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元ハービー・ハンコックのヘッド・ハンターズの一員だったドラマーのマイク・クラークがハンコックの作品をトリオで演奏したアルバム。ヘッドハンターズの第1作「ヘッド・ハンターズ」ではドラムスがハーヴィー・メイソンでマーク・クラークは「スラスト(突撃)」から参加しているとのこと。期待していなかったが spotifyで聞いたところなかなか良かったのでいつものBandcampからハイレゾを$9でダウンロード。ブックレットは、フロントカバーとバックカバーだけの簡素なものだが、このアルバムについてクラークが語っている言葉が載っているのが有難い。テキストとして扱えるので、扱いも容易だ。試聴は192kHzにアップ・コンバートしたファイルで行った。ブックレットによると、クラークがハンコックの曲をリクエストされるときは、殆どがヘッドハンターズ時代の曲だったそうだ。ところが、クラークがハンコックの作品で最も評価していたのが1960 年代のブルーノートに録音された曲とのこと。このアルバムでは、そのブルーノート時代の曲をはじめ、初めて聴いた時にクラークに語りかけた曲がセレクトされている。メンバーは長年一緒に活動してきたピアノのジョン・デイヴィス(1957-)とベースのレロン・リー・ドーシー(1958-)。リーダーのマイク・クラークのシャープで重量感のあるドラミングがいい。また、ドラマーのリーダー・アルバムでありがちな、過剰な露出も程々で許容範囲内。ピアノのジョン・デイヴィスはレニー・トリスターノやジャッキー・バイアードに師事。ジャコ・パストリアスやブライアン・ブレイドとの共演で知られるそうだ。リーダー・アルバム多数。このアルバムはハンコックの名曲を新鮮な解釈と重量級の円熟したプレイで楽しめる。有名な曲が結構あるが、筆者が馴染んでいるのは「ドルフィン・ダンス」くらいなものだ。「ドルフィン・ダンス」はスロー・テンポでしみじみとした情感が感じられる佳演。ベース・ソロも悪くない。また、「Chan's Song Never Said」は、ハンコックがアカデミー作曲賞を受賞した映画「ラウンド・ミッドナイト」(1986)の挿入歌で、歌詞はスティービー・ワンダー。本来バラードなのだろうが、ここではシャッフル・リズムでぐいぐいと進む華やかな演奏に変身している。ピアノがご機嫌だ。soptifyには30以上のカバーがあるが、こういう解釈は他には見当たらない。因みに、これはピアノのデイヴィスの提案だそうだ。全く知らなかった曲だが、このアルバムのおかげで知ることが出来て、大変嬉しい。アルバム「Speak Like A Child」からはタイトルチューンと「Toys」、「Sorcerer」の3曲が取り上げられている。「Toys」は原曲の夢心地な気分とはまるで違っていて、テンポが速く、ぐいぐい進むのが心地よい。「Speak Like A Child」は原曲と同じボサノヴァ仕立てだが、ピアノが暴れまくり、かなりハードな仕上がり。ブルーノートのデビューアルバム「Takin' Off」(1962)で取り上げられていた「Empty Pockets」は典型的なハード・バップ曲でアーシーな味わいが持ち味。ここでは原曲の持ち味は保ちつつ、軽快で洗練された味わいが好印象。最後はヘッドハンターズ時代の「突撃」から「Actual Proof」ベースのウォーキングから始まる、原曲の軽いフュージョン・タッチの演奏とはまるで違う重量級の演奏。有無を言わせないピアノ・ソロの迫力に圧倒される。他にクラークのマイ・フェイヴァリット・チューンであるバスター・ウイリアムスの「Dual Force」(ハバードのOutpost収録)が演奏されている。ハードバップのスタイリッシュな曲で、グルーブ感に満ちた演奏だ。「Toys」のテーマのブリッジと同じリズムパターンが出てくるのが面白い。ドラムスは歯切れがよく、透明度が高い音でサイドをプッシュしている。ピアノは力強くダイナミックなプレイで、絶好調。時折先生のジャッキー・バイヤード風になるところが面白い。広い空間を感じさせる録音は、実際の演奏をより一層スケールアップしているようだ。ベースの音が異常に大きいが、バスを絞りきってもバランスは悪いままなのが、面白くない。この稿を書くためにハンコックの演奏を聴いて、曲に対する理解が進んだと思うと同時に、今回の演奏の素晴らしさも、より実感された。とうことで、演奏の素晴らしさもさることながら、ハンコックの曲の良さも味わえる得難いアルバムだと思う。ご興味のある方は是非お聴きいただきたい。 Mike Clark:Plays Herbie Hancock(Sunny Side SSC1692)24bit 48kHz FlacHarbie Hankock:1.Toys2.Speak Like A Child3.Buster Williams:Dual Force4.Dolphin Dance5.Sorcerer6.Chan's Song Never Said7.Empty Pockets8.Actual ProofMike Clark (ds)Jon Davis (p)Leon Lee Dorsey (b)Recorded at Manhattan Sky Studio, NYC on June 1 and 2, 2022
2023年06月20日
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ピアニストのリニー・ロスネスを中心とした女性ばかりのグループ「アルテミス」の第2弾。アルテミスとはギリシャ神話の狩猟の女神のことで、同名の有名な弦楽四重奏団(現在活動休止中)もある。第1作も聴いていたが、何度聞いてもしっくりこなかったので取り上げなかった。デビュー・アルバムからはメンバーが若干変わっているが、コア・メンバーには変化はない。新たに参加したのはテナー・サックスのニコール・グローヴァーとアルト・サックス、フルートのアレクサ・タランティーノが前回の木管二人と交代している。前作はセシル・マクローリン・サルバントのヴォーカルが入っていたが、今回はヴォーカルは入っていない。1曲目にリニー・ロスネスの短いスキャットが入っているだけ。前回と同じようにメンバーのオリジナルと、他のジャズミュージシャンの曲を取り上げている。SFJAZZ Collectiveを思い起こさせる高度なアンサンブルと、3管の西海岸風のサウドが実に心地よい。全体にクールでダークな表情が目立つ。ラリー・メイズの「Slink」は無機的でダークなムード。ミュート・トランペットとサックスのハーモニー、ホーンのアンサンブルとユニゾンで出てくるルシアーナ・ソウザ似のリニー・ロスネスのスキャットも悪くない。アリソン・ミラーの「Bow and Arrow」も「Slink」同様ダークなムード。途中ドラムのソロが入るが、派手なプレイではない。リニー・ロスネスの「Balance of Time」はモノローグ的なバラード。晩秋を思い出させるようなピアノのアルペジオと、少し暗めの透明なサウンドがいい。エンディングは3拍子になり、ガラッとムードが変わる。ピアノの弦を弓でこすっているような金属的な音が不気味だ。上田のりこの「Lights Away from Home」はハードバップ風の軽快で明るい曲。アレクサ・タランティーノのソプラノとニコール・グローバーの短いソロ、上田の少し長めのベースソロが入る。ベース・ソロではドラムスのシンバルを使ったリズミックなバッキングがなかなかしゃれている。イングリッド・ジェンセンの「Timber」は各楽器が複雑に絡み合う難度の高い曲で、少しミステリアスな雰囲気も感じられる。イントロがフリーフォーム風で、テンポが決まったところからリフを繰り返しているようなテーマが出てくる。エンディングも混沌とした中に終わる。ロスネスのエレクトリック・ピアノが曲にマッチしている。タランティーノの「Whirlwind」のけだるいムードは、どことなく日野皓正の音楽を思い出す。タランティーノのワイルドなフルート・ソロがいい。グローバーの最初は静的で後半高揚するテナーソロが入る。ベースは機動力が高く、いい音を響かせている。ニコール・グローバーは、リーダーアルバムの時のゴリゴリと逞しいプレイを期待したのだが、それほどのパフォーマンスが聞かれなかったのが残念。錚々たるメンバーで、少し気後れしていたのかもしれないというのは管理人の勝手な憶測。速いテンポで疾走するロスネスの「Empress Afternoon」は、オリエンタル風味のテクニカルなテーマが畳みかけるように印象的だ。グローバーのハーモニックスを使ったソロは悪くないが、いまいち力強さに欠ける。ピアノ・ソロも、少しおとなしめ。曲は良いが、演奏が曲の良さを完全に引き出しているとは感じられないのが残念。最後はウエイン・ショーターの「Penelope」ブルーノートの「Etcetera」(1965)というアルバムに収録されている静かな曲。アルバム自体この稿を書いているときに初めて知った。当時のマイルス・バンドを洗練させたような音楽で悪くない。曲の初めと終わり出てくるダークなミュート・トランペットが印象的だ。グローバーのテナーが大きくフィーチャーされている。ショーターを思い出させるような静的なプレイで悪くない。イングリッド・ジェンセンのトランペットはリリカルなプレイは悪くないが、多少パワー不足は否めない。アリソン・ミラーのドラムスが全体を引き締めているのが目立つ。特にバッキングでの創造的なプレイが見事だ。ロスネスのピアノはソロはそれほどでもないが、バッキングでのプレイが優れていた。ということで、難しい曲が多いことは分かるが、突っ込み不足か、それがダイレクトに伝わっていない気がする。熱い場面でも、冷静さが感じられるのもマイナス。おそらく、ライブだと全く違うように聞こえるかもしれない。Artemis:In Real Time(Blue Note 4872855)24bit96kHz Flac1.Lyle Mays:Slink2.Allison Miller:Bow and Arrow3.Renee Rosnes:Balance of Time4.Noriko Ueda:Lights Away from Home5.Ingrid Jensen:Timber6.Alexa Tarantino:Whirlwind7.Renee Rosnes:Empress Afternoon8.Wayne Shorter:PenelopeNoriko Ueda(b)Renee Rosnes(p track 1 to 4, 6 to 8 E.Pf track 1,5,7 vo track1)Nicole Glover(ts)Ingrid Jensen(tp)Allison Miller(ds)Alexa Tarantino(as track 2, 4, 5, 7, 8 fl track1,6)
2023年06月15日
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以前ニューヨークの地下鉄で暴漢に襲われて、大けがをしたピアニストがいたことは、耳にしていた。https://toyokeizai.net/articles/-/384516Jazz Japan Awardで話題になった海野雅威(1980-)という方がその人とは思わなかった。その音源をspotifyで軽く聴いて、それほどぴんと来なかったのでその後、特に何もしてこなかった。今度彼の新譜が出たことを知り、Spotifyで何回か聴いた。前作よりも悪くないと思い、購入を検討した。いつも利用するPresto Musicではロスレスしかなかったので、取りあえず保留していた。ところが、この間確認したところ、ハイレゾがラインナップされていたので即購入。このCDを聴く限りオーソドックスなハードバップ系のピアニストで、ラテンフレーバーもあるピアニストのようだ。基本明るく楽しい音楽で、難しいことをやらないところは徹底している。清潔感がある芸風なのも利点だろう。全曲彼の作曲で、スケールこそ大きくないが、いい意味でこぢんまりとまとまって、例えてみればミニチュアの可愛さみたいなものを感じる。陽だまりのような温もりを感じさせるところも、優れた点だ。殆どが歌えるようなメロディックなもので、この辺りも彼の才能を感じる。こういう芸風は意識して出来るはずもなく、彼の優れた資質が物を言っているのだろう。アドリブはシングル・トーン中心のメロディックなもので、ノリも良い。ただ、個人的には少し引用過多のような気がする。気に入ったのは先行リリースされていた「Eugene's Waltz」聴き手を優しく包む、とても可愛らしいワルツで、なかなかの名曲だと思う。「Cedar's Rainbow」は「虹のかなたに」をイントロに使ったアップテンポの曲。途中「Sometmes I'm Happyのフレーズがキューの役割を果たしている。ぐいぐいと迫ってくるアドリブはなかなかの迫力。コミカルな「One Way Flight」はニューオーリンズとラテンが混ざったようなシンプルな曲。ダンサブルで楽しく、生でやったら踊りだしてしまいそうだ。「Put That Shit In De Pocket」はアーシーなブルースで、海野の別な面を知ることが出来る。「Over The Moon」はアップ・テンポの爽やかな曲。明るい日差しを受けて歩いているような、うきうきした気分が感じられる。タイトルチューンの「I Am,Because You Are」はミディアムテンポの、穏やかだが少し感傷的な曲想に感じられる。今にも壊れそうな脆さを感じさせるが、ドラムスが少し無神経だ。ソロピアノによる「Autumn Is Here」は、甘く切ない旋律がしみじみとした情感をもたらす。2コーラス目からの高音を多用した、珠玉のようなアドリブが実にいい。サイドメンはドラムスが少し出すぎている部分もあるが、概ね彼の芸風を理解したサポート。それにしては少し地味だ。録音はSNの良い、透明感のあるもので、濡れたように光るピアノのサウンドが実に美しい。ということで、聞いた後誰もがにっこりとする稀有な存在だと思う。是非生で聞きたいものだ。因みに、昨日帰国したようだ。今回はピアニストの林正樹という方とのデュオコンサートらしい。海野雅威:I Am,Because You Are(DECCA 5564930)24bit 96kHz Flac1.Somewhere Before2.After The Rain3.Eugene's Waltz4.Cedar's Rainbow5.One Way Flight6.C. T. B.7.Put That Shit In De Pocket8.Over The Moon9.Let Us Have Peace10.I Am, Because You Are11.Autumn Is HereTadataka Unno (p)Danton Boller (b)Jerome Jennings (ds)Recorded: 2023-03-04Recording Venue: The Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ
2023年06月10日
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カナダの女性歌手エミリー・クレア バーロウの5年ぶりの新作「Spark Bird」を聴く。ハイレゾがリリースされていないようで、彼女のハイレゾを何枚かリリースしている2xHDに問い合わせたが、音沙汰なし。仕方がないのでQobuz USからロスレスを入手。税込み$11程だが、円安のおり結構高く感じる。前作「Lumières D'hiver」(2017)は聴いている筈だが、あまり記憶に残っていない。今回は、都会的な洗練された雰囲気にラテン・フレーバーも感じられる趣味の良い仕上がり。ディストリビューターによると、『アメリカのバード・ウォッチャーの間で語られる、「“人生の全てを変えてしまうというスパーク・バード”との運命的な出会い」にインスピレーションを受けてアルバムにまとめた』という。ノリがよく、相変わらず爽やかな歌声に聞きほれる。知らない曲も含まれているが、いい曲が揃っている。スタンダードも正攻法で、じっくりと歌いこまれていて、なかなかの説得力。バックは曲毎に編成が変わる。「虹のかなたに」はアップ・テンポで小気味のいいラテン・フレーバーのアレンジが心地よい。中間部でのケリー・ジェファーソンのゴリゴリのテナーも悪くない。シャンソン「Fais comme l'oiseau」(鳥のように)はピエール・ドラノエが翻案したフランス語での歌唱と思われるリズミックで明るいヴォーカルが、生きる希望を与えてくれそう(大げさ?)だ。「SkyLark」は最初はギターのみの伴奏で、途中からしっとりとした数丁の弦が加わる。この部分でのギター・ソロは夜のムード満点。スティービー・ワンダーの「Bird of Beauty」は「First Finale」(1974)に収録されていたナンバー。聞いたことがなかったが、サンバのリズムに乘ったノリノリの曲。バーローの屈託のない、明るい歌声も好印象。スティービーのバージョンに比べると、よりクリアな仕上がり。ギターの刻みが心地よく、一挙にブラジルの世界が広がるような感覚になる。中間部で入るカナダのラテン・フルート奏者のBill McBirnieのソロとオブリガートもご機嫌だ。因みに最初の「Simon Says」という歌詞は、この言葉を言ったらその後に続くことをやらなくっちゃいけないっていう英語圏の子どもの遊びだそうだ。(出典:http://chordof.life.coocan.jp/blog/2219)「O」はイギリスのロック・グループであるコールドプレイの曲だそうだ。鳥の群れが飛んでいる空を見上げている風景が浮かんでくるような歌だ。原曲はヴォーカルが静的で空が灰色のイメージだが、バーローの録音では暖色系でヴォーカルがぐいぐいと前に出てくるイメージだ。フランス系カナダ人のレイチェル・テリエンのフリューゲルはこの曲に限らず、詩的で味のある演奏を展開している。「Where Will I Be?はカナダのピアニスト兼歌手のハンナ・バーストウ(1994〜)の曲。戦場の惨状を描いた歌で鳥は出てこない。イントロはスタイリッシュなドラムソロから始まる。歌詞とは裏腹に、洗練された、ホーンのアンサンブルが重厚な、なかなか印象的な曲だガーシュイン兄弟の「Little Jazz Bird」はミディアム・テンポのスインギーなナンバー。ギターやピアノなどのハーモニーが厚く、原曲の素朴な味とは大違いだ。途中のスキャットとギターの絡みがいい。最後の「Pájaros de Barro」(粘土の鳥)はそれまでと一転、寂しげな雰囲気の歌で、他のナンバーの中に入るとちょっと異質だ。例によって192kHzにアップコンバートしての試聴。バランスがよくノイズも感じられない、素晴らしい録音で普通のハイレゾに劣らない音が聞ける。彼女は8月にはカルテットを率いて来日するという。かなり期待できるのではなかろうか。ご興味のある方は是非!Emilie-Claire Barlow :Spark Bird(Empress Music EMG-464)16bit 44.1kHz Flac1.E.Y. Harburg/Harold Arlen:Over the Rainbow2.Pierre Delanoë/Antônio Carlos e Jocáfi :Fais comme l'oiseau3.Johnny Mercer, Hoagy Carmichael:Skylark4.Stevie Wonder:Bird of Beauty5.Guy Berryman, Jonny Buckland, Will Champion, Chris Martin:O6.Hannah Barstow:Where Will I Be?7.George Gershwin,Ira Gershwin:Little Jazz Bird 8.Manolo García:Pájaros de Barro Emilie-Claire Barlow(vo)Jon Maharaj(b)Reg Schwager(g)Justin Abedin(g)Ben Riley(ds)Celso Alberti(perc.)Hannah Barstow (p)Chris Donnelly(p)Amanda Tosoff(p)Kelly Jefferson(ts)Rachel Therrien(flh)Drew Jurecka(vn,va)Lydia Munchinsky(vc)Bill McBirnie(fl)
2023年06月04日
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カリフォルニア生まれのビル・メイズ(本名 ウィリアム・アレン・メイズ 1944-)の「Autumn Serenade」という秋をテーマにした曲を集めたアルバムを聴く。リーダー・アルバムを40枚以上リリースしているそうだが、管理人はお初にお耳にかかった。何度か聴いていい感じだったので、例によってbandcampからダウンロードした。美しいメロディーの抒情的な曲が多く、アレンジも凝っていて、おしゃれなアルバム。今回のメンバーはベースのディーン・ジョンソン(1956-)とドラムスのロン・ヴィンセント(1951-)という新たに編成したトリオでの録音。平均年齢が70歳を超すトリオだが、フレッシュな演奏を聴かせてくれる。抒情的でバウンス感があるピアノ、アグレッシブなプレイが目立つドラムス、どっしりとしたベースとトリオとしても緊密だ。タイトル・チューンは遅めのテンポで、ラテンの雰囲気を感じさせる演奏。ヴィンセントのマレットが効果的だ。「Autumn With Vivaldi」はタイトルから想像できるようにヴィヴァルディの「四季」の「秋」第1楽章のテーマを使ったもので、軽快なテンポとパーカッシブでスインギーなピアノ・プレイが楽しい。ウェイン・ショーターの「Fall」はマイルス・デイビスの「ネフェルティティ」に収録されていた曲。洗練されていて、柔らかなタッチの実におしゃれな演奏。ベースの絡みもいい感じだ。「木の葉の子守歌」もテンポ速めでスインギーな演奏。メイズのオリジナル「Still Life」はメイズの妻の水彩画からインスピレーションを受けたバラード。しみじみとした情感が心に染み入る。ラルフ・バーンズの「アーリー・オータム」はモダンでスタイリッシュな解釈が新鮮だ。原曲のメロディーを生かしたピアノ・ソロも粋だ。「Autumn Nocturne」は二つの同名異曲を組み合わせた、変わった試み。1つはボブ・ジェームズの作品でスローテンポのピアノ・ソロのみ。ボブジェームズの曲がしみじみとした叙情を感じさせる佳曲だった。そのままマイロー作曲のスタンダードに繋がる仕掛け。こちらはアップテンポのスインギーでご機嫌な出来。最後はテンポを落として、ボブ・ジェイムズの曲にスイッチする。なかなか凝った演出で楽しい聴き物だった。ヴォーカル入りの曲が何曲かあり、これがあまりよくない。メイズは多くのヴォーカリストの伴奏を経験していて、ヴォーカルを始めたのはモルガナ・キングのセッションで、彼女に歌の一節を歌って教えていたのが切っ掛けとのこと。雰囲気は出ているものの、高齢のため声に張りがなく、これは聞きたくなかった。「Tis Autumn」はピアノの弾き語りで、ピアノとのユニゾンでスキャットや口笛まで聴かせている。最後のバリー・マニローの「When October Goes」はデヴィッド・リー・シャイアの「Autumn」をイントロに使った構成。しみじみとした、いい曲だった。マット・バリツァリスのボサノヴァ風のギターがいい。ハープに似たサウンドはメイズが操作するLogic digital orchestraの音のようだ。「Logic digital orchestra」はAppleの音楽制作ソフトウェアであるLogic Proに含まれる機能の一つと思われるが、その他の音を含め少しサウンドが陳腐に感じられる。ということで、個人的にはヴォーカルは聞きたくなかったったが、その他のトラックは素晴らしい心温まるアルバム。録音は低音重視の少し厚ぼったい音だが、アルバ・コンセプトにふさわしい。Bill Mays Trio:Autumn Serenade(Sunnyside Records SSC1695)24bit96kHz Flac1.Peter De Rose:Autumn Serenade2.Antonio Vivaldi:Autumn With Vivaldi3.Wayne Shorter:Fall4.Bernice Petkere:Lullaby of the Leaves5.Bill Mays:Still Life6.Henry Nemo:Tis Autumn7.Ralph Burns:Early Autumn8.Bob James/Josef Myrow:Autumn Nocturne / Autumn Nocturne9.David Lee Shire/Barry Manilow:Autumn / When October GoesBill Mays(piano, vocal on 6 & 9)Dean Johnson(bass except 6)Ron Vincent(drums except 6)Judy Kirtley(vocal on 9)Matt Balitsaris(acoustic guitar on 9)
2023年05月29日
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平倉初音という最近注目されているピアニストの旧作がBandcampのラインナップにあったのでゲットした。DIWレーベルからのリリースでロスレスで¥1222と安価だった。このCDは創業40年を超える名店<JAZZ HOUSE alfie>という老舗のライブハウスが立ち上げた、ライブレコーディング専門のレーベル「LIVE at alfie」の第1弾。平倉の素晴らしいオリジナルとピアノとドラムスのエネルギー感が半端ない。プログラムは殆どが平倉のオリジナルで、これがなかなかいい曲が揃っている。ライブのためだろうか、全体にストイックな雰囲気が漂っているが、こういう雰囲気悪くない。冒頭の「Sea Raccoon」はアップテンポの都会的な雰囲気のするしゃれた曲。心地よいバウンス感があり、車で風を受けて走っているような爽快な気分になる。バラード「Did it Again」は日本人らしくない、べたべた感のないバラードで、クールな情感もいい感じだ。タイトルチューンの[Tears」は3曲からなる組曲?だが、続けて演奏される。1曲目の「Sob」の爆走するリズムに乘って、平倉のダイナミックなピアノ・ソロが炸裂する。ピアノが凄まじいドラムスに負けていないところが素晴らしい。ドラム・ソロを挟んでこれも都会的なバラード「Calm」に続く。ドラム・ソロのリズムがそのまま引き継がれるが、細かいリズムが不思議と夜の雰囲気が感じられるバラードによくあっている。若井俊也のベースソロもなかなか聴かせる。熱のこもったピアノ・ソロから晩秋の雰囲気を感じさせる「Breathe」に続く。「Emperor Time」でのドラム・ソロは技巧を思う存分見せつけた、圧倒的なパフォーマンスだった。この曲の後半のピアノのシングル・トーンの執拗な連打もインパクトがある。最後のスタンダード「But Beautiful」は、アンコールだろうか。ゆったりとしたテンポの、硬派のバラード。アドリブもクリシェに陥らないオリジナリティが感じられる。中村海斗は最近話題のドラマーだそうだ。2001年米・ニューヨーク生まれで、既にリーダーアルバムもリリースしている(BLAQUE DAWN)このアルバムの成功は、中村のドラムスによるところ大だ。ベースの若井俊也は名古屋出身で都内で活躍中とのこと。録音は昔のクラブでの録音のような暗い雰囲気の埃っぽいサウンドで、奥行きが感じられない。多分イコライザーなどは極力使わない、生音に近い録音だろうというのは筆者の想像。ただ、最近の録音に慣れた耳には、少し寂しい音に感じる。インティメートな雰囲気が感じられる、ライブ感に溢れた録音であることも確か。気になったのは、拍手の音が大きすぎるというか、ステージに近いところの観客若干1名の拍手の音が大きく、音楽がスポイルされてしまったこと。通常ライブ録音する旨アナウンスされていた筈なので、観客にも配慮が欲しかった。演奏以外のところで、ミソをつけててしまったが、辛口のピアノ・トリオとして今後も大いに期待できるユージシャンだ。最新作の「Wheel of Time」も配信でリリースされることを願っている。平倉初音トリオ:Tears(LIVE at alfie AFCD6001)16bit44.1kHz Flac1.Sea Raccoon2.Did it Again3.Something for Charles Mingus4.Tears -Ⅰ.Sob5.Tears -Ⅱ.Calm6.Tears -Ⅲ.Breathe7.Emperor Time8.But Beautiful平倉初音(p)若井俊也(b)中村海斗(ds) Recorded at JAZZ HOUSE alfie
