3-2 Clean As You Go ここまで論じてくる中で、政策の設計・実施・評価はそれぞれ時系列的に進行するものだとの前提を暗黙のうちに認めてきた。しかし「ゴミ缶モデル」学派の理解に従えば、政策過程における認識や決定機会はすべて渾然としているし、「政策の窓」が開くようなことがなければ劇的な変化を促すことができない。そうした指摘はそれなりに現実的な政策状況の描写といえるが、同時に、ここまで論じてきたように多くの政策は大きな課題というよりも日常的なものであって、政策の窓が開かなくとも充分に改善は可能なものが多い。そうであるならば、評価それ自体がルーティン業務のサイクルに埋め込まれていることが望ましい。また、このような微細な「日常的反省review」が情報として後日活用可能なように整備されていて初めて、公式的な評価段階における情報の蓄積が期待できるし、そうした蓄積が存在してこそ厚みのある事後的政策分析が可能となる。 品質改善の過程において特に優れた手法とみなされているトヨタ社の「カイゼン運動」は、工程の中に種々の改善を埋め込まれていなければならないといわれる。また、そもそも日本の生産現場においては品質のチェックが工程の中に存在しているのが一般的であり、それが不良品発生率を劇的に低下させている(注17) 。このような製造現場における(T)QCまたはZD手法を政策過程にアナロジカルに再現するならば、政策の立案に付随する業務を遂行すること自体が不断の政策改善となっていることが必要である。改善をするためには合目的性から判断して最短かつ最少コストで同一工程を実施しなければならない。そのときには当然、政策のゴールである目的を念頭に浮かべるし、またコスト構造がどうなっているのかについて不断に意識していることになる。すなわち、公共政策におけるカイゼンとしての評価は、目前の課題に着手している職員に対してより広い視野を構造的に提供する仕組みだといえる。政策評価における有効性を達成するためには、上位目的からのブレイクダウンの結果として個々の事業(=構成要素)が成立していなければならないし、同時に構成要素の達成が上位の目的を達成するかどうかが問われる。工程において分析を「練りこむ」というのは、上位目的を常に意識しながらこうした「目的=手段」連関の思考的往復運動を行うことに他ならない。 藤本隆宏は情報が組織内部で伝達されていく過程を次のように描いた。製品は、商品をめぐる競争が開かれているか(オープン)否か(クローズド)、またその設計が開かれているか(モジュラー型)否か(インテグラル型)によって四セルからなるカテゴリーに分類され、日本が競争力を発揮した自動車産業は競争が開かれていて設計に繊細な調整を必要とするオープン・インテグラル型であったと指摘する。藤本の用語に従えば、設計情報転写の過程である製造工程において、組織学習メカニズムが深く組み込まれた日本の自動車産業は「深層の競争力」を有していた、となる(注18) 。藤本はこのことを平易に言い換えて、「ルーティンの束という言い方からも分かるように、いろいろなルーティンの組み合わせであって、実は非常に複雑に入り組ん
3-3 評価の諸視点 これまでの分析によって、以下の仮説が得られた。 a) 評価システムは他のサブシステムと統合すれば、比較的軽微な経営資源で大きな改善効果が得られる。 b) 評価システムの記載を簡便にすることで、目標と手段のリンクに視点を特化できる。 c) 評価システムは工程に組み込まれていれば早期に徹底した改善を生む そこで、具体的な評価はどのような構成要素で、言い換えるとどのようなサブシステムの支援によって構築されるべきか論じるため、評価の視点を以下に述べる。 評価制度によって改善されるべき行政課題(ないしは行政の劣化)は、自治体ごとに違っているのであるが、大きく言えば(1)財政状況の改善(2)人的資源の効果的配分(3)目的の妥当性(4)協働の可能性であろう。このうち前二者が経営的視点、後二者が政治的視点である。評価システムではこれら四点を重視する局面が一般的である。 財政状況の改善にあたっては、効率性(出力単位増分に対する費用増)および経済性(歳出の絶対額そのものを減少させること)の観点が重要であるが、2-2で述べたように事業別予算制度を導入しプロジェクトベースで歳出管理を行わないと、行政活動と投入資源の比率である効率性指標に了解可能な意味を見出すことができない。。こうした歳出管理にほぼ対応する形で成果の指標を設定すれば、ルーティン業務の着実な前進(または怠業)が指標の高低に連動し、受益者である市民ないし執行者である職員にとって「皮膚感覚」と隔たった評価制度になることはない。また、いわゆる枠予算制度を大幅導入することによって、現場において得られた情報を最大限反映しつつ財政規律を維持した政策展開が期待できるであろう。 人的資源の効果的配分を達成するためには、サブシステムとしての人事考課とある程度連動しなければならない。ただし評価を人事考課と直結するのではなく、政策事業の推移を評価によって分析する際に事業執行にかかわった職員の貢献度を評価書からある程度推測できる形にしておくことで、自己評価の緊張感を高めると同時に恣意的な人事の可能性をさらに廃し、また3-2でも述べた組織メモリーの保持が期待できる。