宇宙は本の箱

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白百合追想



昨夜半、流されてゆく雲に時折身を隠す月を追っていたら、薄ら明かりに沈丁花が揺らいだ。
まだひな祭りを終えたばかりだというのに、裏庭の隅っこではや満開にならんとする花に、今また霧雨のような細かな雨が降りそそぐ。
今年は一月も二月も雪が降ったから、こんなに早い春は予想だにしてなくて、
いつの間にかゆりの球根のことはすっかり忘れてしまっていた。沈丁花の横っちょにでも無理やり埋めてしまおうか。
いつか谷汲村のように、杉林の中をヨガナンダジの白百合でいっぱいにしたかったのだが、それは千年後にとっておく夢。
細かな雨は降り続く。


そういえば・・・むかし、私の好みとはかけ離れた、自惚れ強い一人の美少年がおりました。白百合に薄紅さしたような頬をした少年よ、と、私は呼びかけました。
少年が墨で書いた一ページがまだここにあります。
<僕には永遠の女性が二人いる。それは母と初恋の娘だ>
著名な誰かの言葉なんでしょうが、傷つける気はなかったです。
あの二年は思い返せばどこにでもその何もかも整いすぎた美少年がいました。
その二年は私には何ものにも替えがたい二年でしたから、美少年の事も思います。
白百合を見ればまた懐かしく思います。
窓辺にはいつも、カッコええ奴はカッコええように生きなあかんぞ、なんて屈託無く言える子供のようなN君がいて、美少年と正反対の自惚れない男前のM君がいて・・・
懐かしいけど、大きなお屋敷、旧家の前は通りません。








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