09 大騒ぎ




 ウィンズがポケモン広場に戻ってきてから、またいくつかの時が過ぎた。
彼らは探検隊としての活動を再開していた。
自然災害はその勢いを増す一方だったが……
今は、自分達にできることをしていく。
という日々が続いた。

 そんな、ある夜のこと。
レイは、夢の中でセラフと会った。
「久しぶり……かな。旅に出る前夜以来だから」
「はい、お久しぶりです」
今回は、自分から話しかける。
「氷雪の霊峰まで行ってきた。真実を見つけてね」
レイは今回の旅のことを、セラフに話した。
自分は伝説に出てくる人間ではなかったということ、
それに謎の石のこと。
一通り話が終わったところで。
「僕じゃないなら一体誰が伝説に出てくる人間なんだろう。
 セラフを見捨てて逃げただなんて……」
今まで聞き役に回っていたセラフが、ここで話す。
「はい、ヒドい人です。意地悪したり騙したり、本当に……」
そう話しながらも、セラフが笑顔でいるのが
レイにとっては不思議なことだった。
「でもわたし、あの人のことを恨んでません」
「え?」
表情だけでなく、台詞まで意外だ。
「本当に、どうしてでしょう?なぜか憎めないんですよね……」
セラフが、さらに付け加える。
「わたしはキュウコンのタタリになって、実体のない存在になってしまいましたが
 そんなに嫌ではないんですよ?」
話を聞いている途中、レイは新たに何者かの気配を感じた。
その気配の主は……ルナだった。
「あれ……レイ?」
「ルナ、どうしてここに?」
「今の役割に慣れて、こんなこともできるようになったんですよ」
突然この夢の中にルナが入ってきた理由を、セラフ本人が答えた。
しかし、レイには1つの言葉が気になっていた。
「……役割?」
「万物にはそれぞれの役割があります。
 わたしにはわたしの役割があるように、あなたにはあなたの役割があるのです」
話を聞いて、レイは氷雪の霊峰でイマーゴから聞いた話を思い出した。
「役割か……。世界を救うっていう?」
セラフは返事を言葉では返さなかったが、肯定しているように見えた。
「あなた自身の記憶を探すことが、その役割につながっていくでしょう。
 地道に行動を続けていけば、チャンスは訪れます。
 今、わたしが言えるのはここまでです」
セラフの話は、それで終わった。

 そこで、目が覚めた。
レイはイオンとともに小屋を出る。
すると、そこには2匹の青いポケモンが訪れていた。
「ア、 アノー……」
2匹のうち小さい方のポケモンが、話しかけてくる。
「直接依頼しても、大丈夫なノ?」
「う、うん、かまわないけど……」
とりあえず返事をする。
「ボク、ソーナノ。で、こっちはソーナンス」
小さい方のポケモンが自己紹介する。
「ソーナンス!」
今度は大きい方が、右手を頭に当ててあいさつをする。
小さい方――ソーナノが、依頼の説明をしていく。
「森でマンキー達が暴れて、みんな困ってるノ」
「ソーナンス!」
「なんで機嫌が悪いのかはわからないけど、とにかくすぐ他のポケモン達に襲ってくるノ」
「ソーナンス!」
ソーナノの説明の合間に、ソーナンスが相槌をうつ。
――このポケモン、他のことはしゃべれないのか?
レイはそんなことを考え始めていた。
しかも、見てみると毎回手を頭に当てて「敬礼ポーズ」をとっている。
「わかった。やってみるよ」
今は急ぎの依頼もないため、引き受けることにした。
「よろしくお願いナノ!」
「ソォー……」
ソーナンスは、ここで言葉を一旦区切る。
「……ナンスゥゥゥ!!!」
そこで、一際大きな声を出した。

 ソーナノの話によると、マンキー達が暴れているのは騒ぎの森だという。
合流したルナとグレア、そしてイオンを引き連れ
レイは騒ぎの森に入っていった。
「暗いな……」
「気をつけろよ」
薄暗い森の中を、一行は慎重に進んでいく。
心なしか、グレアがいつもより静かだった。
考え事をしているようだったが、仲間達に気づかれないように振舞ってもいた。

