の相棒が攘夷以外に仕事を掛け持っていたら、怒ってもよさそうなものだが。
「晋助さまあああああああ!!!!」
阿伏兎がそんな事を淡々と考えていると、高杉の存在に今しがた気付いた様子のまた子が全速力でこちら側に走ってきて、そのまま狙い定めたように高杉の胸に飛び込んだ。高杉はその際の衝撃で少々揺れたが特に気にするでなくそのまま煙管を吹かしており、また子はというと高杉の胸板に頭をぐりぐりと押し付けてはしゃいでいる。痛くないのだろうかとその様子を隣で見ていて思った阿伏兎だったが、構う事無く武市と話を続けている高杉を見るとまぁ、大丈夫なのだろう。
「ああ、やっぱり本物が一番っス・・・」
また子は高杉の背中に手を回して抱きついたまま、肩に頬を乗せてとろけるようにそう言った。後ろからあの道具をそのまま手にぶら下げて、こちらに近寄ってきた神威の気配に気づいたまた子はキッと鋭い目つきで背後を睨んだ後、高杉に向き直って言う。
「晋助様!また子は邪魔じゃないですよね!嫌われてないですよね!」
「俺がわざわざ邪魔な奴を置いておくと思うか?」
高杉が初めてまた子に目をやって言った言葉の無感情な口調とは裏腹に、煙管を持っていない方の手でまた子の頭を2回ポンポンと叩いたのを受けて、また子は心から湧きあがってくるような嬉しさを全面に見せたと同時に顔を真っ赤にして、その様子を隠すように再び高杉の胸に顔を押し付けると
「・・・っまた子は一生ついていくっス!」
と言いながら興奮を抑えきれないようにその場で足踏みした。そんなまた子の頭を高杉が片手間にそのまま撫でているとつまらなさそうな様子になった神威が例の道具を武市に渡しながら
「随分可愛がってるんだね。頭なんか撫でちゃって」
と皮肉っぽく言った。神威は顔こそいつものように笑っていたものの開いている目はとても冷たいもので、これは何だか機嫌が悪いというか、後でトバッチリを受ける予感がすると阿伏兎が心の中で面倒くさがっていると、ふと高杉が自分の方を見てきたので阿伏兎は反応に困ったが、高杉は堪え切れないように少し笑ってすぐに神威の方に向き直り
「お前も撫でてやろうか?」
と言った。その顔はいつもの何かを企むようなそんな表情で、また子の頭を撫でていた手を離して神威の方に伸ばしており、その手を取られてしまう危機に晒されたまた子は殺気丸出しで神威を睨んだ。
「晋助でも冗談言うんだね。でもやめておくよ、そこの発情犬に噛まれそうだし」
「言葉を選べこのスットコドッコイ!」
阿伏兎がすかさず神威の頭を前から引っぱたくとまた子はざまぁ見ろと言った風で馬鹿にしたように神威を見ていたが、今しがた神威が叩かれたばかりの所を高杉がまた子の肩越しに一際優しく撫でてやると、また子は一瞬打ちひしがれたような表情になった後、吼えるように神威につっかかった。高杉がとうにどちらからも手を離して、余興とばかりにその様を見ている事に気づくことも無いまま二人は睨み合いを続けていた。
酒を飲みながら楽しそうに笑っている高杉を見てこの人はこの人で何とも意地が悪いというか、少々性格に難のありそうな人だと阿伏兎は思った。反対側にいる武市は何を考えているかよく分からないし、今ここにいない高杉の相棒は相棒で掴み所がなくて、阿伏兎はこれから先の事にほんの少しだけ想像を巡らした後、すぐに憂鬱になって考えるのをやめた。


一方、一般人とは桁違いの費用をかけて、入念な準備と共に華やかに行われていたその会場の中を隅々まで練るように歩いていたお通は、とうとう出発地点とは反対側の壁に辿りついてしまい、残念そうな溜息をついた後、もう一度探してみようと決意を固めるも昼間の仕事からずっと立ち通しだった所為もあり、どうにも疲れてしまったので少し休もうと扉を開いて外の大きな廊下に出てみると、会場の壁の外側に寄り掛かって立っている男が一人いて、お通にはそれが自分の探していた男だとすぐに分かり、疲れも忘れて駆け寄った。
「つんぽさん!」
会場の皆は和も洋も混ぜてそれぞれ格式ばった格好をしておりお通もそれに合わせて特注した服を身に纏っていたのだが、男はというとただのジーパンにYシャツ、私服のジャケットを羽織っているだけでとても今回の催しに気を配った格好はしておらず、挙句の果てにヘッドホンを頭に装着して音楽鑑賞をしていた。
お通の声に男は振り向くもヘッドホンを外す事はせず、普通なら無礼だと怒るかもしれないが普段からそういう振る舞いをする男の事をお通はよく知っていたので何も言わなかった。
「なんだ、お通殿でござったか」
