Dog photography and Essay

Dog photography and Essay

自然体で自然のままに育てれば良い


「横の糸は私」

「ワンダーフォトライフ」では、
愛犬との散歩の途中で撮影した写真を公開しています。

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昨夜のラジオ深夜便でショパンのピアノ曲
華麗なるポロネーズが流れていた。

しばらくしてアナウンスが流れ、
辻井伸行さん演奏だと言う事が分かった。

辻井伸行さんは、生まれながらにしての全盲で、
母親の辻井いつ子さんは、全盲と告げられても
その事実を受け止められなかった。

どうやって育てあげれば良いのだろうと
悲嘆の苦しみにさいなまれた。

物心がつくようになる頃には、
色をどうやって表現すれば良いか悩み、
外に出てタンポポの花を触らせ、
これは黄色だよと教えても、
黄色がどんな色なのかを教えるのが大変だった。

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全盲だからと特別な事はしなくてよい。
自然体で自然のままに育てれば良いと
全盲の人から指導された。

目の見える母親にとっては実に辛いものだった。
ある日、スタニスラフ・ブーニンが弾いたショパンの
英雄のポロネーズのCDを買って来て聞かせていた。

来る日も来る日も英雄のポロネーズを聞かせていて、
ある日CDが古くなり、音が飛ぶようになった。

そこで、スタニスラフ・ブーニン演奏のポロネーズを
買いに行ったが、同じCDがなく、ポロネーズなら何でもいいと
思い違うピアノ演奏家のポロネーズを買って来て聞かせた。

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ところが、あれ程喜んでいたポロネーズなのに、
喜ぶどころか良い顔をしない。

スタニスラフ・ブーニンしか駄目なのかと思い、
レコード店を探しまわり、やっとスタニスラフ・ブーニンが
演奏するショパンの英雄のポロネーズを手に入れた。

早速息子にそのCDを聞かせた所、
リズムを取りながら満面の笑みを浮かべた。

この子は演奏家を聞き分けられる才能があると、
その時知ったという。

ショパンの英雄のポロネーズは、
ポーランドの貴族の間に伝わる民族舞曲・格調高い
3拍子の音楽で、ショパンの定番中の定番である。

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そして、わずか7歳で全日本盲学生音楽コンクール
器楽部門ピアノの部第1位受賞する。

記憶に新しいのは、2009年にアメリカで開催された
ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した。

日本人として初の優勝である。
更には2009年7月13日、台東区民栄誉章を受章した。

アメリカでの優勝のニュースは、中国でも流れた。
中国人ピアニストと同時優勝したので鮮明に記憶している。

健康で生まれるに越した事は無い。
しかし、全盲と言う障害をもって生まれるが、
悲嘆に苦しみこの世を呪って生きる生き方もあれば、
その子の才能を引き出すために翻弄しながら生きる事もできる。

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とは言え簡単には片付けられない事ではあるが、
私はこの辛い苦しい思いを跳ね除けて、
何かを模索しながら掴み取った母親の強い力を感じ、
涙が止めどなく流れた。

私はその時、息をしているだけで幸せと感じた程だった。
妻は全身麻痺で病院のベッドに横たわっているだけである。

私が入院した時、病院のベッドの硬さに驚き、
腰や背中が痛くなり、不満な思いさえ抱いた。

妻は間もなく4年の歳月の中の殆どをベッドで過ごしている。
何かしてあげれる事は無いものかと考えても考え付かない。

ラジオ深夜便を聞いていて、あふれる感動と
襲ってくるこの虚無感とに、生きている意味とは、
何となく朝が来ればそれで良いのかと自分に問うてみた。

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今日妻の療養する病院へ向かう車の中でも、
その事ばかりを考えていた。

病院へ着いてから看護師に「私に何か出来る事は?」と、
聞いても「ご主人はここへ通ってくる事だけですよ」と言うだけ。

私が「健康に留意し長生きする事しかないかな」と話すと、
「そうですよ、奥さんを残して先に逝かないでね」と露骨な話。

私に出来る事は、妻より後に逝く事かと思いながら車に乗った。
ラジオからは、縦の糸はあなた 横の糸は私織りなす布はの
糸が流れていたが妻の横の糸は止まったまま、
間もなく4年を迎える。

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