2023年05月25日
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コンテンポラリー・レコード創立70周年記念のリリースでロリンズのコンテンポラリー・レーベルでの全録音がリリースされた。presto musicのK国サイトから¥1600程で入手。CDでは他のレーベルでコンプリートが出ていたが、管理人は知らなかった。もっとも、コンテンポラリーのロリンズは「ウエイ・アウト・ウエスト」しか聞いたことがない。ジャケ写のようにカラット晴れ渡った青空を思い起こさせるような、スカッとした演奏が印象的なアルバムだった。今回のリリースは24bit 192kHz Flacで期待通りの透明度の高い録音で大満足。テープヒスもかなり抑えられていて、気持ちよく聴くことが出来る。残念なのは音楽史家のアシュリー・カーンによる新しいライナーノートが付いていないことだが、価格からして仕方がない。ただ、「New Three-Disc Sonny Rollins Collection ‘Go West!’ Due In June」にライナーノートからの引用が少し載っている。アシュリー・カーンがロリンズにインタビューしたときにコンテンポラリーの社長であるレスター・ケーニッヒ(1918-1977)を「非常に決断力のある、余計なことを言わないタイプの男性」と評している。なるほど、彼の風貌や作られたレコードからも、彼の性格が伺えるようだ。どちらも有名な演奏なので、敢えて付け加えることはない。どちらもロリンズの豪快なテナーが味わえるがオリジナリティはトリオの方がある。ジャケ写のような鄙びた西部の風景が浮かんでくるような音楽は、懐かしい味がするが古臭さはない。1曲目の「おいらは老カウボーイ」のシェリーマンの馬のひづめの音を思い出させるような木魚のイントロからして、アルバムは全編ユーモアが溢れている。管理人は「Way Out West」(1957)と言えば真っ先に浮かんでくるのがこの木魚の音。ロリンズの屈託のない演奏が前面に展開し、聴き手も思わずニンマリする。「Sonny Rollins and the Contemporary Leaders」(1958)はギターとピアノの影が薄い。バーニーケッセルのアドリブ・ソロが流麗さに欠け、ハンプトンホーズのピアノも音が小さい。ベースとドラムスも「Way Out West」のレイ・ブラウンとシェリー・マンのほうが存在感がある。1950年代末期のステレオ録音だが、昔から音質に定評のある録音で、今回も期待を裏切らない出来。「Way Out West」は左チャンネルがテナーで右チャンネルがベースとドラムスと完全に分かれているところが時代を感じさせる程度。「Sonny Rollins and the Contemporary Leaders」のほうが楽器が多いためか、音の抜けが「Way Out West」より劣る。15曲目以降の6曲は別テイク集。「The Song Is You」のようにマスター・テイクとは全く異なるアドリブを聴くとロリンズの天性のインプロバイザーとしての力を見せつけられているような気がする。この曲はマスターより別テイクが30秒ほど長い。マスターがスピードに負けて窮屈な演奏に感じられ、個人的には別テイクのほうがいいような気がする。「I’ve Found A New Baby」は別テイクは普通のソロで、人を食ったようなフレーズが連発するマスター・テイクのソロのほうが断然面白い。「You」の別テイクのみフェルドマンが参加しているが、切れのいいアドリブを展開している。ということで、ロリンズの屈託のない天衣無縫のアドリブが楽しめる文句なしの名盤。Sonny Rollins:Go West!: The Contemporary Records Albums(Craft Recordings CR03414)24bit 192kHz Flac1.Johnny Mercer:I’m An Old Cowhand2.Edward Kennedy Ellington:Solitude3.Theodore Rollins:Come, Gone4.Billy Hills, Peter de Rose:Wagon Wheels5.Marty Symes, Isham Jones:There Is No Greater Love6.Theodore Rollins:Way Out West7.Oscar Hammerstein II, Jerome Kern:I’ve Told Ev’ry Little Star8.Jean Schwartz, Joe Young, Sam M. Lewis:Rock-A-Bye Your Baby With A Dixie Melody9.Nancy Hamilton, William Lewis:How High The Moon10.Harold Adamson, Walter Donaldson:You11.Jack Palmer, Spencer Williams:I’ve Found A New Baby12.Arthur Schwartz, Howard Dietz:Alone Together13.Billy Hill:In The Chapel In The Moonlight14.Oscar Hammerstein II, Jerome Kern:The Song Is You15.Johnny Mercer:I’m An Old Cowhand(Alternate Take) 16.Theodore Rollins:Come, Gone(Alternate Take) 17.Theodore Rollins:Way Out West(Alternate Take) 18.Oscar Hammerstein II, Jerome Kern:The Song Is You(Alternate Take) 19.Harold Adamson, Walter Donaldson:You(Alternate Take) 20.Jack Palmer, Spencer Williams:I’ve Found A New Baby(Alternate Take) Sonny Rollins(ts) Shelly Manne(ds)Ray Brown(b track1-6,15,16) Hampton Hawes(ptrack 7-14,18,19,20) Barney Kessel(g track 7-14,18,19,20) Leroy Vinnegar(b track 7-14,18,19,20)Victor Feldman(vib track 19)Recorded March 7,1957,29th-22th,1958
2023年05月16日
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ヘイリー・ブリンネルというフィラデルフィアを拠点に活動するヴォーカリスト兼トロンボーン奏者のセカンドアルバム「Beautifl Tmorrow」を聴く。bandampからのお知らせで知ったミュージシャン。トロンボーンを吹くヴォーカリストというのも、なかなかないだろう。歌うトロンボーン奏者と言えばジャック・ティーガーデンを思い浮かべるが、まれな例で、まして女性では聞いたことがない。全体にハードバップ風なのりのいいスインギーな演奏。少し暗めの太い声で、バックの西海岸風の軽いサウンドとのコントラストがいい。バックはピアノ・トリオにブリンネルのトロンボーン、ゲストのトランペット、サックスが加わる。分厚いハーモニーが心地よい。全曲スインギーな歌唱でノリがいいが、白人らしく粘らない。時折聞かせるトロンボーン・ソロもパリッとしたサウンドで気持ちのいいプレイが聞かれる。「The Sound」でのホーン・ライクで舌を噛みそうな高速のスキャットも上手い。目立っているのはフィラデルフィアを拠点に活躍するクリス・オーツのファンキーなサックス。ドナルド・フェイゲンの「Walk Between Raindrops」はミディアム・テンポで、爽やかな歌声が心地よい。間奏でのホーンのソリもいい感じだ。「Tea for Two」はアップテンポのスインギーな演奏。優れたアレンジで、トランペットのソロ、後半のヴォーカルとの掛け合いもいい。黒人霊歌「Wayfaring Stranger(さすらいの旅人)」はデキシー調で切々と訴える演奏。ヴォーカルに絡むホーンもいい感じだ。木管はクラリネットとソプラノ・サックスが使われている。ニュー・オーリンズ風の濁ったソプラノ・サックスがいい。後半の盛り上がりもなかなか感動的だ。アルバム中唯一のバラード「A Cottage for Sale」はピアノとのデュオ。美しいディクションとしっとりとした情感がすばらしい。サイラス・アーバインの端正なピアノも悪くない。「There Will Never Be」は別れの歌だが、コケティッシュな魅力があり爽やかだ。「I Want to Be Happy」はスインギーなミディアム・テンポの演奏。少しネットリしているのが気になるが、突き放したようなヴォーカルはなかなか新鮮だ。トロンボーン・ソロもいい。「Candy」は歌手の実力を測るには絶好のフォーマットであるベースとのデュオ。これが立派な出来で、ブリンネルが歌手として相当な実力があることが伺える。ということで、ジャケ写から少し際物的な感じがしていたが、何の何の堂々たるヴォーカルアルバムだった。 ところで曲の作者を調べるのにChatGtpを使った。なんと、ものの数秒で回答が出る。今までの苦労は何だったのかと思ってしまう。ただ、それは曲毎に聞いたときで、アルバム全体で聞くと曲名からして違うので注意が必要だ。ChatGtpを使って思うことは、学校の宿題をChatGtpにやらせたらすぐ答えが出ることだ。仕事が奪われることばかり話題になるが、学校教育の在り方が問われるこの問題こそ最重要課題だろう。因みにフィンランドでは宿題がないそうだ。ためしにこの問題についてChatGtpに聞いてみた。回答は『宿題の代行や解答を提供することは適切ではありません。ただし、宿題について質問やアドバイスを求めることは適切です。』という模範回答だった。Hailey Brinnel:Beautifl Tmorrow(OUTSIDE IN MUSIC OiM2310)24bit96kHz Flac1. Richard and Robert Sherman:There's a Great Big Beautiful Tomorrow2. Hailey Brinnel:I Might Be Evil3. Hailey Brinnel:The Sound4. Donald Fagen:Walk Between Raindrops5. Vincent Youmans:Tea for Two6. Trad:Wayfaring Stranger7. William Jerome,Larry Conley,Willard Robison:A Cottage for Sale8. Gene DePaul、Raye Donn:There Will Never Be9. Vincent Youmans,Irving Caesar:I Want to Be Happy10. Joan Whitney,Alex Kramer,Mack David:CandyHailey Brinnel(tb,vo)Silas Irvine(p)Joe Plowman(b)Dan Monaghan(ds)Guests:Terell Stafford(tp)Andrew Carson join(tp)Chris Oatts(sax)
2023年05月12日
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Miles Electric Bandの後継グループM.E.BのEP「That You Not Dare To Forget 」を聴く。このタイトルの「忘れてはいけないこと」は、マイルスを指しているのだろうか。いつものpresto musicのK国サイトから何と¥500で入手。MEBはマイルスの甥で、80年代にマイルスのバンドにいたヴィンス・ウィルバーンJr.と、『ビッチェズ・ブリュー』に参加していたドラマーのレニー・ホワイトが中心となって立ち上げたプロジェクト。まあ一種のレガシー・バンドだろう。ところが、ヒロホンシュクさんのJAZZ TOKYOのサイトに載っている楽曲解説によると、前の「Miles Electic Band」から「M.E.B.」に敢えて名前を変えて、『その壁を打ち破るためにバンド名を変更し、マイルスに影響を受けて新しい方向性を目指して進むというバンドの趣旨をはっきり提示するためにこのデビューアルバムをリリースした』とのこと。マイルスの音楽とマイルスとの関連がないような曲が混じっている。クレジットを見ると曲毎に大幅にメンバーが変わっている。一部マイルスの声とか亡くなったウォーレス・ルーニー(モントルーでのマイルスの回顧コンサートでトランペットの代吹きをした)の音も入っている。売りは track 1,2でマイルスのトランペット・プレイが聞けることだろう。その他、亡くなったウォーレス・ルーニー(1960 - 2020)の音もtrack4で聞ける。track1,2はラップがフィーチャーされている曲。「Hail To The Real Chief」は現代的なビートに爆発的なエネルギーが込められたバックにもかかわらず、マイルスのプレイが全く負けていないことに驚く。「Bitches Are Back」はBluとナズの圧倒的なラップがフィーチャーされている。ただ3分ほどで全く物足りない。エイドリアン・ラモントの「Over My Shoulder」はファンキーでまったりとして、少しとぼけた味わいの曲。ヒロホンシュクさんによると、ニューオーリンズ・ファンク(ニューオーリンズで生まれたァンク、ジャズ、ブルース、ゴスペルなどの要素を融合した音楽ジャンル)だという。管理人はこのジャンルの音楽は全く知らないが、ニューオーリンズの喧騒を連想させる楽しい音楽だ。作曲者自身のラップにヴァーノン・リードのエフェクターをかけた、歪みの強いギターソロが加わる。レニー・ホワイトの「Mellow Kisses」はタイトル通りの穏やかなムードのバラードで始まる。途中からアップテンポになるウォーレス・ルーニーのミュートプレイが曲のムードに相応しい。エミリオ・モデストの涼し気なソプラのサックスもいい感じだ。レニー・ホワイトの本職はだしのキーボードが、ムード満点だ。ペドリート・マルティネスのパーカションが少しうるさい。タイトルチューンはラシェー・リーヴスによる語りが入っている。詩の内容はマイルスと彼の最後を看取ったシシリー・タイソンの物語だそうだ。深い闇を感じさせる音楽が、しみじみとした余韻を残す。ジェレミー・ペルトのミュート・トランペット・ソロとスタンリー・クラークのエレクトリック・ギターのオブリガートがフィチャーされている。フロントカバーのイラストはどういう意図で書かれたものかは不明だが、結構インパクトがある。前述の楽曲解説によると、1987年頃からマイルスの最後までアシスタントを務め、またマイルスの画家仲間だったマイケル・エラムによるものとのこと。このアルバムのラフミックスを聴きながら制作したそうだ。インタビューでこの絵について語っているが、字幕は利用できない。30秒過ぎにマイルスが絵を描いている姿も映し出されている。最後に録音風景も少し出てくる。というわけで、EPながら重量感のあるアルバムだが、管理人にとっては理解しにくい音楽だと感じる。ただ、間違いなく優れたアルバムであることは確かで、聞き返すことによってその良さが理解できるだろう。※ヒロホンシュク(本宿宏明)さんによる楽曲解説は、曲毎の詳しいアナリーゼやミュージシャンにも言及していて、下手なブックレットより大変優れている。このアナリーゼを読んでから聞くと、より深く曲を理解できる。M.E.B:That You Not Dare To Forget (Legacy Recordings G010004993490H) 24bit 48kHz Flac1.Miles Davis:Hail To The Real Chief2.Miles Davis:Bitches Are Back feat. Blu3.Adrien Lamont:Over My Shoulder featuring Vernon Reid & Adrien Lamont4.Lenny White:Mellow Kisses5.Lenny White, Jon Dryden, Rashae Reeves:That You Not Dare To ForgetM.E.B
2023年05月07日
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クリスチャン・マクブライド率いるNew Jawnの2枚目のアルバム[Prime」を聴く。"New Jawn "とは、フィラデルフィアのスラングで、"まだ名前がついていないもの、作られていないもの "を意味するという。2ホーンのピアノレス・カルテットという変則的な編成。プログラムは、彼らのオリジナルとジャズメンのオリジナルという構成。全てフリー・ジャズ風の曲が並んでいるが、多彩な表現をみせていて、飽きさせない。冒頭の「Head Bedlam」から猛獣を思い起こさせるようなホーンの咆哮で幕を開ける。ピアノレス・カルテットなのでオーネット・コールマンのバンドを思い起こさせるサウンド。音楽も刺激的ではあるが、懐かしくも楽しさがある。ホーンは強力。特にテナー・サックスとバスクラリネットのマーカス・ストリックランドの攻撃的なアドリブと骨太のサウンドが素晴らしくいい。特に、黒光りするようなサウンドのバスクラリネットがいい。それに比べるとジョー・エヴァンスのトランペットは少し小粒。忙しなく動き回り絶えずフロントを鼓舞するナッシュ・ウェイツのドラムスの貢献度も大きい。気に入ったのはサックスとトランペットのテーマから始まるエヴァンスの「Dolphy Dust」オーネットとドン・チェリーのコンビを思い出させるような曲で、オーネットの作品と言われておおかしくない。基本ホーンのテーマとベースのソロという構成。中間部でのマクブライドのベースとは思えない曲芸的なソロに驚く。ドラムスの熱演もインパクトが大きいい。ロリンズの「East Broadway Rundown」が取り上げられることは珍しいことではないだろうか。管理人はこの曲を聞いたことはないが、ロリンズがフリー・ジャズを意識した曲であることから取り上げられたのかもしれない。ロリンズを上回る骨太のテナーサックスのサウンドがいい。Marcus Stricklandはアルトサックスも吹いているが、こういう人は珍しいのではないだろうか。そのせいかアルトも骨太で安定感がある。ラリー・ヤング(1940-1978)の「Obsequious」はアップテンポのメロディーから始まる。ダークなムードで、問答無用にぐいぐいと迫ってくる、アルバム随一の聴き物。エヴァンスのトランペット・ソロがなかなか頑張っている。続くストリックランドのテナーソロは中近東風のメロディーが異色。ナッシュ・ウェイツの「Moonchild」アップテンポのではストリックランドの豪放なバスクラリネットが楽しめる。マクブライドの「Lurkers」はかなり癖があり、好みが分かれるだろう。中東風の宗教的な要素が強い、混沌とした世界が表現されている。ドラムスを伴うマクブライドのアルコベースは、高音を多用した急速調の難しいパッセージが印象的だ。途中からホーンが加わり、さらに宗教色が強くなる。オーネットの「The Good Life」のコミカルなテイストが一番しっくりくるというのも困ったものだ。ロスレスながら、オンマイクの録音は、眼前で演奏しているような迫力で、しかも極めて透明度が高い。Christisn McBride's New Jawn:Pime(Brother Mister BRO4004)16bit 44.1kHz Flac1.Christian McBride:Head Bedlam2.Marcus Strickland:Prime3.Nasheet Waits:Moonchild4.Larry Young:Obsequious5.Christian McBride:Lurkers6.Ornette Coleman:The Good Life7.Josh Evans:Dolphy Dust8.Sonny Rollins:East Broadway RundownChristian McBride(b)Josh Evans(tp)Marcus Strickland(bcl track 1, 3, 5,ts 2, 4, 6–8)Nasheet Waits(ds)Recorded 16–17 December 2021,Power Station, NYC
2023年05月03日
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フレッド・ハーシュとエスペランサ・スポルディングのヴィレッジ・ヴァンガードでのライブを聴く。録音は2018年と少し古いがコロナ禍前の録音だ。ハーシュにとってヴィレッジバンガードでの録音は今回で6度目とのこと。ここではスポルディングはヴォーカルのみ。そのためか、のびのびとした雰囲気が感じられ、両者ともノリノリの演奏を聴かせてくれる。両者の芸風は全く違っているので、まさか共演するとは思っていなかった。おそらく、スポルディングが歩み寄っている部分が多いとは思うが、両者がこれほどうまくいくとは、分からないものだ。スポルディングは真っ当なジャズ・ヴォーカルを聞かせてくれる。無邪気な子供が鼻歌でも歌っているような軽いノリだが、悪くない。スポルディングの自在なアドリブと、時折入る小粋な言葉が聴衆を沸かせる。これを聴くとバーブラ・ストライサンドのステージ・マナーを思い起こさせるようで、彼女もステージこそ違えど、一流のエンターテイナーなことが分かる。ハーシュはかなりアグレッシブなピアノで、ヴォーカルに積極的に絡んでいく。テンポの速い曲が多いこともあるが、ピアノがかなりスインギーで、ハーシュの溌溂とした姿が思い浮かばれるようだ。エスペランサの自由自在な演奏に刺激されたのかもしれない。ヴォーカルとのデュオだとピアノの出る幕は少ないものだが、結構長いソロが入る曲が多く、ハーシュのファンにとっても満足度は高いと思う。どの曲も聴きどころ満載だが、気に入ったのはハーシュのオリジナル「Dream Of Monk」作品と言われてもおかしくないほどモンクの特徴が表れてて、エスペランサのスキャットを交えたヴォーカルも曲に一体化した素晴らしいもの。エグベルト・ジスモンチの「Loro」は圧倒的な熱狂と興奮を引き起こす。「But Not For Me」や「Girl Talk」などのスタンダードもなかなかゴージャスな仕上がり。演奏時間は67分余りで、決して短くないが、あっという間に過ぎていく。一晩のクラブ・ギグとしては最高のできで、居合わせた人たちは最高の気分で帰られたに違いない。聴いていると、自然に顔がほころんでくるのが感じられるほどだ。最後はしっとりとした「A Wish」で締めくくられる。Fred Hersch & Esperanza Spalding:Alive at the Village Vanguard(Palmetto Records – PM2007)24bit96kHz FlacGeorge & Ira Gershwin:But Not For MeFred Hersch:Dream Of MonkCharlie Parker:Little Suede ShoesBobby Troup, Neal:Girl TalkThelonious Monk:EvidenceJule Styne And Sammy Cahn:Some Other TimeEgberto Gismonti:LoroFred Hersch, Norma Winstone:A WishEsperanza Spalding(vo)Fred Hersch(p)Recorded 19–21 October 2018,Village Vanguard, NYC
2023年04月21日
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ボストンを拠点として活躍するアルト・サックス奏者ニコラス・ブルストの「Daybreak」を聴く。全く知らなかったミュージシャン。このアルバムを何回か聴いていたら、むさい風貌に似合わない清潔で柔らかなタッチの音楽が気に入った。アルト・サックスは太く力強い音が出ている。強烈にアピールする音楽ではないが、全体にスタイリッシュでクールな雰囲気が漂い、テンポの速い曲でも余韻が残る。技量も確かだ。全曲ブルストの作曲でネオ・ハード・バップ風な曲が並ぶ。秋を思わせるようなカラーに染まっていて、ブルストの音楽だとわかる特徴的な曲作り。サックスのプレイ自体も激しくブローするようなタイプではなく、愁いを帯びたサウンドで落ち着いている。編成はギターを含むクインテット。テーマがサックスとギターのユニゾンで提示されることが多い。これがなかなか印象的だ。随所で聴かれるラルフ・タウナーを思い起こさせるようなラージュ・ルンドの端正なギター・ソロも悪くない。ロイ・ハーグローブへのトリビュート「For Wisdom」は悲しみを湛えたメロディーとすっきりとしたサウンドで印象に残るナンバー。ギター・ソロではベースとドラムスのトリオになって、最近はあまり見かけないフォーマットが新鮮だ。惜しいのは、ギター・ソロのフレーズの後で、同じフレーズが少し遅れて弱く聞こえること。エコーだろうか。最後の「A Midsummer Night」のみ少し毛色が変わっている。他の曲が秋を思わせるようなカラーなのに対して、テンポが速くてエネルギッシュだ。ただしスタイリッシュなのは変わらない。ジュリア・チェンのピアノもクールな表情で、バッキングもなかなか芸が細かい。彼女のEP「Silver Spoons」を聴いたら、彼女のカラーが「Daybreak」にも色濃く投影していることが分かる。ドラマーは「Gary Kerkezou」という方だが、なんと女性の方だった。控えめなプレイだが、しなやかで多彩なドラミングがソロを優しくサポートしている。このアルバムはスケールこそ大きくないが、メンバーの技量が高く、実にみずみずしい音楽だ。もう五回くらい聞いているが全く飽きない。聞けば聞くほど味が出る、するめみたいな音楽だろう。ブルストの第1作の「フローズン・イン・タイム」も聞いたがこれもなかなかの秀作だった。Nicholas Brust:Daybreak(OUTSIDE IN MUSIC OiM2030)16bit 44.1kHz Flac1.The Absence of You2.Diamonds and Clubs3.Mind's Eye4.For Wisdom5.To Carry the Torch6.Suspense in Blue7.Daybreak8.In This Moment9.The Tempest10.Ballad of a Sea Porpoise11.A Midsummer NightNicholas Brust (as)Lage Lund (g)Julia Chen (p)Rick Rosato (b)Gary Kerkezou (ds)
