08 明かされる真実




 「着いたぞ、ここが氷雪の霊峰だ」
真実を見つける旅を続けるレイとルナは、旅の途中に出会ったカオスに導かれ
ついに、氷雪の霊峰にたどり着いた。
「雪山ね。見渡す限り真っ白……」
「お前達の目的は、キュウコンに会うことだったな」
カオスが問う。
「うん。もう迷わない。ここまで来たからには、進むだけだ」
迷いなく言い放つ。
「信じてるよ、レイ」

 3匹は、氷雪の霊峰を登っていく。
妙に静かだった。
雪の降る音と自分達の足音だけが、静かに聞こえてくる。
「誰もいない……」
ルナの静かな言葉に対して、カオスが言い返す。
「ここはポケモンが住むにも厳しい環境だ。キュウコン以外の野生ポケモンはほとんどいない」
少しして、今度はレイがカオスに問いかける。
「カオスはここ詳しいようだけど、来たことがあるのかな?」
「ああ。山の雪も解け始めているからな。これもまた、自然災害だ」
カオスは、安全確実に山頂まで行けるルートを進んでいく。
レイとルナがその後ろに続く。
静かな山道を、ただひたすらに歩いていった。

 そんな時だった。
「もうすぐキュウコンのいる山頂に着く」
カオスがそう言った時だった。
「いた!レイたちを見つけたぞ!」
「おっ!あそこか!」
聞き覚えのある声がした。続いて現れる3匹のポケモン。
有名な熟練の探検隊――FLBだ。
「くっ……」
レイは内心で舌打ちした。
――ここまで来てFLBに追いつかれるとは。
その強さを感じさせる風格に、カオスも自然と身構えていた。
「やれやれ、こんな遠くまで来るハメになるとはな」
氷雪にも負けない炎を操る、レオンが言った。
「いいじゃねえか、やっとケリをつけられるんだ」
そんなレオンを、ビリーがたしなめる。

しかし、FLBの後ろから新たなポケモンがやってきた。
「あっ!」
「レイ!ルナ!」
グレアとイオンだ。彼らも自力で氷雪の霊峰までたどり着いてきたのだ。
「2匹とも、大丈夫だった!?」
ルナが遠くから呼びかける。
「ああ、しかし感動の再会という場面じゃなさそうだな」
そう言いながら、グレアがその手に骨を握る。
目の前のFLBと戦うために。
イオンも無言のまま、戦闘態勢に入る。
「挟まれちまったな」
レオンが自嘲気味に言った。
「案ずるな。まずは囲みを破るぞ」
そう言うとフレッドはテレポートを発動し、一瞬にして囲みを破った。
そして、グレアとイオンの近くに出てきた!
「おらよっ!」
レオンが炎を巻き起こす。
2匹とも素早い動きでかわしてみせる。
フレッドが追撃を仕掛けようとしたが、
遠くでルナが周囲の冷気を集めているのが目に入った。
「当たれっ!!」
集めた冷気を、フレッドに向けて一直線に打ち出す!
「れいとうビームが使えるのか!」
「ならこれでどうだ!ストーンエッジ!」
ビリーがフレッドとレオンをかばうように前に進み出る。
そして、岩を降らせて自身の盾にした。
「やるな……」
カオスがそう言った。だが。
「待てっ!!」

 声とともに現れるは1匹の狐。
戦いの場に割り込む。
「……キュウコン!!」
フレッドは、このポケモンの正体を知っていた。
9本の尾をもつ伝説の狐――キュウコンだ。
「伝説は……やはり実在していたのか……」
「私はイマーゴ。その通り、伝説は本当にあったことだ」
イマーゴの言葉に、その場全体が大きな緊張感に包まれる。
「ならば、伝説に出てきた人間は誰なのだ!
 その答えによっては……ワシは……」
「昔、私はある人間にタタリをかけようとした。
 しかし、その時人間のパートナーだったサーナイトが身代わりになった。
 確か、セラフといったか。
 にも関わらず、人間は卑怯なことに……セラフを見捨てて逃げ出した。
 やがてその人間はポケモンに生まれ変わる……
確かに、昔実際にあったことだ。そして、その人間は今なおポケモンとして生きている」
フレッドの言葉をイマーゴが区切り、伝説の内容をひとつひとつ確認していく。
「そして、その人間は……」
イマーゴ以外の全員にとって、一番気になるところだ。
レイは息を飲んだ。

