2024年1月8日 東京芸術劇場 新交響楽団第264回演奏会
指揮 寺岡清高
シュレーカー あるドラマへの前奏曲
マーラー 交響曲第10番 クック版第3稿
マーラー10番全曲を聴くのはかなり久しぶりです。第一楽章単独はたまに演奏されるけど、自分としては、第一楽章だけ聴いて終わってしまうと、解決されない「もやもや感」がたまってしまいます。この曲は最後まで聴いた時に大きなカタルシスが得られるので、やはり全曲を聴きたいです。けれど、全曲演奏会は少ないし、たまにあっても、自分の体調不良やスケジュールの都合で聴けなかったことも多いです。自分のブログで調べてみたら、2010年1月に聴いたのが最後だったので、なんと今回14年ぶりになります。
プログラム前半は、シュレーカー作曲「あるドラマへの前奏曲」。初めて聴く曲です。解説によると、「烙印を押された人々」というオペラ(1913~1915年)の前奏曲的な内容の曲で、オペラに先立って1913年に作曲され、1914年に初演されたということです。
曲は、ざわめくような弦の上に、チェレスタ、ハープ、ピアノなどが醸し出す不思議な雰囲気で始まり、何かハリーポッターのような魔法の世界に引き込まれる感じです。なかなかに素敵で、聴いているうちに少々眠気を生じて(すみません、、)まどろみつつ不思議な夢を見ているような、ときに多少目覚めたり、という感じで、気持ちよい時間を過ごしていました。そうして聴いていたところ、最後近くにヴィオラやオーボエ他がひそやかに美しく、短7度上昇音型(移動ドで歌うと「ソーファーーー」です)を奏で始め、「ソーファーーー、ソーファーーー、ソーファーーー」と3回繰り返され、まもなく静かに曲が終わりました。
僕はこの部分に非常に驚いて、眠気が吹っ飛び、完全に覚醒してしまいました。というのは、この短7度上昇音型の3回繰り返しが、マーラー10番の終楽章の重要な部分とすごく似ていたんです。10番終楽章最初の方、例の大太鼓が数回打たれたあと、フルートがソロで、美しくもわびしい、短7度上昇音型で始まる長いメロディを吹きます。吉松隆さんが「マーラーの書いたもっとも美しいメロディの一つ」と仰っています。そしてこのフルートに先立って、ホルンが同じ短7度上昇音型を2回吹き、引き続きフルートのメロディが始まるので、都合3回、短7度上昇音型が繰り返されます。「ソーファーーー、ソーファーーー、ソーファーーー」
シュレーカーの曲には、マーラー10番の重要な部分とかなり似た雰囲気を持つ印象的な場面が最後に用意されていたわけです。マーラー10番に先立って演奏する曲として、これほどふさわしい曲はちょっと他にないのではないでしょうか。指揮の寺岡さんあるいはオケがその意図を込めて選曲したのだとしたら、すごいことだ、と思いました。
休憩のあと、10番の全曲演奏は、ややゆっくりとした歩みで、素晴らしいものでした。オケもみな立派で、私的には特にトランペット首席さんが柔らかく温かく、かつ芯がある音で、ノーミスで吹き切ったのが見事と思いました。久しぶりの10番全曲聴体験に、感銘を受けました。
この日のコンサートでとても印象に残った、短7度上昇音型について詳しくは、次の記事に書こうと思います。
佐伯正則&ESMT祝祭管弦楽団のマーラー3番… 2024.04.29
マーラー10番とシュレーカーの短7度上昇… 2024.01.27 コメント(7)
ネルソンス&ボストン響のマーラー6番を聴… 2022.11.14 コメント(37)
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