碁法の谷の庵にて

碁法の谷の庵にて

 無謀な希望もかない、ちょっと燃え尽き気味な人間のふたまた日記です。
 ブログ主は大学法学部4年のころからこのブログをやってきましたが、大学院を経て現在弁護士となっております。

 旧名「囲碁と法律の雑記帳」ですが、開設500日に題名を変更しております。

 リンクはご自由にどうぞ。

 一般の人たちが細かい法解釈論の勉強をする必要はありません。
 ただ、自分達に納得できない法制度がどうしてあるのか、「どうしても納得できない!」だけではなく、「よーし、納得してやろう」と、自分達の理解力を高めるという方向でも考えて行ってもらいたいと思います。


 記事数が膨大であるため、現在正しくなくなっている記述が放置されている可能性が多々あります。
 その点は注意してお読みください。(ご指摘いただければ訂正を入れます)
2026年03月23日
XML
成年後見について、一部で成年後見人を提訴するという動きが活発化しているようです。






私も弁護士として家庭裁判所から打診を受けて、成年後見案件を何件か持っています。





それについて、正直な感想を申し上げれば

「報酬的に見て全く美味しい案件はかなり例外的。誰かが引き受けなければならない仕事なので プロボノ(公共奉仕活動)として引き受ける

というのが私の感覚です。

おそらく大半の弁護士の先生方もそうではないでしょうか。






成年後見の報酬は、大体1ヶ月につき22000円~66000円です(この金額が法令で決まっているわけではないのですが、裁判所はここからまず動かしません)。
後見報酬を 「取られる側」としてみれば、確かに決して安くない金額だという認識になるのは無理もありません。
私だって、いきなり月々22000円ずーっと払えと言われれば家計を気にしてしまうでしょう。




しかし、 「取る側」の立場からすると実はこの金額はかなり安いと言わざるを得ない のです。




普通、成年後見を受任すると、真っ先に家庭裁判所に提出されている範囲の記録を謄写し、その上で記録を読み込み、どういう方なのか、どういう親族などがいるのかなどの提出書類にある限りの情報を集めて、財産探しをし、申立人と連絡を取って管理下に置き、家裁に報告します。




実はこの財産探しが結構大変です。

そのため、財産の在処などについて正確なことがほとんど分からない場合が多いのです。
家裁に提出されている資料はもちろんそのまま把握できますが、資料自体不足していることもありますし、それ以外にもないかを探す必要があります。


個人的に 最悪なパターンなのに結構多いのがゴミ屋敷案件 です。
家がちょっとゴミ袋持って入ればいいどころでは済まない、中を歩くことすらままならない大量のゴミで埋め尽くされており財産があるかないかさえも分からない。
業者を入れるしかないのにその業者は当然有料。例え弁護士自身が汗をかこうと、ゴミが大量に出るのでゴミの廃棄にもかなりのお金がかかる。
被後見人にも自由にできるお金に限りがあります。

そうすると、裁判所に頭を下げてしばらく放置させてもらい、清掃業者依頼費用に充てられる財産が出てくるまで待つか、清掃に食われる時間との兼ね合いの問題から 自腹を切っている弁護士さえいる (うまく財産が見つかればそこから回収できますが、見つからずに諦めるのも覚悟)と聞きます。


さらに、届いている郵便物を全部開封して、債権者っぽい相手に片っ端から連絡を取り、債権があるのかないのか教えてくださいという事も珍しくありません。


預貯金口座も後見人の管理下に置きますが、これも大変です。

銀行窓口はきちんと成年後見人になっていることを審判書や確定証明などで証明しているのに、 成年後見人をただの代理人と同様に扱ってしまう場合が多い (銀行窓口職員の後見に関する知識のなさはかなり酷いことがあり、自行のマニュアルすら理解していないケースも珍しくない)のです。




「本人の委任状を」と言われて「成年後見の始まっている状況で本人から委任状取ったらその委任状の方が無効だ」



「本人を連れてこい」と言われて「施設で寝たきりの本人を連れてこいというのか」



などと言い返したこと、片手の指では足りません。

「本部に確認しています」「万一があっては…」の連呼で1時間以上待たせて全く手続が進まず、次の所用で離れざるを得ず、1時間全くの無駄になったなんてこともありました。



そして、前記した月々22000円~66000円は、ほぼ完全な月額制となっています。

就任してすぐに発生する上記のような色々な業務がある期間も、そうした業務が一通りカタがつき、後は平坦で面談や定時的な金銭支払だけしていればいい期間も、全て均一なのです。
後見人としては、この平坦な期間の報酬で何とか「全体としてはまあ何とかならなくもない報酬水準」に持っていけているというのが実情
遺産分割や、大型財産処理が絡めば追加報酬が出ますが、これがあれば美味しいか?と言われれば怪しい場合が多いです。



ところが、成年被後見人は、体の具合が悪い方が少なくありません。脳出血を起こして後見が必要になった、なんてケースだと、当座の命の危機は脱していても、もう長くないのです。
選任されて程なく死亡する事も珍しくなく、そうなると、 前記したように財産探しや債権者対応、銀行対応などで忙しくて何十時間も手間を食われる期間も「お前は1ヶ月しか後見人をやっていないのだから、財産探しにどんなに時間かけてても22000円な!!」ということが本当に起きてしまう のです。
家族などが後見そのものに反対していて後見人に敵意を持っていたり、役所などが後見人選任を申し立てたものの、協力が必要な家族が前科者などでガラが悪くて無茶な要求をしてきたり、財産の引渡などに全く協力しなかったり信用がおけず任せにくいケースも珍しくありません。

