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2006/06/20
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小松成美さんの『ジーコ・ジャパン 評決のとき』からの引用です。
ワタシ個人の意見と、とても共通している部分が多かったので掲載させていただきました。

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第4回 
戦いの地で聞いた「2010年への忠告」
 小松成美

 ドイツ全域を覆う高気圧は灼熱の太陽を呼び、選手たちの体力を急速に奪っていった。
しかし、この暑さはピッチに立つ22人に平等にもたらされている。午後3時からの試合時間を、猛烈な暑さを、敗戦の理由にするのは簡単だ。
 だが、初戦、2戦目と、目前にあったかに見える勝利を掴むことができない日本には、暑さを回避したとしても、「何か」が足りなかった。

 2002年の日韓大会でヒディングの指揮のもと闘争心をむき出しにした韓国、今大会での引き続いての善戦には、日本にはない強さが感じられる。
 ドイツで取材する各国のジャーナリストに声をかけ、日本代表についての感想を聞いてみると、彼らは一様に日本人選手の技術の高さを評価してくれた。

「ボールに対する気持ちは、とても強い。忍耐強くパスをつなぎ、チャンスを待つ粘り強さは、日本の持ち味だ」
「10年前に比べれば、トラップやワンタッチのパスをつなぐテクニックは格段に巧くなっている」
 では、どうして日本代表は、未だ勝利を渇望するだけのチームなのだろうか。
フランスのサッカー誌「フランスフットボール」の敏腕記者であり、友人でもあるジャーナリスト、ヴァンサン・マシュノーが、その理由を明確に語ってくれた。

■日本サッカー“最大の問題点”

 ブラジルがキャンプを張るファルケンシュタイン。フランクフルトから20キロほど離れたところにあるその山村は、ブラジルの国旗で埋め尽くされていた。町の小さなレストランで会った彼は、本調子ではないブラジル代表の取材に大忙しだったが、3時間ものインタビューに応じてくれた。
「日本代表は、ワールドカップに出場する力をつけた。アジアではチャンピオンになる実力を持ったわけだ。しかし、残念ながら、ワールドカップに出場する32か国のうち突出した力を持っているわけではない。まさにアベレージ(平均値)のチームだよ」
 32チームのうち、16チームは予選敗退する。日本代表は、「現時点ではその16チームのうちのひとつ」なのだ、と彼は言う。
「予選3試合のうち、1勝はできる可能性はあった。けれど、予選で勝ち点6以上を上げ、決勝トーナメントで勝ちあがっていくことは、アベレージの力では不可能なんだ。強いチームには個性がある。その個性が日本には見られない」
 個性とはすなわち、その国のサッカーを体現していくものの形だ。イングランドにはベッカムやルーニーが、ブラジルにはロナウジーニョやカカが、アルゼンチンにはクレスポやリケルメやメッシが、ポルトガルにはフィーゴやクリスチアーナ・ロナウドがいる。勝つために必要なプレーを究極の状況で披露する選手がいる。マシュノーは「今回の日本にはその選手が見当たらない」と呟いた。
「中田英寿のリーダーシップや際立ったキャラクターは、もちろん欧州でも広く知られているよ。だがこのチームでは、彼の個性を殺されているように見える。彼のゴールへの執念が、空回りして見えるのはなぜかな。しかし、これは日本だけの問題ではない。私の国、フランスでも同じ問題が起きている。ジダンが引退したら、フランスのサッカーは『らしさ』を失うだろう。彼が15年以上にわたって作り上げたフランスサッカーを踏襲する者は、今は皆無だよ」

 1993年10月、カタールのドーハで行われたアジア地区最終予選を取材して以来、日本サッカーに興味を持ったマシュノーは、創成期のJリーグや2002年日韓大会もリポートしている。欧州に移籍した日本人選手もつぶさに取材している彼が、日本の“最大の問題点”にも言及した。

