『爆弾ポンスケ』



登場人物表

川西 蔵六(二二)男性。金山組若衆。

加地 紗月(一七)女性。たこ焼き屋の娘。

田槙(四六)男性。金山組代貸。
山江(三五)男性。金山組幹部。
室川(三六)男性。金山組幹部。

小武(三五)男性。小武組組長。
梅若(四五)男性。捜査四課刑事。

成松(四三)男性。金山組若頭。
金山(五〇)男性。金山組組長。

松坂 凡助(?)男性。元ヒットマン。





●盛り場・夕
   安い一杯飲み屋が建ち並ぶ通り。
   じくじく降る雨、点き始めのネオン。
   灰色の空の下、行き交う傘。
   その狭間、肩寄せ歩く成松と蔵六。
   一本の傘を分け合って。
成松「おう、もっと寄らんかい。ワシまで濡
 れとるがな」
   遠慮ぎみの蔵六を引き寄せる。
蔵六「す、すんまへん。差してもろて」
成松「そう思うんやったらもっと背ぇ伸ばせ。
 牛乳飲んどるんか」
蔵六「あ、あんまり・・・」
成松「一日ワンパックや。あと煮干し頭から
 齧るんもええらしいぞ」
蔵六「だ、出汁とるやつでっか」
成松「そうや。あとサバ缶も」
蔵六「え、えっと・・・」
   懐を探って汚いメモ帳を取り出す。
成松「それくらい空で覚えい。ぶきっちょな
 やっちゃ」
蔵六「すんまへん、すんまへん・・・」
成松「あのままワシが来なんだら、どうする
 つもりやったんや」
蔵六「・・・・・・」

●喫茶店・窓際・午後(蔵六の記憶)
   最後まで残したバナナを頬張る田槙。
   底に溶け残った氷を頬張る蔵六。
田槙「ワシと梅ちゃんは互いの弱いとこまで
 知り合うとるんや。まさに<チクビの友>
 ちゅうヤツやな」
   口の中を見せてガハハと下品に嗤う。
   蔵六、氷を嚙み砕きながらポカン顔。
田槙「笑うとこやぞ」
蔵六「あ・・・へへ・・・」
田槙「とにかくや、最後に物を言うんは人脈
 ちゅうこっちゃ。兄い、おのれのおやじが
 今の椅子に収まっておれるんも県議の先生
 のタマをギューッと掴んどるからやで」
蔵六「はあ・・・」
田槙「くたばった室川らはその辺を頓着せん
 かったからな、十年渡世を渡っても木っ端
 止まりよ。それに比べて小武見てみいや、
 同じような年で一家束ねよってからに近頃
 じゃ貫禄まで出てきよった」
蔵六「・・・やっぱり小武なんやろか」
田槙「何がや?」
蔵六「ポンスケを道具にしとる外道・・・」
田槙「お、もう暮れ時やな」
   唐突に話題を変える田槙。
   伏せられた伝票を確かめ懐を探る。
田槙「ちょっ、ねえちゃん。ここカード使え
 るんか?」
   ウェイトレスを呼び止めて。
ウェイトレス「すいません。ウチは現金だけ
 ですねん」
   若いウェイトレス、おどおどして。
田槙「さよか。弱ったのう・・・」
   立ち上がって蔵六の肩をポンと叩く。
田槙「ナマ忘れてきとるわ。すまんけどここ
 は用立てといてくれや」
蔵六「わ、わ、わ、ワシも・・・」
   蔵六の訴えを待たずに立ち去る田槙。
   呆然と見送る蔵六。
   いつの間にか伝票を握らされて。