姥捨状態になっていて親族がいるのに遺体を誰も引き取らないため、後見人が引き取って喪主をせざるを得ないケースもあります(引き取った遺体を腐らせたりすると最悪死体遺棄罪なんて事にも…)。
相続人に財産を渡さなければいけないのですが、相続人がそもそも戸籍を追い回さないと確定しなかったり、借金まみれだったりして相続放棄待ちを余儀なくされる事も珍しくありません。
「相続放棄は面倒くさいが財産を受け取るのも面倒くさい、勝手にやっといて」という相続人がいて手続が詰まってしまうこともあります。


私自身、詳細を延々と憎悪と共に書き連ねたい案件も先日遭遇しました。
特定の危険性が高いので詳細は書きませんが、結論部分だけ書きますと、 事件対応にかけた時間と報酬を時給に直した結果、明らかに最低賃金の3分の1にも届かない報酬額になってしまった のです。
私だって自営業ですし、様々なコストを負担している中で最低賃金の半分以下(最低賃金は大体本人がコスト負担とかをしていないのが前提)というのは、単に「経済的に恵まれない」を通り越して死活問題になりかねません。

しかも、選任された時点で被後見人がいつ死ぬかなどは予想しきれないため、こうした 最低賃金を遙かに下回りかねないとんでもない地雷案件かどうかは「やってみなければ分からない」というのが実情 なのです。




こうした状況下であるため「 後見なんて受任したら、他に差し障りかねないのでできません 」という立場を取る弁護士は決して珍しくありません。
さして問題のない事件なら受けてもいいか、と言う弁護士はそれなりにいると思いますが、 「問題のある事件を引いたときの破壊力が凄まじく、かつ予測困難」 というのが致命的なのです。

一部の後見団体が「家裁の審判が出ていても後見報酬を勝手にさっ引くなんて違法だ」ということで訴訟提起を呼びかけているようですが、家庭裁判所から審判で認められた雀の涙のような報酬についてさえも「返せ」等と提訴されるのが常態化するなら、 多くの専門職は後見から逃散します。
私だって、先述したような最低賃金の数分の1と言うような案件しか来ない上、返還訴訟なども起こされるなら、間違いなく後見案件を全面的に切るし、そういう案件でも後見人確保ができなくなるので受任義務などということになれば、 最悪弁護士登録を放り出すのを視野に入れる でしょう。






後見案件は、実は後見人側から見ればこんな実情の下で回っているのです。

雑誌などの記事では後見人に対する悪口めいた記事がかなり出回っているという印象があります(きちんと数えてはいません)が、こういった後見人側の立場はあまり強調されていないのが実態だと思います。




銀行がいきなり「預金者が認知症になったから」という理由で口座を凍結してしまって、後見をつけないと本人の生活費まで家族でもたざるをえなかったり、遺産分割協議などが進めようがない状態になってしまうため、仕方なく後見をつける。
結果として、必要性の乏しく、家族などで十分対応できたことまで後見人が口を出してきて鬱陶しく、その上報酬まで吸い上げられてしまう。
選任された後見人としても被後見人の財産の全てを管理するという立場と責任があることから、財産の使い方には口を出さざるを得ないし、責任があることから財産運用についても防衛的で融通の利かない態度を取らざるをえない。

結果、後見人と被後見人や親族が対立関係になってしまう。
後見人は安報酬で胃の痛む案件を抱え込む。
被後見人や親族は財産を柔軟に使えず、必要性の乏しい後見に報酬を払い続けないと行けない。
そう言った誰1人得をしない事態がこれまでの後見制度で起きてきたことは否定できないでしょう。
好意的に解釈するなら、前記したような後見団体の訴訟も、そうした不満の噴出と取れなくはありません。




ただ、これらは法制度上後見人や家庭裁判所が置かれている立場や権限などに由来するところも多く、後見人にもどうしようもない、 制度の欠陥について後見人に当たり散らされても困る のです。



先述した、後見人に対する悪口・告発めいた雑誌などの記事は目を通すのですが、読む度に




「家族の立場としてはそう思うのは分かるんだよなぁ」



「もし自分が後見人や家庭裁判所だったら、同じ対応を取る可能性はかなり高いよなぁ」



と両方の立場が分かるケースが多く、やるせない気持ちにもなりますし、平穏無事に終わった後見案件での家族の協力には感謝しても仕切れないです。






現在、後見制度全般の制度見直しが進められています。

これまで、成年後見は一度つけたら、能力が回復しない限り終身つけっぱなしであることが前提とされてきました。

家庭裁判所でさえ、被後見人の能力回復以外では後見を取りやめることができません。

これを改正し、 能力が回復しなくても、遺産分割や不動産処分など特に専門職が必要な仕事が終わり次第後見を取りやめる事を可能にする などの仕組みを作ることを検討していると言うことです。


とは言え、 銀行など、取引相手の実務対応 (後見人を常に要求する運用が変わらなければ解任できない)や、 専門職の報酬の確保 (平穏な時期がなくなり労力の大きい時期だけが残るため、これまで通りの報酬体系では専門職がもっと干上がる)などなど、考えなければいけない問題は山積みであり、どのような形で改正が具体化されるのかは私自身も注視しているところです。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2026年03月23日 14時00分25秒
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: