little island walking,

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2007/03/08
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 それからしばらくして、父から手紙が届いた。母から手渡されたのだが、母はなんの表情の変化も見せずに、「あんたに手紙」とだけ云って、あとは知らん顔だった。
 自室に戻り、窓を開け放して、静かに封を切る。数枚の味気ない便せんには、いつまでも子供じみた、男特有の、どこか自分を傷つけることで物語が完結するような、そんな雰囲気を残している内容が書かれてあった。
「ばかだな」一読して、私は鼻で笑った。初めて、父を侮辱した。友人たちがよく云っていたように、父親を小馬鹿にすることなんて私にはできなかったことだけれど、私は、この時初めて、父に軽口をたたけたのだった。もちろん、本人を前にしてではないけれど。


 拝啓

 陽気もよくなってずいぶんと過ごしやすい日々が続いていますが、お母さまと一緒に元気でやっていることだと思います。
 先日、あなたがうちにやってきたことを聞きました。仕事でいなかった、とはいえ、会えなかったのが残念です。しかし、こんなに近くに父親が住んでいたとは思いもよらなかったのではないでしょうか。よく、よく探し当てたものだと思います。
 もう、二十歳を迎えるころでしょう。いま、何をしているのですか? 仕事ですか? 学生ですか? 何か、困ったことはありませんか? 十年以上前、あなたを置いて家を出たときのことはとても忘れられません。忘れられませんが、かといって、運動会をこっそりのぞきにいったりとか、あなたのお母さんに電話をして様子を聞いたりというようなことは一切してきませんでした。薄情な親です。
 けれども、まだあなたが五歳のころに足の指を大けがしたときのことは今でもはっきりと覚えています。あのとき、突然電話で、あなたのおじいさんから呼び出されたとき、あなたの父親は本当に気が動転し、あわてふためき、免許証も持たずに車を出しました。まだ小さいあなたの親指はもう血にまみれていて、何度ティッシュを取り替えても血が止まらないとおじいさんは青い顔して、おどおどしていました。
 その様子に、これは本当に大変な怪我なのではないか、と背筋を冷たくしたけれども、お医者さんに連れて行って、ようやくほっとしたのです。

 おまえのお母さんとは、ひょんなことからこういう形になってしまったのだけど、それはすべて私のせいであると思っています。そのためにおまえたちにしなくていい苦労もさせたのではないか、と思います。おまえのお母さんが乳がんだと聞いたとき、なんとも云えない申し訳なさでいっぱいでした。でも、今は元気だということで、とても安心しています。


 その後、下一行分は、ボールペンでぐるぐるにかき消されている。かろうじてなにかが読める気もしたが、それは「実は私も」なのか「実に私の」なのか「実の私の」なのかよく分からない。
 そうして、手紙はさらに続いている。

 水飲み鳥、ずいぶんと懐かしいものを置いていってくれましたね。大人げなく先日水を入れて遊んでみました。あまり古びていないところをみると、五歳のおまえにはやっぱりあまり気に入らなかったようですね。けれども、こうしてまたあの水飲み鳥に出会えた事をうれしく思います。
 今、おまえが持っているだろう青い鳥は、実はおまえがお母さんに連れられて帰ったあとに買った代物です。幸せを運んできてくれるといいですね。お父さんにとってはこの桃色の水飲み鳥の来訪こそが幸せの証です。

 それでは長々となってしまいましたが、くれぐれも体には気をつけて。お母さんを大切に。そしてぜひ、また、おまえさえよければ遊びにきてください。おまえのおばあさんがとても喜んでくれるはずです。


敬具
 二〇〇四 四月十日
黒木真由美様
宮下雄一郎


青色の水飲み鳥を手に取って、流しへ向かう。水を入れ、食卓に置く。上下に首を振るその姿は、十四年前とまったく変わらない。






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最終更新日  2007/03/08 05:55:24 PM
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