●沖縄居酒屋・テーブル席
   奥まったテーブルに差向う成松と蔵六。
   蔵六、成松のコップに瓶ビールを注ぐ。
   泡の加減が絶妙である。
成松「巧いやないか。どこぞで酌の修行でも
 したんか」
蔵六「が、ガキの頃、親父によう注がされた
 んです。泡が立たなんだらしばき倒される
 よって、嫌っちゅうほど練習して・・・」
成松「そりゃあ難儀やったのう。どれ、ワシ
 にも貸してみい」
蔵六「あ、あきまへん・・・」
成松「何があかんねん」
   蔵六から奪った瓶を空コップに傾ける。
成松「コラ、ちゃんと持っとかんかい」
   コップに恐る恐る手を添える蔵六。
   上の縁ぎりぎりに溜まる貧相な泡。
成松「こらあかん。ワシもお前の親父さんに
 どつかれるわ」

●同・承前
   酒が入ってますます小さくなる蔵六。
   真っ赤な顔でコップを両掌で包んで。
   成松、涼しい顔で泡盛を啜る。
成松「おじさんの与太を鵜吞みにしとったら
 えらい目に遭うで。なにが『ワシがつけた
 刀傷』や。クソ漏らしながらめくら滅法に
 振り回した長ドスがたまたま当たっただけ
 やないか。誰でも知っとる話やで」
蔵六「・・・・・・」
成松「けど、おやじと小武に対する目利きは
 正確や。正直言うてな、おやじは一家を構
 える器やないわ。嵐が過ぎるんを隠れて見
 とったら、ぼた餅が飛んできたようなモン
 や。本部の仲裁で跡目を継げたんはええが、
 駅向こうのでかい商店街やら色町やら丸々
 小武に持って行かれてもた。こっちの手に
 残ったんは雨漏りするアーケードと安物の
 盛り場だけ。もう先は見えとる。おやじに
 出来るんは議員センセイに見放されんよう
 せっせと御奉仕することぐらいや」
蔵六「・・・いろいろややこしいでんな」
成松「この稼業、ややこしないことの方が珍
 しいで。お、もずくの天麩羅美味いぞ」

●新地・夜
   高級クラブの入ったビルの前。
   走り出すハイヤーを見送る金山。
金山「内久保センセ、ほなまたよろしゅう」
   媚びた笑みで白いハンカチを振って。
   テールライトが小さくなるや真顔。
金山「・・・やれやれやの」
   両脇から体を圧しつけるホステスたち。
ホステスL「ねえ、社長さん。はよ飲みなお
 しましょ」
ホステスM「夜はこれからやで。たっぷりと
 サービスしたげるわ」
   露わな膨らみを腕に当てて。
   鼻の下を伸ばしかける金山。
金山「ほうかほうか。ここらも久しぶりや。
 どれ、おとうちゃん一丁奮発するか」
   苦い顔の若衆たちが取り囲む。
若衆K「接待はもう済みましたやろ。さっさ
 と戻りまっせ」
金山「そない殺生なこと言うな。この子らが
 寂しがるやないか」
若衆I「狂犬が野放しになっとるの、まさか
 忘れてまへんやろな」
   金山、一気に酔いが醒めた顔。
   ホステスたちの手を解いて。
金山「すまんのう。今ちびっとややこしい時
 なんよ。今日のとこは堪忍してな」
ホステスL「えー。つまらんわあ」
ホステスM「ちょっとおにいさん、ウチらの
 仕事の邪魔せんといてよ」
若衆J「邪魔とは何や。こっちも仕事やぞ」
ホステスM「知らんがな。それよりこっちの
 食い扶持、保証してくれるんか」
若衆J「ほんだらおのれは親分の安全を保証
 してくれる言うんけ」
   ヒートアップする二人。
   胸と胸をぶつけんばかりの剣幕。
金山「まーまー、若いもん同士仲良うしいや。
 こないなとこでいがみ合うんは野暮ちゅう
 もんやで。なっ」
   貫禄はどこへやら、仲裁する金山。
   その時、頭上でネオンの放電音。
   続く金属の軋み音に見上げる若衆I。
若衆I「あッ、あかんッ!」
   金山に飛びついて地面に覆い被さる。
   呆然とする若衆JとホステスM。
   間髪入れず巨大な物体に押し潰される。
   落下した看板の下から滲み出る血肉。
金山「ヒッ、ヒィッ! ポポポ、ポンスケや、
 ポンスケがおる!」
   腰を抜かして立ち上がれない金山。
   庇うようにして周囲を見回す若衆I。
若衆I「どこやぁ外道! 出てこいやぁ!」
   ドスを抜いて体の前に構えた瞬間。
金山「は、はよ何とかせえ、ポンスケ殺らん
 かい!(蹴)」
   後ろから蹴られて蹲る若衆I。
若衆I「あ・・・」
   自らのドスで喉を貫いてピクピク。
   活人画のように凍りついた他の面々。
   やがて呪縛が解けたように叫び始める。
若衆K「何やったはるんですかぁぁぁ!」
ホステスL「ギャーーーーー!!!」

