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2006年03月14日
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カテゴリ: 露野
 私はだんだん絶望的な気持ちになってきた。実は、私は翌朝伊勢を発ち、尾張の国に向かうことになっていた。今夜が伊勢で過ごすことの出来る最後の夜だったのである。

 やがて、夜が白々と明けてきた。そろそろ出立の準備をしなければならない。私は断腸の思いで、斎宮の御前の御簾の前に畏まり、斎宮に別れの挨拶をした。

 御簾の向こうの斎宮は、無言のまま私の挨拶を聞き、女房から差し出された素焼きの杯を受け取ると、筆を取って何やらさらさらと書き記した。女房が御簾の下からその杯を差し出す。それは、斎宮から私に下された別れの杯であった。

 私はそれに酒を受けて飲み干し、周囲の者に知られぬようにそっと裏返した。そこには、流麗な女文字でこう書いてあった。


かち人の渡れど濡れぬえにしあれば

(徒歩の人が渡っても衣の裾が濡れない入り<江>のように、本当に浅いあなたとの<え>にしでしたから……)


 上の句だけで、下の句はない。私は人目に触れぬよう、その杯を懐紙で包み、そのまま懐ろにしまった。

 私は国守や女房たちに送られて宴席を立った。最後に一目だけでもと思い、簀子に出る前に奥の御簾を振り返ったが、やはり御簾の中は静まり返り、斎宮のお姿も見えなかった。



↓こちらは、同じく斎宮という場所にある「斎宮歴史博物館」の展示。伊勢斎宮の御座所の再現だそうです。奥の上段におられる女性が斎宮。御簾がありませんが、下ろされていると想像すると、雰囲気が感じられるのでは?





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最終更新日  2006年03月14日 12時59分23秒
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