2023年04月08日
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ピアニストのロベルト・オルサーをチェックしていて見つけた音源。一昨年オルサーの自宅で録音されたハーモニカ奏者のマックス・デ・アロエとのデュオ作。マックス・デ・アロエは一部アコーディオンを演奏している。プログラムは彼らのオリジナルが2曲ずつで、他にジャズメンのオリジナル、スタンダード、クラシックとヴァラエティに富んでいる。彼らのオリジナルではマックス・デ・アロエのほうがいい。特にタイトル・チューン「Una notte di coprifuoco」は爽やかだが感傷的な側面も感じさせるメロディーが心を揺さぶる。残念なのは音が途切れたり、クリップ音や低い音が入っていること。最後はプツプツノイズでダメ押しされた。spotifyやこの稿でアップしたyoutubeでも同じなので、ソースそのものの問題だろう。最後の「Ore giorni mesi」は甘く切ないメロディーが切々と訴えかけてくる。最後の一分前くらいから野鳥の鳴き声が聞こえ、そのうち風の音も聞こえてきて、静かにフェイドアウトしていく。この効果音が何を意味するのか分からないが、映画のエンディングのような印象深い終わり方だ。オルサーのオリジナルの中では、ビル・エヴァンス風の「A ballad」が、陽だまり中でまどろんでいるような気分を感じさせる。「Epilogo」はサティーを思い起こさせるような、暗い雰囲気で面白くない。クラシックはフォーレとプーランクが取り上げられている。クラシックに造詣の深いオルサーの選曲だろうか、ハーモニカとピアノのフォーマットにしっくりくる。ハーモニカはフレージングにクセがあり、どの曲も同じ調子で、続けて聴いていると飽きてくる。アコーディオンはそういう不満がない。ピアノは音が悪いのが残念。普通のスタジオやホールのピアノだったらと思ってしまう。ただ音の悪さが、インティメートな雰囲気を出しているのは、怪我の功名か。スタンダードの「The nearness of you 」もしみじみとした抒情が心に染み入る。「アルフォンシーナと海」はアルゼンチンの作曲家アリエル・ラミレスの手になるサンバで、入水自殺した詩人アルフォンシーナ・ストルニ(1892-1938)を悼む、しみじみとした抒情が心に沁みる。この稿を書いているときにジョバンニ・ミラバッシも録音していたことに気が付いた。(TERRA FURIOSA収録)ミラバッシの演奏はオルサーの演奏よりだいぶ速く、あまりべたべたしていない、よりジャズ的な演奏。ジャズメンではパット・メセニーとビル・フリーゼルのオリジナルが取り上げられているが、あまり面白くない。特にフリーゼルの「Strange Meeting」はじとっとした暗い雰囲気で、気分が落ち込んでいくような感じがする。フリーゼルの演奏は少し暗めだがテンポが速く、今回の演奏とはまるで違う。イタリアでコロナによる夜間外出制限令が出ていた時の気分を表していると思うのは、穿ちすぎだろうか。ということで、製品としては問題があるが、音楽は地味ながら心温まる佳作で、日本人には絶対受けるだろう。限定500枚で、既に入手困難なのはもったいない。残るは配信元に連絡しなければならないことだけだ。修正してくれれば有り難いが。。。Roberto Olzer & Max De Aloe:Una Notte Di Coprifuoco(Barnum For Art BFACD019)16bit 44.1kHz Flac1.Max De Aloe:Una notte di coprifuoco2.Pat Metheny: Always and forever3.Bill Frisell:Strange Meeting4.Hoagy Carmichael, Ned Washington:The nearness of you 5.Ariel Ramirez, Felix Luna: Alfonsina y el mar6.Gabriel Faurè: Pavane, op. 507.Roberto Olzer: A ballad8.Francis Poulenc: Andante, from Piano Concerto9.Roberto Olzer: Epilogo10.Max De Aloe:Ore giorni mesiMax De Aloe(chromatic harmonica,accordion track 3,5,10)Roberto Olzer(p)Recorded at Roberto's house during a curfew night in the Val d'Ossola (Italy) 21 - 22 February 2021
2023年04月04日
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今年はウエス・モンゴメリーの生誕100周年だそうだ。Jazz Japanで特集が組まれていて、日本におけるウエス・モンゴメリーの第一人者であるギタリストの宮之上貴昭の「ウエス愛を語る」というお話が載っていた。ウエスのテクニックについて語っている部分がある。ウエスのソロはシングルノートから始まってオクターブ奏法、最後にブロックコードという流れが多い。他の奏者がついていけない程リズムが走るなど、鑑賞するうえでも参考になる。管理人はウエスのアルバムはリヴァーサイドが2,3枚あるだけ。「フルハウス」と「インタクレディブル・ジャズ・ギター」という超名盤なのだが、それほどいいと思ったことがなかった。改めて聞いてみたが感想は変わらなかった。それで、以前から欲しいと思っていた「In Paris」がHD Tracks で25%オフだったので、一番安い96kHzのハイレゾを$13.5でダウンロード。リバーサイドの音がしょぼかったので期待していなかったが、これがなかなかいい音だった。さすがにレゾナンス・レーベルからのリリースで音が悪いわけはない。ウエスの黒光りのするサウンドと熱気あるプレイが楽しめる。ウエスの代表的なオリジナル「Full House」や「Four on Six」は完成度が高いことは確かだが、リラクゼーションが勝っていて、いまいち物足りない。最後のコルトレーンの「インプレッションズ」のスピード感あふれるソロが一番感銘深かった。3曲でゲスト出演しているジョニー・グリフィンも熱いプレイで、聴衆を沸かせている。ハロルド・メイバーンのピアノは一生懸命さは伝わってくるが、パワー不足。ウエスのソロでは少し音が絞られていて、ピアノ・ソロになると、ベースとドラムス共々突如として音量が大きくなるのはかなり違和感がある。録音はライブながらノイズが少なく、ウエスのプレイがビビッドに伝わってくる。どうやら管理人がウエスの録音にピンとこないのはポピュラー寄りの選曲を含め、緩いムードであることが原因だった気がする。これはウエスがわるいのではなく、単に管理人の好みのギターのスタイルとずれがあるためだろう。どうやらこの録音を足掛かりにして、ウエスの演奏を少し深堀する必要がありそうだ。なお、CDとは曲順が異なっているが、理由は不明。ところで、プロデューサーのゼヴ・フェルドマンによると、『今までの作品では、ウェスのファミリーや関係者にまったく支払いがなされなかったとのことで、本作が、実に、初の公式アルバムとなる」という全く信じられない話が語られている。Wes Montgomery / In Paris: The Definitive ORTF Recording(2xCD)24bit96kHz Flac1.Hugh Martin:Meet Me in St. Louis: The Girl Next Door2.Jimmy Van Heusen:Here's That Rainy Day: Carnival in Flanders: Here's That Rainy Day3.Wes Montgomery:Jingles4.Harold Mabern:To Wane5.Wes Montgomery:Full House6.Cootie Williams, Thelonious Monk:'Round Midnight (take 1): Round Midnight7.Dizzy Gillespie, Wes Montgomery:Blue 'n Boogie - West Coast Blues8.Wes Montgomery:Twisted Blues9.Wes Montgomery:Four on Six10.John Coltrane:ImpressionsWes Montgomery(g)Johnny Griffin(ts track 5-7)Harold Mabern(p)Arthur Harper(b)Jimmy Lovelace(ds)Recorded 27th March 1965 at The Theatre des Champs-Elysees, Paris, France
2023年03月30日
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この前ニッキ・ヤノフスキのレビューで触れた、ダイアナ・パントンの新作を聴く。2xHDからのリリースだが、一番安い92.6kHzのflacを購入した。日本版では「~さよならを云うために」という副題がついている。色彩3部作の掉尾を飾るアルバム。管理人は「レッド」(2014)のみ聞いたことがある程度。「レッド」もそれほど印象に残っているわけではない。「ピンク」のリリースが2009年なので、あしかけ13年ほどかかったようだ、というかよく最後まで続いたという印象だ。「レッド」では「色彩3部作」などというコピーはなく、今回の「ブルー」で出てきたようで唐突感が拭えない。ジャズ批評のジャズ・オーディオ・ディスク・大賞2022のヴォーカル部門では何と銀賞を受賞している。金賞のサマラ・ジョイのヴァーブ盤とは5点差の48点で、3位のローレン・ヘンダーソンとは20点も差がある。サマラ・ジョイがダントツかと思ったが、以外に僅差で驚いた。彼女の歌を聴くのは久しぶりだが、インティメートで素朴な歌唱は変わらない。凄くうまいというヴォーカルではないが、聴き手の心に、やさしく寄り添ってくれるヴォーカルだ。音程が甘く、一向にうまくならないと思うのは管理人の個人的な感想だろうが、上手くなったらなったで、今の素朴な持ち味が消えてしまうかもしれない。以前気になっていた縮緬ビブラートがあまり目立たなくなっていたのは好印象。ちょっと癖のあるフレージングは個人的には気になる。彼女の選曲したトーチソング集だそうだが、いい曲が多くしみじみとした味わいが感じられる。パントンが好きな方はどっぷりと嵌ってしまいそうだ。全編スローバラードなので、時には速いテンポの曲も欲しいところ。バックは曲毎に変わり、ドラムレスのピアノ、ギター、ベースのトリオやストリングスが加わる。ストリングスが入ると、インティメートな雰囲気がより一層増す。ただ、ピアノやギターとのデュオのほうがしっくりくる。バックでは、レグ・シュワガー(1962-)のギターがいい。特にパントンとのデュオ「ノーバディズ・ハート」でのアルペジオが心に染み入る。track6やtrack15での、フィル・ウッズを思い出させるようなスインギーなフィル・ドワイヤー(1965-)のアルトもいい味出している。イントロが無伴奏のヴォーカルで始まるトラックが多いが、ノイズ感が皆無で実に素晴らしくいい。いつもながらこのレーベルはブックレットが付いていて、とても有難い。ブックレットに「The Trouble with Hello」、「To Say Goodbye」、「Just Sometimes」の3曲がお薦めとして載っている。手始めにこれらを配信でチェックするのもいいと思う。Diana Panton:Blue(2xCD)24bit96kHz Flac1.Alan Bergman;Marilyn Bergman;Johnny Mandel;Charles Strouse;Lee Adams:Medley: Where do You Start? Once Upon a Time2.John Winston Lennon;Paul James McCartney:Yesterday3.Fred Stryke;Johnny Lange:Without Your Love4.Stephen Sodheim:Losing My Mind5.Irene Higginbotham:This Will Make You Laugh6.Alan Bergman;Marilyn Bergman;David Grusin:The Trouble with Hello Is Goodbye7.Cy Coleman;Joseph Allan McCarthy:I'm Gonna Laugh You right Out of My Life8.Lani Hall;Edu Lobo;Torquato Pereirade;Araujo Neto:To Say Goodbye9.Bobby Troup;Leah Worth:Meaning of the Blues10.Sammy Cahn;Jimmy Van Heusen:I'll Only Miss Him When I think of Him11.Ron Anthony;Sammy Cahn:It's Always 4 Am12.Armando Manzanero Canche;Norma Winstone:Just Sometimes13.Gladys Shelley;Abner Silver:How Did He Look?14.Richard Rodgers;Lorenz Hart:Nobody's Heart15.Frank Loesser:Spring Will Be a Little Late This Year16.David L. Frishberg;Johnny Mandel:You Are ThereDiana Panton(vo)Jim Vivian(p,rhodes)Phil Dwyer(sax)Reg Schwager(g)Don Thompson(b)Penderecki String Quartet(track2,4,6,7,9)
2023年03月21日
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カナダの女性ヴォーカリスト、ニッキ・ヤノフスキー(1994 -)の新作を聴く。多分4枚目のリーダーアルバムで、配信のみのリリース。オリジナル・アルバムは2014年以来のなので、大分ご無沙汰している。デビュー当時から管理人のお気に入りで、このアルバムのシングルが配信されて以来、アルバムの完成を心待ちにしていた。ところが結構高くて、spotifyで聴いていたものの、安くなるのを待っていた。HDtracksのメールで25%のディスカウント・セールが行われることを知り、ダメもとでチェックしたところ対象製品になっていたので、早速ダウンロード。これもペンディングだったダイアナ・パントンの新作もついでにダウンロードしてしまった。ブックレットは付いていないし、ネットにもレコーディング・データやパーソネルなどは殆ど載ってない。断続的にレコーディングしていたようで、結構時間がかかったようだ。プログラムはアメリカを中心としたスタンダードを特集したもの。ごくオーソドックスなスタイルのヴォーカルで、選曲の良さと相まって聴きごたえ十分。スキャット控えめで、ジャズ・ヴォーカルというよりはポピュラー系のスタンダード集という趣。男性だったらマイケル・ブーブレ、女性だったらナタリー・コールのスタイルを思い起こさせる。どの曲ものびのびと歌っていて、ノリもいい。ボサノバやシャンソンは原語で歌われているようだが、違和感はなくスムーズ。「Stella By Starlight」「It Never Entered My Mind」などのゆったりとした曲でも、艶とヴォリュームのある声で、説得力抜群の歌唱。アップテンポの「 I Get A Kick Out Of You」では、スピード感あふれるスキャットが入る。バックはピアノ・トリオとビッグバンド、時折ストリングスが入る豪華版。ビッグバンドは切れが良く、スインギーで彼女のヴォーカルを大いに引き立てている。ウエス・モンゴメリーの「West Coast Blues」でのハモンド・アルガンもいい感じだ。グレッグ・フィリンゲインズ(1955-)のピアノ、ネイサン・イースト(1955-)のエレキベース、アウトゥーロ・サンドバル(1949-)のフルーゲル・ホーンがフィーチャーされている。編曲も充実している。192kHzにアップコンバートしての試聴だが、豊かな響きでバランスが良い録音で、気持ちよく聴くことができる。ということで、配信のみのリリースだが、全曲スカなしで、彼女の成長が感じられる素晴らしく出来の良いアルバムだ。ジャズ・ヴォーカル・ファンの方には是非お聴きいただきたい。Nikki Yanofsky:Nikki By Starlight(MNRK Music Group)24bit 44.1kHz Flac1.Hoagy Carmichael: I Get Along Without You Very Well (Except Sometimes)2.Lew Brown, Sam H. Stept, Charlie Tobias: Comes Love3.Carl Sigman, Sidney Keith Russell: Crazy He Calls Me featuring Greg Phillinganes(p)4.Cole Porter: I Get A Kick Out Of You5.Murray Grand: Comment Allez Vous6.Victor Young, Ned Washington: Stella By Starlight7.Bob Haymes, Marty Clarke:They Say It's Spring8.Lorenz Hart, Richard Rodgers: It Never Entered My Mind featuring Greg Phillinganes(p)9.Andre Hornez, Henri Betti: C'est Si Bon10.John Wes Montgomary: West Coast Blues11.Bart Howard: Let Me Love You12.Antonio Carlos Jobim, EUGENE LEES: Quiet Nights Of Quiet Stars (Corcovado) featuring Nathan East(eb)13.Bruno Brighetti, Bruno Martino: Estate featuring Arturo Sandoval(flh)14.Gus Kahn, Nacio Herb Brown: You Stepped Out Of A Dream15.Lennard Bernstein,Beetty Comden,Adolph Green: Some Other TimeNikki Yanofsky(vo)
2023年03月15日
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コーラスデュオのレイチェル&ヴィルレイの2枚目のアルバム「I Love A Love Song!」を聴く。彼らのデビュー盤がタワー・レコードでベストセラーになっていることを知り、例によってspotifyでチェックしたら、なかなかいい。そのときに今回のアルバムが出ることを知り、リリース直後にチェック。今回のアルバムのほうが出来がいいので、Bandcampから$9でハイレゾをダウンロード。全曲がノスタルジーに満ちた雰囲気で、これが何とも心地よい。全て昔の曲かと思ったらtrak12を除いてヴィルレイの作曲とは恐れ入った。凄い才能だ。「Join Me in a Dream」のようなスロー・バラードもメロディーが魅力的で、スタンダードといいっても立派に通用する。ヴォーカル・デュオだがレイチェルのヴォーカルがフィーチャーされる曲が多い。白人特有のテイストだが、鼻っ柱の強いアニタ・オデイを思い起こさせるヴォーカル。少し突き放したような歌唱は、日本で言えば江戸っ子の気風の良さを感じさせる。アニタと違うところは声が凄くいいこと。ディクションも美しく、潤いのあるフレージングが何とも言えず心地よい。ヴィルレイは、対照的にソロでもそれほど強い主張はないが、趣味がよく小粋だ。コーラスでも両者の個性がぶつかることはなく、バランスがいい。「Goodnight My Love」のエンディングでは、ぐっとテンポを落とした二人の情感のこもった絡みが、ノスタルジアを呼び起こすような演奏だ。「I’m Not Ready」でのバック・コーラスはピッチがあっていないところがご愛敬。バックはスイングや中間派風の演奏だが、ホーンが複数入って、これがとても効果的だ。特にジャングル・スタイルのワーワーミュートのトランペットが目立っていた。「I’m Not Ready」でのハモンドオルガンやチェレスタなど、曲毎に使われる楽器も適切だ。一人で過ごすクリスマスを歌った「Just Me This Year」のエンディングでメル・トーメの「ザ・クリスマス・ソング」が引用されるのもおしゃれ。それにしても、やり方によっては、殆どすたれてしまったようなスタイルがいまでも立派に通用することを教えてくれたようなものだ。また、このようなアルバムが許容されるところに、アメリカの懐の深さを感じる。録音は、今時の録音にしてはレンジが狭く、デッド気味。彼らのスタイルにあったサウンドで、狙い通りだろう。歌詞はこちらで全曲を見ることが出来る。Rachael & Vilray:I Love A Love Song!(Nonesuch 075597909746)24bit88.2kHz Flac1.Any Little Time2.Even in the Evenin’3.Is a Good Man Real?4.Just Two5.Why Do I?6.I’m Not Ready7.Join Me in a Dream8.Hate Is The Basis (Of Love)9.A Love Song, Played Slow10.Just Me This Year11.I’ve Drawn Your Face12.Harry Revel & Mack Gordon :Goodnight My Love13. Let's Make Love on This Plane (Full Band Version) [Bonus Track] All Songs are composed by Vilray(except track12)Rachael Price(vo)Vilray(g,vo)Jacob Zimmerman (as,cl track 1, 4, 6, 7, 10)David Piltch(b)Joe LaBarbera(ds)Larry Goldings(p,organ,Celesta)Nate Ketner (ts track 1, 7, 10)Joey Sellers (tb tracks 10)Dan Barrett (tb,tp track3)Jim Ziegler (tp track 1 to 9, 11, 12)
2023年03月10日
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ブラッド・メルドー(1970-)のソロ・ピアノによるビートルズ作品集。2020年にフランスのフィルハーモニー・ド・パリで行われたライブを収録したものだ。メルドーはしばしばビートルズの楽曲を取り上げているが、今回はすべて初の録音で、Oléo filmsというフィルム会社が撮影した映像の音源のようだ。メルドーはジャズよりは他のポピュラーを演奏することが多く、その好みも独特なものがある。このアルバムは全てメルドー特有のカラーに染まっていて、オリジナリティがある。全体的にはゴスペルやブギウギなど黒人音楽の要素が多く、メルドーの体臭もあまり感じられない普遍的な演奏だ。あまりジャズっぽくなく、メロディーを素直に弾いているような素朴さを感じる。いつもなら、あっと驚かせるようなテクニックを誇示することもなく、童心に帰ったような心境だろうか。結果的に原曲の良さが伝わってくるいい演奏だった。タイトル・チューンでは、原曲がシンプルに演奏され、リズミックで楽しげな雰囲気が伝わってくる。ブギウギ風のリズムが心地よい「I Saw Her Standing There」、リズミックな「For No One」など聴きどころ多数。気に入ったのは馴染みのある「Here, There And Everywhere」ゆったりとしたバラード風の解釈で、安らぎを覚える。メロディーは不協和音を伴っていてピリッとスパイスが効いた、なかなか新鮮な解釈。「Golden Slumbers」はオリジナルは一分半だがここでは8分超の長尺な演奏になっている。原曲のテイストを残しつつ、ゆったりとしたテンポで入念に歌いあげている。ソロはブルースにゴスペル風味が入っているものの、華美に陥らず温かみを感じさせる。最後にテーマが戻ってくるところは、なかなか感動的だ。最後はレノンやマッカトニーとも交流のあったデヴィッド・ボウイの「Life On Mars?」で締めくくられる。ここでも、テクニックをひけらかせない、心温まる演奏だ。アドリブもメロディーを大切にしたシンプルなもの。カデンツァを伴うエンディングは、若干唐突感はあるものの、なかなか感動的だ。録音は全帯域充実したサウンドでライブ録音とは思えない程。ブラックがかった色彩で、粘り気のあるサウンドは、メルドーの芸風とは多少違う感じだが悪くない。Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles(Nonesuch – 075597907407)24bit4 8kHz Flac1.I Am The Walrus2.Your Mother Should Know3.I Saw Her Standing There4.For No One5.Baby's In Black6.She Said, She Said7.Here, There And Everywhere8.If I Needed Someone9.Maxwell's Silver Hammer10.Golden Slumbers11.David Bowie:Life On Mars?All Composed John Lennon & Paule McCrtney(except track11)David Bowie(track 11)Recorded September 19-20, 2020 at Philharmonie de Paris,for Oléo films, France.tv, Mezzo and Philharmonie live.
