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2008.03.29
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カテゴリ: let me sleep beside you
私は、目を閉じていた。頭の中はぼんやりと靄がかかったようで自分でもコントロールできない。勝手に記憶が巻き戻っていく。それは何度も反芻などしたくないはずの、今日の記憶。

今朝、早く、枕元に置いた携帯が鳴った。まだ暗くて、大学入学前という、人生でおそらく一番のんびりするはずの春休み期間の私は、もちろん、ぐっすり眠り込んでいた。それでもすぐに反応したのは、それが、紘人からの着信音だったから。
(あ~、ヒロトぉ。。?なにぃ。。もう、まだ眠いのに。。)
と思いながら、目を閉じたまま、携帯を探すために、頭の上に手を伸ばす。何度か空振りをした後、やっと携帯を探り当て、開いて耳にあてる。
「ふぁい。もしもし~?」
寝起きで、まるで自分の声じゃないみたいにかすれている。電話の向こうは、沈黙。でも、ヒロトが家にいる音じゃない気がした。あれ?と思い、聞く。
「ヒロト?」
そして、ラインの向こうから、聞こえてきたのは、ヒロトのものではなかった。
「・・・美莉ちゃんか?」

「お父さん?」
聞き返しながら、早朝、ヒロトの携帯、お父さんの深刻な声、に、ぞわぞわと得体の知れない恐怖が私を包みだす。ヒロトに何か。。怪我か病気か何か?すぐに病院に行かなくちゃ行けないかも、なんて現実的に考える部分もあったりと、一瞬のうちに頭の中が溢れかえる。
「美莉ちゃん、今1人か?」
思いもよらないことを聞かれて、とまどう。ヒロトを探してるのかな、と思い、
「はい。1人で寝てました。ヒロトは、今日は一緒じゃないです。」
なんて、なんだか、はしたない感じの答えをしてしまう。
「いや、それはわかってる。お父さんいるかな?」
私には、もう母がいない。私は、訳がわからないまま、答える。
「お父さん、、いる、、と思います。」
「そうか。じゃあ、そのまま、携帯を持ってお父さんのところに行ってくれるか?」
ますます訳がわからない。でも、寝起きの頭には何も思い浮かばず、言われた通り、父の寝室に向かった。部屋をノックすると、眠そうな顔で父が出てきた。

私は、
「代わります」
とヒロトのお父さんに言ってから、父に、携帯を渡す。いぶかしげに受け取る父。小さな声で、「ヒロトのお父さんなの」と言う。
「もしもし、高崎です。おはようございます。ご無沙汰しています」
と父。向こうの声は聞こえない。が、

突然父の表情と、声のトーンが暗く下がる。父は、チラリと私を見てから、
「いえ、娘は何も、、はい。・・・はい。分かりました。いえ、私から、伝えます。はい、では、後ほど。」
電話を切る父。私は、不気味な予感に、全身の体温が下がっていく気がする。父は、大きくため息をついてから、私の肩を抱き、一緒にベッドに座らせた。言葉を捜している父。私は、怖くて、聞きたくなどないのに、つい、
「ヒロト、、どうかしたの?」
と聞いてしまう。父はゆっくりとこちらを向いて、こういった。
「美莉、紘人くんが、亡くなったそうだ」
頭の中が文字通り真っ白になる。体がガタガタ震える。でも、言葉が勝手に口をついて出る。
「え?何?どういうこと?何があったの?だって、私。。だって、ヒロト。何も、私、、」
自分でも何を言ってるか分からなくなる。冷えて震える指先で唇を抑える。父は、私の肩を抱く力を強くして、
「自殺・・・したそうだ」
「嘘。冗談でしょ?」
嘘じゃない、冗談なはずがない。紘人のお父さんと、私の父が、こんな嘘も冗談も言うはずがない。分かっているのに。。
「私、、、行く。ヒロト、どこにいるの?会いたい。そんなの、、信用できないっ」
父は、私に逆らわないように、
「着替えて用意をしなさい。一緒に行こう。」
と答えた。

そして、、その辺りから、記憶はおぼろになる。たった数時間前の出来事なのに。

服を着替え、顔を洗ったことを覚えている。いつも通り、バッグをもち、お気に入りのブルーとレッドのラインの入ったスニーカーを履いたことも覚えている。父の車に乗り、紘人の実家に行ったことも。紘人のお父さんとお母さんのいたわるような目も、肩にずっと添えられた父の手の感触も。

でも、気がつけば、私は座っていた。眠っている紘人の布団の横で。目の前の布団には、何度見ても同じ姿勢で、おとなしく眠っている紘人。違う違う、眠ってるんじゃない、死んでるんだっけ。。。?今日、私、何か予定あった?あ、そうだ、今日観にいくって行ってた映画、何時だった?ねえ?紘人。まだ間に合う?っていうか、イマ、ナンジ?ていうか、紘人、いつまで死んでるんだっけ。起きるの間に合うの?違う、私ってバカ?死んだってことは、もう、二度と起きないってことなんだよね?って、、ヒロト、、いなくて、、私、、、これから、どうやって、生きていけば、、いいの、か、な・・?ねえ、自殺ってなんで?ごめんな、なんて言われても、分かんないよ。なんで、私、あんなにずっとずっとそばにいたのに、全然、、そんなこと。。気づかなくて。気づけなくて。ねえ、起きてよ、ヒロト。今度はちゃんと気づくから。何か、、あったのなら、話して?ねえ、起きて、起きてよ。

そこまで、思って、、私はフラリと立ち上がった。紘人のマンションに行こうと思ったんだ。こんな死んだかなんだか知らないけど、寝てばっかいる紘人じゃ、話になんない。マンションにいるはずの生きてる、、まだベッドで寝てるだろうけど、たたき起こしたら起きるはずのヒロトと話したいって。そう、私、壊れてた。フラフラふらふら歩いてたどり着いたマンション。いつもどおり鍵を取り出し、いつもどおりドアを開け、靴箱の上に鍵を置いて、中に歩いていく。

きっとまだ眠ってるはずのヒロトに声をかけようとして、また正気に戻る。ヒロトは、ここにはいないって。ここだけじゃなく、もう、どこにもいないって。死んだんだって、さっきまで死んだヒロトのそばにいたじゃない?って、気づく。

そして、どうしようもなく、目を閉じたんだった。開け放された窓から、風が勢いよく流れ込んでくる。髪を風になぶられて、今朝初めて、布団に寝かされた死んでいるヒロトを見たときのこと、私宛の紙を手渡された時のこと、全ての記憶が舞い戻る。

そして、初めて、一粒、涙が流れた。

ヒロト、なんで・・・?


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最終更新日  2008.03.30 01:46:03
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