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遠くで電車が走った。車体は一瞬、木々の隙間から覗き、それから音だけになった。音はしばらく空中に漂い、やがて蝉の声に混じって消えた。
十七年前の夏だった。 あの頃、私たちはまだ、別れというものを、後から名前のつく出来事だと思っていた。いつも会える人が、ある日を境に会えなくなる。けれどその境目には、線も標識もない。ただ、昨日までの続きだと思っていた時間が、振り返ったときにはもう終わっている。
彼女はこの川のそばに住んでいた。夏になると、夕方の六時にここで待ち合わせた。日が長かったので、六時になっても空は明るく、川はまだ昼の色をしていた。彼女はよく遅れた。遅れてくるたびに、息を切らして、自分が悪いのではなく夏が長すぎるのだと言った。
最後の日も、彼女は遅れてきた。
白いシャツの背中に汗をにじませ、片方のサンダルを手に持っていた。何かを言おうとして、結局、言わなかった。私も訊かなかった。訊けば、その答えを聞かなければならなくなる。聞いてしまえば、今までの私たちが、すべて過去のものになると思った。
堤防の下へ降りると、草いきれがむっと立ち上がった。足もとで小さな虫が跳ね、ひとつ向こうの葉にしがみついた。私は川辺のベンチに腰を下ろした。木の表面は陽に焼かれて熱かったが、立ち上がる気にはなれなかった。
川上のほうから風が来た。水の匂い、湿った土の匂い、刈られていない草の匂い。そのなかに、ほんのわずか、記憶の匂いがあった。記憶には匂いなどないはずなのに、確かにそれは、あの夏の夕方の匂いだった。
(文:Manusによる)
真夏の花見川、2026年7月末(写真1+Google)
真夏の花見川、2026年7月末(写真2+Google)
真夏の花見川、2026年7月末(写真3+Google)
真夏の花見川、2026年7月末(写真1〜3) コラージュ
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