「……お前ではない、とだけ言っておこう」

求めていた答えが、見つかった。
「それが聞きたかったんじゃろう?」
「ふうーーーー…………。」
レイは深呼吸した。
自分は伝説に出てくる悪い人間ではない――
それがわかったことで、レイの緊張は解けていった。
だが、その平静は意外な形で崩される。
突然ルナが横からくっついてきたのだ。
「よかったあぁぁぁぁーーーーっ!!!」
「うわっ!?」
あまりに突然のことだったので、レイは声が出るほどびっくりする。
安心からか、ルナはその澄んだ瞳から涙を流していた。
「本当によかった……レイは……悪い人間なんかじゃなかった……
 信じて……よかった……」
レイは、ルナの頭をなでた。
何か不思議な気分がした。しかし、その正体はわからなかった。

 しばらくして。
「もう少し、話をしていいか?」
イマーゴの話には続きがあった。
「確かに私は世界のバランスが崩れると予言したが、
 それは人間がポケモンになった時に起きることだとは言っていない。逆なのだ」
ウィンズもカオスもFLBも、イマーゴの話を真剣に聞いている。
「レイよ、お前はキュウコン伝説とは関係ない。ポケモンになった原因も、私にはわからない。
しかしだ。お前がこの世界にやってきたことと、自然災害は関係している。
 レイは……この世界を救うために、別の世界から来た存在だ」
全員が驚いた。
「な……!?」
レイは何も言えなかった。イマーゴが話を続ける。
「私にわかるのは、そこまでだ。お前がポケモンになった原因、お前はどこから来たのか、
 それは自分で見つけていくのだ」
イマーゴの言葉に、レイはまだ動揺していた。
「僕が……世界を救う……」

 「もう1つ、よいか?今度はよくない話だが」
よくない話。不安を覚えずにはいられなかった。
「この世界を襲う自然災害は、ますますその勢いを増す一方だ。
 しかし、本当に恐れるべきは自然災害ではないことがわかったのだ」
次にどんな言葉が出るか、フレッドにすらわからなかった。
「時が……止まり始めている」
またしても、突拍子もない話が出た。
「ま、まさか!?」
ビリーが聞き返す。
「そのまさかだ。時の歯車が……盗まれた」
「えええぇっ!!?」
「なんとっ!!?」
レイとイマーゴを除く全員が仰天した。
しかし、レイは話についていけない。ルナがその様子に気づいた。
「そうね、レイは時の歯車について知らなかったっけ」
カオスが説明を引き受ける。
「時の歯車は、時間を守るもの。世界の隠された場所にあるといわれている」
続いて、イマーゴが話す。
「時の歯車が盗まれたのは、キザキの森という場所だ。
 そこでは風も吹かず、雲も動かない有様だという。
 時間が止まってしまったのだ」
それがいかに大変なことか、レイにも理解できた。
「有名な探検家も悪党も、時の歯車には手を出さなかった。
 時の歯車を取ると、時が止まるといわれていたのは以前からだが……本当だとはな」
今度はレオンが話した。
「時の乱れによって、自然災害もより一層激しくなるだろう。
 それを止められるのがお前だ、レイ」
そう言ったイマーゴは、小さな石を取り出した。
「これは、とある場所の遺跡にあった石だ。遺跡に記された文章によると、
 この石は世界の危機を止める力になる、といわれている」
イマーゴはその話に付け足す。
「ただし、石は正しい持ち主が使わなければ、力を発揮しないともいう」
言いながら、イマーゴは石を置く。
レイは石を手に取り、注意してその表面を見ていく。
石の断面、平らな部分に薄く何か描かれているのがわかった。
「この石が、世界の危機を止める、か……」
「ねえ、ちょっと見せてみて」
ルナがレイから石を受け取った、その時。
石の模様が、突然輝き始める!
「な、なに!?」
この場にいる全員が、輝く石に注目していた。

