宇宙は本の箱

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運命の槍



うん、きれいだと思って生きてるよ。きれいでない時はここがぐちゃぐちゃするでしょ?

僕は・・・僕は、すごく汚いと思う時があるんですよ。

それは例えばどんな時?

僕ギター弾いてるでしょ、それでね、



あの二階の窓が閉ざされてから何年になるだろう。
あのこを・・・(I君はもう今年39歳だから、あのこなんて言うのは失礼にあたるかもしれないけれど)最後に見かけたのは家の正面に突き当たる公園通りの道で、あの通りは暗くてすぐ傍に来るまで全然わからなかったけれど、ハーケンクロイツのヘルメットを被っていて、それがあまりに似合いすぎて、思わず笑ってしまった夜だった。
親の脛ばかりかじってる癖におしゃれで、バイクもおしゃれで、あのヘルメットはI君にぴったりのものだった。

ギター弾かなくなって、シュール本も読まなくなって、だけどついでに薬もやめて、人も気遣えるようになっていて、で、なぜだかしらヒトラーの話をしたこともあったんだっけ。
私はヒトラーの本の中では『運命の槍』が好きなんだ~と言ったことがあったかどうか。
たまたま福来なんかに行っていたから、人は私をオカルティストだと思うかもしれないけれど、ロンジヌスの槍なんていかにもI君好みみたいで、知ったらそういう形のものを探し歩きそうで、多分言わなかったに違いない。


どこで何をしているのか、閉まりっぱなしの窓を見上げる時、
伊藤晴雨を見せてもらえば良かったな~、それからこの『運命の槍』をあげれば良かったな~と、なぜかちょっとだけ後悔する。
そしてそんな夜はしばし、その槍の絵を眺めて過ごすことになる。






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