●マッサージ店
   エスニックな雰囲気の施術室。
   並んだ施術台に成松と蔵六。
   共に裸の背中をタイ人女性に揉ませて。
成松「あー、体の隅々まで血ぃが巡りよるわ。
 のう、凡助」
蔵六「あ・・・あのう・・・」
成松「何や、具合ようないか?」
蔵六「ワシ・・・か、川西だす・・・」
成松「・・・すまんの。素で間違うた」
蔵六「か、カシラ、ポンスケとは・・・」
成松「弟分の中じゃ一番目ぇかけとったんや。
 ここにもよう連れて来た。それでやな」
蔵六「せ、せやのにあないなこと・・・」
成松「あの時ワシが呉に使いに出てなんだら、
 アレを止めてやれたかもな。帰って来た時
 には後の祭りや」
蔵六「み、みんなポンスケのことノーバイの
 ヤクネタや言いよりますけど、ほ、ほんま
 のとこはどないで・・・?」
成松「半分尾鰭で残り半分は辻褄合わせや。
 おやじやおじきに都合ええように」
   ストレッチされながら続く会話。
   二人ともヨガのように不自然な姿勢。
成松「のう、六よ」
蔵六「・・・へえ」
成松「お前も、人を信用しすぎんようにせえ。
 世間ちゅうのは二枚舌の蝙蝠ばっかりや。
 年中他人を騙くらかして、隙あらば上前を
 はねようとしとる。それに比べてどうや、
 凡助やお前みたいな奴を待っとるんは惨憺
 たる鮟鱇の運命やぞ」
蔵六「・・・・・・」
   不似合いな思案顔で黙り込む蔵六。
   蔵六の施術師がタイ語で何か言う。
成松「お前に質問みたいやで」
蔵六「わ、ワシにでっか?」
   続く言葉を聞きながら頷く成松。
成松「なんで鯉のぼりなんや、やて」
蔵六「あっ、墨でっか。これなあ・・・」
成松「言いにくいことか?」
蔵六「い、イヤ、そないなこと全然。ワシも
 言葉が足らんかったんかなあ。の、登り鯉
 がええ言うたら、コレになってもうて」
成松「んふっ、下手くそな漫才かいな」
   笑いを堪えて翻訳してやる成松。
   施術師もケラケラ笑って何か言う。
成松「かわいいね、やて」
蔵六「・・・か、かなわんわ」
   蔵六、存外満更でもない顔。
蔵六「か、カシラの墨はカッコええですな。
 めちゃめちゃ強そうや」
   薄ら汗に覆われた牛鬼の紋々。
成松「知っとるか、コイツは強いだけやない
 んやで。存在自体が祟りなんや」
   施術台に伏せて成松の表情は見えない。