 やがて、輝きは止まった。
改めてルナが石を見る。
「これ、さっきより模様が濃くなってないか?」
横からレイが言った。
「どういうことだ?」
「なるほどな……」
何が起きたかわからないグレアをよそに、イマーゴが話に入る。
「どうやら、この石を使うことができるのは、ルナだというわけだな」
「わ、私……!?」
何を言えばいいかわからないルナは、隣にいるレイの顔を見た。
レイは、何も言わない。
だがその穏やかな表情に、ルナの緊張は解ける。
「うん……レイが一緒なら、やれるかもしれない」
「おっと、俺達がいることも忘れんなよ?」
グレアからの横やり。イオンがその反対側に回る。いつもながら無言だけれど。
「みんな……ありがとう」

 気づけば、山頂に来てから時間も過ぎていた。
「さて、ここで別れようか」
突然、カオスが言った。
「えっ?」
すぐさまレイが反応する。
「この石に描かれた模様……どこかで見た気がするのだ。
 私は独自に調べてみようと思う」
レイとカオスは、互いに一瞬だけ無言のままだった、が。
「わかった、気をつけて」
カオスは走り去ろうとした。
「カオス!」
レイの声に、カオスは振り向く。
「……また、会えるか?」
少し考えて、返事を返す。
「時が来れば、会えるだろう」
そして、カオスは氷雪の霊峰を降りていった。

 「デハ、ソロソロ……」
今度は、先ほどから何も話していなかったイオンが切り出す。
「わしのテレポートで行こう。ポケモン広場まですぐだ」
そう言ったフレッドの両脇に、レオンとビリーがつく。
ウィンズの4匹も近寄った。
「いずれ、お前達の目前に運命の時が訪れるであろう。
 それまでは、できることを1つずつやっていくがよい」
氷雪の霊峰を去る時、レイにはこんな言葉が聞こえた。

 ……ポケモン広場。
テレポートの着地点には、数匹のポケモンがいた。
飛んできたポケモン達を見て、彼らは飛び上がるほど驚く。
「ウィンズ、と、FLB!」
「なんでこんなところに!?」
あせっている目の前のポケモンとは対照的に、落ち着いた調子でレイが言う。
「帰ってきたんだ。真実を見つけて」
相手は何も言わない。
「ケケッ!」
笑い声とともに、ダークネス率いるイジワルズが現れる。
「真実を見つけてきたっていうけどよ、証拠はあるのかよ?」
ウィンズにとっては、痛いところを突かれた。
しかし、その後ろにいるビリーが一片の動揺もなく言い返す。
「オレ達が証人だ。今、フレッドとレオンが出かけているはずだ。
 ……そろそろかな?」
すると、翼の音が聞こえてくる。
ペリッパーだ。紙をばらまきながら飛んでいく。
その紙を1枚。ダークネスが拾い上げて読む。
「えーと……氷雪の霊峰にて、フレッドの立会のもと
 レイはキュウコンと話し、自分が伝説に出てくる人間ではないということを証明した。
 これにより、ダークネスの言っていたことは偽りだったことがわかった」
文章を読むダークネスの顔が、しだいにこわばっていく。
「ゲ……」
ダークネスは、周囲から冷たい視線を痛いほど感じている。
「ウゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲーーーーーーッ!!」
ダークネスとルビィとサペントは、全速力で逃げだしていく。
それを見て、レイが仲間達に呼び掛ける。
「さて、どうする?僕としては1発やりたいんだけど」
表情はいつもと変わりないが、何やらどす黒いオーラを出しているのが
ルナ達にはわかった。
「ああ。このまま逃がす気にはなれねえな」
グレアも乗り気だ。
その後ろで、イオンが両腕にエネルギーをためていく。
3匹揃って同じことを考えているということが、直感だけでもわかる。
彼らを見て、ルナは小さくため息をつく。
「……じゃ、私も」
そして、一行はイジワルズを一瞬で追い詰める。
「というわけで……」
いつもは飄々としているイジワルズの3匹も、今ばかりは怯えている。
だが、今のウィンズにはもはや「見逃す」という選択肢はない。
「覚悟――っ!!!」
4匹まとめて総攻撃を仕掛ける。
その威力は計り知れない。
「ぎょええええええええええーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!」
この時、イジワルズの断末魔とも思われるほどの絶叫が、ポケモン広場全土に……
いや、氷雪の霊峰まで響き渡ったという。




Mission08。長かった逃避行もこれで終わりです。
やることが多かった割には短くまとまったかもしれない。
まだまだ満足できるレベルではない……今後もっと質を上げていかねば。

2008.04.10 wrote
2008.04.30 updated


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