刹那と永遠 - Moment and eternity -

刹那と永遠 - Moment and eternity -

2006.01.31
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■1月29日(日)  「贋作・罪と罰」



 (覆された宝石)のような朝

 何人か戸口にて誰かとささやく

 それは神の生誕の日。


           (「天気」西脇順三郎)




私が野田秀樹さんの作品が好きなのは

彼の描く世界は
音も韻も意味も美しく

心の中にある
垣根の無い広い蒼空
想像力の広がりを教えてくれるからだ

そして彼の


言葉だけが上滑りしていくような
「思想に殺される」風習や
「気分」や「空気」(今の日本を象徴していたりする)
を嫌う嗜好からみられる

きっぱりとした
正義感の強さも好きだ

純粋で真っ正直で素朴(シンプル)な創造をし
開放感とスピード感溢れる

遥か彼方を見通す世界に

ついに私は
今日、足を踏み入れる








周囲を観客がぐるりと取り囲んだ
シアターコクーン中央の舞台

ドアがわりにたてられたポールふたつと
中央に椅子ひとつ

友人と歓談しながら


暗闇の中からいつのまにか
役者が舞台にフェードインしてきた

金貨の音を規則的にじゃらん、じゃらんと鳴らして
背中を丸めて椅子に座り込んでいる
金貸しの老婆(野田秀樹)

舞台の周りを静かに音もなく
廻り続ける娘

黒い袴を着た女塾生・三条英(松たか子)が
だだだん!と鋭く運命の戸をたたく

リズムは既に刻まれている

殺人現場はカーテンで突如、隠される
観客に聴こえるのは
英が老婆に斧を振るう音のみ

いやおうがなしにその音は
殺人の音(リズム) として
観客の記憶に刻み込まれる

業突く張りな老婆と
罪無き清らかな娘を殺し
境界線を越えてしまった英の衣装は

血で染めたような赤

ほとんどモノが置いてない舞台

椅子を手にして
舞台の周囲を取り囲むように
椅子に座って
出番までスタンバっている出演者たち

英の 「赤」
才谷、司之助らの 「黒」 の衣装

これって
つい先日見たバレエ

シルヴィ・ギエムの「ボレロ」の世界だ

(「ボレロの感想でも『がらんどうの舞台がNODA・MAPみたい』って言ってます(^^;)


さらに
この舞台は

椅子品評会あるいは 椅子祭り?

小学生の教室で転がっているような小さな木の素朴な椅子(「キル」にも登場していた椅子です)

背もたれの長いせいたかのっぽの椅子(これも「キル」に登場していたカタチです)

会社の重役が座っていそうな黒の革張りのオフィス用の椅子

優雅な居間に置いてあるよなアールヌーヴォー調のソファ

紫のシンプルなソファ

さあ、あなたは

どの椅子がお好みですか?^^

椅子が速攻で組み立てられて
バリケードになり、舟になり

即興で棺にも馬にもなる

観客の想像のスピードよりさらに速く
役者は洒落に富んだ詩的な科白をめくるめく語りつつ
跳んだり跳ねたり走ったり、忙しい

そしてこのテンポの速さに乗せられて
気が付けば観客もすでに野田ワールドにマッピング






彼らの足元は 黒のスニーカー
統一されている

男性は ナイキ
女性は アディダス

ただし野田さんは女性の役柄なので
アディダス を履いている(←ブランド名すべてAちゃん確認)

「キル」再演で皆が
ケッズの白のスニーカー を履いていたように(←ブランド名Bさん確認)
MAPの面々はスニーカーで登場することが多い

彼らは板の上のアスリート

舞台を走る、跳ぶことを前提とした 心意気
このスニーカーに集約されているようで
とても、好きだ

スニーカーの心意気は
舞台にも存分に発揮されていた

登場人物は
板の上の大運動会モードで皆駆け回り

よく見れば足元は 常に踵あげ状態
フットワークも軽やかナリ

椅子で出来たバリケードに
びょん!っと飛び乗った英の父(←中村まことさん・・・よかったわあ^^)の身軽さや

一瞬、空中に浮いてたんじゃねえか?ってくらいに
滞空時間の長い
野田ババアのジュデ(跳躍)

彼らに負けじと英も
足を開いてぴょん!と漫画のように飛び上がったり
一陣の風のようにすたたったーと駆けていた

アタマとカラダの切れのよさが小気味よい
凛とした立ち姿、よく通る声(姉・紀保ちゃんに似てるね^^)
ぴんと張り詰めた女・三条英

罪の意識に苛まれて
張り詰めすぎてテンパリ気味
じりじりを焦りを隠せない姿が
ああ、痛々しい

このテンパった英を

ど~ん と受け止めるのは

大川の川の流れのように
器の大きな男・才谷(=坂本竜馬・古田新太)


「オレのカラダには金が流れている」


金策に東奔西走する才谷
彼の野望は一体何か?

