「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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02 時空の叫び
朝だ。起きる時間だ。
……やっぱり。自分の姿、ピカチュウのままだ。
夢じゃなかったのか……
そうだ。ルナっていったっけ?あのミズゴロウ。
確か一緒に探検隊やるって話したんだよね。
ルナはどうしてるかな……ちょっと外に出てみよう。
「レイ、おはよう!」
レイが小屋から出るとすぐ、ルナが話しかける。
「この小屋、居心地どう?昨日まで誰も住んでなかったから、汚れてたと思うけど……」
「ああ、問題なしだよ。一応掃除したし」
ここで、ルナが少し大きな箱を持っていることにレイは気づく。だが聞く前に。
「でね、昨日のうちに探検隊ウィンズのチーム登録をしてきたの」
「登録?」
「ええ。探検隊として活動するってね」
ルナの持っている箱の中には、探検隊バッジと地図が入っていた。バッジは探検隊の証である。
箱も道具箱として使えるようだ。
「それで、勝手なんだけど……ウィンズのリーダー、レイにお願いしていい?」
少し申し訳なさそうなルナの言葉。ちょっとの間を置いて、レイ。
「……わかった。僕でよければ」
「ありがとう、レイ!」
こうしてウィンズのリーダーはレイに決定した。
それに伴い、小屋の前にポストが設置された。
「このポストには、救助の依頼や新聞が届くのよ。けど今は依頼ゼロみたい。まあ仕方ないけどね……結成したばかりだし」
レイには返す言葉がない。ルナが話を続ける。
「ポケモン広場の掲示板にも依頼が届くから、それを見に行こう!」
レイとルナは、ポケモン広場にやってきた。
アイテムショップや倉庫、銀行が並ぶ広場で、探検隊はここで探検の準備をするという。
そうルナが話していると、1匹のカラカラとすれ違う。
「あ、おはよう、グレア」
「ルナか。おはよう。ところで、そのピカチュウは誰だ?」
「こっちはレイよ。レイ、紹介するわね。カラカラのグレア、私の友達よ」
「っと、よろしく」
グレアも、よろしくと返す。そしてバッジに目を留める。
「そのバッジ……お前ら探検隊始めたのか」
「そうよ。まだ始めたばかりだけどね」
一瞬、会話が止まった。レイにとっては妙な視線を感じる一瞬だった。
「そうか、がんばれよ」
それだけ言って、グレアは歩き去っていった。
レイとルナは、カクレオンの店を訪れる。
「お金あんまり持ってないから、買う物は選ばなきゃね」
ルナの話を聞きながら、歩を進めるレイ。
「あれ、客がいるな」
カウンターをはさんで、店番のカクレオンと話すポケモンが3匹。マリル、ルリリ、スリープだ。
「まいどー!いつもえらいね」
「ありがとうございます」
マリルがあいさつする。
「これで買い物は済んだな。お待たせしました、タピルさん」
「いいんだよ。じゃ、落し物を捜そうか」
タピルというスリープは、穏やかな表情でそう言った。
「よし、アリア。行こう」
「うん、お兄ちゃん」
そう言って歩き出した瞬間、ルリリ――アリアが石につまずく。
「あっ……」
「危ない!」
ルナが声を出すのと同時に、レイがアリアを助けていた。
「す、すみません、ありがとうございます」
まだ少しあわてた様子で、アリアが言う。
――その時、レイが突然ふらついた。
いきなり目まいがする。なぜかはわからない。
――た、助けてっ!!
