宇宙は本の箱

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最初の秋の思い出


ともかくその日早くに研究所に着くと、まだもっと早い人がいて、十時間以上も高速をすっ飛ばして九州から来たのだと言った。精神統一の時、どこに坐ろうか思案気にしていたので、初めての人はここがいいらしいですよと、厚かましく理事長の隣に坐ることをすすめた。
いつものように一時間はもうとうに過ぎ去った頃、あちらからは先生が、こちらからは理事長が、一人一人に念を入れに来られた。
その人は理事長の一番隣だから一番最初だったのだが、理事長が後ろに来られた途端、その人との間にものすごい電流が流れた。ウワッチ!と声は上げなかったものの感電して焼けてしまいそうだったので力を抜く筈の精神統一中に思わず身を固くしてしまった。
ついて二階に一緒に上がってきた彼に、あの電流はなんともありませんでしたか?と聞くと、
そんなのは一向感じなかったということだったが、隣にいてもわかるくらいだから、ちょっとあなたはちょっとしません?と言うと、彼は十時間もかけてここまで来た理由を話し始めた。
実は彼は父親が病に倒れて死にそうだった時、隣の部屋で夢中で「治れ、治れ!」と心で叫んでいたら、急に目もくらんでしまうような光に包まれてお父さんの顔がパッと現われた。思わず「お父さん!」と言って戸を開くと、お父さんはすっかり治っていたということがあった。そして「これだ!これだ!これだったんだ!」そう思うと、もうどうしてもそいうことを言っていた先生の元に来てみたくなったのだと私達に言った。
「でも今はもうその力が出ないんです、だから」
彼はそう言って私達に自分のキーホルダーを見せて「これです」と言った。
それはミニバイクの鍵で、ミニバイクの鍵は車の鍵などとは比較にならないほど小さいが、
その鍵は丸く輪になっていた。
「曲がれ、曲がれって曲がったのはいいんですが、元に戻せなくなったんですよ」
私達は面白がって皆で「まっすぐになれ!まっすぐになれ」ってやって笑った。そもそもスプーンも曲がらない者にそれは無理な話だった。
(あれが一番凄かったのは長尾先生で、「蚊さん、蚊さん、あなたの吸う血は向こうですよ」
「蝿さん蝿さんここはあなたのいる所じゃないからも少しあっちに行きましょう」というような具合で、この世のものではない花の香を持った人だったが)

九州のその彼は今はどうしているだろう?私はあれから五年以上は研究所には行かず、彼の名も知らないが時に思い出す。
彼の統一力からすれば、ほどなくミニバイクの籠は元に戻ったに違いない。



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