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天の虫けら 第四回 淡い思い出
それが終わるや否や「今度の秋の体育大会では、一五〇〇を走れ」と、矢継ぎ早の命令が下った。選手に選ばれると、過酷な特訓が待っていた。片道八キロの道を通ってくるのに、練習だと言って二キロ走って納官村の坂道まで行き、登ったり降りたり。鋭い笛が鳴っても、終わったなどと思うのは大間違いで、今度は長浜の砂の上を走りに走らされる。全部が特訓なのである。炭俵担ぎの時まで、腰に力を入れてしっかり担げと檄(げき)が飛ぶ。八キロも歩いて往復している身にもなってくれと心で叫んだ。ただ、くたくたに疲れても、不思議に帰路の足取りは軽かった。
選手には大会当日、野間の運動場まで、貸切りバスで行くという特権がある。初めて選ばれてバスに乗った。一五〇〇は二周目までは先頭だったが、三周目で追い抜かれ、四等だった。それでも私の生涯で唯一の入賞である。帰りのバスでも先輩が冷やかしながらも、よく走ったとほめてくれた。
その帰途のこと。みんなはバスを降りるとすぐ家のため、体操服だけだった。ところが雨が降りだし、寒くなった。ふと隣の席を見ると、一年生の女子生徒が震えている。私は学生服を脱ぐとそっと着せかけた。彼女はつぶらな瞳を輝かせて、小さな声で「ありがとう」と、私だけに聞える声で礼をした。ところがなぜかその親切が知れ渡り、翌日から恋人同士にされてしまった。多分、違う村から来ている私への冷やかしだったのだろう。少年時代のほのぼのとした思い出の一こまである。
人生は出会いで決まると言う。小学一年生の担任だった男の先生との出会いは、音楽と教師は嫌いだという強烈な体験であり、権威をもって威張り散らすすべての者への嫌悪感となってしまった。中学一年の担任だった横山先生からは、文学の世界に目を開かれ、また歴史への興味を教えられた。一年先輩の女子生徒には、わずかの期間だったが、優しさと温もりの人間関係と愛のすばらしさを学ばせてもらい、彼女が勧めてくれる文学書は全部読んでしまった。一年女子との出会いは、優しさを与え、思いやることのすばらしさや、甘えられることの甘美さを知った出会いだった。このように書いても、純愛のそのまた前の段階だ。手を握るわけでもなく、数回ラブレターをやり取りした、幼い思い出だけである。
しかし、このような出会いが、やがて人生のすべてを変えてしまう出会いへと、導いてくれたように思う。
詩篇
良い目を見せてくれないものか。」
【主】よ。どうか、あなたの御顔の光を、
私たちの上に照らしてください。
4:7 あなたは私の心に喜びを下さいました。
それは穀物と新しいぶどう酒が
豊かにあるときにもまさっています。
4:8 平安のうちに私は身を横たえ、
すぐ、眠りにつきます。
【主】よ。あなただけが、
私を安らかに住まわせてくださいます。