2023年03月06日
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保守論客として知られる福井県立大学の島田教授のツイッターで、ウェイン・ショーターが現地時間3月2日に亡くなられたことを知った。89歳だった。管理人がショーターを知ったのがいつだったかは覚えていないが、最後までほぼフォローしていた。2018年に演奏活動からは引退したが、最近は次のプロジェクトであるジャズ・バレエについて考えていたそうだ。出典:Bilbord Japan管理人にとっては、お気に入りのミュージシャンの一人で、ウエザー・リポート以降に何故かフォローしていた。ただ、アルバムが出るたびに聴いてはいたのだが、それほど熱を入れて聴いた覚えがない。近作では「Without A Net」(2013)は傑作だった記憶があるが、晩年は結構衰えが激しかった印象がある。個人的な印象は生真面目な性格で、ソロでも聴衆を圧倒するような感じではなかったと思う。作曲家としてはいい曲をたくさん書いていて、カバーされている曲が沢山あると思う。黒魔術とブラジリアン・フレーバーという独特なテイストは他のミュージシャンにはないものだ。彼の場合は、音楽監督としてジャズ・メッセンジャーズや70年代のマイルスバンドを牽引した功績が大きい。ウザーリポートでの活躍についてはザビヌルとジャコの陰に隠れて少し地味な存在だったような気がする。グラミー賞を受賞したことが手向けになってしまったが、晩年までステージに立っていたショーターにふさわしい。ショーターの名盤はたくさんあるが、個人的にはブルーノートでの諸作が印象深い。「SpeakNo Evil」や「Super Nova」は昔よく聴いていたものだ。特に「Super Nova」の「Sweet Pea」は大好きだった。宇宙に漂っているような雰囲気にブラジリアン・テイストが入った不思議な音楽だった。ところで、この稿を書いているときに、何故か渡辺貞夫さんのことを思いだした。調べてみると貞夫さんも、ショーターと同い年の1933年生まれ。2月1日生まれで、ショーターより6か月早い。読売新聞によると、バークリーに留学した時には、ショーターが公演でボストンを訪れると、貞夫さんのアパートで良く飲み明かしたと語っている。同い年の仲の良かった仲間が亡くなるのは、さぞや寂しいものだろう。貞夫さんも90歳とはいえ、出来るだけ長く演奏活動をしてほしい、というのが一ファンの勝手な願いだ。
2023年03月04日
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ジョルジュ・パッチンスキーの新譜が出たので、Qobuz GBから他の旧譜2枚と一緒にダウンロード。£6.29で、手数料を入れても邦貨で1100円程。例によって円安だが、もともとイギリスはCDなどが安いので、それほど悪い買い物ではない。今回のアルバムは4曲入りのEP。なので、配信のみのリリースだろう。「静寂の声」まではArts Et Spectaclesからのリリースだったが、今回はG2 Recordsという知らないレーベル。ステファン・グルラートというEMIの重役とピアニストで作曲家のゲッツ・オーストリンドにより設立された、配信専門のドイツの会社のようだ。演奏時間15分余りと短いながらも、パッチンスキー初のハイレゾであり、録音エンジニアは不明だが、音は相変わらずいい。演奏もみずみずしい抒情を感じさせるもの。いつも思うのだが、ドラマーがリーダーなのに抒情味が勝っているバンドなんてあまりない。また、アルバムごとにピアニストが代わってもテイストが同じというのも、彼の好みに合ったピアニストを見つけてくる審美眼と妥協しない?姿勢からだろう。「静寂の声」からはベースがマール・ビュロンフォッスからラファエル・シュワブに変更になった。曲はすべてパッチンスキーのペンによるもので、ヨーロッパの哀愁を感じさせる佳曲揃い。気に入ったのは「Love」他の曲と多少テイストが異なり、リズミックでウキウキするような気分になれる。存在感のあるラファエル・シュワブのベース、エティエンヌ・ゲローのリリカルかつダイナミックなピアノ、どちらも優れた出来だ。パッチンスキーのシャリーンというシンバルの音も印象的だ。録音はコンプレッサーを効かせた骨太で張り出し気味のサウンド。立体的な音場で弾むようなベースの音が心地よい。なので、「静寂の声」までのArts Et Spectaclesの繊細で透明感のある音とはかなり違う。同時に購入したArts Et Spectaclesからの「LE BUT, C'EST LE CHEMIN」(2015)と「Présence」(2009)は悪くはないが、192kHzにアップ・コンバートしても、今回の録音に比べるとだいぶ生気に乏しい感じがする。特に「Présence」はそう感じられる。両者とも蒼ざめた抒情とでも呼べるような、美しいが正気に乏しい。なので、あまり面白くない演奏。それに比べると「Time」は美しく、しかも活力があり、聴き手の心をほっこりさせる。ということで、EPながら演奏、録音とも文句なしの出来で大満足。パッチンスキーは「静寂の声」リリース当時、これがラスト・アルバムと表明していたが、配信とはいえ新しい録音がリリースされたことは、とても喜ばしい。Georges Paczynski Trio:Time(G2 Records)24bit 96kHz FlacGeorges Paczynski:1.Time2.Love3.Beauty4.EleganceGeorges Paczynski(ds)Etienne Guéreau(p)Raphaël Schwab(b)Recorded at the Conservatoire à Rayonnement Communal de Colombes (FRANCE)
2023年02月28日
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ホセ・ジェイムズの新譜を聴く。今回はヒップホップやR&Bにジャズを融合させたネオ・ソウルの女王、エリカ・バドゥへのトビュートで、彼女の曲が演奏されている。管理人はバドゥの歌を聞いたことがないのでspotifyで聞いてみた。少しこまっしゃくれたようなヴォーカルで、管理人の好みではなかった。ホセの演奏はバドゥとは全く違って重厚な演奏だ。ホセの音楽は、いつもだと少し神経が刺激される音楽なのだが、今回はやすらぎを感じさせる音楽で、バドゥの曲のせいか、もしかしたらホセの新境地なのかもしれない。今回はサックスが二人加わっているところが珍しい。1曲を除き彼らが交代でフィーチャーされている。ホセのヴォーカルはいつもより癖がないので、彼があまり好きではない方にも抵抗は少ないだろう。タイトル・チューンはコルトレーンの演奏を思い起こさせるような、宗教的な雰囲気を感じさせる2アルトの絡みから始まる。イントロが終わった後はブーミーなベースが入り、いつものホセのサウンドになる。このアレンジはバドゥのジャズ的な面をクローズアップしたもので、アリス・コルトレーンとのリンクを意識したアレンジという。アルバムデザインの雰囲気がアリスの「Journey In Satchidananda 」に似ているのもそういう理由のようだ。今回もBIGYUKIがキーボードとして参加している。多用な楽器を使っているが、各々なかなか効果的な使い方でいいスパイスになっている。意外だったのは3つの部分に分かれた大作「Green Eyes」での、前半のアコースティック・ピアノ。彼がアーシーなテイストのプレイをするとは思わなかった。意外な驚き。ホセがBYGYUKIがストレート・アヘッドなジャズプレイヤーの特性を持つことを見抜いての器用だという。この「Green Eyes」は演奏時間が11分余りで、このアルバムで最も聴きごたえのあるトラックだ。「Header」の後半に出てくるフェイザー※(フェイズ・シフター)をかけたエバン・ドーシーのアルトのサウンドが何とも面妖なサウンドだ。「Gone Baby, Don't Be Long」は軽快でノリがいいが、リフが延々と続き、終いには飽きてしまう。「Out My Mind, Just In Time」はホーンなしのスローなナンバー。ホセのねっとりとしたヴォーカルとBIGYUKIのキーボードが独特なムードを醸し出している。短いながらも印象に残るトラック。「Bag Lady」でのBYGYUKIによるhammond B-3のサウンドも光る。ここでのダイアナ・ジャッバールのフルートは平凡。バックコーラスはクレジットがないが、ホセの多重録音だろうか。※フェイザー:「位相のずれた音」を原音にミックスすることで、シュワシュワとしたサウンドを作り出すモジュレーション系エフェクター出典:https://guitar-hakase.com/7545/参考:ホセ・ジェイムズ、エリカ・バドゥを語る「ここ25年のジャズにとって最重要人物」José James:On & On(Rainbow Blonde BLONDE058C)24bit44.1kHz Flac1.On & On (feat. Diana Dzhabbar, Ebban Dorsey)2.Didn't Cha Know (feat. Ebban Dorsey)3.Green Eyes (feat. BIGYUKI, Diana Dzhabbar)4.The Healer (feat. Ebban Dorsey)5.Gone Baby, Don't Be Long (feat. Ebban Dorsey)6.Out My Mind, Just In Time7.Bag Lady (feat. Diana Dzhabbar)José James(vocals, bells, singing bowl, Bali metal tongue drum)Ebban Dorsey(as track 1, 2, 4, 5)Diana Dzhabbar(fl,as track 1, 3, 7)BIGYUKI(p,fender rhodes, wurlitzer, hammond B-3, synthesizers)Ben Williams(b)Jharis Yokley(ds) Recorded on June 22nd, 2022 at Dreamland Studios, WoodstockRecorded on July 15th, 2022 at Flowriders Studios, AmsterdamAdditional recording by José James at Rainbow Blonde East and by BIGYUKI at Tree House Studio NYC.
2023年02月23日
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グラミー賞にノミネートされた「Bird Lives」というビッグバンド・アルバムを聴く。ビッグ・バンドに豪華ゲスト陣、さらにストリングスが加わるという布陣。SWRという放送局のバンドなので、弦も交響楽団から調達できるのが強み。スエーデン出身のマグナス・リンドグレン(1974-)とモンケストラで知られるジョン・ビーズリー(9160-)のアレンジが大変優れていて、スリルと興奮を呼び起こす。豪華なソロイストがフィーチャーされている。弦が入っているので、ジャズ度は薄まっているが、パーカーの音楽がゴージャスなサウンドに変貌し、新たな魅了が付け加えられたと思う。昔のCTIのアルバムを思い出させる(はるかにアグレッシブだが)ようなサウンドが心地よい。ただ、録音が混濁気味で、サウンドの透明度が上がれば、よりインパクトは強かっただろう。曲毎にソロイストが代わり、どのソロも聞きごたえ十分だ。「Cherokee - Koko」では凄まじく速いテンポでエキサイティングなビッグ・バンドサウンドが楽しめる。ベルトーのマシンガンのようなスキャットとポッターのテナー・ソロが光る。ただ、ベルトーは別どりのためか、ミキシングのためか、いまいち透明度が悪く、バックに埋もれ気味でその凄さが伝わりにくい。「サマータム」はブルース・フィーリング溢れる好アレンジ。ビヨンセのツアーの一員であるティア・フラーのアーシーなアルトもいい感じだ。「ドナ・リー」では激しいラテンのリズムが曲を支配する。ダークなサウンドで、それにかぶさるストリングスとのコントラストが際立っている。メロディーにはエレキ・ベースも参加していて、ジャコ・パストリアスのプレイを思い出させるが、フットワークが少し鈍い。ストリングスのクールなサウンドが入っているのがとても効果的だ。マグナス・リンドグレンの荒々しいフルート・ソロが異彩を放っている。「Laura」でのチャールズ・マクファーソンのソロは熱のこもったもので、録音当時80歳を超えているとは思えない活力に満ちたものだった。最後のマグナス・リンドグレンのアレンジによる「Overture to Bird」はゴージャスな装いのパーカーメドレー。この曲も単なるメドレーではない凝ったアレンジで、わくわくどきどき文字通りパーカーへの序曲として、とても楽しめる傑作アレンジだった。ロヴァーノ、マクファーソン、ベルトーは別どり。ジャケットデザインは不満だ。パーカーの写真に原色のいろいろな形の物体が被さっている。そもそも、これが何を意味しているのか分からないし、全く美しくない。ブックレットにはデザインはGottfried Mairwöger(1951-2003)という名前がクレジットされている。ウイーンの画家で、作品を見ると原色を使った抽象画で、あっさりとした筆致で描いたような作品ばかりだ。ACTのデザインはいつもシンプルなのだが、このアルバムは写真と絵の組み合わせがいまいちように感じられる。SWR Big Band, Magnus Lindgren, John Beasley:Bird Lives(Act Music ACT 9934-2)24bit 48kHz Flac1.Ray Noble/Charlie Parker:Cherokee - Koko2.George Gershwin:Summertime3.Charlie Parker(arr.John Beasley):Scrapple from the Apple4.Don Raye, Gene Paul(arr.John Beasley):I'll Remember April5.Charlie Parker:Confirmation6.Charlie Parker:Donna Lee7.David Raksin:Laura8.Barry Harris,Charlie Parker,David Raksin,Gene DePaul,George Gershwin:Overture to BirdSWR Big Band & Stringsco-arranged by Magnus Lindgren & John BeasleyMagnus Lindgren – music director, flute & tenor saxJohn Beasley – piano & keysGuests :Chris Potter(ts track1)Joe Lovano(ts track4)Miguel Zenon(as track6)Tia Fuller(as track2)Charles McPherson(as track7)Camille Bertault(vo track 1)Pedrito Martinez(perc.)Munyungo Jackson(perc.)Recorded at SWR Funkstudio Stuttgart, Germany, November 16-28,2020Joe Lovano recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey, Charles McPherson recorded at SpragueLand, Encinitas, CaliforniaCamille Bertault recorded in Paris
2023年02月17日
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本年度のグラミー賞が発表された。今後管理人の好きなジャズやクラシックの未聴の音源をチェックしていきたい。今回は、最優秀ジャズ・アンサンブル・アルバム受賞のGeneration Gap Jazz Orchestraのアルバムを取り上げる。例によってbandcampからの入手。C$9.99以上なので、千円以下で入手できた。ハイレゾではあるが192kHzにアップコンバートしての試聴。このバンドのことは全く知らないが、簡単にいうとビッグバンド本来のスイングとドライブを大事にした真っ当なバンドだ。ピアニストのスティーブン・フェイフケとトランペッタ-のビジョン・ワトソンの双頭バンドで、20年以上活動をしているという。このバンドはアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのバンドの雰囲気を蘇らせようとしているもので、名前の通り世代を超えた人間と音楽を結びつけることを目指しているようだ。昨今はメッセージ性が優先される音楽が多く見受けられるが、このバンドの音楽は難解さはなく、ひたすらスイングするという潔さが感じられ、ビッグ・バンドの醍醐味を存分に味わうことが出来る。スティーブン・フェフク インタビューを見ると、このレコーディングはヴァーチャルでのレコーディングのようだ。また、このセッションでは白人プレーヤーが多く、女性もかなりの人数がいる。そのためか、西海岸の爽やかなサウンドが聞こえてくるような気がする。リーダーのフェフクのオリジナル3曲他、ジャズメンのオリジナルや映画の主題歌などヴァラエティに富んでいる。オープニングはバンドの有力なソロイスト数名をフィーチャーした、リズミックな「Ive Got Algorithm」から始まる。アップテンポの快適な曲で、これからの展開を期待させるようなワクワク感のある演奏。ホーンが強力で気持ちがいい。動画でも演奏されているジョー・ヘンダーソンの「Inner Urge」ではローレン・セヴィアン(1979-)のバリトン・サックスのロング・ソロがなかなかの聴き物だ。ピクサーのアニメ「リメバー・ミー」の主題歌はギターをバックにワトソンのトランペットから始まる。ジャジーなアレンジで後半にトランペットが炸裂する場面はなかなか感動的だ。サックス・セクションをフィーチャーしたコミカルな「Dollars Moods」は曲の出来があまりよろしくないし、サックス・ソリのハーモニーが軽くてあまり面白くない。ホレス・シルバーの「ニカス・ドリーム」はテーマが変拍子で書かれていて、新鮮に響く。2曲目と4曲目にカート・エリングのヴォーカルが加わる。彼はビッグ・バンドとの共演も多く、日本でもビッグバンドを帯同した来日公演を行っている。いつもながらの圧倒的な歌唱力を発揮している。この中ではリリカルなスティングの「Until 」が心に沁みわたる。こういうリリカルな曲の場合バックも穏やかな曲調になるものだが、スピーディーなフレージングとドライブ感が心地よい。この曲の良さを逆説的に感じさせる大変優れたアレンジ。2曲でフィーチャーされているトランペットのショーン・ジョーンズは、まあまあのパフォーマンスだが、こじんまりとまとまっているのが不満。録音は少し平板だが普通のでき。ということで、優れた出来だが、ヴァーチャルではなくリアルなレコーディングであればもっといい演奏が出来た気がする。Steve Feifke & Bijon Watson Present Generation Gap Jazz Orchestra(CELLAR LIVE CM121621)24bit 44.1kHz Flac1.Steven Feifke: Ive Got Algorithm (feat. Chad LB, Mike Rodriguez, Roxy Coss, Thomas Luer)2.Bodine,Bentyne,Siegl,Elling: Sassy (feat. Kurt Elling, Christopher McBride)3.Joe Henderson: Inner Urge (feat. Alexa Tarantino, Lauren Sevian, Ulysses Owens, Jr.)4.Sting: Until (feat. Kurt Elling, Steven Feifke)5.Steven Feifke: Scenes From My Dreams (feat. John Fedchock)6.Kristen Anderson-Lopez;Robert Lopez: Remember Me (feat. Bijon Watson & Will Brahm)7.Hugh Masekela: Dollars Moods (feat. Sean Jones & Steven Feifke)8.Horace Silver: Nicas Dream (feat. Steven Feifke, Bijon Watson, Ulysees Owens Jr)9.Steven Feifke: Blues In A Second (feat. Sean Jones, Bijon Watson, Tanya Darby, Mike Rodriguez, Danny Jonokuchi)Steven Feifke(p,arr.,orchestration)Bijon Watson(tp)Chad LB(ts track 1)Kurt Elling(vo tracks 2 & 4)Sean Jones(tp tracks 7,9)Generation Gap Jazz Orchestra
2023年02月12日
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バルネ・ウイランの「フレンチ・バラッズ」というアルバムを聴く。昔ベストセラーになったアルバムの再発らしい。オリジナルのサウンド・エンジニアであるエルヴェ・ル・ギルがアナログ24トラックマスターから新たにリマスターしたとのこと。bandcampのラインナップの中では少し高く、なかなか踏ん切りがつかなかったが、思い立ってbanddcampからダウンロードした。ロスレスで、€10、1400円弱で買える。このアルバムは1980年代後半、フランスのIDAというレーベルに録音した「La note bleue」、「French Ballads」、そして「Wild dogs of the Ruwenzori」という3部作の2作目。曲はフランスのシャンソンや映画音楽を中心としたアルバム。管理人の耳になじみのある曲が多い。バルネのサックスはどの曲も積極的なプレイでべとつかず、ぐいぐい迫ってくる。録音のせいか、骨太の音楽が展開され、抒情的なものを連想させる通常のバラード集とは一味違った、爽やかさの中に一本芯が通った音楽。サウンドが誰かに似ていると思い、デクスター・ゴードンのアルバムをチェックしてみた。確かにサウンドは似ている。ただ、デックスは音のエッジがはっきりしている反面バルネはぼやけたサウンドだ。全体にばらつきが少なく、好プレイが続出している。気に入ったのはルグランの「思い出の夏」と「風のささやき」どちらも乾いた抒情が特徴だが、特に「風のささやき」は少しコミカルな仕上がりで面白い。「思い出の夏」は、抒情を湛えたソプラノ・サックスが実に美しい。異色なのは「My Way」多分ジャズで取り上げられることは少ないと思う。これが際物的にはならず、しみじみとした味わいになっているところがいい。ベース・ソロも悪くない。「枯葉」はイントロがジャズとしては感傷的過ぎる解釈だが、胸を締め付けられるような演奏だ。アップテンポになると、ジャジーでクールなムードになるが、最初のムードは持続している。これは「枯葉」の演奏としてはかなり個性的な演奏だろう。ジャン語・ラインハルトの曲が2曲取り上げられている。その中では「Tears」の少しテンポの速い、サスペンス映画の音楽のような演奏がいい。ピアフの「バラ色の人生」も意表を突く解釈。バックがベースとドラムスのみで、甘さを排したクールなムードで延々とテナーのソロが続く。実にオリジナリティに富んだ解釈で、ジャズを聴く醍醐味を感じさせる演奏だ。4曲の別テイクが含まれているのも嬉しい。ベースのリカルド・デル・フラ(1956-)のソロが多いが、重量感があり、艶のあるサウンドで悪くない。ミシェル・グレイエ(1946-2003)のピアノも悪くないが、個人的にはもう少し出て来てもいいような気がする。サンゴマ・エヴェレット(1952-)のドラムは特に目立たないが堅実なプレイに終始している。古い録音だが、リマスターの効果かノイズが少なく、太い音で、大きな音でも安定している。前面に張り出した録音で眼前で演奏しているようなリアル感もある。楽器間のバランスも良い。艶のあるサックスやベースの音が美しい。Barney Wilen:French Ballads(Elemental Music 5990440)16bit 44.1kHz Flac1.Charles Trenet:L'ame des Poetes2.Michel Legrand:What are you doing the rest of your life3.Hubert Giraud, Jean Dréjac:Sous le Ciel de Paris4.Bernard Dimey, Henri Salvador:Syracuse5.Michel Legrand:Un Ete 42(= Summer Of ’42)6.Jacques Revaux:My Way7.Jacques Prévert, Joseph Kosma:Les Feuilles Mortes(Autumn Leaves)8.Michel Legrand:Once Upon A Time9.Jean Casanova, Paul Durand, Rose Noël:Seule Ce Soir10.Django Reinhardt:Manoir De Mes Reves11.Django Reinhardt:Tears12.Édith Piaf, Marcel Louiguy:La Vie En Rose13.Michel Legrand:Les Moulins de Mon Coeur14.Bernard Dimey, Henri Salvador:Syracuse (Alternative Take)15.Michel Legrand:Un Ete 42(Summer Of ’42 Alternative Take)16.Jacques Prévert, Joseph Kosma:Les Feuilles Mortes(Autumn Leaves Alternative Take)17.Jean Casanova, Paul Durand, Rose Noël:Seule Ce Soir(Alternative Take)Barney Wilen(ts,ss)Michel Graillier(p)Riccardo Del Fra(b)Sangoma Everett(ds)Recorded And Mixed At Gimmick Studio, Yerres, France, On June 24-26, 1987
2023年02月06日
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オスカー・ピーターソンが1971年に行ったチューリッヒでのコンサートのライブを聴く。いつものBandcampから$10(訳1300)で入手。残念ながらロスレスだった。このアルバムは未発表録音で今回が初公開。とにかく猛烈にスイングするピーターソンの豪快なプレイが堪能できる。当時はMPSからのリリースが続いている時期で、同じ年にはのシンガーズ・アン・リミットとの共演で「In Tune」を録音している。全曲絶好調でキレキレのアドリブも申し分ない。ただ、声が少しうざく、ほとんど雑音と化しているのが残念。ここでも凄まじいテクニックを披露しているが、現在のテクニックのあるピアニストに比べると音の粒立ちが若干粗い感じがするのは意外だった。アップ・テンポの曲が多いが「Young and Foolish/A Time for Love」での抒情あふれるが、やたらと音数の多いアドリブは、アート・テイタム以外のピアニストからは聞かれないプレイだろう。アップテンポの曲では、グロフェの「山道を行く」で一気にギヤを上げてからの(4分40秒)狂気じみたスピードには恐れ入る。ピーターソンはベースのニールス・エルステッド・ぺデルゾン(1946 - 2005)とは70年代によく共演している。彼との録音は7枚ほどある。ぺデルソンはここでも重量感のあるベース・サウンドだ。ルイス・ヘイズ(1937-)はピアノに負けずスピード感あふれるドラミングが小気味いい。特にブラシを使った曲がスリリングで楽しめる。彼は今年86歳になるが、現在も活躍中で、昨年も「Crisis」(Savant)をリリースしている。オスカー・ピーターソン・トリオには1965年から1967年の間在籍している。1971年の世界ツアーは臨時の参加だったのだろうか。どのアルバムで叩いているのか、はっきり分からないが「Girl Talk](MPS)やモントリオールでのライブ「Live In Montreal 1965」(Disconforme)などがあるようだ。例によって192kHZにアップコンバートしての試聴。もともとの録音がそれほどよくないので、アップコンバートしてもそれほど改善されない。また、全体的にグレーな色彩で、すっきりしない。プレイそのものが素晴らしいので、録音が足を引っ張るということはないが、音がもっと良ければと思うのも確か。96kHzでリリースされているところもあるが、高いので仕方がない。On a Clear Day: The Oscar Peterson Trio - Live in Zurich, 1971(キング KKJ-202)16bit 44.1kHz Flac1.Peter DeRose and Bert Shefter:The Lamp Is Low2.Richrad Rodgers:Younger Than Springtime3.On a Clear Day4.Burton Lane:Young and Foolish/A Time for Love5.Roy Alfred;Benny Goodman:Soft Winds6.Kurt Weill:Mack the Knife7.Jerry Block;Sheldon Harnick:Where Do I Go from Here?8.Ferde Grofe:On the TrailOscar Peterson – pianoNiels-Henning Ørsted Pedersen – bassLouis Hayes – drumsRecorded at Zurich Kongresshaus – Zurich, Switzerland • November 24, 1971 by Radio Zurich