 日本は攻めて攻めて攻め抜けるフォワードを育てなければならない。そうしなければ、アベレージのチームであることから決して抜け出せない。彼は、そう断言する。
「調子が悪い、選手のコンディションが万全でない。そう言われても、なぜブラジルが強さを発揮できるか分かるかな。それは、わずか5秒で事態を逆転する攻撃者がいるからだよ。ロナウジーニョやアドリアーノ、カカ、ロベルト・カルロス、不調だと言われるロナウドでさえ、5秒もあれば形成を逆転し、ゴールを決め、チームに勝利を導くことができる」
 決定力の絶対的な不足―――。その事実が、ワールドカップドイツ大会でも日本代表に重くのしかかっていた。
 ウェイン・ルーニーやリオルネ・メッシ、ロナウジーニョ。彼らのような選手を有するためにはどうすればいいのだろう。「その答えは簡単にはみつからない」と、マシュノーも首を横に振る。
「野性的な身のこなし、攻撃的な精神、ディフェンスをかいくぐりゴールキーパーを交わしてゴールを奪う嗅覚。これらを備えた選手は、まさに神からの贈り物だ。日本にもいつの日か、このギフトが届くことを願うよ」

「その手立てこそが、その国のサッカーの行方を左右する。ギフトはどこに生まれているか、育っているかわからない。だからこそ、子供たちの教育が大切だよ。小さいうちからその才能を見極め、その才能が間違った方向に行かないように教育し、最後は個性を開花させるんだ」
 ブラジルなど市民が貧困に苦しむことも少なくない国では、ハングリー精神がむき出しであり、目指す場所、つまり成功への道が明確だ。自分の子供に才能があると感じた親はそれを伸ばすことに夢中になり、また子供自身も上を目指すために努力を怠らない。
「貧しい家庭に生まれたロナウジーニョは、路地でサッカーをしていた。靴が買えず、裸足でボールを蹴っていた。だが、彼の才能は見逃されることなくしっかりとコーチの目に留まった。そしてプロへの階段を駆け上がったんだ。日本でも、そうした才能を探し、育てることを怠ってはいけない。それが結実したとき、日本は、ベスト16以上の戦いで存在感を示すことができるだろう」


■優秀なFWは簡単には育たないが……

 ドイツ大会が終われば、日本代表は新たな船出をする。新たな監督が任命され、新生日本代表が名乗りを上げるだろう。マシュノーは「最後に」と付け加えてこう語った。
「日本は監督の選出において間違ってはいけない。スーパースターが、そのまま名将ではないことを肝に銘じることだ」
 ジーコは失敗を犯したと、マシュノーは言う。
 ジーコがどれほど日本人に愛され、日本のサッカーに貢献したことか。そのことを話すと、彼は「もちろん、それは知っている」と言った。
「彼が素晴らしい選手であり、日本人が尊敬する人物であることは分かっている。しかし、2002年に韓国を4位にし、今大会でオーストラリアを躍進させたのは明らかにヒディングという監督の力だよ。戦術に長け、日本という個性を見極め、それをピッチで指揮する監督が、日本には絶対に必要だ」
 その監督はどこにいるのか。マシュノーは、「必要な監督はフォワードと違い、探し出すことができる」と言い切った。
「私なら、日本サッカー協会にフランス人のデ・シャンを推薦するよ。富豪であるデ・シャンには、もう“お金”は必要ない。とてもクリーンな人物だ。それに、彼はトルシエとは正反対で沈着冷静。正義感にあふれた性格だよ。日本が良いリ・スタートを切り、新たな力でワールドカップを目指すことを望んでいるよ。そうさ、南アフリカでもまた会おう!」

 友人からのエールは、長い時間、心の中で共鳴していた。
 日本のサッカーに課題が残されたとすれば、それはすなわち未来へ託す希望にも繋がっている。
 今、ボンにいる私は、そう信じることができる―――。

小松成美(こまつ・なるみ)
1962年神奈川県横浜市生まれ。会社員を経て、1989年より執筆活動に入る。人物ルポルタージュやスポーツノンフィクション、インタビューに定評がある。著書は「ビートルズが愛した女アストリット・Kの存在」、「中田英寿 鼓動」(ともに幻冬舎文庫)、「中田語録」、「ジョカトーレ」(ともに文春文庫)、「イチロー・オン・イチロー」(新潮社)、「さらば勘九郎 十八代目中村勘三郎襲名」(幻冬舎)、ほか多数。


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Last updated  2006/06/20 08:41:05 PM


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