宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

盲目の冬


ひらいた傘は5分ともたず、何十冊という本だけは濡らさないように歩いた。

  ただ、先生が好きで、先生のお心が好きで、それだけでした。
  辛かったんですけど、心に決めまして、ただ歩きました。
  思い返すと、その時の事だけは、いつも泣けてくるんです。
  苦しかったけど、ああ、やって良かったな~、
  あんな時があって良かったな~と・・・。

その人はまた泣いた。
ハンカチは用をなさず、涙は膝の上におちた。
時に私は、自分の体は涙で出来ているのではないだろうかと思うほど
こんな話にはよく泣くけれど、
その時ばかりは皆もただうつむいていた。
その人は涙を拭いながら、恥らって私に話の矛先を向けた。

  ただ好きだから、・・・そうありたいと願います。
  私に出来ない事です。尊敬します。
  自分はそうありたいと願う一方で、疑わしきのあれば調べようとするのです。
  私は私が得心しなければ一歩も動けないのです。
  この年まで生きて、色んな事も見聞きし分かり、そういう者が、
  ただこの人が好きだから、ただそれだけで心を尽くせる・・・

寒いのに窓があいているからと・・・話は中断した。

私は、まだ中学だったかの頃に、
小学六年の担任からの手紙の返事に書き送った文面を思い出した。

  先生、あなたは正しい。正しいと思います。
  けれど私は、常に正しい態度を守ったという事、
  その事を偉大だとは思いません。

あの人の・・盲目の愛を思い出す冬の一日。






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