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2014年12月08日
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カテゴリ: 羅刹
 風に乗って、匂いやかな薫物(たきもの)の香りが漂ってくる。

 御簾は青々と清らかで、几帳の帳には染み一つない。すぐ側の厨子(ずし)の上にさりげなく飾られた青磁の壺は、ひんやりとした氷のような冷たい輝きを放って、いかにも夏の設(しつら)えに相応(ふさわ)しいものだ。

 いつ来ても、この小一条院は清々しい香気に満ちていた。まるで、今は亡き主の面影がそのまま染みついているかのように。

 能季は小一条院の西の対の庇(ひさし)に座って、細い声音の語る昔語りを辛抱強く聞いていた。

 目の前に下ろされた御簾の内から、その声は聞こえてくる。御簾越しに、尼姿の小柄な人影がおぼろげに見えた。

「ご立派になられて。御母君も、そのお姿をご覧になれば、さぞかしお喜びになったことでございましょう」

 そう言いながら、御簾内の声は涙ぐんだようだった。

 能季は寂しげな笑みを浮かべ、御簾に向かって語りかける。

「私の母のことなどを覚えていてくださるのは、他人ではもはや瑠璃女御様だけでしょう」



 昨夜の小中将の話に出てきた下野の姉とは、この瑠璃女御のことだ。


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最終更新日  2014年12月08日 16時44分30秒
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