沖縄自治研究会

沖縄自治研究会

ドイツ連邦制 カナダ連邦制


 少なくとも30分ぐらいは、質疑応答の時間を設けたいというふうに思います。
 カナダの連邦制とドイツの連邦制、今続けざまにお話をしていただいたんですが、基本的に同じフレームワークで比較をやるという形でなくて、それぞれにお話をしてもらったので、完全な簡単な比較はできなかったんですけれども、それでもかなり大きな違いがあるなということはわかったんじゃないかなと思います。
 それで、皆さんいろいろ質問があったと思いますので、どうでしょうか。わからない点に関する質問、最初にやりましょうね。


○江上能義  最初に沖縄グループから質問したら。


○佐藤学  簡単な質問です。ブレーメンは何で、この小さい市なのに、そういう都市権を獲得したのでしょうか。どのような事情だったのでしょうか。


○片木淳  これは、ハンザ同盟の伝統だと言うんですよ。もう理由は歴史的理由なんです。


○江上能義  ハンザ同盟って随分昔のものでしょう?


○片木淳  そうそう。あれは最後何年でしたか。つい最近ということじゃないですけれども。それで、ハンブルグとブレーメンはハンザ同盟のだから、66万人という人口は非常に少なくて、例えばケルンは100万近くとか、ミュンヘンは130万ぐらいですか。大きいところは結構あるんですよ。たくさん。60万って言ったら、デュッセルドルフも60万ぐらいありますし。かなり多いんですが、ほかに認められてないです。

 それはだから歴史的伝統で、だから、嫌というときには、いや、俺を入れてくれないなら俺はもう離れるよということじゃないでしょうかね。独立すると。ヨーロッパの力関係の中でどんなことになるかわからないと。だから、まあまあ3票あげますからと。


○佐藤学  他は何でしないんですか。例えばフランクフルト等の大きな街は、そういう要求はできないわけですか。ブレーメンというのは、ずっと一貫してそういう例外的な都市であるということですね。


○片木淳  何か、そこがちょっと合理的思考法ではないと思うんだけれども。


○島袋純  あれじゃないですか。王が認めた自治都市ってありますよね。


○片木淳  そう。伝統の自治都市とか、そういう伝統の。


○島袋純  ハンブルグって、確かそうだったですよね。国王が自治都市として認めて。


○片木淳  ただ、自治都市というのはほかにもありますよね、ドイツの。あるんじゃないですかね。アウグスブルクとかね。ミュンヘンだって何かあるんじゃないですかね。

 それとは別に、ハンザ同盟都市の伝統ですね。一つリューベックといってこれハンザの女王という街があるんですよ。もちろん今でもある北東のほうですけどね。それは66万なくて25万かそれぐらいですね。ハンザの女王だったので、何で入ってないんだと。私、そこの市役所に一遍手紙出して聞いたことあります。

 そしたら、戦後のときにあまりにも規模が小さくなって、独立州として、国家としての都市州としてのいろいろな任務を果たせない恐れが出てきたので、もうそれを我々はしましたと。そういう答えが返ってきたことありますけどね。だから、本当はリューベックというところはここは力さえあれば独立国家で。

 ブレーメンが3票を持っているというのは非常に重くて、参議院がこれだけ権限ありますよね。議長は持ち回りなんですよ。毎年1年で変わるんですね。3票しか持ってないけど、ブレーメンに回ってきますね。そうすると、何かあったときに非常に大きな権限を持つんですね。そのブレーメンの市長というか州首相というか、同じですからね。だから、相当おもしろい発想で。

 ただ、私もそれ以上の詳しい経緯はあまりわからないところあるんですよね。


○江上能義  私も質問していいですか。
 単刀直入にこの趣旨でお聞きしますけれども、やはり北海道が道州制に関連してやっていますよね。でもなかなか難しいみたいですね、中央省庁からいろいろな反対されて。


○片木淳  それもあるし、ちょっとよくわからないんですけれども、道庁から出している案がちょっと何か事務的な感じがしますよね。あんまり連邦制とか道州制をにらんだような、国とけんかして権限でもとってこようかという迫力に欠ける感じがしますね。


○江上能義  本当に道州制をやるんだったら、独立するぐらいの気持ちがないと駄目ですね。


○片木淳  ないと駄目なんです。だから、今度は琉球王国に。


○江上能義  ところが、琉球王国は現実的に非常にだらしないですよ、今。保守県政であるせいでもありますけどね。保守県政は中央とくっついていたほうがお金がたくさんもらえますからね。それは現実であります。経済界もどちらかといえば九州か東京かと一緒になって、パイが小さいから大きいところと一緒になりたいような、そういう意向が強い。第三者から見ると、それこそ琉球王国こそと思うんですけれども、現実の沖縄は全く逆なんですよね。むしろ、非常にネガティブなんですよ。


○片木淳  それは、無理ないところもあると思いますけどね。経済のことを考えるとそうなんですよね。


○江上能義  そうなんですよ。しかし、それでいいのかという見方が、この自治研究会の一つの論点になっているのも事実です。

 カナダの連邦制とドイツの連邦制に非常に詳しい、また日本の地方自治制度にも詳しい報告者のお二人から、沖縄はこれからどうあるべきかという点について、忌憚のないご意見をひとつお伺いしたい。


○片木淳  ちょっと、あんまりそこまでじっくり考えたことないんですけどね。


○江上能義  感想でいいです。


○片木淳 答えがちょっと違うようになりますけど。
 前から私、時々申し上げたりしているのは、私、高知県に働いていたこともあるんですけど、前に大前研一が「四国独立論」という。四国は人口は400万人ほどですかね。それで、スイスと比べて700万のスイスの、あそこも連邦国家と。スイスは資源もなくてそんなに大して、ほとんど山岳地帯だし厳しいところなんだけど、世界で一人当たりの国民所得が1位と、やっているじゃないかと。銀行業と精密機械、そういう努力のたまものなんですけれども、分権国家であることが関係していると。何よりも、一国は独立してますよね。

 それで、四国独立と。そのときに通貨も円でトヨタの輸出力で円高になっているそのデメリットを四国の農業関係が受けていると、円高の。だから独立して独自通貨だったらもっとよかったんじゃないかというような論調が、もうだいぶ前ですけれども、20年ぐらい前に文芸春秋に出たことありますよ。

 そのときは、ちょっと都市は地方に搾取されているような書き方したもんだから、かなり怒ったんですよね。地方の知事らも交付税なんかの話で。そんな面倒見るなというふうに。貧乏でもやっていけと。地域のために。そういう議論があったんですよ。

 だから、これ議論しにくいんですけれども、例えば沖縄も本当にやったほうがいいのか、今のまま何か交付税とか沖縄が特定の補助金とか、安易なものでやったほうがいいのか、これ非常に難しいですね。金額がすごい差があるから、それを今金額全部いらないというと、これまた大変なことになるでしょうから、だからそこをどうするか。


○江上能義  このままずっともらい続けられればいいけれども、今の中央政府の財政状況からいって、このままもらえるかどうかおぼつかないという問題もあるでしょう。


○片木淳  そうそう。江上先生が日頃おっしゃっているように、今までなんぼ出してきたと。それが全然実ってないじゃないかと。


○江上能義  全然とは言いませんけど、あまり実ってこなかった。


○片木淳  あまり実ってないみたいだから、そういう効果が出てないということで、しかも依存心というのが出てきて、自分で工夫して何かやろうという気概がなくなった。


○江上能義  それは最大の成果ですよ。沖縄に依存心ができた。以前はそれほどなかった。


○片木淳  もうほかでもそうですよ。北海道も。


○江上能義  北海道でもどこでもそうですよね。全国的に。だから、そういう意味では沖縄は本土並みになっちゃった、依存心が強くなって。


○片木淳  だから、そこをどう考えるか。難しい問題で。そこを放り出してしまって。


○島袋純  ちょっとよろしいですか。 
 ドイツの一番連邦制の特徴は共同税の仕組みだと思うんですが、これが70%以上を超えて。それで、ここで水平的な財政調整をやるし、それから直接税ありますよね。そういう共同税の仕組みが一番の特徴ではないかなと。しかも、僕はこれが成功の原因ではないかなという気がして。

 それで、今経済界が主流になって考えている道州制をもし導入するとしたら、恐らく共同税方式ではないだろうというイメージをしているんですけど。

 ここで、例えば実際にブレーメンという街がありますよね。それが、この共同税というこの仕組みの中に入っていくときに、自分たちからどれだけ国税としての共同税、州税と一緒になっているんですけど、取り上げられて逆に共同税なんかどれだけもらっているのかという。

 そこを、もし本当にドイツ型の共同税の方式を日本でも導入したほうがいいとするならば、沖縄から持ち出してくる共同税の部分と、それから共同税のプールの中から沖縄がもらってくる分、共通性の方式をどうにかうまくやれば、実をいうと財源の手当を考えた道州制が導入できないかというのがあるんですよ。

 ですから、実際にブレーメンがどれだけ出してて、あるいはどれだけもらっているのかというところですね。


○片木淳    ちょっと、私も細かいところまでは正確ではないかもしれませんが、消費税は人口按分で分けると。 

 さっき言ったように、まず共同税をどう分けるか、それからその後分けた後、今度は財政力格差があるのを水平的に各州間、横の財政調整をどうするか。そして、最後にそれでも足りないから連邦が90何%とかでやるとか、3段階ですね。

 この最初の共同税の分かれるのは、地域収入なんですよ。売上税は人口配分ですけれども、所得税と法人税は地域でどこの税務署で上がったかによって、そこに入るとか。この全体が何%だと決まっていますからね。40:40でなんぼで分けると。そういう分け方をしていると聞いていますね。


○島袋純  そうですか。じゃもう税収で比例する。


○片木淳  そうそう。具体的には、大勢は地域帰属主義みたいな感じで。だから、売上税は確か人口比例だと。これには少し書いてあったと。


○島袋純  ということは、厳しくなるということですね。共同税方式を応用しても。


○片木淳  それで後の水平的財政調整の話は、これは今回の交付税でもう相当去年の例の地方分権改革推進会議がちょろっと出して、もうみんなから袋だたきに、私も袋だたきしましたからね。早稲田ネットで出しましたけど。今でも見られますけど。

 そのときは、16州だから横にできているんですけど、日本で47都道府県、47のままだとしてそんな……。とりあえず、そのとき共同税という言い方しているんですよ。共同税システムを導入して、交付税のうちの一部分は横に分けて中央省庁を通さないやり方ができるんじゃないかと。

 ただ、そのときは何かかなり技術的に難しい議論もありましたね。47にもなると、横に渡す計算をどうするかというので、ちょっとややこしいようですけどね。

 だから、ちょっとそこを分けて考えたほうがいいと思いますね。いずれにしても、みんなが納得する税の帰属をまずはしないといけませんから。沖縄が、常識的に東京に入るべきですかなというやつを持ってこいというと、また同じ交付税みたいに議論になるので、依存心という話にもまたなる。


○佐藤学   先ほど新財政調整法が2005年1月から施行されているというお話がありました。これで調整原理の導入とか調整を制限するとか。これは、要するに日本にも行われているようなモラルハザードを起こしているという議論があるわけですね。


○片木淳   そうです。それと出すほうが、何でそんな手取り足取り90何%のところまで全部持たないといけないのかといって、出すほうが厳しくなっているもんですから、わーっと文句言ったんですね。だから、それはちょっとなだめるというか。


○佐藤学   こちらのグラフにあるように、少数の工業地帯ですよね。要するに、日本での、東京から地方へと同じことなんですね。


○片木淳  同じなんだけど、それは中央政府を介さない横に渡すという形になっているもんですから、ちょっと注目されているというところです。強調されてますね。


○島袋純  あと2~3ぐらいドイツの質問で、その次はまたカナダに移りましょうね。質問は、ドイツのほうに対して。

 あと、最後にお互いにということで、恐らくお互いの連邦主義の特徴で気づいた点があるかなと思います、意見、   先生。


○  私もちょっと共同税のことを伺いたかったので、そういうあれがあったので。あと、連邦政府云々ということで別のあれがあって、路線がちょっと違うと。


○江上能義  ドイツは、戦前は中央集権体制が極めて強かったところですよね。


○片木淳  ヒトラー時代はね。


○江上能義  それがいま、まったく分権化した理由は何でしょうか。


○片木淳  ただ、やはり歴史的には1871年のドイツ帝国のときに、ビスマルクがバイエルンやらをなだめて連邦国家をつくったんですね。


○江上能義  だから、そういう意味では連邦制の伝統はあるんですね。


○片木淳  はい。


○江上能義  ヒトラー時代というのは、例外と言っていいということですね。


○片木淳  はい。ワイマール憲法ができたときに民主主義の原理だから、何も分権しなくていいじゃないかと。中央が民主主義なんだからと言ってたら、ヒトラーが出てなっちゃたんで、戦後、各占領軍が来て、共通認識はヒトラーを二度と出現させないためには、中央集権では危なくていけないと。


○江上能義 徹底して分権化した。やっぱりその点では日本と完全に違いますか。


○片木淳  だから、日本の憲法の自治とそこは一緒でしょう。民主主義と。


○江上能義  やはり日本は中央集権体制が強い。


○  そうすると、そういう長い意味で関係があると思うんですけれども。
 東西に統一のところで、西の基本的な枠組み、それを東と一緒になったときのそこのところでの何かはないんですか。


○片木淳  やっぱり東は計画経済で中央集権でずっときてますから、だから、もう張り合っているときから向こうの体制は悪いということになったときに、じゃ、やっぱりもとの伝統に戻って新州を五つつくろうという。

 州の範囲自体はなかったらしいですね。今度つくったらしいんですね。だけど、そういう権力の分立的、自由主義的発想で、当然、連邦国家にすると。


○  その前に、枠組みとしてはそうつくった。そこのところの実質的なところというのは、それなりにはすんなりとはいかないでしょうけれども、それほど大きな問題は起きなかった?


○片木淳  ないと思いますね。
 ただ、今一番問題は、向こうの経済状態がすごい格差ありますから、手取り足取りお金を相当西から東へつぎ込まないとまともにというか育っていかないわけで、今そこの苦しみにあるということですよね。
 だから、各5州がちゃんと自立するように金も渡すし、これですね。


○江上能義  西の州は、相当不満があるんですか。


○片木淳  だんだん出てきますね。


○江上能義  そうですよね。なぜ東にそんなにつぎこむのかという感じでね。


○  周りの足を引っ張っていると。


○  税金も銀行税か。連帯制。


○  連帯5課税ですか。


○  そうしますと、連邦参議院があって二つの連邦会議が    でしょうけど、連邦参議院自体に期待しているまとまりというのがどうなっているんでしょうね。
 要するに、そういう州間の格差だとか、東ドイツとか。


○片木淳  まとまらないから、あとはもう多数決で打ち出すんですね。今、さっきも述べたように、連邦参議院の野党派側が多数占めていますから、そっちでまとまってくると。
 だから、シュレーダーが出すやつを、ことあるごとにいじめにかかって通さないという状況ですね。


○島袋純  基本的に、左翼が分権派で、右翼というか保守党は集権派というのは大体のパターンですよね。ヨーロッパの大体のパターンだと思うんですけど、どんなですかね。


○片木淳  ドイツは違いますかね。ドイツはどうもやっぱり州の関係政治家は分権派なのではないでしょうか。だから利害が一致することもあるらしいですよ。よくわからないですけれども。
 結局、地方分権は、各州優先派の首相が出てくることがある。だから、場合によっては、党派の主張の違いを超えて分権でまとまる動きがあると、こう聞いています。


○島袋純  クロスボーディングされているわけですか。


○片木淳  だから、政党政治でにっちもさっちもというか、議会の議論なんかあんまり活発でないということに、政党政治だけだとなりがちですので、政党の中で議論すればいいので、あとは多数で通せばいいという議論ですけれども、ドイツでは連邦の分権的な価値観がもう一方で横に残っているので、議論が活発になっておもしろくて議会も活性化するというふうに言われていますね。


○島袋純  おもしろいですね。
 では、時間もそろそろないので、今度はカナダについての質問に移っていいですか。
 カナダについての質問をお願いしたいんですが。


○江上能義  いま沖縄では道州制の論議が出てきています。復帰前にもちょっと道州制と類似した沖縄自治州論の主張が登場したんですが、ほとんど顧みられることがなかった。なぜかというと、沖縄は差別された歴史があるから、「本土並み」返還の大前提の前にかき消されました。こうした沖縄の経緯についてどう思われますか。


○吉田健正  沖縄の人間として、沖縄自治州論については心情的には分かりますが、現実論となると非常に難しいと思います。

 カナダの場合、大西洋沿岸に『赤毛のアン』で知られるプリンス・エドワード・アイランドというところがあります。カナダの10ある州のひとつで、全人口約3千万のうちそこに住んでいるのはわずか13万8,000人です。そこには州政府(provincial government)があり、行政は首相とその内閣が担当しています。プリンス・エドワード・アイランド州政府はカナダの他の州と同じく、日本の自治体よりはるかに大きな権限をもっていて、州政府や州首相はほかの州首相と肩を並べて連邦政府と権限についての議論をやったりします。極小州といえどもリーダーは首相(premier)ですから、日本を訪問して内閣総理大臣に会いたい、と申し込むことがありました。日本政府は相手にしませんでしたが。

 あるいは、やはり大西洋側にあるニューファンドランド州の場合、人口は54万人です。沿海はかつて世界的な漁場でしたが、乱獲の結果、漁業は成り立たない。鉱物資源や海底石油の開発は行われているものの、経済はうまくいかず、どうしても連邦政府の平衡交付金に依存しなければ財政的にやっていけず、かなり過疎化が進んでいます。

 カナダの場合、中央から離れたこれほど小さい州でも何とかやっていけるのは、さきほど申し上げた歴史的背景によって連邦制度が成立したからです。カナダは、結成の段階から、連邦権限と州権限といういわば一国二制度になっていて、州の独自性や自立性が大幅に認められている一方で、財政的に苦しい州に対しては連邦政府が平衡交付金などによってできるだけ州間の格差是正を図っている。しかし、日本がはたして中央集権国家から連邦制に移行して地方分権化ができるのか、あるいは日本が道州制に移行したとしても琉球がプリンス・エドワード島やニューファンドランドのようにやっていけるのか、現実的にはかなり難しいのではないか、といいう気がしますよ。日本ももっと分権化すればいい、沖縄の自治権も拡大すればいいとは心情的に思いますが、それによって沖縄はやっていけるのか、私にはよく分かりません。


○江上能義  分権化の動きはあるんですけどね。なかなか具体的に分権化の動きが現実のものになっていかないですね。そういう話は沖縄だけではないですね。


○島袋純  質問をお願いしたいんですけど。
 僕が習った連邦制の中で、通常、基本的に構成国家と言われている州がすべて原則的に主権を持っていると。だから、憲法上規定されていない場合は、大体州の権限になるというのが。

 ドイツもそうですし、アメリカもそうなんですよね。残存権ということがあって、カナダの連邦制、82年以前だと思うんですけれども、それがもし決まってないのがあれば連邦をやるということですよね。


○吉田健正  カナダの場合、残存権は基本的に連邦政府に属することになります。


○島袋純  それが、連邦主義ということで言えば初めて聞いた話だったので、あれっと思ったんですよ。


○吉田健正  これには、1867年の連邦結成に至るまでの歴史的背景があります。その直前に米国で南北戦争が起こりました。カナダの連邦化構想を議論していたカナダの指導者にとって、南北戦争の原因のひとつは米国憲法が州に残存権を与えていたことでした。州の権限が大き過ぎたゆえに国家を分裂させる南北戦争が起こった、と考えたわけです。そこで連邦結成の立役者だったジョン・A・マクドナルドなどは、米国憲法を反面教師として、連邦政府に残存権を与えることにした。もうひとつ、彼らの頭にはイギリスの中央集権的な政治制度がモデルとしてあった、という背景があります。マクドナルドの発言を読みますと、彼は中央集権主義者だったが、フランス系カナダ人指導者の要求など、当時の英国領北アメリカの状況に妥協して、中央集権度を弱めたということが分かります。

 いずれにせよ、その後、例えば電波だとか海底資源の開発だとか、当時は予測しなかったさまざまな事項は連邦権限に入れられました。


○島袋純  現在は、それは82年憲法ではどうだったんですか。


○吉田健正  この点に関しては、82年憲法では特に変更はありませんでした。「権利と自由の憲章」が憲法化され、あるいは公用語や先住民権や地域格差是正が憲法に明記されたという意味では連邦権限が強化されたと言えるかも知れません。一方、天然資源への課税については州が連邦政府と権限を共有する、また連邦政府も州も憲法の一部からの拘束を離脱できることが規定されました。しかし、これらを除くと、連邦制度そのものに基本的な変更はありませんでした。憲法改正についても、州には州権に関する権限が与えられましたが、国家全体、あるいは複数の州にまたがる事項に関しては、連邦議会とすべての州、あるいは連邦政府と関係する州の合意がなければ改正できません。共有権限については、連邦政府が優先権を持つ、ということに変わりはありません。

 ただし、憲法がすべてというわけではなく、先ほど申し上げた連邦・州首相会議などの連邦政府と州政府の間の協議調整メカニズムを通じて、州がまとまって連邦政府に注文をつけ、行政レベルで州の意向を認めさせるということはあります。つまり柔軟に対応できる。州首相たちが日本で言うところの知事会議のようなものを開いてたとえばヘルスケアのあり方について意見をまとめ、それを連邦政府につきつけることもあれば、ケベック州政府のように独自に社会保障プログラムをもちたいということで連邦政府と特別協定を結ぶ場合もあります。その場合、他の州も同じように独自のプログラムを実施したいということで、別に協定を結ぶという状況になることもあります。ただし、多くの場合、財布のヒモを握っている連邦政府の方が立場は有利です。また、州政府が連邦政府の権限分野に口出しすることはできません。

 ここで、先ほど申し上げたカナダの連邦制の非対称性について一言説明しておきたいと思います。カナダは10州と3準州から成るわけですが、それぞれ面積も人口も資源も地理的特性かなり異なる。たとえばオンタリオ州は、百万平方キロ(国土の10分の1強)の面積に、ほとんどありとあらゆる資源をもち、米国市場に近く、カナダのなかでは比較的温暖で、人口もほぼ3分の1を占めています。人口が3分の1ですから、連邦下院にもそれに比例して3分の1の議席(2001年の時点で301議席中103議席)を握っている。人口が二番目に多い隣のケベック州は75議席。合計しますと、全体の過半数になります。ですから、利害が一致すれば、この2州だけで連邦政府を動かすことができる。そのために、ほかの地域は連邦政府に対して疎外感を持ってしまう。


○島袋純  これは下院?


○吉田健正  これは下院です。上院は地域ごとに分かれていて、オンタリオが24議席、ケベックが24議席、連邦結成と同時または直後に連邦に加わった大西洋側の小さい3つの州が24議席を配分されています。


○島袋純  それぞれでですか。


○吉田健正 それぞれ6議席、合計で24議席です。西部の4州が合計で24議席。そして1949年に連邦入りしたニューファンドランドに6議席、それから3つの準州にそれぞれ1議席が配当され、合計105人ということになります。

 ところがニューファンドランドなどの人口は減少する一方で、ブリティッシュ・コロンビア州だとかアルバータ州などは国内外からの移住者が多く人口はどんどん増えている。それに合わせて下院議席は変動するわけですが、上院の割り当て議席数は動かない。

 本来、下院議員は州益あるいは選挙区益、上院議員はそれより大きな地域益だとか国益を考えるものとして位置づけられていました。議席が地域配分になっているのはそのためです。ところが、上院議員も結局は自分たちの出身州の利益を優先的に考える。そうすると、国益を考えるのは連邦政府ということになりますが、その連邦議会が実質的にオンタリオとケベックによって支配されている。そのために、他の州では連邦政府やオンタリオ州やケベック州に不満を抱く。そういう構造になっているわけです。


○島袋純  上院の選出方法は、アメリカ的な上院、任命制ですよね。


○吉田健正  はい。


○島袋純  州の政府による任命制?


○吉田健正  州は人選に参加することを要求しているのですが、現在はすべて連邦政府の首相に人事権があります。


○島袋純  さっき言った前のやり方と同じなんですか。そうなんですか。


○吉田健正  先ほど申し上げたように、空席ができたら新たに任命するわけです。州の希望としては、まず州が候補者名簿をつくって、その中から選んで欲しい。しかし、それだと、上院議員が事実上、州政府の代表者ということになるので、連邦政府としては同意しがたい。いずれにせよ、カナダの上院は憲法上下院と基本的に同等の権限を与えられているにもかかわらず、任命制で、しかも首相が下院選挙で落選した人や旧友や党への貢献者を任命することが多く、また州によって議席配分に対する不満もあるので、日本の参議院よりはるかに改革論や不要論が強いです。
(テープ1本目 B面終了)


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