「どうしたんですか、こんな所で?」
「いや、特に理由は無いが」
当然のように男はそう答えた。元々あまり感情を表にだす類の男では無い上に目には色の濃いサングラスをかけていて、更に表情は読み取りにくい。
「中あったかいですよ。それに、もうすぐ主催者からのお話があるみたいだし・・・」
「拙者の知ったことでは無いな」
男はさらりとそう言い放った。会場の外の廊下はとても広く、ずっと中にいたお通には些か肌寒く感じられた。椅子も無い何も無いこんな場所で一人で突っ立っていてこの人は平気なのだろうか。いや、元より中に入れば知り合いも友達もいるだろうに、何故理由も無くこんな所にいるのだろうかとお通が不思議に思っていると男がお通に向き直り尋ねた。
「それより、何か用かな?」
「え?」
「拙者に用があったのでは?」
「あ・・・、いえ、別にそういう訳ではなくて、ただ偶然見つけたから・・・」
お通は口籠り、曖昧な返事をした。まさか開会した直後から探し回っていたとは言えない。お通にとっては自分を発掘し鍛えてくれた恩人とは言え、別にお通の専属の人間という訳では無いし何より多忙な男ので、仕事があっても会えない事の方が多い。何処に行っているのかは知らないが、いつも事務所に留まって仕事をしている類の男でも無いのだ。そんな男の事をお通は勝手に、自分を探してくれた時のように、新しい才能の卵を探しに行っているのだと思っていた。そんな空想上の見知らぬ相手に理不尽な嫉妬を少しばかり感じていた日々に差し込まれた一筋の光明が、今日この場で開かれている催しだった。久方ぶりに話す事が出来るのではないか。それも仕事上の関係ではなく友達のように。そう思うと日中の本業以外の仕事にも熱が入ったというものだ。別に用など無かった。ただどうでもいい雑談をしたかっただけのお通に、男は無情にもこんな台詞を吐く。
「ならば早く戻ってやるといい。売れっ子がいないと興が冷めるというものだ」
そして手元の電子機器に視線を戻してしまった男にお通はぐっと唇を噛んで持ち堪える。中の会場には友達もいれば、前から話してみたいと思っていた人々もたくさんいる。それでも、お通が今日この場で最も話したいと思っていたのはこの男なのだ。また偶然見つけたなどという言い訳は2度通用しないし、何より男は顔が広いので他の人間達に囲まれたら近づけなくなってしまうかもしれない。今この瞬間を除いて、男と話せる機会は他に無いのだ。お通は頭を振り絞ってこの場に少しでも長く留まる方法を考えた。
「それならつんぽさんの方が私よりよっぽど売れっ子じゃないですか」
よくやった、とお通は自分に言ってやりたくなった。男はお通よりもこの業界での経験は長かったし、その業績たるや右に並ぶものはいないと言っても過言では無いだろう。これなら自然に話を膨らませることが出来る。現在の仕事の話でもいい、昔の話でもいい。普段は何をしているとか、どんな趣味をしているだとか、友人なら誰もが知っていそうなどうでもいい事だが実はこの業界の誰もが知らないこの男の事を、お通は出来るだけ深く知りたかった。しかし、それだけ苦心して得た言葉とその答えに対するお通の期待の大きさを丸ごと反転して返すように
「拙者は所詮裏方に過ぎぬ」
と、男は答えた。お通が期待を寄せてから男が答え終わるまで、果たして3秒もあったろうか。お通は更に頭を回転させてみたもののそう簡単にいい話題が思いつく筈も無く、更に元々何かを深く考えたり策略を巡らすのはかなり不得手な方だという自覚もあったので、途中でお通は話題探しをやめ無言で男の隣の壁に寄り掛かった。その様子に気づいた男は自分よりも大分背の低い相手を肩越しに見下ろして問う。
「・・・どうかしたのでござるか?」
「いえ、別に」
お通が淡々とそう答えると、男は些か不思議そうな顔をしてまだ自分の方を見ていたので続けて
「何となく、まだここにいようかなって」
と言ってみると、納得したのか特に返事をする事も無く男は自分の作業に戻ってしまった。しかし、お通を追い返すこともしなかった。お通は男に気付かれないように、時々横目でその姿や、手元の電子機器に映っている画面を見ていた。









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最終更新日  2011年12月23日 07時20分33秒 コメントを書く
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