2023年01月23日
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レコード芸術に連載中の寺島靖国氏のエッセイで知った一枚。CDの発売が12/21だったので、配信はしばらくしてからと思っていたが、念のためSpotifyをチェックしたらすでにリリースされていた。ダウンロードは国内はOTOTY、海外ではQobuzでリリースされていた。Qobuzのほうが若干安いのだが、手違いでOTOTOYからダウンロードしてしまった。まあ差額は¥100程度なので、許容範囲内だ。どちらのサイトもハイレゾはなくロスレスのみ。今回のアルバムはガラティ初のボサノヴァ集だそうだ。ディストリビューターによると『当初、寺島靖国氏はこの作品がジャズではなかったため、リリースすることに前向きではなかったが、出来栄えに感嘆した』とのこと。限界はあるだろうが、ジャンルを問わずジャズマンが演奏すれば、ジャズになるというのが管理人の考えだ。なので、ボサノヴァはジャズではないという氏の考え方とは異なる。結果的にはオクラにならなくてよかったと思う。寺島氏のこだわりがよく出たエピソードだが、誤りをすぐ認めるところは、寺島氏の柔軟性を感じる。演奏を聴くと、いつもながらのガラティ節が聴ける。ボサノヴァというイメージからはすこし離れていて、すっかりガラティの音楽になっている。寺島氏が納得したのも頷ける。逆に言えば、このアルバムに通常のボサノヴァを期待すると、はぐらかされたと思っても不思議はない。いいか悪いかは別にして、ガラティのボサノヴァに対する感性が、他のミュージシャンとは少し違うようだ。ボサノバの素朴さは皆無で、熱量もあまり高くない。思索的で高度に洗練された音楽。ガラティ・ファンにはたまらないボサノヴァ集だろう。いきなりメロディーが出てくるようなことはなく、聴いていてあの曲だとわかるアプローチが多い。なので、曲を知っている方のほうが、仕掛けが分かって楽しめるだろう。「Samba de Uma Nota Só」は、「ワンノート・サンバ」とは思えない、哀愁を帯びたアレンジが大変優れている。「Dindi」もスタイリッシュで、実にかっこいい演奏。最後の「Luiza」は甘さ控えめのピアノ・ソロで悪くない。ベース、ドラムスともガラティの静謐な音楽に寄り添ったバッキングだ。ころでこの音源、何と録音の後の調性やらミックスダウン、マスタリングまですべてガラティ自身が行っていると寺島氏が明かしている。ガラティは以前からプロデュースや録音の様々な工程を自分で行っていたのは知っていたのだが、まさかアメリオ録音を自分でマスタリングするとは思はなかった。その理由が「アメリオとは何度も録音しているので手法は大体わかっていて、それを盗用した。」という身もふたもない返答。分かっているのと、実際行うのは違うと思うのだが。。。無謀というか、やってしまう方なのだろう。寺島氏は録音から全部自分でやったらと、けしかけているようだ。個人的にはベースが強すぎるように思う。ジャケ写の風景が素晴らしく美しい。Alessandro Galati :Portrait in Black and White (寺島レコード TYR1109)16bit 44.1kHz FlacAntônio Carlos Jobim:1. O Que Tinha de Ser2. Modinha3. Samba de Uma Nota Só4. Inútil Paisagem5. Só Tinha de Ser Com Você6. Fotografia7. Dindi8. Vivo Sonhando9. Eu Sei Que Vou Te Amar10. Retrato Em Branco e Preto11. Por Toda a Minha Vida12. LuizaAlessandro Galati (p)Guido Zorn (b)Andrea Beninati (ds)Recorded Artesuono Recording Studios (Italy) by Stefano Amerio 2022
2023年01月19日
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ブリュッセル・ジャズ・オーケストラのセルジュ・ゲンズブール(1928-1991)の作品を特集したアルバムを聴く。ヴォーカルのカミーユ・ベルトーが全面的にフィーチャーされている。ハッキリとは分からないが、今のところ配信のみのリリースのようだ。Qobuz usから税込みで$8.09でロスレスをダウンロード。この稿を書くために調べていた時に、ゲンズブールが若いころジャズ・ピアニストであることを知った。出典:https://www.udiscovermusic.jp/stories/rediscover-gainsbourg-percussionsそもそも彼のアルバムはバックにホーンが入ったバンドのことが多く、ビッグバンドで取り上げられてもおかしくないのだろう。管理人はゲンズブールの曲をほとんど知らないが、今回のアルバムではフィットしている曲とそうでない曲があるようだ。ベルトーお得意のスキャットは控えめで、お国の偉大なミュージシャンの歌を神妙に歌っている。なので、いつもの自由な歌唱は「Le Poinconneur des Lilas」くらいなものだろう。このアルバムでの聞き物は何と言ってもブリュッセル・ジャズ・オーケストラの演奏。ノリノリの演奏で、スイング感が半端ない。サウンドは分厚く濃厚で、ぐいぐいと迫ってくる。なので、フランスのしゃれた味わいはそれほど感じられない。まあ、両者は両立できないので、曲によってアレンジのやりかたを変えても良かったような気がする。もちろん随所に出てくるソロは文句の付け所のない素晴らしいものだが。。。気に入ったのは10分余りの「Les Goemons」何と言っても原曲のしみじみとした味わいがいい。「Les Goemons」フランス語で褐藻類のヒバマタを意味するらしいが、ゲンズブールの歌を聴いていたら「ゴエモン」と聞こえるのが面白い。そう思ったのは管理人だけでないようだ。ダークなムードがたまらなくいい。スキャットとともに盛り上がる後半が圧巻の演奏。ハイテンポの「Le Poinconneur des Lilas」(リラの門の切符切り)のスピード感と哀愁溢れるメロディーが堪らない。後半の目まぐるしく変わるアンサンブルも鳥肌ものだ。アルバムの最後はゲンズブールの妻ジェーン・バーキンを歌ったとされる、甘い「Elisa」で締めくくられる。録音はバランスがよく、透明感がある。全帯域にわたってエネルギーが充実していているが、押しつけがましいことはなく、艶のあるサンドが大層魅力的だ。最近、低音がブーミーな録音ばかり聴いているためか、自然なバランスが心地よい。ということで、ヴォーカル・アルバムと考えると物足りないが、ビッグ・バンドのアルバムと考えれば、最上級のパフォーマンスだ。それにゲンズブールの曲のすばらしさも味わえて、個人的にはとても楽しめたアルバムだった。ゲンズブールのアルバムは多数あり、これから聴いていくにしても、だいぶ骨が折れそうだ。Brussels Jazz Orchestra:Gainsbourg(Brussels Jazz Orchestra Records)16bit 44.1kHz Flac1.Couleur Cafe2.Les Cigarillos3.En relisant ta lettre4.Je suis venu te dire que je m'en vais5.Les Goemons6.La Javanaise7.L'eau a la bouche8.Le Poinconneur des Lilas9.ElisaCamille Bertault(vo)Brussels Jazz Orchestra
2023年01月13日
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神戸出身でアメリカ在住のジャズ・ピアニスト香嶋裕美子(こしまゆみこ)の「Imagination Canvas」というアルバムを聴く。数ヶ月前にbandcampからの新譜案内で知った音源で、$7で購入。今のところ配信のみのリリースのようだ。29歳でロサンゼルスに渡米、現在カリフォルニア州立大学ノースリッジ校音楽科に在学中とのこと。ベースとドラムもロサンゼルス在住のミュージシャンだ。彼女のサイトをみると、このアルバムはデビュー・アルバムのようだ。トリオ編成で全7曲全て彼女の作曲。キャッチーなメロディーこそないが、どの曲も落ち着いて味わい深い。全体にECM的なクールな表情が目立ち、時折訪れる静寂が、日本的な美を感じさせる。それは音数の少ないプレイ・スタイルによることにもありそうだ。速いフレーズをばらばらと弾くこともなく、終始落ち着いたプレイには面白みがないともいえるが、個人的には、地に足が着いた安定感と安らぎが感じられる。また意外に?打鍵が強く、それも説得力を生んでいる原因の一つだ。1曲目の「Soundless Lake」は速めのテンポで、哀愁を感じさせるメロディーが流れる。続く「Red Leaves」は日本の童歌を思い起こさせるような、懐かしさを感じさせる曲。メロディの最後を下げないで上げているところは、オリジナリティが感じられる。「Dear Chagall」もグレーな色彩ながら、心温まるバラード。エンディングに向かって、次第に盛り上がっていくさまは、なかなか感動的だ。タイトルの「Chagall」は画家のマルク・シャガールかと思ったが、推測の域を出ない。ところが5曲目も「セザンヌのリンゴ」という画家のセザンヌに因んだタイトルなので、管理人の推測が間違いないようだ。ゲイリー・フクシマによるライナーノートには『いつも視覚的な美に魅了され、インスパイアされ続け、画家になれたらどんなにいいだろうと思うことがあった』と書かれてあることからも頷ける。スローテンポの「An Old Shrine」中間部での一音一音がずしんと来るような力強いピアノソロが、結構インパクトがある。「Impressionist」の柔らかな優しいメロディーで、締めくくられる。心静かに耳を傾けている時は、日常の喧騒の中では、なかなか得られない、穏やかな時間が感じられる。ベースとドラムスはほぼ均等にソロが与えられている。ベースのジャーメイン・ポールは派手さはないが、渋いサウンドで堅実なプレイ。ドラムスのTina Raymondは悪くないが、少しうるさい。また、ソロでは、すこしドタバタして、しなやかさに欠ける。またドラム・ソロの入った曲の構成がワンパターンで、何回も聞くと、またかと思ってしまうのが惜しい。ということで、地味なアルバムだが、内容が充実していて楽しめた。香嶋裕美子: Imagination Canvas16BIT44.1kHz Flac1.Soundless Lake2.Red Leaves3.Monet's Garden4.Dear Chagall5.Cezanne's Apples6.An Old Shrine7.ImpressionistYumiko Koshima(p)Jermaine Paul (b)Tina Raymond(ds)Recorded on 03/31/2022 at Big City Recordings Studio in Granada Hill
2023年01月08日
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ジャズ批評で連載中の日比野真氏のコラム「今でこそ始めたい配信で聴くジャズ」で知ったアルバム。このコラムは連載されていることを知らなかった。今回何故か目に留まった。このコラムはCD化されない配信ジャズを紹介しているもので、231号がその第7回目だった。そこに挙げられている音源をspotifyでチェックしたら、なかなかいいアルバムが紹介されている。その中で、イタリアの歌手ヴァレンティナ・ラナッリの「Overseas」が気に入った。ホームページを見ると、最初はナポリの「サン・カルロ劇場」でオペラの歌唱を10年間学び、次に「サンレモ・アカデミー」で5年間ミュージカルについて学び、G.プッチーニ音楽院で「ジャズ・シンガー」の学位を取得、最終的にはローマのサンタ・チェチーリア音楽院を卒業している。この経歴から見ると、年は30代半ばだろうか。いろいろな音楽の素養が半端ない。The Voice of Italyというテレビ番組のシリーズ2(2014)では普通のポピュラーソングを歌っているのも頷ける。この「Oversea」はEPながら、どの曲もいい。出来ればダウンロードして音源で聴きたいところだが、管理人の環境ではspotifyをDACを通してAMPに繋げるしかないので、音質的にはイマイチだ。他の配信も確認したところ、国内はapple musicはOKでamazon musicでは配信されていなかった。海外はあまり確かめていないがdeezarにはあり、qobuz usにはリストにない。deeezarは有料だとハイレゾで聞けるようだ。彼女は声質がエミーリー・クレア=バーローに似ていて、ちょっと舌足らずなところがあるが、とろけるような甘さが大層魅力的だ。フレージングも、どことなく似ている気がする。情感のこもったヴォーカルで、大変上手い。スキャットは多用するわけではない。テクニックの有無は不明だが、癖がなく、管理人にとっては好ましいスキャットだ。バックはピアノとベースというシンプルなものだが、両者のバッキングが素晴らしく、物足りなさはない。特にFrancesco Marzianiの情感を湛えたピアノが素晴らしい。巷ではバップピアニストとして、ならしているらしい。因みに彼の師はバリー・ハリスとのこと。Antonio Napolitanoのベースはそれほど目立たないが堅実なプレイ。曲の出来にばらつきはなく大変水準が高く、ジャズ批評の日比野真氏のコメントに全面的に賛成できる。エンリコ・ピエラヌンツィとの最新作「Cantare Pieranunzi」も少し聴いてみたが、「Oversea」に比べるといまいちだった。ということで、今まで全く注目していなかった「今でこそ始めたい配信で聴くジャズ」、過去の分もさかのぼってチェックしたい。どのようなお宝が出るか、今から楽しみだ。The Voice of Italy series2 Valentina Ranalli:Oversea(741405 Records DK)1.Arthur Schwartz:You and the Night and the Music2.Antonio Jobim:Eu Sei Que Vou Te Amar(I know that I will love you) Italian Version3.Irving Berlin:How Deep Is the Ocean 4.Victor Young:When I Fall in Love5.Toots Thielemans:BluesetteValentina Ranalli(vo)Francesco Marziani(p)Antonio Napolitano(b)Recoded 2017
2023年01月02日
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秩父英里の初リーダーアルバム「Crossing Reality」を聴く。海外からの配信を待っていたのだが、今のところ全くその気配がないので、仕方なく国内の配信サイトを探した。国内でもハイレゾはTOTOYでしかリリースされていないようなので、OTOTOYからダウンロードした。ところが支払いにPayPalが使えて、たまたまウォレットに¥500が入っていたので実質¥2500でダウンロードできたのは嬉しかった。間違ってalacでダウンロードしてしまったが、flacに変換できるので問題はない。しかし、気持ちが悪いので、OTOTOYで再ダウンロードできないかと思って調べたら、別なフォーマットでも再ダウンロードできる機能が追加されていて、早速Flacでダウンロード出来たのは有難かった。これは他社にはない機能で、差別化には強力なツールだ。この機能を利用すると、複数フォーマットでの音の聞き比べができるのもいい。閑話休題以前からbandcampに出品されているを聴いていたが、全部ラージアンサンブルの曲で女性作曲家の作品とは思えない、エネルギッシュな音楽に惹きつけられた。今回が初リーダー作なのだが、作品、演奏とも完成度が恐ろしく高い。サウンドはアメリカ・西海岸風の爽やかなもの。all about Jazzに彼女のインタビューが載っている。それによると、ヤマハ音楽教室でエレクトーンを弾いていて、東北大学に入ってから、大学のジャズクラブにあった白いピアノを弾きたいと思いクラブに入部したという。心理学を専攻し、修士課程に進む前の春休みに札幌で開かれたジャズのワークショップに参加。そこでバークリーの夏の5週間の演奏プログラムに参加できる奨学金を得て(バークリー賞)心理学からジャズに転向したそうだ。若いながら結構波乱万丈の人生を送っているようだ。因みにバークリー音大ではトランペットのタイガー大越に師事したとのこと。秩父のインタビューによると、今回のアルバムは自作のみで、バラエティーに富んだアルバムを作りたかったそうだ。その結果、ピアノ・トリオから9人のアンサンブルまでの作品が集められたとのこと。デビュー作でそれを実現できるのだから、彼女の実力、人脈とも半端ないのだろう。総勢16名が参加している。ラージ・アンサンブルのときの顔はエネルギッシュでぐいぐいと迫ってくるが、響きが整理されていないのか、雑然としている感じがする。ピアノ・トリオでは女性ピアニストらしいプレイが目立つ。スタイリッシュなドラム・ソロから始まるタイトルチューンはラージ・アンサンブルでの演奏。アンサンブルがキッチリしていて、ギターが入っていることもあり、個人的にはジョージ・ラッセルのサウンドを思い出す。時折聞こえるバリトンサックスがいい。突然終わるエンディングも悪くない。穏やかな曲調の「Blackberry Winter」はトランペットとアルト・サックスのハーモニーが心地よい。高速の「kaeru 2022」は上原ひろみのオリジナルと言ってもおかしくない、女性らしいエレガントな表現に、コミカルなテイストを含んだ曲。時折聞こえる鐘?の音もいいアクセントになっている。物凄い速度で叩き出される石若のドラムスの不規則なリズムとコミカルなテーマとのコントラストが絶妙。エレキベースのソロも悪くない。爽やかなメロディーが流れる「Dreams Of The Wind」は柔らかな日差しを感じさせるような心地よさを感じさせる音楽だが、甘さ一辺倒ではない。後半に出てくるデイビッド・ネグレテのアルト・ソロはファンキーでバックと一体になった名演。後半のピアノのコードをバックに石若のドラムスが暴れまくるシーンはヒップホップの醍醐味が感じられる瞬間だ。「The Preconscious」はラージアンサンブルではあるが、アルバム中唯一シリアスなムードの曲。短い休止の後、ガラッとムードが変わるところも悪くない。西口明宏のソプラノ・ソロがいい。「Green And Winds」はNEXCO東日本東北支社の企業CM。ピアノとパーカッションというシンプルな編成で、わらべ歌を思わせる跳ねるような素朴なメロディーが流れる。映画音楽に使ってもいい感じの清々しい曲だ。「THE VENDING MACHINE」はCMの音楽で、ブラスが炸裂する、強烈なグルーブ感が感じられる曲。静かな部分でのアーシーなメロディーも悪くない。それまでの曲と同じ人が書いているとは思えない程。録音はエネルギー感が強い音だが、平面的で少しうるさい。楽器の分離もいまいちで、特にラージ・アンサンブルでは損をしていると思う。ということで、録音は別にしても、日本的な情緒が感じられる、オリジナリティに溢れた大変優れたアルバムだ。次回作も大いに期待できる。The Vending Machine ‒ with DRINK music 画像的にも素晴らしく良くできているCMだ。秩父英里:Crossing Reality(リーボンウッド RBW-0024)24bit96kHz Flac1. Crossing Reality2. The Sea - Seven Years Voyage3. Kaeru 20224. Blackberry Winter5. The Preconscious6. Dreams Of The Wind7. Green And Winds8. The Vending Machine ‒ with DRINK music秩父英里(p,key,extra-inst)マーティ・ホロベック(el-b except track 8)石若駿(ds except track 8)菊田邦裕(tp track1,2,8 flh track 5,6)ミレーナ・カサド(tp track 4)西口明宏(ts track 1,2,5 as track 4、ss track 5) 駒野逸美(tb track 1,2,5)佐々木はるか(bs track 1,bcl track 2,5 cl track 2)苗代尚寛(g track 1,2,5,6)八島珠子(vc track 6)小池まどか(vn track 6) 日高歓(perc. track 7,8)林宏樹(as,ts track 8)鈴木次郎(g track 8)齋藤大陽(el-b track 8)福原雄太(ds track 8)guest:レミー・ル・ブーフ(as track 6)デイビッド・ネグレテ(as track 1,2,5, fl track 1,2)
2022年12月29日
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山中千尋の新作がリリースされた。2年半振りで、全編新録音とのこと。Jazz Japanに連載中の「Cool Talk」131に今回のレコーディングについて書かれていた。8月にニューヨーク入りしたものの、入管で引っかかり、いろいろな書類を整備するのに3週間もかかり、レコーディングはニューヨーク滞在の最後の三日間だけだったという。タイトル・チューンの「Today Is Another Day」は、この書類からインスピレーションを得た曲とのこと。とんだとばっちりだったようだが、お陰で?集中力の高いセッションになったようだ。今回はスタンダードやジャズメンのオリジナルを集めたもの。彼女のオリジナルも2曲入っている。リストから見てやや保守的なスタンダード集という感じだが、素晴らしい出来だ。CDが12月21日に発売予定なので、ハイレゾは国内以外はしばらく後になるかと思った。念のためpresto musicでチェックしたら、リストに載っている。どうやら世界同時リリースのようだ。早速いつものK国から速攻でダウンロード。今回のアルバムで注目されるのは、キース・ジャレットの「So Tendar」と財津和夫の「切手のないおくりもの」キースの「So Tendar」は徐々にスタンダード化している感じで、この曲が好きな管理人としては嬉し限りだ。今回の演奏は少し速めのミディアム・テンポの演奏。ややドライな解釈でしっとり感はないが、リズミックでピアノ・ソロも生き生きとしている。「切手のないおくりもの」はポップ色が強く、愚直なドラムスに現れているように、あまり手を加えていない演奏。この曲がこれほどいい曲だったことを初めて知らされたようなもので、何故か感動してしまった。キューバの作曲家オズワルド・ファレスの「トレス・パラブラス」はまったりとしたラテンの雰囲気が感じられる演奏。山中にしては珍しい部類の演奏だろう。ヘイデンがゴンサロ・バルカバらと録音した「Nocturn」(Verve)にもス付録されていたので、参考までに聴いてみた。ヘイデンはテンポが遅く、ラテンのムードが濃厚な演奏。山中はテンポが少し速く、ラテンの雰囲気も押しつけがましいところがないのがいい。ザビヌルの「Midnight Mood」はビル・エヴァンスの演奏でお馴染みのメロディックな曲。エヴァンスの演奏よりテンポが速く、エヴァンスの耽美的な色合いは皆無。ピアノのアドリブは悪くないが、一本調子に聞こえる。ドラム・ソロはドタバタして落ち着かない。「Calling You」はポップに傾いて、アルバムの中では平凡な部類に入る。シダー・ウォルトンの「オハス・デ・ロハ」(赤い愛)はスピード感あふれるテンポにのって哀愁を帯びたメロディーが流れる。山中のキレキレのアドリブもすばらしい。ビル・エヴァンスの演奏で有名なデニー・ザイトリンの「Quiet Now」は少し速めのテンポで、ピアノのメロディーの裏でジェニファー・ヴィンセントのベースのアドリブ・ソロが展開するところが面白い構成。ヴィンセントのベースは太く豊かなサウンドで素晴らしい。スタンダードの「My Shining Hour」は軽快なテンポで進み、なかなかチャーミングな仕上がり。山中にしては、珍しくモンクの「ストレート・ノーチェイサー」やトラッドの「Billy Boy」など幾つかスタンダードの引用をしている。「Billy Boy」といえば、管理人はマイルスの名作「Miles Tones」でのピアノ・トリオ単独の演奏を思い浮かべる。参考までに聞いてみたが、猛烈にスイングするレッド・ガーランドのピアノとフィリージョーのキレキレのドラムスに圧倒されてしまった。ガーランドはアドリブで「ストレート・ノー・チェイサー」のフレーズを引用しているので、山中もそこから影響されたのかもしれない、というのは管理人の妄想。山中のオリジナルではタイトル・チューンも悪くないが、「Old Days」が哀愁が漂い、疾走感がたまらなくいい。ただ、シンバルがうるさすぎる。録音はジャズらしい前に張り出す音。低音域は豊かだが、高域がもう少し出ていればと思う。ということで、地味な選曲だが、演奏が素晴らしく、最近の山中のアルバムでも出色の出来だろう。特に内省的な演奏は、最近の山中の新境地を示していると思う。山中千尋:Today Is Another Day(Blue Note UCCJ-2215)24bit 96kHz Flac1.Chihiro Yamanaka:Today Is Another Day2.Osvaldo Farres:Tres Parables3.Keith Jarrett:So Tender4.Chihiro Yamanaka:Old Days5.Joe Zawinul:Midnight Mood6.Bob Telson:Calling You7.Cedar Walton:Ojos De Rojo8.Denny Zeitlin:Quiet Now9.Harold Arlen:My Shining Hour10.Kazuo Zaitsu:A Song For You (AKA. Kitte No Nai Okurimono)Chihiro Yamanaka(P, Rhodes)Yoshi Waki(b track 3,4,10 e-b track1)Jennifer Vincent(b track 2, 5, 6-9)LaFrae Olivia Sci(ds)
2022年12月25日
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以前から気になっていたイギリスの8人組グループのココロコの「Could We Be More」がpresto musicのジャズ部門のアワードを受賞したので、bandcampから$9.99で入手。イギリスのジャズも最近黒人系のミュージシャンの台頭が著しく、ココロコもその代表的なグループの一つだろう。このアルバムは彼らの初リーダーアルバムなのだが、その前は7曲(1x EPと3xシングル)をリリースしただけ。Spotifyのストリーミングで、あっという間に6000万回以上の試聴回数を記録したとのこと。さらにロンドン・ジャズの"現在"をリポートするプロジェクト「We Out Here」(Brownswood 2018)というコンピレーションに「Abusy Junction」という名演を残していて、すでに実績十分だ。全曲にわたってアフロビート、ハイライフ、ソウル、ファンクなどが混在し、彼らが聴いて育った西アフリカやカリブのコミュニティから受けた多くの影響をシンセやキーボードなどのサウンドでオブラートに包んだ野性味たっぷりな音楽。基本、アフリカなどのリズムが支配する黒っぽいダンス音楽で、「Ewà Inú」「Age of Ascent」のようにホーンのアドリブが入る曲もあるが、それほど多いわけではない。「Blue Robe」のようなアフリカの現地の音楽みたいな雰囲気の曲もあり、それらが激しいリズムに収束する。洗練されている音楽と、アフリカのローカルの音楽のような素朴な音楽が違和感なく収まっているところが何ともユニークだ。一番活躍しているのはギター。ホーンは殆どがアンサンブル要員だが、アルト・サックスのソロがソウルフルでなかなかいい。どの曲もホーンのリフが似通っていて、曲の違いがよく分からない。なので、ジャズのアドリブの面白さを期待すると裏切られる。ところが、ずっと聞いていると何故か、はまる。メローなサウンドと音楽が平易で親しみやすいことが、その理由だろう。「Those Good Times」「Home」などヴォーカルが入っている曲は、洗練されていてアフリカ色が薄く、音楽として楽しめる。同じヴォーカル入りでも、「Something's Going On」は強烈なリズムとムーディーな音楽に、野性味たっぷりのスパイスが聴いている、不思議な音楽。熱気が凄く、いまのところ、管理人が一番気に入っているトラックだ。テンポが速く、アグレッシブな「War Dance」では、何故か2分頃に男の唸り声が聞こえる。一体何だったのだろうか。中間部ではパワフルでエコーの効いたトランペット・ソロ、続く激しいギター・ソロが聴かせる。群衆の声とパーカッションが交じり合う「Interlude」は短いが、なかなか刺激的なトラック。曲数は15曲と多いが、「Blue Robe」や「Outro」が入っている必然性が理解できない。録音は平板で、広がりがまるで感じられない。これでハイレゾとは、とても思えない出来だ。Kokoroko:Could We Be More(Brownswood Recordings BRBW228) 24bit96kHz Flac1.Tojo2.Blue Robe (Pt. I)3.Ewà Inú4.Age of Ascent5.Dide O6.Soul Searching7.We Give Thanks8.Those Good Times9.Reprise10.War Dance11.Interlude12.Home13.Something's Going On14.Outro15.Blue Robe (Pt. II)Sheila Maurice-Grey(tp,vo)Cassie Kinoshi(as,vo)Richie Seivwright(tb,vo)Onome Edgeworth(Perc.)Ayo Salawu(ds)Tobi Adenaike-Johnson(g)Yohan Kebede(Synth, Key)Duane Atherley(b,Synth,Key)Recorded Echo Zoo Studios
2022年12月19日
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以前取り上げたことのあるジャズ・歌手のサラ・ガザレクの新譜を聴く。いつものbandcampから$4.99で入手。フルアルバムではなく4曲入りの22分あまりのEP。唇に血を滴らせたジャケ写が不気味で、思わず退いてしまう。メンバーはギターを含むリズム隊にホーンが5本で、なかなかゴージャスなサウンドを聞かせる。アレンジはトロンボーンのアラン・ファーバー。ガザレクのヴォーカルは、以前のアルバムだとヴォーカルの本道から少しずれているような気がしたが、今回は正統的なもの。幾分硬質とはいえしっとりとした情感もあり、個人的にはとても好ましいものだった。ディストリビューターによると、彼女も多くのミュージシャンと同じくパンデミックで大分苦しんだようだ。ただ、それによって『自分自身のより深い部分を探求し、厳しいボイストレーニングをして声を鍛え上げ、ジャズヴォーカリストとしての視点とアプローチを根本的かつ永遠に変えた』という。タイトルチューン「Vanity」はあまり有名ではないがサラ・ヴォーンがルースト(1961)盤でカバーしている。しっとりとしてハートウォームな、時節柄クリスマスにふさわしい音楽だった。ただ、後半絶叫調になって、前半のしっとり感が吹っ飛んでしまったのは残念。「Something Good」はミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の映画版で追加された曲。管理人は聞いたことがない。彼女の母親へのラブソングで、歌詞はガザレクが書いた。しっとりとしているが、それほどいい曲とは思わなかった。最後が「Vanity」と同じく絶叫調になっているのも鼻白む気がする。「We Have Not Long To Love」はガザレクの初めて書いたオリジナルで、アメリカの劇作家テネシー・ウイリアムズの詩による。アラン・ファーバーのアレンジが光る。トロンボーンのムーディーなサウンドから始まり、ギターのアルペジオがからんでくる。フォーク的な曲だが、モノクロ的な色彩を感じさせる。途中ホーンの不協和音にスキャットが絡むところは、なかなか刺激的だ。最後はアメリカのシンガー・ソングライターであるフィオナ・アップルの「Extraordinary Machine」このEPの中では唯一ミディアム・テンポの曲で、ピアニストのジェフ・キーザーのアレンジ。原曲はコミカルなテイストを感じさせるが、このアレンジは全曲を通して聞こえるオスティナートがミステリアスなムードを醸し出していて秀逸。ヴォーカルも優れている。なお、LPではネオ・ソウル・グループ「ムーンチャイルド」のヴォーカルであるアンバー・ナブラによる11分ほどのリミックス・バージョンが含まれる。これはspotifyで聞くことが出来る。ヒップホップ風のサウンドで、原曲とは全く異なるが、まったりとして独特の浮遊感が悪くない。オリジナリティは断然リミックス版のほうがある。出来ればダウンロード版にも入れてほしかった。Sara Gazarek:Vanity1.Guy Wood:Vanity2.Rodgers/Hammerstein:Something Good3.Gazarek/Williams:We Have Not Long To Love4.Fiona Apple:Extraordinary MachineSara Gazarek(vo)Miro Sprague (p)Alex Boneham (b)Christian Euman (ds)Brad Allen Williams (g)Michael Stever (tp)Alan Ferber (tb)Lenard Simpson (as)Daniel Rotem (ts)Adam Schroeder (bs)Recording Studio: United Recording, Los Angeles, CA
2022年12月15日
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モントルー・ジャズ・フェスティバルの創設者故クロード・ノブズのコレクションから復刻された「THE MONTREUX YEARS」シリーズの中の一枚。このコレクションはMontreux Soundsとして2013年にユネスコにも認定されている。CDは6曲でアナログが8曲。何故か最後の曲が追加されて、9曲という大盤振る舞いが嬉しい。残念ながらブックレットは付いていない。例によって、192kHzにアップコンバートしての試聴。30年ほどの間の記録だが、プレイ・スタイルの顕著な変化は見受けられない。演奏が若々しく、水準が極めて高く、ばらつきもあまり感じられない。全編に漲る溌溂とした気分は、チック特有の雰囲気だ。チックは長い経歴と共に音楽が変貌しているが、その時々のフォーマットを捨てるのではなく、思い出したように復活させることがあり、それがまた彼の音楽をリフレッシュさせる役割を果たしていたと思う。さすがに晩年はシンプルなフォーマットになったが、それでも音楽が衰えていくことはなく、成熟という言葉が、最もふさわしくないミュージシャンだったのかもしれない。今更ながら、チックの音楽の素晴らしさと偉大さを満喫した。曲はどれもが傾聴に値する音楽だが、「Interlude」は聴衆とのコール&レスポンスのお遊びが最初に入っていて、個人的には評価の対象外。また、室内管弦楽団との共演も、中途半端な感じで、少し温い。discogsによると、パーソネルはバンド名がクレジットされているようだが、track4,5はチックのキーボードのみの曲もある。気に入ったのは、ニュー・トリオでの「Finger Prints」圧倒的なピアニズムと有無を言わせぬアドリブ・ソロに唖然とするほどだ。ピアノ・ソロによる「Who's Inside the Piano」では、初期のECMのソロピアノを思いこさせるような清冽な美しさが心に染み入る。配信でのみ入っているモンクの「Trinkle Tinkle」は最も長い10分余りの演奏。ワイルドで他の曲とは少し毛色が異なる。冒頭の奔放なピアノ・ソロとジョー・ヘンダーソンの破天荒なソロ、ヘインズの気合の入ったドラミングがいい。細身の音だが、30年以上にわたる録音とは思えない程ばらつきが少なく、クリアでビビッドな録音はライブの熱気が伝わってくる。特にチックのクリスタルのようなピアノのサウンドが、実に美しくとらえられている。Chick Corea:The Montreux Years(BMG Rights Management (UK) Ltd)24bit 44.1kHz Flac1.Fingerprints (2001)2.Bud Powell (2010)3.Quartet No. 2, Pt. 1 (1988)4.Interlude (2004)5.Who's Inside the Piano (1993)6.Dignity (2001)7.America (Continents, Pt. 4) [2006]8.New Waltz (1993)9.Trinkle Tinkle (1981)1.Chick Corea New Trio2.Chick Corea Freedom Band3.Chick Corea Akoustic Band4.Chick Corea Elektric Band5.Chick Corea Quartet6.Chick Corea New Trio7.Chick Corea & The Bavarian Chamber Philharmonic Orchestra8.Chick Corea Quartet9.Chick Corea QuartetChick Corea(p)Avishai Cohen(b), Jeff Ballard(ds)(track1,6)Christian McBride(b),Kenny Garrett(as),Roy Haynes(ds)(track2)Dave Weckl(ds), John Patitucci(b) (track3)Dave Weckl, Eric Marienthal, Frank Gambale, John Patitucci(track4)Bob Berg,Gary Novak, John Patitucci(track5,9)The Bavarian Chamber Philharmonic Orchestra(track7)Eddie Gomez(b),Steve Gadd(ds)(track8)Joe Henderson(ts),Gary Peacock(b), Roy Haynes(ds) (track9)
2022年12月07日
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最近知ったコニー・ハンというアメリカのジャズ・ピアニストの新譜を聴く。名前からして韓国系の方のようだ。いつものbandcampからのダウンロード。今回のアルバムはマック・アヴェニューからの第3弾で、基本はピアノ・トリオで時折テナーサックスが加わる。ロスレスだが、エネルギー感が半端なく、彼女の音楽を一層引き立てている。ディストリビューターによると、『愛と美と戦争の女神イナンナをチャネリングし、古代シュメールの文化を現代に蘇らせたもので、1970 年代のスピリチュアル・ジャズの幽玄さを彷彿とさせながらも、全く新しい音世界となっている。』とのこと。さしずめ、昔のマイルストーン時代のマッコイ・タイナーあたりの雰囲気だろうか。なるほど、言われてみれば、そういう雰囲気が漂っているが、幽玄から連想される穏やかなものではなく、激しい表現が特徴。ストーリーは、古代シュメールの叙事詩「イナンナの降臨」からインスピレーションを得、女神イナンナが天国の領地から冥界へ向かう旅の描いたもの。女神イナンナは『愛と豊穣の女神にして戦争と破壊を司る大地母神』だそうだ。「イナンナの降臨」を知らなくても楽しめるが、内容が分かればさらに音楽を深く理解できそうだ。wikiを見ると神々の戦いが描かれていて、結構血なまぐさいストーリーだ。粗筋を見るだけでも長大な叙事詩の趣が感じられ、なかなか興味深い。因みに「真・女神転生」というゲームの中にも登場するらしい。曲はすべてジャズメンのオリジナル。ハンのオリジナルが5曲、ドラマーとして参加しているビル・ワイサスクが4曲、彼らの共作が1曲その他2曲という構成。因みにハンはジャズを始めた高校時代からビル・ワイサスクに師事しているという。最初と最後の曲でピッコロまたはアルト・フルートが入るが、メロディーだけでアドリブはなく、サウンドに色を添える程度。この2曲がなかなかメロディックで、愛らしい。ピッコロの起用がはまったようだ。速い曲ではエネルギッシュで、ピンと張りつめた緊張感がいい。激しい曲の印象が強く、高音域の抜けが悪いため全体に重苦しい雰囲気になっている。なので、リリカルな曲はだいぶ損している気がする。ハンは打鍵が強く、女性らしからぬピアノと言ったら怒られそうだ。特に速いテンポの曲が有無を言わせず、ぐいぐいと迫ってくる。フェンダーローズは2曲で弾いているが、ここでも打鍵が強く輪郭のはっきりした音楽になっている。彼らのオリジナル以外はジミー・ロウルズとチック・コリアが1曲ずつ途中に挟まれている。「イナンナの降臨」と、どういう関係があるのかは不明。ジミー・ロウルズの「Morning Star」はスインギーでしゃれた味わい。チックコリアの「Desert Air」は原曲の静的な印象を保ちつつも、ダイナミックに展開する。サイドではパティトゥッチのベースが、さすがの存在感を示している。リッチ・ペリー(1955-)はクリーブランド生まれののテナー・サックス奏者で、リーダーアルバムだけで20数種類をリリースしている。このアルバムでの持ち味はリリカルなプレイだろう。激しいプレイも悪くないが、少しとろい感じだ。いい意味で、ハンの激しいピアノに対する程よい中和剤の役目を果たしているように思う。高音域の抜けがいまいちなので、ドラムスはだいぶ損している。参考:エレキシュガル:メソポタミア神話に登場する冥界の女神ギルガメッシュ:メソポタミア神話の英雄。 「人類最古の英雄王」と自称する。 ニンシュブル:イオンナの側近 大臣ドゥムジ: シュメールの豊穣神ウルク(Uruk)は、メソポタミアにかつて存在した古代都市。エンキ:水の神 世界の創造者であり、知識および魔法を司る神Connie Han:Secrets of Inanna(Mack Avenue )16bit44.1kHz Flac1. Bill Wysaske: Prima Materia2. Connie Han:Ereshkigal Of The Underworld(冥界のエレキシュガル)3. Connie Han:Gilgamesh And The Celestial Bull(ギルガメッシュと天の牡牛)4. Jimmy Rowles:Morning Star5. Connie Han:Vesica Piscis6. Connie Han:Young Moon7. Bill Wysaske:Ninshubur’s Lament(ニンシュブルの嘆き)8. Bill Wysaske:Wind Rose Goddess9. Connie Han:The Gallû Pursuit(エレシュキガルの追跡)10. Bill Wysaske:Dumuzi Of Uruk(ウルクのドゥムジ)11. Chick Corea:Desert Air12. Connie Han, Bill Wysaske:Enki’s Gift(エンキの贈り物)Connie Han(piano on all Tracks Except 6, 7, fender rhodes trak 1, 6, 12)Bill Wysaske(drums on all Tracks Except 5),John Patitucci(bass on all Tracks Except 3, 5, 7)Katisse Buckingham( piccolo on 1, 12, alto- fl track 1, 12),Rich Perry(ts on 4, 5, 8, 10)
2022年12月02日
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地元のビッグバンドの創立75周年記念のコンサートを観に行った。本来は昨年が記念の年だったのだが、コロナ禍により一年延期になったそうだ。それも、客席を一つずつ空けて座らせる、今どき厳格な衛生管理で、結局定員が550人(完売!)になってしまったとのこと。それを知らずに座ったら、そこは座れないよと言われてしまって、慌てて別な席を探すことになってしまった。75年も続いたなんて、プロのビッグバンドでも数えるくらいしかない。それだけ継続することがいかに難しいかを物語っている。70周年のコンサートのこともブログに書いていたが、奇しくも同じ11月26日だった。プログラム前半はバンド単体での演奏で、後半はエリック宮城をゲストに迎えてのステージという2部構成だった。メンバーは総勢18人。サックスとトランぺットが5人づつで、トロンボーンが4人であとはギターを含むリズム隊という編成。若手がちらほらと見えていて、新陳代謝がうまくいっているようだ。前半ではザ・ピーナツのヒット曲「恋のバカンス」がなかなか興味深かった。宮哲之の編曲がジャジーで、ビッグバンドのスイングが感じられる優れたもの。「シング・シング・シング」のフレーズを使ったイントロもなかなかおしゃれだ。ネスティコの「It's Also Nice」は当団の誇る?サックス・セクションの濃厚なソリがいい。バリトンに大学を出たてての若いメンバーと、テナーの強力な助っ人も加わりハーモニーが分厚くなった。その他、大槌から通っているピアニストの方の積極的で清々しいプレイが、楽団に新しい風を吹き込んでいるような気がした。「Only Yesterdy」でのテナー・ソロはなかなかの貫禄だったが、あとでプログラムを見たら一関からの助っ人とのことで、なるほどと思った次第。1部の最後は何とメセニーの「Have You Heard」メセニーの曲がビッグ・バンドにアレンジされているとは知らなかった。この楽団としては新し目のフュージョン系の曲で、なかなかノリのいい演奏だった。後半のバン・マスのギター・ソロがなかなか聞かせた。さすがに在籍40数年は伊達ではない。後半は2曲目からゲストのエリック宮城が入り、華やかなステージが繰り広げられた。鼓膜がびりびりと振動するような、往年のパワーこそ感じられなかったが、サウンドに深みが感じられ、いい年の取り方をしているようだ。2曲目が終わった後で、次の曲で最後みたいなことを言っていたが、勘違いで、「明日にかける橋」のあとで、エリックが一旦はけて、バンドだけの演奏が入り、最後にエリックがまた登場するという、ややっこしいプログラムだった。この「明日にかける橋」の前に、プライベートなことを話していたベトナム戦争が真っ盛りの少年の頃に両親が離婚し、弟と別れ別れ別れになり、ぐれていたそうだ。当時はやっていたこの曲の歌詞に強く惹かれ、自分にはトランペットしかないと思って再起したとのこと。おそらく、歌詞の「you」が自分に、「I」がトランペットにオーバーラップしていたのかもしれない。そのMCにぐっと惹かれたが、演奏もなかなか感動的だった。その後の「Sweet Memories」では、当団の誇るアルト・サックスのT氏の甘いサウンドに酔いしれた。この方は衰えるどころか、円熟味を増しているように感じられる。アンコールは「ロッキーのテーマ」で華やかに締めくくられた。プログラムは分厚い上質の紙に、カラー印刷もありなかなか豪華なつくり。メンバー全員のプロフィールも写真付きで、親しみがわく。歴代のメンバーと在籍期間がクロノジカルにレイアウトされている表も、分かりやすい。私が知っている懐かしい名前も、ちらほら見える。譜面台の黒と赤のイメージからきているのか、衣装は全身黒づくめで、ポケットチーフは真っ赤というなかなかシックなでたち。今後も100周年!を目指して頑張ってほしいと思う。花巻リズムヤンガー75周年記念コンサート1.The Opener2.宮川泰(宮哲之編):恋のバカンス3.Jimmy McHugh:On The Sunny Side Of The Street4.Summy Nestico:It's Also Nice5.Only Yesterdy6.Leigh Harline:星に願いを7.Pat Metheny:Have You Heard後半1.Jorge Ben Jor:マシュケナダ2.和泉宏隆:宝島3.Maynard Ferguson:Dance To Your Heart?4.Paul Simon(エリック宮城編):明日にかける橋5.大村雅朗:Sweet Memories6.Dizzy Gillespie;Frank Paparelli:A Night In TunisiaアンコールBill Conti:ロッキーのテーマエリック宮城(tp)花巻リズムヤンガー2022年11月26日花巻市文化会館大ホール
2022年11月28日
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オーブリー・ジョンソンという歌手の「Play Favorites」というアルバムを聴く。例によってBandcampからのお知らせで知ったアルバム。リーダーアルバムとしては「Unlabeled」(2020)に続く2作目。因みに「Unlabeled」は彼女の叔父であるピアニストのライル・メイズ(1953 - 2020)のプロデュース。これもよくできているので、いずれ購入しようと思う。今回のアルバムはピアニストのランディ・イングラムとのデュオ。どちらもニューイングランド音楽院の卒業生だそうだ。彼らは2015年のニューヨーク郊外の保養地キャッツキル山地で行われているジャズ・キャンプに講師として参加した時にデュオを行い、それ以来関係を続けている。彼らは今年の10月に来日にツアーを行ったらしい。曲はスタンダードからカントリーまでヴァラエティに富んでいる。イングラムのオリジナル「Prelude」も含まれている。この曲はヴォーカリーズで短いながら朝の清々しさを感じさせる。切れ目なしに「If I Should Lose You」に続いている。ジョンソンの歌唱は細かいビブラートと相まって、フォークっぽい歌い方に感じる。また美しく細い声が彼女の抒情的で爽やかな歌唱の魅力を一層引き立てている。スキャットもこなすが、昨今の技巧を誇示するようなものではなく、あくまでも穏やかだが、オリジナリティが感じられる。それは「If I Should Lose You」のようなスタンダードで強く感じられる。気になるのは、時折絶叫調になることくらいか。気に入ったのはジミー・ウェッブの「Didn't We」、 メル・トーメの「Born To Be Blue」「Didn't We」は知らない曲だったが、心に沁みわたるメロディーにしびれる。「Born To Be Blue」は、けだるいムードが漂っているが、重くならず独特のテイストが感じられる。その他ジョビンの「オーリャ・マリア」も情感豊かな歌唱がしびれる。「I’ll Remember April / April」は何故「I’ll Remember Aprilに続く aprilが入っているのか不思議に思っていたのだが、スキャット部分はアドリブではなく「「I’ll Remember April」のコード進行をもとにレニー・トリスターノが作った「April」という曲だった。「My Ideal」はバースから歌っていて、コーラスになると少しテンポ・アップして軽快に歌っているのが洒落ている。イングラムは詩的で抒情的なプレイが魅力的だ。タッチが美しく、決してヴォーカルの邪魔はしない。ということで、実に爽やかなアルバムで、すっかり気に入ってしまった。ジャズ・ヴォーカル・ファンには是非お聴きいただきたい。 Aubrey Johnson & Randy Ingram:Play Favorites(Sunnyside SSC1683)24bit 96kHz Flac1.Billie Eilish;Finneas O’Connell:My Future2.Frederick Loewe;Alan Jay Lerner :If Ever I Would Leave You3.Randy Ingram:Prelude4.Ralph Rainger;Leo Robin:If I Should Lose You5.Joni Mitchell:Conversation6.Chico Buarque;Vinícius de Moraes;Antônio Carlos Jobim:Olha Maria7.Jimmy Webb:Didn't We8.Antônio Carlos Jobim:Chovendo Na Roseira9.L. Mays;L. Avellar:Quem é Você (Close To Home)10.Gene de Paul;Patricia Johnston;Don Raye:I"ll Remember April / April11.Mel Tormé;Robert Wells:Born To Be Blue12.Toninho Horta;Ronaldo Bastos:Bons Amigos13.Leo Robin;Richard A. Whiting;Newell Chase:My IdealAubrey Johnson(vo)Randy Ingram(p)Arrangements by Randy Ingram and Aubrey Johnson,“Chovendo Na Roseira" arrangement inspired by Luciana Souza Recorded May 27, 28 and June 10, 2022 at Big Orange Sheep, Brooklyn, NY
2022年11月20日
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アレサンドロ・ガラティが寺島レコードからリリースした「European Walkabout」を聴く。国内盤は高いので、海外から配信でリリースされるのを待っていた。先日Bandcampからメールが来て、いよいよリリースされることを知った。ところが値段を見てがっかり。2000円以上する。どうもハイレゾではなさそうだし、これだったらCDを買うのと大差がないと思った。念のためqobuz usをチェックしたら、カタログに載っている。しかもロスレスなので、$9.99だった。税込で$10.79なので、¥1600を切る値段。円安とはいえこの価格はリーズナブルだ。例によって、24bit192kHzにアップコンバートしての試聴。ディストリビューターのコメントによると、このアルバムは『哀愁の美旋律を心ゆくまで堪能できるトラッド集』とのこと。当然ながらトラッドとはいえ、すべてがガラティ色に染まっている。なので、他の演奏と比較する楽しみがある。何曲かオリジナルを聴いてみたが、オリジナルは素朴で、ガラティの演奏は、同じ曲とは思えない程洗練されて深みがある。オリジナルはオリジナルの良さがあるが、今の聴き手には素朴すぎると感じるかもしれない。ジャズでよく取り上げられる、「ディア・オールド・ストックホルム」にしても月並みではない演奏で、中間部の展開にはハッとさせられる。「Love in Portofino」はガラティとしては珍しいラテン・タッチのアレンジで、ピアノは寡黙だ。ドラムスのアンドレア・ベニナティのシンバル控えめで、マレットを使ったプレイも、哀愁漂うムードにぴったりだ。「The Water is Wide」も遅いテンポで慈しむような演奏。カントリー風なところがいい。ガラティは全体的には静かなプレイで、「マリウ愛の言葉を」の激しいプレイが目立つ程度。アンドレア・ベニナティの意外性のある、引き出しの多いドラミングが、他の演奏との違いを引き出している。特に「Almeno tu nell'universo」はスティックをドラムに打ち付けてそのままバウンドさせるような音(名前があるのかもしれないが不明)を出している。これが、雫が落ちるような効果を出していて実にユニーク。ベースのグイド・ツォルンの肉厚の艶のある音もいい。録音はロスレスとはいえ、ステファノ・アメリオのマスタリングによる、ノイズ感のない柔らかなサウンドが心地よい。ただ、個人的には、音が張り出しすぎているように感じた。track8のシンバルのシャリンは寺島氏のお好みの音だろう。Alessadro Garati:European Walkabout(Terashima records TYR-1100)16bit 44.1kHz Flac1.Chiosso-Buscaglione:Love in Portofino2.Giuseppe Perotti;Vicente Gómez:Verde Luna3.Trad.:Dear Old Stockholm4.Bruno Lauzi;Maurizio Fabrizio :Almeno tu nell'universo5.Robert Burns:Last Night a Braw Wooer6.Frederico de Brito;Ferrer Trindade:Cancao do Mar7.Frederic Weatherly:Danny Boy8.Trad.:The Water is Wide9.Jacqueline Pollauf:Liten Visa Till Karin10.Cesare Andrea Bixio;Ennio Neri :Parlami d'amore MariuAlessandro Galati (p) Guido Zorn (b) Andrea Beninati (ds)録音:2022年の1月18日 Studio Poko(イタリア、フィレンツェ)
2022年11月12日
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以前取り上げたカナダのジャズ歌手ケイティ・ジョージの新譜を聴くいつものBandcampからC$13で購入。カナダドルも高くなっているが、それでもロスレスながら¥1406とリーズナブルな価格。最初は漫然と聞いていたのだが12曲目にヴォーカル・デュオがあり、その他のトラックもホーンがフィーチャーされている。アルバムタイトルの「Featuring」はそういう意味だったのかと、今更ながら気が付いた。ディストリビューターによると今回のアルバムは新しいジャズ・スタンダードを生み出すことだという。プログラムは全13曲のうち10曲が彼女の作詞作曲という力のこもったもの。ヴォーカル同様どの曲もウエストコースト・ジャズを思い起こさせるような明るく爽やかなもので、ウイットにも富んでいる。どうやら、この方面での才能も抜きんでているようだ。今回はテンポの速い曲が多く、滑舌の良いスキャットが炸裂する。時にはガレスピー風のフレーズが出て来てニヤリとさせられる瞬間もある。スキャットは前作よりも多いと思うが、前作のように決まりきった展開ではなく、スキャットが出てくると、またかと思うことはなかった。「Ideal」を聴いていると、粋でおしゃれな感じから、女性版メル・トーメみたいな感じがする。この曲でフィーチャーされているヴァージニア・マクドナルドのクラリネットのとぼけた味もなかなかいい。バックのピアノ・トリオは万全だが、ピアノが少し引っ込み気味なのが惜しい。ゲストの起用は曲にふさわしいものだ。これがピアノ・トリオだけだったら、変化に乏しいものになっていたかもしれないが、腕のいいゲストが加わったことでヴァラエティに富んだ演奏になっていて、聴き手の耳も嬉しくなる。特に「I Never Knew」でフィーチャーされているティーミシュ・コズナルスキーのファンキーなアルトがいい。これも最近取り上げたカナダ在住のローラ・アングラードが「The Feeling is Mutual 」でフィーチャーされている。声が似ているので、区別しにくいが、少し重く暗めなのがアングレードのようだ。スキャットの応酬もあり、楽しいトラックだ。ただ、声が真ん中に集まっているので、出来れば少し離したほうが両者の個性がはっきりしたと思う。「Cover Up」ではアルトとテナーの二人のホーンがいるようだが、一人しかクレジットされていなかった。ということで、デビュー・アルバムよりもはるかに出来が良く、作詞作曲の能力もさることながら、編曲にも長けていることには驚いた。メジャー・デビューする日も近いと思われ、これからも彼女の動静に目が離せない気がする。なお、海外盤と国内盤ではジャケット・デザインが異なり、このブログでは海外盤のデザインを使った。ところで、Vent Azulの紹介記事にインスタグラムに彼女がジャズ・ジャイアンツのアドリブ・パートをスキャットで歌っている動画が溢れているという記述があった。管理人はインスタグラムはやっていないので、試しにyoutubeを検索したら、彼女のチャンネルがあった。その中にソニー・スティットの「Confession」のアドリブパートを一緒にスキャットしているショート動画があった。なるほど、彼女のスキャットがバップ・スキャットである理由が分かった気がする。また、ピアノとのデュオで8分ほどのメドレーの動画があった。Mark Limacherというピアニストとのデュオで、スタジオでの撮影のようだ。出来がとてもよく、結局最後まで見てしまった。背中をぴんと伸ばして、両手を前で組んで歌うお行儀の良さ?で、好感度が一気に上がった。Caity Gyorgy:Featuring(La Reserve Records CG003)16bit 44.1kHz FlacCaity Gyorgy:1.I Feel Foolish (feat. Daniel Barta)2.Cover Up (feat. Christine Jensen)Richrd Rodgers;Oscar Hammerstein II:3.It Might As Well Be Spring (feat. Kyle Pogline)Caity Gyorgy:4.Start Again (feat. Jocelyn Gould)5.A Moment (feat. Allison Au)6.Look The Other Way (feat. Lucas Dubovik)7.I Miss Missing You (feat. Jocelyn Gould)Henry Nemo:8. ‘Tis Autumn (feat. Pat LaBarbera) - Written by Caity Gyorgy:9.My Cardiologist (feat. Kyle Tarder-Stoll)10.Ideal (feat. Virginia MacDonald)11.I Never Knew (feat. Tymish Koznarsky)12.The Feeling is Mutual (feat. Laura Anglade)13.It’s Pronounced George (feat. Christine Jensen, Virginia MacDonald)All songs arranged by Caity GyorgyCaity Gyorgy(vo)Felix Fox-Pappas(p)Thomas Hainbuch(b)Jacob Wutzke(ds)Guests:Clarinet: Virginia MacDonald(cl)Allison Au(as)Daniel Barta(as)Christine Jensen(as)Tymish Koznarsky(as)Tenor Saxophone: Lucas Dubovik(ts)Pat LaBarbera(ts)Kyle Tarder-Stoll(ts)Kyle Pogline(tp)Jocelyn Gould(g)Laura Anglade(vo)Recorded Jan. 19th 2021 and February 15th 2020,Toronto
2022年11月08日
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キースジャレットが2016 年 7 月 6 日にフランスのボルドーにあるの L’Auditorium de Bordeaux で行われた、ソロ・コンサートのライブを聴く。2016年のヨーロッパツアーの一環で、既出の「ブダペスト・コンサート」の3日後、「ミュンヘン 2016」の10日前に行われたライヴだ。このホールはアーキテーヌ・ボルドー国立管弦楽団の本拠地で、収容人員1500名程の音楽専用ホールだ。写真を見ると、ステージの周りをぐるりと客席が取り囲んでいる。ステージの前がメインではなく、例えていえば体育館の床から続いている客席と、ぐるりと囲む2階席、3階席という感じだ。ステージ全景いわばピッチが近いサッカー場みたいなもので、出演者との距離が近いので、演奏者の呼吸まで感じられそうだ。そういうわけではないだろうが、キースのうめき声も頻繁に聞こえる。このコンサートは全曲が即興で、スタンダードやキースのオリジナルは含まれていない。全8曲で、クラシックの無調っぽいものやクラシックに傾いてはいるが、冷たくはなく優しく親しみやすい演奏が続く。それにしても、これが全曲即興とは恐れ入る。キースの最初のソロ・コンサートライブ(ブレーメン・ローザンヌ)を聴いたときに、そう感じたものだが、久しぶりにそれと同じ気持ちが蘇ってきた。躊躇いというものがなく、久しぶりにキースの底知れない創造力を感じてしまった。即興とはいえ月並みなメロディーがなく、ここでもキースの才能が光る。多分引き出しが普通のミュージシャンの数倍あり、そこから瞬時に出すことが出来るのだろう。パート1はこのコンサートで最も長い12分余りの曲。無調でぎくしゃくしているが、それほど難解な音楽ではない。管理人にはセシル・テイラーのソロ・ピアノを聴いているような感じがする。パート2はゆったりとしたオリエンタル風味のメロディーが流れる。訥々としてシンプルな4分音符の和音が味わい深いパート3。序盤は清冽な叙情が感じられるが、2分40秒過ぎから一転暗いムードの激しいフレーズが頻発するパート4ミニマル風なパート5ここまではすこし堅い音楽が続くが、パート6以降は一転して優しい音楽が流れていく。メルドーが作りそうな暗い抒情が印象的なパート6少し暗めだが優しいメロディーが流れるパート7ぶっきら棒なリズムにアーシーなメロディーが流れるパート8速いテンポのミニマル風で少しコミカルなテイストを持ったパート10少し途切れそうになるところや、ミスタッチがあるところがキースも人間であることを感じるトラック。次の2曲は、さながらブラームスの音楽のような抒情が感じられる。哀愁漂う旋律がためらいがちに弾かれ、しみじみと心に沁みわたるパート11晩秋を思わせる枯れた味わいが、心に響くパート12後半の盛り上がりは、なかなか感動的だ。オリエンタル風味が感じられる、瞑想的なパート13(アンコール)ホール・ノイズはアンコールの前に少し声が聞こえる(それに反応した笑い声も)程度。またアンコールの前後の拍手はカットされている。ライブであることを忘れるような低音が豊かな録音も申し分ない。ということで、一連のソロ・コンサートのライブの中でも、群を抜いて優れていると思う。是非お聴きいただきたい。Keith Jarrett:Bourdeaux Concert(ECM 4576608)24bit 96kHz FlacPartⅠーPartXⅢKeith Jarrett(p)Recorded: 2016-07-0, L'Auditorium de l'Opéra National de Bordeaux
2022年11月04日
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ニューヨーク在住の黒田卓也の新譜を聴く。このミュージシャン、何故か気に入っていて、ずっとフォローしている。いつものBandcampからロスレスとはいえ5ポンドと格安で購入。今回のアルバムはEPと称している。所謂ミニアルバムのことだ。そうは言っても30分を超えているので、EPとは控えめな表現だろう。このアルバム単独のCDはなく、前作の「Fly Moon Die Soon」との二枚組と「Midnight Crisp」と単独のアナログ盤がリリースされている状況らしい。ディストリビューターによると『ジャズ、ファンク、ポストバップ、フュージョン、ヒップホップを融合させた独自のハイブリッドサウンド』とのこと。なので、ソロを楽しむというよりは、曲とサウンドを楽しむべきアルバムだろう。トランペットとトロンボーン、テナーサックスの3管編成なのだが、もっと人数がいるような分厚いサウンドだ。昔懐かしいブラスロックを聴いているような気分になる。といっても、音楽は最先端の音楽だ。今回は全曲黒田の作曲で、独特のタイム感覚を伴ったキャッチーなテーマが特異だ。1曲目はタイトルチューンの「Midnight Crisp」いきなりブーミーなベース音で始まる。テーマは3管編成のハーモニーが心地よく、何故かブラス・アンサンブルのサウンドに酷似(いい意味で)している。黒田のソロは相変わらず抜けきっていないサウンドで、個人的にはあまり好みではない。ローレンス・フィールズのシンセがハモンドオルガンぽい音でなかなかいい。「Time Coil」はテーマがシンコペーションで独特なテイストを感じさせる。「It's Okay」はハード・バップ風なテーマとヒップホップが混じったようなスタイリッシュなミディアム・テンポの曲。ここでもハモンドオルガンのようなシンセのサウンドにエレクトリック・ピアノが絡んで、いい感じだ。黒田のプレイはハードバップ風で、リー・モーガンを思い出させるフレーズも聞こえる。「Dead End Dance」はアドリブの一節のようにしか聞こえない16分音符の奇怪なテーマが、メロディックなベース音に乘って繰り広げられる。なので、どこまでがテーマで、どこからアドリブが始まるかもよく分からない。中間部のベース音のみになるところで、一瞬の安らぎが感じられる。「Old Picture」はバラード。エレクトリック・ピアノに載って、エフェクターを効かせたホーンのゆっくりとしたトリルから始まる。空間を浮遊しているような不思議な感覚を覚えるサウンドだ。ゆったりとして安らぎを感じさせるテーマもいい。「Choy Soda」ではトロンボーンのコーリー・キングのソウルフルなヴォーカルが入る。途中のテンポアップした意外性のあるアンサンブルもいい。後半、短いながらもトランペットとテナーサックスの火の出るようなバトルが展開される。最後はラップ風のコーラスが加わり、きっぱりと終る。心がざらっとするような瞬間だ。アダム・ジャクソンの精力的なドラムスがフロントを鼓舞していて、気持ちがいい。アルバム全体のサウンドが単調ではなく、曲毎に異なる黒田ワールドのカラフルなサウンド空間が楽しめる。どうも、現時点では彼の最高傑作のような気がする。ところで、2022 11.10 thu., 11.11 fri.にブルーノート東京で、このアルバムのメンバーでの来日ライブが行われるようだ。ご興味のある方は是非!Takuya Kuroda:Midnight Crisp(First Word Record) 16bit 44.1kHz Flac1.Midnight Crisp2.Time Coil3.It's Okay4.Dead End Dance5.Old Picture6.Choy Sodaakuya Kuroda(tp)Corey King(tb,vo)Craig Hill(ts)Lawrence Fields(p,key)Rashaan Carter(b)Adam Jackson(ds)
2022年10月31日
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数か月前にspotifyをチェックしていて、パット・メセニーの新作かと思って聴いたアルバムが、arkaida musicというレーベルから再発されたデイヴ・リーブマンのアルバムだった。この時はリーブマンのリーダーアルバム3枚がリリースされ、その中から「Elements:Water」というメセニーとの共演版と、プッチーニのオペラを題材にしたアルバムをbandcampから入手。今回は、プッチーニについての感想。このアルバムは、プッチーニのオペラの有名なアリアをジャズ化したアルバムだ。最初はムード音楽的なものかと思って聴いていたが、何回か聴いているうちに、真っ当なジャズとうかリーブマンの音楽であることが分かった。編曲が凝っていて、ジャズ的なものは無論、フュージョン、クラシックの木管アンサンブルなどの室内楽的な曲など、ヴァラエティに富んでいる。残念なのは編曲者がクレジットされていないことヴォイシングも秀逸だ。リーブマンのイマジネーションの広がりと、それを実現する力量に敬服する。まあ、こういうアルバムはそれが出来ていないと話にならないのだが、このアルバムはそれが高度のレベルで結実している。1曲目は歌劇「ボエーム」の「ムゼッタのワルツ」リーブマンの骨太のソプラノサックスがスインギーで美しい。バックはギターとベースというシンプルなものだが、ソプラノのほんわかムードに対してかなり攻めた演奏を展開していて、そのコントラストが面白い。第2曲の歌劇「トスカ」第3幕のトスカのアリア「ずいぶん長く待たせるの!ね」と第7曲の歌劇「トゥーランドット」第2幕のトゥーランドットのアリア「この宮殿の中で」ではレノラ・ゼンザライ・ヘルムというヴォーカリストが歌っている。歌詞はなく、メロディーを口ずさんでいるだけなのだが、細かいビブラートが不気味だ。「ずいぶん長く待たせるの!ね」では途中からスキャットになり、まともに歌っているので、意図がよく分からない。第3曲は歌劇「トゥーランドット」」からの有名な「誰も寝てもならぬ」パーカッションの一撃から始まる、オリエンタルムードの編曲がユニーク。シンセがムードを決定する役割で、聴いていると夢心地になる。「誰も寝てはならぬ」という題なのに寝てしまいそうになるのは、リーブマン流のウイットだろうか。第4曲の「トスカ」からの「星は光ぬ」は前奏と後奏に木管アンサンブルが入るが、この部分はあまり面白くない。ヴィック・ジュリスのスパニッシュ風なギターがいい。リーブマンの甘さを湛えたテナーサックスが、このアリアにぴったりだ。第5曲トスカの「3人の警官」は第一幕のスカルピアとスポレッタが歌う「警官を3人と馬車を一台 」のくだり。このトラックが最もジャズ度が高い。この曲では、フィル・ウッズがソプラノで参加している。リーブマンはテナーで、彼らの激しいバトルが聴かれる。歌劇「蝶々夫人」から「ある晴れた日に」では、イントロで出るシンセの三味線のような音が、妙に音楽にあっている。同じく「蝶々夫人」から第1幕の愛の二重唱では甘い雰囲気のムーディーな出だしから始まるが、突如としてアップ・テンポになり、リーブマンのソプラノ・ソロが炸裂する。その疾走感が半端ない。ヴィック・ジュリスのエレクトリック・ギターのソロも悪くない。エンディングはまたスローテンポに戻って、余韻を残す。第10曲も「蝶々夫人」第1幕のエンディング「さあ、もう少し」がリーブマンのソプラノとウッズのクラリネットでしめやかに?演奏される。シンセによる宇宙の広がりを思い起こさせるような、摩訶不思議なサウンドが印象的だ。アルバムの最後は歌劇「トスカ」第2幕の「歌に生き、愛に生き」がテナー、ピアノ、チェロなどで静かに演奏される。盛り上がりこそないが、このアルバムにふさわしい余韻の残るナンバーだった。例によって192kHzにアップコンバートしたファイルでの試聴。1997年の録音だが、最近の録音と言ってもおかしくないフレッシュなサウンドだ。もしかしたら、リマスタリングしなおしたのかもしれない。ということで、渋いアルバムではあるが、リーブマンの才気が溢れ、含蓄のある演奏で未聴の方にはお薦めだ。ジャズ・ファンには温く感じられるトラックもあるが、ユリ・ケインのお好きな方やプッチーニのオペラが好きなクラシック・ファンにもお勧めしたい。Daveid Liebman Plays Pucchini:A Walk In The Cloud(Arkadia Record 71044)16bit 44.1kHz Flac1.La Boheme Aria: Quando M’en Vo (Musetta's Waltz)2.Tosca Aria: Come E Lunga L’Attesa (How Long The Wait)3.Turandot Aria: Nessum Dorma (None Shall Sleep)4.Tosca Aria: E Luce Van Le Stelle (The Stars Were Shining)5.Tosca Aria: Tre Sbirri (Three Agents)6.Gianni Schicci Aria: O Mio Babbino Caro (Oh, My Beloved Daddy)7.Turandot Aria: In Questa Reggia (Within This Place)8.Madame Butterfly Aria: Un Bel Di, Vedremo (One Fine Day He’ll Come)9.Madame Butterfly Aria: Vogliamenti Bene (Love Me, Please)10.Madame Butterfly Aria: Ancora Un Passo (One More Step)11.Tosca Aria: Vissi D’Arte (I Lived For Music and Love)Dave Liebman (ss trak 1-4, 6 -10 ts track4, 5, 11)Vic Juris (g track 1, 3, 4)Phil Woods(as track 5,cl track 10)Tony Marino (b track 1 -3, 5, 9)Larry Fisher (Fg. track 4, 7)Nancy Hambleton-Torrente (Vc track 8, 11)Matt Wilson (ds track 2, 3, 5, 9)Vic Juris (e-g track 9)Caris Visentin (Oboe track 4, 7)Dane Richeson (perc. track 3, 7)Jamey Haddad (perc. track 3, 6, 7, 11)Sizao Machado* (perc. track 3, 7)Phil Markowitz (p track 2, 3 - 6, 8, 10, 11,synth track 3, 7, 8, 10)Lenora Zenzalai Helm (vo track 2, 7)Recorded on 10/17, 11/1-2/97 at Red Rock Recording
2022年10月25日
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少し前からリリースされているドイツのFbrikというライブ・ハウスでのライブのシリーズの一枚。このシリーズは出ていることを知ってはいたが、食指が伸びるまでには至っていなかった。ところがマイケル・ブレッカー(1949 - 2007)の演奏が凄まじく、ダウンロードしてしまった。マイケル・ブレッカーは一世を風靡したミュージシャンだったが、早逝後は新しい録音が出るでもなく、管理人も聞くことがとんとなくなってしまった。このCDは兄のランディーのグループとのダブルビルで、2枚組。ハイレゾは各々のグループごとのリリースになっている。会場はFbrik(工場)というくらいなので、工場を改装したところなのだろう。入れ物が大きく、野外での演奏を聴いているような気分になる。このライブは1987年で、マイケルが30代後半の脂の乘りきった時代の演奏。今どきの温い音楽とは全く違う、尖がった音楽が楽しめる。ブレッカーは、この年に初リーダー・アルバム(Impulse)をリリースした年でもある。フュージョンではなくメインストリーム・ジャズで、プログラムは、オリジナルが4曲にスタンダードが1曲という構成。ドン・グロルニックの「Nothing Personal」は高速テンポで展開されるかなりの難曲。グロルニックはブレッカーも参加していたステップスやドリームスのグループ・メンバー。ひんやりとした緊迫感と有無を言わせない凄味が感じられる。ブレッカーはテナー・マスターの名に恥じぬ圧倒的なプレイを繰り広げている。メンバー全員のソロがあり、21分ほどの長尺な演奏だが、長い感じはなく、緊張感に満ちている。この曲でのマイク・スターン(1953-)の圧倒的なパフォーマンスには舌を巻く。続くカルデラッツオのソロは前半はハードバップ風でスターンのギターソロに煽られた興奮を冷ますようなもの。ところがテンポを速めてまたもや興奮を煽り立てるようなソロになってしまう。ジェフ・アンドリューズのエレクトリック・ベースのソロも頑張っているがバックのギターがちょっとうるさい。マイク・スターンの「Choices」でもクールな雰囲気が続く。ブレッカーがウインド・シンセでミュート・トランペットのようなサウンドを出している。途中でマイルスの「ジャン・ピエール」のフレーズが引用されているのがおかしい。続くスターンのギター・シンセによるソロが圧倒的迫力で迫ってくる。スターンの「Upside Downside」では最初からギターシンセが大活躍。この曲ではマイケルはお休みのようだ。スタンダードの「My One And Only Love」は多分ピアノはお休み。先発はブレッカーのテナー。2分過ぎまではテナーのみのプレイで、その後バッキングが加わる。ギターのバッキングがなかなか風変わりで、お決まりのピアノトリオによるバッキングとは一味違ったテイストで楽しめた。テナーの後のスターンのソロはオーソドックスなソロ。アンドリューズの良く歌うエレクトリック・ベース・ソロもいい。「Original Rays」は楽天的な気分が支配している。イントロはカルデラッツオのキーボードだろうか。7分ほどの長いソロで、最初はハイドンのトランペット協奏曲の一節を引用してコミカルに始まるが、次第に狂暴になるところが聴き物。ブレッカーのテナー・ソロはアーシーなテイストを感じさせるもの。スターンのギター・ソロが出てくるところからエンディングに向かって次第に温くなっていくところは、「なんだかな~」と思ってしまう。録音はWDRの放送録音なので、古さは感じられない。拍手も生々しくとらえられていて、臨場感満点の録音だ。ノイズ感もないが、低音がもう少し出ていればと惜しまれる。Michael Brecker:Live at Fabrik, Hamburg 1987(WDR D77102)24bit 48kHz Flac1.Don Glolnick:Nothing Personal2.Mike Stern:Choices3.Mike Stern:Upside Downside4.Guy B Wood:My One And Only Love5.Michael Brecker;Don Glolnick;Mike Stern;Original RaysMichael Brecker(ts)Mike Stern(g)Joey Calderazzo(key)Adam Nussbaum(ds)Jeff Andrews (b)Recorded 1987,Live at Fabrik, Hamburg
2022年10月21日
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サマラ・ジョイ(1998-)の2枚目のアルバムは、何とヴァーブからのリリース。前作が良かったのか、いきなりメジャーに移籍するとは思っていなかった。今回も前回の路線からの変更はないが、あまり知られていないスタンダードやジャズメンのオリジナルで構成されている。彼女のコメントによると、『最初のアルバムの曲はすべて、数年前に学校で習ったスタンダード曲で、今回は、同じスタンダード曲の系統でも、みんなが聞いたことがないような違う曲ばかり。』とのこと。一部インスト・ナンバーに歌詞をつけた曲もある。サマラのヴォーカルはますます味わい深いものになっていて、とてもデビューからそれほど時間のたっていない歌手とはとても思えない程。そして、いざとなった時の爆発的なフォルテシモには圧倒される。よく長らく活躍しているミュージシャンに対して、「円熟の・・・」という表現を使うことがある。このアルバムを聴いているとその言葉が思い浮かぶが、それほど急速に進化しているのかもしれない。却ってあまりにもどっしりしているので、年相応の若々しさを感じる曲も聴きたいと思ってしまう。管理人の好きなナンシー・ウィルソンの「Guess Who I Saw Today」が入っているのが嬉しい。ただ、少しネットリしていて、もう少しさらっと歌ってほしかった。ファッツ・ナヴァロの代表的なナンバー「ノスタルジア」はサマラが歌詞を書いている。なかなかいい感じの歌詞だ。この曲のヴォーカリーズ版は聞いたことがないが、他にEmily Daviesという歌手が歌っているバージョンもある。リズミックな「Sweet Pumpkin」やスインギーな「Social Call」など多彩な魅力にあふれている。最後の「ラウンド・ミッドナイト」(1944-)は2管編成で、作曲当時(1944)を思い起させるようなホーンとドラムロールが醸し出すレトロな雰囲気のイントロが新鮮だ。バックではベン・ピアソンのスインギーなピアノがいい。今回も前回同様ギターのパスクァーレ・グラッソが付き合っていて、妙技を披露している。急速調のタイトルチューン「Linger Awhile」でのキレキレの速弾きが光る。最後の「Someone To Watch Over Me」のギターとヴォーカルの心温まる演奏が、しみじみと心に染み入る。ということで、地味ながら味わい深いアルバムで、ジャズ・ヴォーカル・ファンの皆様方には是非お聴きいただきたいGuess Who I Saw Today歌詞を映像化したシュールなモノクロの映像が美しい。Samara Joy:Linger Awhile(Verve 4826650)24bit 96kHz Flac1.Jimmy McHugh:Can't Get Out of This Mood2.Elisse Boyd, Murray Grand:Guess Who I Saw Today3.Fats Navarro, Samara Joy McLendon:Nostalgia (The Day I Knew)4.Ronnell Bright:Sweet Pumpkin feachuring Pasquale Grasso5.Erroll Garner:Misty6.Qusim Basheer, Jon Hendricks:Social Call7.Doc Daugherty, Ellis Reynolds:I'm Confessin' (That I Love You)8.Harry Owens, Vincent Rose:Linger Awhile feachuring Pasquale Grasso9.Thelonious Monk, Bernard Hanighen, Cootie Williams:'Round Midnight10.George Gershwin, Ira Gershwin:Someone To Watch Over Me feachuring Pasquale GrassoSamara Joy (vo)Ben Paterson (p track1,5,7,8)David Wong (b track1-9)Kenny Washington (ds track1-9)Pasquale Grasso (g track2-4,6-9)Kendric McCallister (ts track9)Donavan Austin (tb track9)Terell Stafford (flh,tp track9)