何が起きたのか、助けを求める声が聞こえた。
声色はアリアのものであろう。
どうしてこんな声が聞こえたのか、レイには全くわからなかった。
「ど、どうかしましたか?」
アリアがレイに声をかける。
「大丈夫か、アリア?」
兄の声だ。
「うん、大丈夫」
と、弟。
「ありがとうございます」
弟の言葉に安心した兄は、レイにそう言った。
「あのポケモン達は?」
ルナが、店番のカクレオンに問う。答えはすぐに返ってきた。
「マリルとルリリの方は、スティラくんとアリアくんっていう兄弟なんですが、
最近お母さんの具合が悪いので、ああやって代わりに買い物しに来るんですよ」
「そうなんですか……」
カクレオンが話を続ける。
「あの兄弟が大切な物を捜しているらしいんです。タピルさんは、それをこれからお手伝いされるそうです」
その時、ルナはレイが棒立ちになっていることに気づく。
「どうしたの、レイ?」
「……ルナ、さっき助けてっていう声がしなかったか?」
ルナの頭上に?マークが浮かぶ。
「え?聞こえなかったけど?」
「私も何も聞こえませんでしたよ?」
ルナに加えてカクレオンも。レイ以外の全員が同じ答えだった。
「そうか……」
だが、レイにはこの言葉が気のせいだとは、なぜか思えなかった。
「じゃ、ボク達はこれで」
スティラがそう言って歩き出し、アリアとタピルも続く。
その時、タピルの体がレイにぶつかった。
「おっと、これは失礼」
「いえ」
3匹がその場を去っていく。その時。
再び、目まいがレイを襲った。
――まただ……なんだ、これ……
今度は、映像が見えた。どこかの山の中だろう。
「言うことを聞かないと……痛い目にあわせるぞっ!!」
声の主はタピル。さっきとは全く違い、表情も言葉も脅しそのものだ。
「た、助けてっ!!」
絶体絶命のアリアが叫ぶ。
映像は、そこで途切れた。
「レイ、具合でも悪いの?」
心配そうなルナの表情。
レイは、今自分が見た映像のことを話す。
「そ、そんな!?アリアがタピルさんに襲われてるところを見た!?」
驚きを隠せないルナ。当然ではあるが。
「本当だとしたら大変だけど……あんなに親切そうなタピルさんが、そんなことをするなんて……」
レイの目にも、明らかにルナが戸惑いの表情を見せているのがわかった。
「……悪い夢、だったのかな……」
そう思いたかった。平和であるに越したことはない。
考え込むレイの横から、突然ルナの声がする。
「それじゃ、そろそろ掲示板を見に行きましょうか」
その掲示板は、海に臨む岬の近くにあった。
すぐ隣の建物からは、時折ペリッパーが飛んでゆく。
「ここよ。依頼の掲示板は」
見てみると、救助依頼の数々が掲示板には張り出されている。
それらに並んで、「WANTED」という見出しのついた人相書きも見つかった。
「ルナ、このWANTEDが付いた張り紙は何かな?」
レイの質問。ルナがすぐに返す。
「こっちはお尋ね者よ。悪いことをして、指名手配されているポケモンらしいわ。
といっても、極悪ポケモンもいれば、ちょっとした泥棒もいるんだけどね」
「そういう悪人……いや、悪いポケモンを捕まえるのも、探検隊の仕事ってわけか」
ルナと話しながら、レイは掲示板を眺めていた。
そこに、見覚えのある人相書きがあることに気づく。
「こ、これは!?」
思わず声をあげてしまう。
「……あっ!?」
レイの言いたいことが、ルナにも瞬時にわかった。
彼の目に留まった人相書きは……先ほど出会ったばかりのスリープ、タピルのものだったのだ。
「言葉巧みに小さなポケモンをだます誘拐犯……アリアが危ない!」
言いながら、レイは広場の方へ走りだした。ルナもすぐさま続く。
広場に戻ると、彼らの目前に青いポケモンが現れた。
アリアの兄、スティラだ。
「あなたがたは、さっきの……」
「アリアはどこに!?タピルさんは!?」
スティラの言葉を遮り、ルナが問い詰める。
「そう!そうなんです!ボクが一度家に戻ってる間に、2匹ともいなくなっちゃったんです!!」
「いなくなった!?どっちの方角か、知らないか!?」
レイの質問に、考え込みながらも答えるスティラ。
「確か、トゲトゲ山に向かうと言ってました!あそこになら、探し物があるかもしれないって!」
「トゲトゲ山……そうだ、あの映像は山の中だった!」
「ここから遠くはないわ、まだ間に合うかも!」
「よし、急ぐぞ!!」
レイとルナは、すぐさまトゲトゲ山に向かっていった。
そんな彼らを……灰色のポケモンが1匹、無言のまま見ていた。
「…………。」
トゲトゲ山は、名前からもわかるように岩だらけの山だった。
だが小さい山で、登るのに時間はかからない。
2匹は岩の転がる山道を登っていった。
その山頂のほど近くに、木でできた山小屋があった。
「怖いよう!帰りたいよう!!」
小屋の中に、小さなポケモンが1匹。声を限りに叫んでいる。
「静かにしろっ!!!」
怒鳴りつける声が、その数倍大きなポケモンから発せられる。
大きなポケモンは、不敵な笑みを浮かべていた。
「結構登ってきたと思うけど、アリアはどこにいるんだ?」
暴れていた野生のドードーを追い払うと、レイは息をつきながら言った。
「この山には私も来たことあるけど、そろそろ頂上だったはずよ」
ルナが、歩きながら言葉を返した。
「……おっと、小屋がある」
レイが立ち止まる。登山道の端に、小さな小屋。
後ろを歩いていたルナも足を止めた。
「静まり返ってる……いやな感じがするわ」
「よし、僕が様子を見てみよう」
レイは、窓から小屋の中を覗いた。
視界の端に、青い小さな何かが見える。
小さくうずくまる、青い玉のようなポケモン。
――アリアだ。こんなところにいたのか。
その周囲を見回すと、今度は黒い下半身を持つ大きなポケモンが目に入った。
だが、そのポケモンはすぐレイの視界から消えていく。
黒い下半身で思いつくのは、タピルを置いて他にはいない。レイは考えを巡らせた。
その時、扉が開く音がした!