道すがら、レイは昨夜見た夢の話をした。
「あっ、私も同じ夢を見た。レイがいてびっくり」
「やっぱりか。いつもながら不思議な夢だった」
少しの間、無言が続いた。
「にしても、さっきの大きな方のポケモンは何なんだ?」
レイが思い返して言う。
「え?」
ルナは、いやグレアもだが、あの場にいなかったので知らない。
「『ソーナンス!』シカ言ワナカッタ」
「相槌打ってばかりだった」
「そりゃ、ある意味面白いかもな」
「なんだか妙に印象に残ってしまったよ」
そんな時。
レイと話していたグレアは、何かの気配に気づいた。
話に夢中で前方を見ていなかったのだ。
「おっと!」
「ひゃっ!?」
目の前に、1匹のチェリンボがいた。
ぶつかる寸前だった。
「だ、大丈夫?」
ルナが声をかける。
「大丈夫このくらい……」
そう言って、すぐ去っていく。
「行っちゃった……」
「何なんだ、今のチェリンボは?」
「サア……」
よくわからなかった。しかし。
「うひゃああああああああっ!!?」
さっきのチェリンボが行った方から、大声が聞こえてきた!
「もしかして、さっきの!?」
「行こう!」

 その先は、開けた空間になっていた。
チェリンボがいるが、おびえているようで動くことができない。
レイは辺りを見回す。そして、チェリンボがおびえている理由に気づいた。
「な……!?」
大量の野生ポケモンが、そこら中に集まってきているではないか。
タネボーにナゾノクサ、ロゼリア、その他にもたくさんいる。
「これは、モンスターハウス!」
「なに!?」
グレアの言葉に、レイが聞き返す。
「文字通り、野生ポケモンのたまり場よ!」
「10……いや、15ってとこか?」
「敵意ヲ感ジル。来ル!」
大勢の野生ポケモンが、一斉に襲い掛かってきた。
「あわわわわ……」
チェリンボは動くことができない。
「逃げられる相手じゃない。やる!」
レイはそう判断した。
チェリンボを見捨てることはできないし、それでなくても数が多すぎる。
「袋叩きにされないよう注意しろよ!」
グレアが骨を投げつける。狙い誤らずに目の前のタネボーに命中した。
「みんな、気をつけて!」
ルナがれいとうビームを放つ。
その横にいるイオンは、惜しみなくマグネットボムを撃ち込む。
しかし、遠くからも攻撃が飛んでくる。
マジカルリーフをルナが受け止めると、
レイがその間に割り込み、敵を切り払う。
さらにグレアがレイの頭上を飛び越え、上空から骨をたたきつける。
4匹はチェリンボを守りながら、力の限り攻撃し続けた。

 数分後。
銀色のレーザーが、ロゼリアを弾き飛ばした。
それによって、辺りには静寂が戻った。
「片付いたか」
グレアは骨を空中で振る。
「大丈夫だった?」
レイは大きく息を荒げていたが、大丈夫だと表情で表わす。
イオンも平然としている。
仲間達を見回した後、ルナはまだ動けないでいるチェリンボに近づく。
「私、ルナ。あなたは?」
ルナのやさしい声に、チェリンボの緊張は解ける。
「あ、あたし、ロット。もう大丈夫?」
「ええ、片付いたはずよ」
「ふうー……」
どうやら安心したようだ。
「実は、森を歩いていたら道に迷って。外には出られないし、ポケモンには襲われるし、
 本当に怖かった……」
「ねえ、この子助けてあげようよ」
そう言われて、レイは少し考える。
「助けられるけど、依頼中だからね……。マンキー退治が片付くまで、連れていけるなら」
「お前がいいなら俺はかまわないぜ。守ってやればいいだけだ」
「話ハ決マッタカ」
話を聞いたルナは、再びロットに問いかける。
「というわけだけど、どうかな?」
「う、うん、お願い!」

 こうして、ロットを救助したウィンズは
そのまま騒ぎの森の奥に進んでいく。
「そうだ、僕達はこの森で暴れているというマンキーを退治しに来たんだけど
 何か知らないかな?」
レイがロットに聞く。
「うーん、詳しいことはあたしも知らないな。
 ただ……うかつに関わるとすごいことになるってくらい」
「すごいこと、ね……」
ルナの顔が青い。
「大丈夫だって、ルナ。さっくり片付けよう」
真実を見つける旅を終えてから、レイは強気になっていた。
しかし、いつもならここで話に乗るはずのグレアが何も言葉を返してこない。
「あれ?どうした?」
レイの声にグレアが気付く。
「……いや、なんでもない」