●小武不動産・事務所・夜
   街路に面した応接室。
   客用ソファに悠然と座る後ろ姿。
   その周りに苛々した表情の社員たち。
   表の扉から入ってくる小武と女性秘書。
社員N「あ、社長。お帰りなさいませ」
   少しほっとした様子で。
社員N「先ほどからこちらの方が・・・」
   説明を待たず振り返る客。
   屈託ない笑顔の田槙、湯吞を掲げて。
田槙「よう。こんな時間までご苦労さんやな。
 結構な茶ぁ、頂いてるで」
   小武、にこりともせず。
小武「おじさん、アポなしは非常識でっせ。
 それにええんですか、堂々とこんな所まで
 乗り込んできて」
田槙「なに水臭いこと。おのれとワシの間に
 遠慮も遺恨もありゃせんで。今じゃ五分の
 兄弟やないか。おじき呼びも筋違いぞ」
小武「・・・兄弟、アンタみたいなお化けを
 知っとりますわ。勝手に人のうちに上がり
 込んで茶飲んでいく図々しいやつ」
田槙「相も変わらず言葉に棘があるのう」
   田槙の向かいに座る小武。
   手提げ鞄を受け取って下がる秘書。
   秘書の体の曲線を遠慮なく視る田槙。
   わざとらしく咳払いする小武。
田槙「ありゃええ女やな。色町にもそうそう
 おらんプロポーションやで。もう手はつけ
 たんか、ん?」
小武「・・・くだらん下世話をしにわざわざ
 喧嘩相手の本丸に?」
   呆れ顔の小武に顔を近づける田槙。
田槙「兄弟、敵を見誤ったらあかんで。ワシ
 はおのれと喧嘩しとるつもりはない。金山
 の兄いの肚は知らんけどな」
小武「アンタ、金山組の舎弟頭でしょうが。
 それともなんですか、線路の向こうじゃ蛇
 の頭と尾っぽは別々に動くんですか」
田槙「兄弟、そないな嫌みは交渉事の邪魔や。
 腹割って話そやないけ」
小武「腹割ったところで五臓六腑も見分けの
 つかん闇やろな。まあええ、聞きましょ」
田槙「・・・どこに隠しとるんや?」
小武「は?」
田槙「せやから、アイツや。ポ・・・」
   その時、大音響と共に割れる硝子。
   テーブルの下に突っ伏す小武と田槙。
   建物全体を揺るがす衝撃。
   朦々たる砂埃と白煙が応接室を覆う。
小武「何や、何があった!?」
   耳鳴りに苦しみながら叫ぶ。
   返事はなく、彼方此方で苦悶の呻き。
   思い切って立ち上がる小武の目に惨状。
   崩壊した事務所に倒れた社員たち。
   田槙、ソファの陰から怖々顔を出す。
田槙「こりゃまた、えげつない・・・」
   硝子を突き破って煙を上げる巨体。
   前面が無茶苦茶に壊れた路線バス。
   回送サイン、乗員乗客の姿は無い。

●大型商店街・午前
   アーケードの外れ、歩道橋の下。
   そぼ降る雨に打たれる蔵六。
   広げた新聞紙を傘代わりにして。
   影が差し、雨の音が途絶える。
   目の前に湯気立つビニール袋。
紗月「屋根の下で待ってたらええのに」
   蔵六に傘を差しかける加地紗月。
   学校制服の上からたこ焼き屋エプロン。
   発泡トレーの入った袋を受け取る蔵六。
蔵六「そ、そうもいかんねん。アーケードの
 下は小武のシマやさかい・・・」
紗月「何かえらいややこしいことになってる
 みたいやね」
蔵六「い、一歩でも入ったとこ見られたら、
 せ、戦争になってまう」
   あたふたと懐を探る蔵六。
   細かい小銭を紗月の手に握らせて。
蔵六「い、いつもありがとうな。紅生姜ケチ
 らんといてくれて」
紗月「ええんよ。六にい好きやもんね、生姜」
   明るく微笑んでいた紗月の顔が曇る。
紗月「・・・一個だけ聞いていい?」
蔵六「な、なんや」
紗月「あの人、ほんまに帰って来とるん?」

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