おまけに
敵か味方か
どこまで本気なのか
すべてが冗談なのかもわからない

非常に食えない
懐の深い男 である

そして役者の体格から受ける印象なのか(^^;)
鷹揚とした柔軟さと余裕と優しさに満ちている

「気分」だけで盛り上がって
境界線を踏み越えてこない 「ええじゃないか」
尊皇攘夷も大政奉還も

細く切れ長の「竜眼」(天子の相) を持つ
竜のようにデカイ存在の才谷にとっては
ちっぽけな争いごとに過ぎないのかもしれない

竜の眼は
スケールの大きな独自のビジョンで
新しい時代への
扉を開ける

それはいとしい
英への扉でもある訳だ


「女が男を待つんじゃない。男が女を待ち続けるんだ」=「国とは女ぜよ!」

(ちょいと「つかテイスト」感じました(^^ )


ラスト近く
才谷がこちらを向き
英があちらを向いて
舞台にたたずむ場面があった

照明の加減で
顔半分が陰に隠れ

その竜眼をさらに細く険しく深くして
肩幅より少し広めに足を開いて
凛とたたずむその厳しい姿に

役者・古田新太の 「修羅」 を見た







さらに
才谷の ゆったりとした匂うような色気
相反して

段田司之助(段田安則)の シャープで無臭な色気
どうしたことか!!

段田さんを
初めてナマでお見かけしたのは
「ダム・ウェイター」の観客席

どーみても
フツーの 地味なおっちゃん だったのに


この 板の上での輝きようは一体何!?

「幻に心もそぞろ~」の凛々しき三郎と対面した時も
その普段とのギャップに驚かされたものだが

今回の司之助は三郎以上に


や ら れ ま し た


芝居の間やキレのある声
科白を総合して創られる渋さが

たまらん。

空気を作るのがとにかく旨い
場面を支配するような威圧感(そういう役だしね)
要所で鋭く光るあの、眼


たまらん。


英への複雑な想いもちらほら見せながら
知性と猜疑心の塊である男の
心の葛藤を見事に表現

司之助と英が対峙したときの緊迫感
司之助と才谷がからんだときの芝居の面白さ
安定感抜群のゆるぎなき 存在感


・・・たまらん!!



そしてそして
わすれちゃならない
野田秀樹ばあさん

誰よりも誰よりも
ナマでおめにかかりたかった
この御仁


やはりすごいデス


地の底から響くようなしわがれた低音から
耳にキンキンくるようなババアが叫ぶ高音まで
実に 七色の声を発し

背中に羽が生えているように
軽やかに跳びます

Aちゃんレポートによると
野田ばあさんは自分の休憩中
水を飲みながら
舞台を眺めていたのだそうだが

そのときの視線は
役者の眼ではなく

演出家のシビアな眼 だったそうだ


それにしてもこの妖精さんは
少年とばあさんのイメージが強いなあ^^


・・・真ん中がないぞ!!


「罪と罰」では
英に殺される金貸しババアと
英の母・清を演じている

野田ばあさんといえば
ヒイバア@パンドラの鐘であるが

清ばあさんもヒイバアに負けず劣らずの 俗物

カネのためなら苗字さえも売りはらう
プライド無き清を
英はすっかり見放している

英の中では
金貸し老婆以前に

清は既に殺されてさえいるのかもしれない

それでも英にすがりつく清
母娘のしがらみ

新しい国の夜明けを迎えるのと一緒に
古きものとの境界線も
越えたかったはずの英

しかし
続いていく「生命」に対する冒涜
大地を汚した己の罪に
気づいた英は

将軍の扮装をした清に
やさしく、言う



「生きてください」








「私はね、自分の罪がわからないの!絶対に!今ほど強く正しかったと思ったことはないわ!」


罪がわからない、という己の「罪」を叫び

カラダの奥からえぐりだされるような
痛々しい嗚咽の後

憑き物がおちたように明るく
英は言う



「才谷、もしあたしが間違っていたら許してね」

あまりに可愛らしくていじらしくて

だきしめたくなりました

ひととは間違えるもの
知らずに罪を犯すもの

罪は必ず罰を受け
いつしか愛に許される

幕末の乱世に
滝のように流された血で穢れた大地を

英の大地への接吻と
天からの白い雪が清めていく

白い雪の上を紐につながれて歩く英

大地は乱世の罪を許し
竜の眼によって
新しい時代を生誕させるのだ




生きていろよ、あたしの彼方で。

彼方?

彼の方角と書いて彼方と呼ぶのよ。
だからお前のいるところはいつも、これからはあたしの彼方よ。




彼方を見つけた英は
才谷を失うという悲しい罰を受けるが

才谷と出会い、育まれた愛に許されて
英は光の中で生きていけるはず


「才谷、愛しています」
彼方に向かって放った
英の澄んだ声が

今も耳に、残る







暗転の後も英は
役から抜けきれず

笑顔一つ見せなかった

観客の顔の中に
才谷の姿を探すような眼をして
彼方を見ていた

しばらくすると
才谷がにこやかに
英の肩を抱き寄せていた

才谷は 「光のハンモッグ」
こんな風にやわらかく
英や、まわりのひとたちを包んでしまうんだなあ^^

数回繰り返されたカーテンコール
最後に野田さんがひとりで登場し

皆の拍手に答えて
四方に向かって

「土下座」 という名の
舞台への接吻をした。










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最終更新日  2006.02.01 09:05:59
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