 森の奥にたどり着くと、薄茶色のポケモンが3匹、
何かを囲んで座っていた。
しかし、機嫌が悪いということがわかる。
理屈じゃない。背中越しでも不機嫌なオーラが出ているのだ。
「ムキーーーーーーッ!!!」
その声とともに、何かが飛んできた。
「いてっ!?」
それはレイに当たった。
拾って見てみると・・・トゲのたくさんついた、球のようなものだった。
そして一行に気づいたらしく、3匹のポケモンがこちらに向き直る。
「なんだ、おめえらは?」
3匹のうち1匹が、詰め寄ろうとしてくる。
「マンキー、か……?」
「イヤ、オコリザルダ。進化シテイル」
「なに!?」
イオンの言葉に、レイは驚いた。
ルナも予想外の事態に言葉が出ない。
退治する対象のマンキー達は、オコリザルに進化していたのだ。
「進化していてもわかるぜ。やはりお前らだったか」
呆れ気味な表情で、グレアが言い返す。
「知っているのか?」
レイの質問。しかし答えるのはルナだった。
「昔からグレアとよく戦ってた、3匹のマンキーよ。
 1対1ならグレアが勝つんだけど、いつも3対1で向かってきていたの」
「まあ、そんなとこだな」
オコリザルがさらに距離を詰める。
心なしか、顔に青筋が浮かび上がっているように見える。
「久々だな。バーサ、アーガ、フーリ」
3匹のオコリザルの名を呼ぶ。
「何の用だ、グレア?」
「お前らを倒しに来た」
臆することもなく言い返す。
「お前がか!?おい、聞いたかお前ら!」
「おう!オレらに1度も勝てなかったこいつが、あんな大口をたたいてるぜ!」
「ははははは!これが笑わずにいられるかってんだ!!」
3匹のオコリザルは、大声で笑っている。
「それはあなた達が3匹で向かってくるからじゃない!
 1対1ならグレアが勝ってたわ!」
ルナが本気になって言い返す。
「何言ってんだ!勝てばいいんだ、勝てば!」
笑うのをやめようとしない。
ルナが何か言おうとしていたが、止める。
「いいんだ、ルナ。これは俺の問題だ。
 レイ、イオン、俺に任せてくれないか」
3対1の勝負を挑む。
「お前のその生意気な台詞、なつかしいぜ……」
「ああ、いつもムカついてたぜ……」
その言葉を最後に、しばらくにらみ合いになった。が、
「ムキーーーーーーッ!!!」
「コノヤローーーーーーッ!!!」
「ヤッチマエーーーーーーーーーッッ!!!!」
一斉に襲い掛かってきた!
「危ない!」
しかし、グレアにはロットの声も届かなかった。
何もかもが、止まっているようだ。
――斬る。

 次の瞬間、レイ達の目の前に3本の太刀筋が見えた。
半月型に残った、グレアの攻撃の残像だった。
そして、3匹のオコリザルは地面に伏していた。
「俺は……強くなったんだ」
オコリザル達は、ぐうの音も出ない。
「さあ、帰ろうぜ」

 一行は、予定通りオコリザルの集団を倒し
さらにロットを救出して、騒ぎの森を出ていた。
「みなさん本当にありがとうございますナノ」
ソーナノは、ぺこりと頭を下げる。
「ソーナンス!」
一方のソーナンスはいつものポーズだ。
「これ、受け取ってほしいノ」
ソーナノから受け取ったもの……
それは、数個のイガグリ。
「……えーと……」
どう反応していいかわからないレイ達だった。
「実はボク達・・・お金とか持ってなイノ。
 こんなものしか持ってなイノ……」
「ソーナンス……」
ソーナンスはいつもの敬礼ポーズを取るが、声が小さかった。
「あ、ありがとう……」
ルナは、とりあえずイガグリを受け取ることにした。
だが。

「ムキーーーーーーーーーーーーッッ!!!!」

騒ぎの森で倒したはずの、オコリザルトリオが現れた。
不機嫌オーラが先ほどより強くなっていることを、一行は瞬時に察知した。
「こ、こっち来るよ!?」
「前後の見境もねえ!避けるぞ!」
その場にいた全員がオコリザルトリオの猛突進をかわす。
すると、3匹とも素早く向きを変える。
次に、一行にとってみれば意外な行動をとった。
ソーナノからイガグリを強引に巻き上げたのだ!
「クリの実――――――っ!!!」
意外な行動に、どう反応していいかわからないレイは、グレアに聞いてみた。
「これって……」
「そうだ。こいつらはクリの実が大好物なんだよ」
そう答えるグレアは、何やら頭が痛そうな表情だった。
すると、イオンが2匹の話に割り込んでくる。
「コノ3匹、使エナイカ?」
言いながら、イオンは小屋の方を向く。
「……なるほど」
イオンの言いたいことが、他のメンバーにも理解できた。
そうと決まれば。
「おい、お前ら」
クリの実を食べ終わったオコリザル達は、グレアの声に顔を向ける。
「そんなにクリの実が食べたけりゃ、俺達に協力してくれないか?」
オコリザル達の表情が変わる。
「協力?」
「俺達は、この小屋を改築しようとしていたんだ。
 その作業に、お前らも協力してくれという話だよ。
 協力するなら、クリの実を集めてきてやる」
「悪い話じゃないと思うけど、どうかな?」
グレアの話を、レイが後押しする。
話を聞いたオコリザル達は、仲間同士で話を始めた。
「相談しているみたいね……」
「ソーダンス」
いきなり割り込んできたソーナンスに、ルナは少し驚いた。
いや、驚いたのはレイも同じだった。
「ソーナンス!」以外の言葉を聞くのは初めてだったから。
しばらく相談していたが、やがてバーサが答えを出す。
「いいぜ、やってやる」
「任せとけ」
「その代わり、クリの実よろしくな」
アーガとフーリも、バーサに続く。
「じゃ、ボクらも手伝うノ!」
今度はソーナノだ。
「ソーナンス!」
ソーナンスも。
「よし、それじゃよろしく頼むぜ!」
グレアが声を張り上げた。

