山口小夜の不思議遊戯

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2007年01月25日
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【印税をいただいて】

 ミルクを飲む時は弟を手招きし一緒に飲もうと誘う心優しいお兄ちゃん、飛雁。
 積み木を投げたり、元気に走ったり、やんちゃな弟、楓。

 この双子兄弟は、この世に一卵性の双子として生を受けてから、双胎間輸血症候群という運命を背負っていました。
 双子は普通、一つまたは二つの胎盤を持って、酸素や栄養を母体とやり取りしています。この症候群では、ふたりが一つの胎盤を共有し、胎盤表面または内部で双子の血管がつながり、ひとりの胎児から、もうひとりの胎児へ血液が流れ込んでしまうのです。

 血液を受け取る側の胎児は、貧血、腎不全を発症している場合が多く、これによって血液を送る胎児は心臓への負担が大きくなり、心不全を起こすことがあります。出産3000件に一回、一卵性の双子の10~15%に起こるとされています。七割以上で二児ともに胎児死亡となり、生まれても貧血が起きた胎児の方に脳障害、血液を送った胎児の方に拡張性心筋症などの心臓障害が起こることがあります。

 過去の事例に照らしてみると、飛雁と楓の場合、本来は楓の方が健康な胎児であったと考えられます。飛雁が何らかの理由で血管障害とともに貧血を発症し、楓の健康な心臓が二人分の血液を送ることで、兄の胎児死亡を防いだのです。

 この話は、淡々と話すヒカリから聞きました。



 たった一冊とはいえ本を出していれば、いつの日にか印税という僥倖が発生します。
 私の場合も、ありがたいかな、印税をお受け取り致しました。
 最終的に私の方からも少し足して、まとまった金額になった折に、子供の医療施設に寄付をしようと考えています。

 それはそれとして──。
 今日は私の母の話をさせてください。
 夫をガンで失った母ですが、この人は気丈と言いますか、鉄の女と言うべきか、ともかく自分の夫の葬式でも涙ひとつ落とさない、矜持を保った人なのです。

 とはいえ、ある意味でお嬢様育ちゆえに他者に目が向かないというか、本当のお嬢様ならば他者に目を向ける余裕があるはずだからお嬢様とは言えないというか──いずれにしても、これまでに厄介なほど自分の中の狭い世界で生きてきた人ではありました。

 父が亡くなり、7年が経ちました。
 この間、何事もなく毅然として過ごしてきた母ですが、去年、母の中で大きな心変わりが起きたのです。

 『ワンダフル・ワールド』が出版されてしばらく経った折、母がこんなことを言い出しました。
 「うちの一階を、子供が入院している人に貸し出したい」

在りし日には、二階に私の家族が、一階に父の両親と私のバス・トイレ・キッチン付きの独立した寝室があったのです。家の内部に階段があって、そこを自由に行き来していたのですが、母はこれを閉じて、一階を三世帯に分け、賃貸にすることを提案してきたのです。よく考えてみれば、母が運転しなくなった今、駐車場も三台分空いています。

 ニュースなどでもたまに取り上げられることですが、子供が長期の入院となると、子供だけに特殊な医療機関を頼らなければならないことも多く、病児を抱えた親御さんの中には遠く県外から小児病棟に通わなければならない方もいます。ご存じのように首都圏はホテル代も高く、毎日往復何時間もかけて日帰りを強いられている人もいるでしょう。子供が長時間の手術になった場合や、またその後の集中治療室に留まっている期間も、泊まる場所も代金もままならないこともあるでしょう。両親は子供の治療に最大限にお金をかけたいと思うでしょうから、自分たちのことに使う金額は、ほんのわずかな予算しか考えていないと思います。なので、この入院児童のいる親御さんたちが長期に格安で泊まれるよう、宿泊施設を提供すると言うのです。

 思い立ったらすぐ動く母のこと、工事は順調に進み、あっという間に1LDKが三つ、一階部分に出来上がりました。以来、途絶えることなく希望者にお申し込みをいただいています。入れ替わり立ち代わりということは、元気になって退院してくる子供もいれば、悲しい結果とともに出て行かれる親御さんもいらっしゃる、ということ。様々な現実を受け止めつつ、なんと母は、それから4世帯分の入居棟を近所にある別の土地に作ってしまいました。

 印税って、どんな重さがあるんだろう。
 本を出すって、どんな意味を持つのだろう。


 印税とは、すなわち「生まれて初めて自分で稼いだ!と思ったお金」です。
 「時間やスキルを売れば誰でも稼げるお金じゃなくて、自分にしか稼げなかったお金です」

 では、本を出すことって、どんな意味を持つのだろう。
 私は『ワンダフル』によって、さらに様々な巡りあいに恵まれました。
 腹心の友は言います。
 「部数など気にしなくても、小夜子さんの身の回りに起きた出会いのひとつだけをとってみても、本を出した意味があったじゃないですか」
 「裏を返せば、本がまったく売れなかったとしても、小夜子さんの預かり知らぬところで、たった一組でも読んでくれた人同士の心が互いに強く結び付いたならば、それだけでこの本を出した意味があったと思うのです」

 近年、心臓移植に関しては、渡米の上、手術を受けるケースが多くなっています。
 けれども、楓はその選択をしませんでした。
 誰かの死を望むことになるから──これが彼の言い分でした。
 自分と最も適合する心臓を持つ飛雁への、彼なりの配慮であったのかもしれません。
 現在、胎児治療は飛躍的な進歩を遂げ、双胎間輸血症候群では、母親の腹部に子宮内を見る内視鏡とレーザー装置が一体化した直径3ミリの器具を入れ、胎盤上でつながった血管にレーザーを照射して血流を断つ手術が実施され、二児ともに亡くなるケースは一割以下に抑えられています。

 私にしか稼げなかったお金を、あの小児病棟に捧げたいと思います。

 ◆あたたかい ご支援、いつも ありがとうございます!







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最終更新日  2011年01月13日 12時17分12秒 コメント(12) | コメントを書く


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