2022年10月15日
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ジョシュア・レッドマンの新作を聴く。キャッチコピーによると、『 約26年ぶりにオリジナル・メンバーが再び集結し、大きな話題となった2020年リリースの作品『RoundAgain』から約2年、早くもこの4人のラインナップで新たな作品『LongGone』を創り上げてくれた』というアルバム。オリジナル・メンバーとは「Mood Swing」(1994)のメンバーのことだ。ジョシュア・レッドマンをフォローする者として「RoundAgain」は聴いていたが、記憶にない。ブログを見返すと、個人的な評価は高い。最近は配信でいろいろなアルバムを聞いている時間が多く、アルバム単独で何回も聴くことが少なくなってしまった。なので、よっぽど印象に残らない限り、忘れてしまっているのが常態?になってしまった。結局うわべだけの鑑賞になっているのかもしれない。この録音は前作のセッションの残りの録音に、2007年に行われたSFJAZZの25周年ライブから1曲を追加したもののようだ。なので、キャッチコピーの言い回しには問題がある。アルバムは、全てレッドマンのオリジナル。ライブを除いて、少し暗めでしっとりしているが、べたべたしていない、乾いたレッドマン独特の佇まいの音楽。全編レッドマンのソロが大半を占めるが、最後のトラックを除いては、クールな表現が目立つ。メルドープレイはバッキング、ソロとも、なかなか光っている。ブライアン・ブレイドは結構アグレッシブに叩いているのだが、邪魔になることはなく、その複雑で細かいビートが心地よい。マクブライドは裏方に徹しているが、重量感がある。気に入ったのは、「Kite Song」快適なテンポで、進んでいく。メルドーのソロがいい。また、メルドーとレッドマンのテナーの絡みも絶妙だ。「Ship to Shore」は軽妙でコミカルなテイストが感じられる。マクブライドのソロもなかなかユーモアがある。タイトルチューンの「Long Gone」は快適なテンポで進む、爽やかなナンバー。味わい深い演奏で、繰り返し聞きたくなる名品。「Statuesque」は静謐でスピリチュアルな雰囲気の感動的な演奏。レッドマンの次第に高揚していくソロがいい。「Rejoice」は前述のようにライブ録音。アップテンポのワイルドな曲で、若かりし頃の、メンバー全員の熱気が感じられる大変優れた演奏だった。このトラックが一番良かったと言ったら怒られるだろうか。確かに2020の録音は完成度が高いが、このライブ録音のような勢いは感じられない。というか、彼らにしても、もう昔の頃には戻れないのかもしれない。ところで、情報を調べていてdiscogsのレビューを見ていたら、bandcampでリリースされていることを知った。ハイレゾが何と$9だった。手数料を考えても、邦貨で1300円前半で買える。悔しいが仕方がない。と思ったら、前作もbandcampにラインナップされていた。完全に抜かってしまった。ノンサッチを購入するときは、bandcampを真っ先にチェックしなければならないと思う。Joshua Redman: LongGone(Nonsuch WPCR-18500)24bit 96kHz FlacJoshua Redman:1.Long Gone2.Disco Ears3.Statuesque4.Kite Song5.Ship to Shore6.RejoiceJoshua Redman (sax)Brad Mehldau (piano)Christian McBride (bass)Brian Blade (drums)
2022年10月09日
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ジャズジャパンの今月号にローラ・アングラードという歌手のアルバムがレビューされていた。興味があったので、spotifyでチェックしたところ悪くない。いつも利用しているbandcampでもリリースされていたので、$10で速攻ダウンロードした。残念ながらロスレスだったので例によって192kHzにアップコンバートして試聴。彼女はフランス生まれで、現在カナダのトロントを拠点に北米やヨーロッパで活躍している歌手だそうだ。今年のビクトリア・ジャズ・フェスティバルではグレゴリー・ポーターのオープニングを務め、アメリカの東海岸と西海岸ではメロディ・ガルドーのオープニングを2週間務めている。このアルバムは、シャンソンを集めたもの。もちろん、スキャットなどを交えて歌っているが、このアルバムを聴いているとシャンソンとジャズの親和性が感じられる。ジャズ歌手がシャンソンを歌うと、特に作らなくてもジャズになってしまうみたいなものだ。このアルバムではバルバラやシャルル・トレネ、エディット・ピアフ、ミシェル・ルグランなど有名なフランスの名曲が演奏されている。彼女のヴォーカルは、ルグランのヴォールを思い起こさせるような、ボーイッシュな魅力が感じられる。勢いはあるのだが、力で押していくようなところがあり、低音も粗い。バックはギター一本で、2曲のみアコーディオンが加わる。ギターのサム・キルマイヤーはカナダのギタリストで、リーダー・アルバムも2枚出しているようだ。非常に趣味のいいギターで、アングラードのヴォーカルと非常にマッチしている。ベンジャミン・ローゼンブラムのアコーディオンが加わることで、一気にフランスの香りが漂ってくるようだ。因みにローゼンブラムはピアノも弾く(こっちが本職?)ようだ。管理人が気に入ったのは、アコーディオン入りのアズナブールの「五月のパリが好き」リズミックでフランスのエスプリが効いていて、五月のパリの風が感じられるようだ。5曲目の「愛の言葉を永遠に」のしっとりとした歌唱も、ギターの絡みと共に素晴らしい。収録時間は35分弱で、多少物足りない。録音は広がりがあまりなく、モノ的な音場。また、ギターの音が大きすぎる気がする。アップコンバートしたためか、少し音圧が強く、押しつけがましい。なお国内盤CDはボーナストラックとして「あたたかい12月」が追加されている。Laura Anglade :Venez donc chez moi(Muzak MZCF-1452)16bit 44.1kHz Flac1.Paul Misraki;Jean Féline:Venez donc chez moi2.Charles Aznavour;Pierre Roche:J'aime Paris au mois de mai3.Michel Legrand;Jacques Demy:La chanson de Maxence4.Charles Trenet;Léo Chauliac:Que reste-t-il de nos amours ?5.Serge Rezvani:Jamais je ne t'ai dit que je t'aimerai toujours6.Barbara:Precy jardin7.Charles Trenet;Raoul Breton;Johnny Hess:Vous qui passez sans me voir8.M. Jouveaux:Pleure pas9.Michel Delpech;Roland Vincent:Chez Laurette10.Barbara:Ce matin-la11.Michel Legrand;Eddy Marnay;Eddie Barclay:La Valse des lilasSam Kirmayer(g)Benjamin Rosenblum(accordion track 2,9)Recorded April 2021,Studio Mixart, Montréal, Québec
2022年10月03日
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エンリコ・ラヴァ(1939-)とフレッド・ハーシュ(1955-)のデュオ・アルバムを聴く。エンリコ・ラヴァはECMに多数の録音を残しているが、ハーシュは多分ECMでは初のレコーディング。ECMのサウンドを得て、ピアノが漆黒の空間にクリスタルのような輝きを放つ。彼らの芸風からしてリリカルな演奏が多いのは予想できたが、演奏の質が高いため、あまり不満はない。ただ、美しい演奏には違いないが、ラヴァのスカスカのフリューゲルが水を差しているように思う。これで、フリューゲルが美しければ、だいぶ違っていたと思う。ハーシュのピアノはリリカルで温かみのある演奏で、文句なしの出来。少し陰のある演奏が、深みを感じさせる。プログラムは彼らのオリジナルが1曲ずつとインプロヴィゼーションが一曲。そのほかはスタンダード、という構成。ジョビンの「白と黒のポートレイト」はゆったりとしたテンポで、少し陰のある演奏。この曲がボサノヴァであることを忘れさせるような、思索的な色が濃い。「センチになって」は少し速い変拍子のなかなか面白いアレンジで、この曲の演奏としては異色の演奏だろう。タイトルチューンの「The Song Is You」はフリーフォームのイントロから始まる。メロディーが次第に本来の形を現わしてくる展開は、なかなか見事だ。最後もフリーフォームで終わる。ハーシュの「Child’s Song」は子供の無邪気な様子が描かれているような、キャッチーなメロディーが悪くない。ラヴァの「ザ・トライアル」は両者の掛け合いだが、少し生真面目過ぎる気がする。モンクが2曲取り上げられている。その中では「ミステリオーソ」が面白い。モンクの謎めいたメロディーが、ハーシュの美しいサウンドに彩られていて、別の曲に変わっているのが聴きどころ。最後は「ラウンド・ミッドナイト」がピアノ・ソロで演奏される。思索的な演奏だが、時折聞こえる少しコミカルなフレーズのコントラストがユニーク。収録時間が42分と若干短いのは少し物足りないが、内容がそれを補って余りある。録音はノイズ感のない素晴らしいもの。漆黒の空間の中に、フリューゲルとピアノのサウンドが漂っているような趣だ。適度にエコーがかかっているためだろうか。ハーシュのピアノはECMサウンドとの相性がいいようなので、これからもECMでの録音をしてほしい。秋の夜長に、ブランデーでもすすりながら聴くのに相応しい演奏だろう。Enrico Rava & Fred Hersch:The Song Is You(ECM)24bit96kHz Flac1. Antonio Carlos Jobim: Retrato em Branco e Preto2. Enrico Rava, Fred Hersch: Improvisation3. George Bassman:I’m Getting Sentimental Over You4. Jerome Kern:The Song Is You5. Fred Hersch:Child’s Song6. Enrico Rava: The Trial7. Theronious: Misterioso8. Theronious: ‘Round MidnightEnrico Rava(flh)Fred Hersch(p)Recorded at Auditorio Stelio Molo RSI in November 2021
2022年09月29日
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コルトレーンの「ブルー・トレイン」が録音されてから今年で65周年になるのだそうだ。その記念の年に完全盤と称するアルバムがリリースされた。これはステレオと別テイクに加え、モノラルの録音を加えたものだ。このモノラルが曲者で、上記のすべてを一つのメディアで完結したものは、ダウンロード版しかない。完全版というくらいなら、CDでもLPでも全部収録するのが筋だと思うが、間違っているだろうか。アルバムのテイクはどちらもリマスターで、track6-8とtrack11の4曲が初出音源。CDはオリジナルテイクと別テイクを収録、アルバムのモノ盤は別なCDとしてリリースされた。ダウンロード版はこれらすべてを収録したもので、CDを購入するよりは大分お得だ。管理人はpresto musicのK国サイトから購入で、\1660と1/3以下の価格で入手した。モノ版とステレオ版の音の違いはあるにしても、それほどの違いは感じられない。ただ、完全盤と銘打ったからにはモノ版も入れなければならないのだろう。管理人はこのアルバムはあまり聞いてないので、印象が薄い。今回、少し真面目に聞いたところ、コルトレーンは申し分のない出来なことは確かだが、リー・モーガンのプレイが印象的だった。モーガンは当時ガレスピー楽団に在籍していて、19歳という若さ。コルトレーンとやることに対しても、全く物おじしないで、いつもの間合いでトランペットが炸裂する。人を食ったようなフレーズも健在だ。コルトレーンもモーガンもアルバム・テイクとは別なアドリブを展開し、アンサンブルの乱れ等小さな傷はあるが、これらがアルバム・テイクとして採用されてもおかしくない。ことにモーガンのプレイは、コルトレーンのプレイを凌駕するほど凄まじい。カーティス・フラーも、コルトレーンやモーガンに引きずられて次第に熱くなる模様がハッキリと刻印されている。アルバム・テイクではケニー・ドリューとフィリー・ジョーの影が薄いように感じられる。ところが別テイクのほうが生きのいい演奏を聴かせているトラックもある。ケニー・ドリューは「Moment's Notice」(Alternate Take 4)のソロ、「Lazy Bird」(Alternate Take 1)後半のフィリー・ジョーの長めなソロなどは面目を一新している。Lazy Birdはアルバムテイクに比べ2分ほど長く、その分ベースのポール・チェンバースのアルコ・ソロやフィリー・ジョーのソロが長くなっている。フィリー・ジョーのソロはドラムスが左に寄りすぎていて、少し不自然なのが惜しまれる。ところで、「ブルー・トレーン」のテーマが心なしか弱いことに気が付いた。どのテイクもそうで、ソロのほうに気持ちがいっていたのだろうか。録音はリマスタリングのせいかノイズがなく、歪みも皆無で音量を上げてもうるさく感じられない。ということで、管理人はこのアルバムはあまり関心がなかったが、別テイクを含めると、なるほど名盤であることが初めて分かったような気がする。購入するのなら別テイクの入った2枚組CDだろう。別テイクを聴くと、このセッションの充実ぶりと共に、一度たりとも同じ演奏がない、ジャズを聴く楽しみが凝縮されている気がする。Blue Train:The Complete Masters(Blue Note 4806203)24bit 96kHz Flac1.John Coltrane:Blue Train2.John Coltrane:Moment's Notice4.Johnny Mercer, Jerome Kern:I'm Old Fashioned(2012)5.John Coltrane:Lazy Bird(2012)6.John Coltrane:Blue Train (False Start)(2013)*7.John Coltrane:Blue Train(Alternate Take 7)*8.John Coltrane:Moment's Notice(Alternate Take 4)*9.John Coltrane:Lazy Bird(Alternate Take 1)10.John Coltrane:Blue Train(Alternate Take 8)11.John Coltrane:Moment's Notice(Alternate Take 5A Incomplete)*12.John Coltrane:Lazy Bird(Alternate Take 2)13.John Coltrane:Blue Train(Mono Version)14.John Coltrane:Moment's Notice(Mono Version)15.John Coltrane:Locomotion(Mono Version)16.Johnny Mercer, Jerome Kern:I'm Old Fashioned(Mono Version)17.John Coltrane:Lazy Bird(Mono Version)**previously unreleasedJohn Coltrane (ts)Lee Morgan (tp)Curtis Fuller (tb)Kenny Drew (p)Paul Chambers (b)Philly Joe Jones (ds)Recorded 1957-09-15,Englewood Cliffs, New Jersey
2022年09月21日
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恒例の岩手ジャズを観に行った。いつもなら2階席の舞台下手で観ていたが、もう少しいい音を期待して一階席の前のほうで視聴した。残念ながら音は期待していたようなものではないかったが、演奏者の何気ないしぐさなどがみられて楽しかった。今回は、いつものオールスター・ジャズバンドのほかは、小野リサバンドと山下洋輔カルテットというプログラム。ビッグバンドはなかなかパンチのあるサウンドを聞かせていた。最初のエリントンの「スイングしなけりゃ意味ないね」はイントロのテュッティでびっくりしたが、その後は普通のアレンジ。続く2曲は女性ヴォーカルが入った。最後のビリー・ジョエルの「New York State of Mind」(ニューヨークの想い)はアルトサックスが全面的にフィーチャーされていていた。サウンドが豊かで、楽しむことができた。ところで、今回はトランペットの高音要員?が二人いて、なかなか楽しませていただけたのは収穫。臨時編成なので、どうしてもスタンダードになりがちだが、少しは前向きなプログラムも期待したい。4曲だと少し物足りない。MCを短めにして、もう一曲入れてくれれば、といつも思う。続いては小野リサのバンドの演奏。ブラジル音楽ばかりだと思っていたら、日本の歌もあり、個人的には中途半端な印象。彼女は、昔のようにボサノバに対するこだわりはなくなったと仰っていたが、個人的にはもっとこだわってほしい。歌はか細く囁いているような感じだ。以前CDを何枚か聞いていたが、こんなもんじゃなかったはずだ。姿を見るとまだまだ若々しいが、年齢は52歳。音程も怪しいところがあり、全体に正気がない。バックはピアノを中心とした堅実なもので、清潔感があるのが、ブラジル音楽にしては意外だった。最後は山下洋輔のカルテット。山下を最後に聞いたのが2017年だったので、5年ぶりになる。山下は出てきた時からさすがに年が感じられた。とはいえ、80歳なので、年齢から行けばまだまだ元気いっぱいの感じだ。アルトサックスの米田裕也は初めて聴いたが、なかなか刺激的な音を出していた。年齢は40ちょっと前くらいだろうと思うが、昔のストイックなジャズマンの風貌で、若干線が細い感じだが、出てくるフレーズはなかなか過激だ。ドラムスの高橋信之介のタイトなドラミングもいい。聞き物だったのは、坂井紅介のベース。バッキングはおとなしいものだが、ギターをべんべんと鳴らしているような豪快なソロには、驚いた。山下のプレイは往時のダイナミックなところは薄れたが、得意のフレーズや肘打ちも交えて好演。落語の名調子を思わせるMCは相変わらず健在だが、ちょっと長いのが玉にきず。まあ、年寄りなので仕方がない。昔のレパートリーが主だったが、知らない曲もあり、往時の有無を言わせない圧倒的な演奏とははいかなかったが、枯れた味わいの、滋味あふれる演奏だった。特に山田風太郎の原作を岡本喜八監督が映画化するために、山下にシナリオ見せて書かれた「幻燈辻馬車」がいつものフリージャズではなく、日本情緒漂うゆったりとした曲で、映画音楽とはいえ、山下の作曲の間口が広いことに驚いた。アンコールは「A列車で行こう」ドシャメシャなイントロでいったい何が起こったと思わせるような、山下一流の仕掛けが楽しい。岩手ジャズ2022第1部 エリントン:スイングしなけりゃ意味ないね アイラ・ガーシュイン:This Is New ガーナー:Misty ビリー・ジョエル:New York State of Mind第2部 ジョビン:イパネマの娘 ジョビン:サマーサンバ ジョビン:Wave パブロ・ベルトラン・ルイス:キエン・セラ 浜圭介:街の灯り ジョビン:コルコバード メドレー 菅野よう子:花は咲く第3部 山下洋輔:ファースト・ブリッジ 山下洋輔:For David's Sake 山下洋輔:幻燈辻馬車 山下洋輔:グルーヴィン・パレード 山下洋輔クルディッシュ・ダンス 山下洋輔:Take The A TrainいわてJAZZ 2022スペシャルバンド(第1部)小野リサ ボサノバ・ライブ(第2部) 小野リサ(vo,g) 奥山勝(p) 澤田将弘(b) 斉藤良(ds)山下洋輔 スペシャル・カルテット(第3部)山下洋輔(p)米田裕也(as)坂井紅介(b)高橋信之介(ds)、2022年9月17日岩手県民会館大ホール9列35番にて視聴
2022年09月19日
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ロバート・グラスパーのLoma Vista Recording移籍第一弾の「Black RaioⅢ」を聴く。リリースからだいぶ経ってしまったが、それはなかなか安くならなかったため。この前思いついてbandcampを検索したらヒットして速攻でゲットした。このサイトは購入済みのソースは価格が表示されなくなるが、確か$9.99だった筈。例によってブックレットは付いてないが、柳樂光隆氏の詳しい解説がnoteに載っている。以前はメンバーがスタジオにこもって制作していた。今回はコロナ禍のためグラスパーの自宅スタジオを中心にデータを送り合って、それを編集する形で制作された。これが大きな違いだという。グラスパーのインタビューによるとリモートには肯定的だが、メンバーが一緒にレコーディングするときの即応性は捨てがいたものがあるようだ。音楽的には前作までの延長ということで、それほど新鮮味があるわけではない。管理人はこの手の音楽にはだいぶ耐性がついたので、今回もすんなりと入っていけた。新しい発見があるわけではなく、多分にごった煮的なアルバムだが、馴染みやすいメロディーとサウンドが悪くない。豪華なゲストのヴォーカルが何と言っても聴き物。バックコーラスも聴きどころ満載だ。ヒップホップ臭はあまりなく、ゴージャスなソウルのヴォーカル・アルバムといったところだろう。但し、曲の違いはあまりはっきりしなくて、どれも似たような印象を受けた。前述のインタビュー後の柳樂光隆氏の本作に対する考えも書かれている。柳樂氏によると、『1.豪華なゲストを起用すること2.『Black Radio』シリーズのイメージを利用すること3.敏腕たちが様々な文脈のディテールで遊んで変化を出すことこの3つを使って音楽シーン随一の腕を誇る敏腕ミュージシャンたちがその腕前を誇ることができる新たなフォーマットが出来上がったという意味で、リモート時代の新たな方法論を示したともいえる』と述べている。1,2については分かるが、3は管理人には理解が難しい。氏の考えに必ずしも賛同できるわけではない。製作スピードが上がることで、音楽のクオリティも上がるとは言えないところが音楽の難しいところだ。また、それにより失うものもあるような気がする。セッション録音の一発ドリの緊張感などは、この方法だと望むべくもない。昔、コルトレーンがエリントンと共演で、コルトレーンがテイクを重ねようとしたときに、エリントンがテイクを重ねる必要がないようなことを言って、コルトレーンがテイクを重ねる愚?を悟った話を思いだした。柳樂氏によると最も象徴的なのは「Everybody Love」でのビートメイカーのジェイ・クーパーによるハウス的なビートのプロダクションとのこと。グラスパーは今までのアルバムでは、ドラムはすべて人間が叩いていたが、今回初めてプログラミングによるトラックを入れたのだ。今までのドラミングが打ち込みと疑わせるような機械的なビートだったのに、この曲では逆のことをやって、今度もドラマーが叩いているように見せるのは、グラスパーのしゃれっ気だろうか。1の豪華なゲストを集めることは管理人でも知っている歌手が多数参加していることでもわかる。彼らの参加により音楽がスケールアップしていることは確かだ。情報がない時に聞いて、この曲は素晴らしいとか思っていたわけで、クレジットが分かれば、彼らなら当然と思ってしまう。聴きどころは満載だが、気に入ったのは、ミュージック・ソウルチャイルドとポスドゥヌスによる軽快な「Everybody Love」ソウル色が濃く、彼らのヴォーカルも無論素晴らしいのだが、バックコーラスが実に素晴らしかった。宇宙空間に浮遊しているような、不思議な感覚を覚える。「Out of My Hands」はジェニファー・ハドソンの強烈な歌唱が光る。グレゴリー・ポーターの「It Don't Matter」は少し温い。エスペランサ・スポルディングの「Why We Speak」やイエバの「over」は他のトラックが黒く重ったるい中、軽く爽やかで異彩を放っている。ヒップホップの「Black Superhero 」や「Shine」は同じフレーズが延々と続き、歌詞が分からないことも手伝って、退屈だ。ヴォーコーダーの音も少しキモイ。なお、「Forever」のみアデルのレコーディングでLAに来ていたクリス・デイヴとピノ・パラディーノがグラスパーのスタジオに訪れて録音して、柳樂氏によると『セッション感が強い』とのことだ。他の演奏が一歩引いたような感じであるのに対し、熱気のこもった、かなりカロリーの高いトラックあることは確かだが、セッション録音であるためかどうかは分からない。ということで、あくまでも主役は豪華ゲスト陣で、バックは取り立ててソロがあるわけでもない。グラスパーは優秀なミュージシャンを意のままに動かすプロデューサー的な役割だろう。録音は普通だが、やたら低域が強調されているのは、少しやりすぎの感じがする。Robert Glasper:Black RaioⅢ(Concord LVR2357)24bit 96kHz Flac1.Robert Glasper;Amir Sulaiman:In Tune (featuring Amir Sulaiman)2.Glasper;Michael Render;Bryan James Sledge;Justin Scott:Black Superhero (featuringKiller Mike,BJ the Chicago KidandBig K.R.I.T.)3.Glasper;Daniel Anthony Farris;Tiffany Venise Gouché;Justin Tyson:Shine (featuringD SmokeandTiffany Gouché)4.Why We Speak (featuring Q-Tip and Esperanza Spalding)5.Over (featuring Yebba)6.Better than I Imagined (featuring H.E.R. an dMe'Shell Ndegéocello)7.Everybody Wants to Rule the World (featuring Lalah Hathaway and Common)8.Everybody Love (featuring Musiq Soulchild and Posdnous)9.It Don't Matter (featuring Gregory Porter and Ledisi)10Heaven's Here (featuring Ant Clemons)11.Out of My Hands (featuring Jennifer Hudson)12.Forever (featuring PJ Morton and India.Arie)13.Bright Lights (featuring Ty Dolla $ign)Robert Glasper
2022年09月13日
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