 「あっ、そうだ!」
今度は、さっきから何も話していなかったロットが口火を切る。
その言葉はウィンズに向けられたものだった。
「あたしを……仲間にしてほしいの」
突然のことでびっくりするウィンズの前で、ロットは話を続ける。
「実はあたし、行くあて無くて。自然災害のせいで、住む場所も無くなっちゃったし」
そう語るロットの目は、さびしさが浮かんでいた。
こんなところにまで災害の影響が出ていることを、レイ達は実感せざるを得なかった。
「あたしを助けてくれたみんなと、一緒にいたい。お願い」
少しだけ考える、4匹のポケモン達。
「私としてはいいんだけど……レイ、イオン、大丈夫かな?」
ルナは、新しい基地の設計図のことを気にして問いかける。
「問題ハ無イ。1匹分ナラバ対応デキル」
「その通り。仲間が欲しいって、前に大いなる峡谷で話してただろう?
 だから、メンバーが増えることも想定していたんだ。
 もちろんそのことを抜きにしても、大歓迎するよ」
その言葉にイオンも同意する。いつもながら無口だ。
あとはグレアだが。
「そうだな、俺も異論はない。にぎやかになっていいかもな」
「よし、それじゃ決まりだね。よろしく!」
言うが早いか、ロットはルナに飛びついた。

 その翌日から、探検隊ウィンズの基地を改築する工事が始まった。
基地にはレイとイオンが主に残り、
オコリザルやソーナノ達とともに作業を行う。
一方、ルナとグレアは新入りのロットを連れて
騒ぎの森でイガグリを探す。
そして、新しい基地は日ごとに完成に近づいていく。

 ――1週間後。
ついに、基地は完成の時を迎える。
「終わったか……」
目の前には、日の目を迎えた大きな建物。
この基地を預かるリーダーは、自分の目で内部を見ていく。
2階建てで、1階には広い部屋と倉庫がある。
2階に上がればメンバーの個室。メンバーの増加にも見事に対応した。
レイが戻ってきた。
「いい感じだ。設計してよかったと思える」
その言葉にソーナノが返す。
「お役に立ててよかったノ!」
隣ではソーナンスが、いつものポーズを決めている。
「ソーーーーナンス!!!」
このポーズも見慣れたものだと、レイは感じていた。
ここ数日の間、毎日軽く10回以上は見ているポーズだった。

 ウィンズの5匹は、再び基地に入る。
1階の大部屋では、オコリザルトリオがクリの実を食べていた。
「ああ、うまいぜ!」
「本当にたまらんな!」
彼らはウィンズに気づいて振り返る。
「あのよ、ちょっと聞きたいんだがよ……」
アーガが話を切り出す。
「基地が完成したということは、もうクリの実がもらえないってことか?」
レイは言葉に詰まった。が、それに気づいたグレアが返す。
「ま、そういうことだな」
グレアは平然と言い放ったが、この場に嫌な雰囲気が漂うのは本人でもわかっていた。
オコリザルトリオの顔に刻まれている青筋がいつもよりはっきりしている。
「ムキーーーーーーーーーッ!!!」
「チキショーーーーーーーーーッ!!!」
「ぶっ壊あああああああああす!!!」
オコリザル達は暴れようとした。
だが、彼らの目前を灰色の影がかすめた。

 次の瞬間、3匹のオコリザルは床に倒れ伏していた。
そして、またしても三日月型の残像が3筋残った。
「こ……この野郎……」
「少しは落ち着くことを覚えろよ、この暴れザルが」
今日のグレアの頭に、手加減という文字は無いようだった。




Mission09、騒ぎの森。
ロット登場と基地改築をメインに持っていきました。
これで、性格でもバトル傾向でもバランスよくなってきたかな?
いや、まだ前者に関しては大人しめかも。

原作ではマンキートリオでしたが、進化させてみました。
ちなみに、グレアが使った技はつばめがえしです。
アニメのような高速飛行ではなく、剣技のつばめがえしという設定。

次章からは新展開。お楽しみに!

2008.04.22 wrote
2008.05.13 updated


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