――しまった、気づかれた!
レイが扉の前に戻った時、ルナはタピルの目の前で固まっていた。
「お前たち、よくここがわかったな」
抑揚のない声で、タピルが言った。
「……レイ……気をつけて……」
やっと聞こえるような小さな声で、ルナがレイに語りかけた。
「お前、ルナに何を!?」
「大したことは無い。かなしばりで止まってもらっただけさ」
そう言いながら、タピルはレイに向けて片手をかざす。
「なっ……!?」
突然、レイは強力な重力を感じた。体が自分のものじゃないように重い。
タピルのかなしばりにかかってしまったのだ。
「ふはは、情けないな。オレの邪魔をするからそうなるんだ……ん?」
タピルが目線を動かした。動けないレイがその目線を自分の目だけで追ってみると、
そこにはこっそり逃げ出そうとするアリアが映った。
「待てっ!!!」
腹の底から大声を出し、それからタピルはアリアの方に向き直る。
アリアはびっくりすると、次の瞬間全速力で逃げ出した。
それを見たタピルは、意外なほど素早い動きでアリアの前に回り込む。
「困るなぁ……おとなしくしてもらわないと」
「…………。」
「さあ、小屋に戻るんだ!」
アリアはすくみあがって動くことができない。さらに顔をこわばらせ、タピルが言葉を続ける。
「言うことを聞かないと……痛い目にあわせるぞっ!!」
「た、助けてっ!!」
こらえきれなくなって、アリアは声の限り叫んだ。
その時だった。
白く輝く太陽を背に、小さなポケモンが飛びかかってくる!
「あっ!」
アリアの声につられて、タピルが振り向く。
だが遅かった。その時には、ポケモンはタピルのすぐ真上まで降りてきていた。
「ていやあぁっ!!」
そのポケモンの手に握られた骨が、タピルの頭を強打した。クリティカルヒットだった。
「うおおっ!?」
タピルは前のめりに倒れた。
「あれ、グレアじゃない!?」
状況についていけないアリアの前で、かなしばりの解けたルナがグレアに駆け寄っていた。
「助かった、ありがとう」
という声はレイのものだ。
「いいんだ。それより、そいつを早く捕まえて突き出そうぜ」
「そうね。アリア、大丈夫だった?」
「は、はい。大丈夫です」
レイとグレアは、のびているタピルをロープで縛り上げていた。
ポケモン広場の一角で、タピルは誘拐犯として逮捕された。
「ゴ協力、感謝イタシマス!」
レイ達に報酬を与えると、ジバコイル保安官率いる警察隊はタピルを連行していった。
タピルは何も言わなかった。
そして、隣にはスティラとアリアの兄弟。
「本当に、ありがとうございました」
アリアに抱きつかれたまま、スティラが言った。
「ぐすっ……怖かったよ……」
「ほら、アリアも」
兄の言葉に、弟もレイ達に向き直る。
「うん。助けてくれて、ありがとうございます!」
その帰り道で。
「まったく、お前ら本当に無茶するぜ」
グレアの率直な感想。
「ははは、ごめん」
笑いながらルナが返す。
「まだまだ力不足だな、僕は」
レイの静かな言葉。
「そんなことないよ、レイ」
「……わかった」
突然、グレアが立ち止まる。
「俺もお前らの仲間になろう」
「えっ!?」
グレアの突然の申し出に、ルナはびっくりしていた。
「なんだ?嫌か?」
「ぜ、全然!ね、いいわよね?レイ?」
「ああ、もちろん」
グレアがレイの前に出る。右手を差し出し、
「レイっていったな?俺が鍛えてやるぜ」
レイがグレアの右手を握り返す。
「よろしく頼むよ」
探検隊ウィンズの物語は、まだ始まったばかり――
Mission02でした。前章を大幅に上回る長さになりました。
探検隊のChapter-3をベースに、グレア登場話の要素を入れた構成。
執筆は結構難しかった。
2008.01.20 wrote
2008.02.05 updated
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